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中村修平のテーロスドラフト考察その3 
 
text by Shuhei Nakamura


第1回

第2回



 さて、これまで2回に渡って怪物的と英雄的デッキの考え方について書いてきました。その中でお勧めの色として紹介したのは怪物的の方が青緑で、英雄的の方では白青、白緑、そして青緑。

いくら怪物的が緑中心、英雄的が白中心とはいえ、これまでほとんど黒と赤について触れていないのはひとえにこの回で…。


 いや、まあ、触れる予定ではあるのですが残念ながらこの環境では黒と赤は贔屓目に見ても負け組色ですね。
 まず黒と赤の最大のメリットである除去が弱いのでそうなっても仕方はありません。それでいて白と緑には環境の2大要素が色濃く配置されているので増々…。

 そして青については異論の余地なく環境最強色でしょう
コモンで一番強いクリーチャーに一番強い除去を持っているのに加え実にコモンで3枚もの初手でも容認可能なカードがあるのです。

 というかコモンでの5番手が5マナ3/4飛行、ボーナス付きという時点でわりかし尋常ではありません。

 他の色のコモン5番手と比べてみればいかに差があるかはっきりわかるでしょう。



 私のドラフト戦略は基本的には1パック目で青を確定させて2パック目以降の流れ次第で人気薄の2色目を選択するというもの。アバウトの感覚ではこのパターンが全体のドラフトの6割程を占めます

 色別だと青白はお手軽簡単英雄的デッキ、

 青緑だと取れているカードの種類でデッキタイプは変わりますがだいたい怪物、ベーシック、稀に英雄的の3パターンから流れに合わせて。

そして青黒では…



 今回の記事の大半を使って説明するのはその黒についてです。それではまず黒と言うと思い浮かぶあのカードから初めてみましょう。



・黒信心

 「あのカード」とはもちろん《アスフォデルの灰色商人/Gray Merchant of Asphodel》の事。



 このカードだけが唯一環境の2大システム、怪物的英雄的に対して五分に渡り合っていける信心のカードです。

 圧倒的に盤面は勝っているのに商人が2回出てきてゲームが終わってしまったというのはこの環境のドラフトをやっていれば必ず目にする光景です。



 しかしその代償としてデッキ構築には非常に大きな制限をかけられておりデッキに入っているクリーチャーを出来うる限り黒くしないと商人の威力が覿面に落ち込んでしまうのです。



 私の点数表順、青優先のドラフトだと偶に発生するので、試しにどれくらい酷いのかと入れてみたほとんど青単タッチ《アスフォデルの灰色商人/Gray Merchant of Asphodel》×3はそれはもう酷い有様でした。

 毎回初手でマリガンと対して変わらない5マナの《鋤引きの雄牛/Yoked Ox》があるようなものですからね。

 ライフが20からいきなり7〜8点削られるこの環境では高々2点程度の本体ドレインなどあってなきようなもの。せめて5〜6点は吸い取り返さないと商人デッキとはいえません

 よく出来た《アスフォデルの灰色商人/Gray Merchant of Asphodel》デッキとは序盤から黒いクリーチャーを出して損失覚悟で積極的にライフを削り、中盤に商人で一気にライフ差を逆転。

 そのまま相手に押すも引くも出来なくさせるか、もう1枚の灰色商人で止めをさすというのが王道。もし殴る気がない後ろ向きのプランがいいというなら
、それこそ5ターン目から延々と灰色商人を出していって攻撃など1回もしないというようなゲームプランが必要なのです。



 そして残念ながら理想的な《アスフォデルの灰色商人/Gray Merchant of Asphodel》デッキというのは環境が理解されるにつれ、どんどん組みづらくなっていっています。

  それはただ単純に勝てるアーキタイプとして意識され人気があるのに加えて、完成した時のインパクトがあまりに強いのでお互いに牽制しあって真っ先にカットされてしまう可能性が非常に高いのです。

 印象というのはとかく大きなものなので、適切なカットをしてくるプレイヤーが近くに座っているなら黒の旨みはほとんどなくなってしまいます。



※筆者注

もっとも灰色商人は赤黒ミノタウルスデッキよりはマシです。

 元々アンコモンとレア頼みというやりづらいアーキタイプな上に完成した時の強さはとても印象に残ってしまうので今となっては《クラグマの戦呼び/Kragma Warcaller》は真っ先にカットされてしまいます。



 現実的なラインとしては卓内に黒は3人までですね。

 3人目の参入者ならば良いという事ではなく、2人目までの参入者ならばやる価値はあるということです。

 灰色商人はコモンなのである程度の数はドラフト中に出ることが期待できますし、黒をやっていないプレイヤーもそう毎回カットに廻せる余裕がある訳でもありません。住み分けという意味で序盤は敢えて流してくれるところに黒の参入者がたまたま自分を含めて卓内に2人で済むのなら3-0デッキに最も近いのは変わらず商人型の黒であると思います。



 商人の数こそ少ないですが商人ドラフトの理想形はこんな形となります。
Martin Juza
グランプリ香港ドラフト1 3-0
17land
10《沼/Swamp》
7《島/Island》

19creature
2《苛まれし英雄/Tormented Hero》
2《悪意の幻霊/Baleful Eidolon》
2《血集りのハーピー/Blood-Toll Harpy》
2《雨雲のナイアード/Nimbus Naiad》
1《肉餓えの馬/Fleshmad Steed》
1《蘇りし者の密集軍/Returned Phalanx》
1《波濤砕きのトリトン/Wavecrash Triton》
1《モーギスの匪賊/Mogis's Marauder》
1《フィナックスの信奉者/Disciple of Phenax》
1《強欲なハーピー/Insatiable Harpy》
1《エレボスの使者/Erebos's Emissary》
1《タッサの使者/Thassa's Emissary》
1《洞窟のランパード/Cavern Lampad》
1《アスフォデルの灰色商人/Gray Merchant of Asphodel》
1《忌まわしき首領/Abhorrent Overlord》


4spell
1《エレボスの加護/Boon of Erebos》
1《航海の終わり/Voyage's End》
1《エレボスの試練/Ordeal of Erebos》
1《ファリカの療法/Pharika's Cure》
 この形の黒については正直言って組み方というのはあまり重要ではありません。良いポジションに座ったと確信が持てたなら、あとは黒取りにオールインするだけです。

 私としてはむしろそれ以外の時の黒いデッキ。黒デッキのほとんどが行き着く黒青、黒白の非灰色商人型になった時の特徴とデッキの方向性について解説していきましょう。



・黒青

 先ほど黒青、黒白と言いましたが実際に私が手なりで黒をやった場合はだいたい黒青になります。

 もちろん、環境最強色の青をやる機会が他と比べて多いからというのはありますが、それ以上に《蘇りし者の密集軍/Returned Phalanx》があるからというのが理由としては最も正確なところでしょう。




 この環境での2マナ圏の確保というのは本当に苦労するものなのです。

 ただ粗悪な2マナ圏ではデッキに入れているだけ有害。であるのに無いなら無いでデッキにならない。そんな中で及第点スペックである2/2を大幅に超える3/3というのはまさに垂涎。

 アグレッシブさが何よりの環境でただの3/3の壁などお呼びではなく、黒青をやっているプレイヤーのみがありつける高スペックカードなのでかなり遅い順目でも取れてしまいます。

 黒青の基本戦略として、しばらくの間攻撃出来なかったとしてもいざとなれば攻撃できるという選択肢があればそれで充分。
というのも特に青が濃い形で必要としているのはまさに序盤の壁としてだからです

 攻撃に回れる飛行クリーチャーこそこの環境の青の専売特許。《蒸気の精/Vaporkin》から《先見のキマイラ/Prescient Chimera》まで駒は揃っています。



 黒に求められているのは青が持っていないもの相手を仕留めるまで時間稼ぎとなる軽量の地上の壁役、《蘇りし者の密集軍/Returned Phalanx》と《悪意の幻霊/Baleful Eidolon》であり、アスプを倒すための《一口の草毒/Sip of Hemlock》。あるいは追加の攻撃クリーチャー達。
 こういったカード達が求められている役割なのです。






・黒白

 一方で黒白になるのはどちらからやっているにせよ黒白のマルチカラーのカードから入るという展開が大半、白が主で黒が従という形であれば白の英雄的デッキの分岐の1つという線がほとんどでしょうね。

 稀に黒からでも《運命の工作員/Agent of the Fates》から意識的に黒白人間英雄というのもあるでしょうがこれらについてはだいたい第2回で書いたことがそのまま通用するのでここでは省略します。


 
 ここで話すアーキタイプとして、
環境で極めて珍しい中速コントロールとなるケースについて。

 もちろん《アスフォデルの灰色商人/Gray Merchant of Asphodel》の亜種みたいな形になることもあるのですが、そちらでもない、環境特有のシステムに頼らない全く軸の違う中速デッキとなることがあるのです。


 鍵となるのは《神聖なる評決/Divine Verdict》と《エイスリオスの学者/Scholar of Athreos》。



 第1回でも触れたように評決は環境に珍しい信頼の持てる除去。それに加えて《一口の草毒/Sip of Hemlock》の環境で2種類しかない後腐れない除去を使えるという利点と戦場を硬直させてからの勝ち手段。

 《エイスリオスの学者/Scholar of Athreos》があるというのがこのアーキタイプを成り立たせています。

 《エイスリオスの学者/Scholar of Athreos》は3マナ1/4として見るなら中途半端な壁以外の何者でもありませんが、毎ターン2点本体ドレインをしてくれるカードとして運用できるなら環境でも屈指のカードにまで評価が跳ね上がるのです。

 もちろん怪物や英雄を片付けて盤面を膠着させてから、という前提での話ですが。



 ただそれだけでは黒白に入る決定打にならないのも事実。

 英雄や商人という簡単かつ解りやすく強いデッキの組み方が近くにあるのにそちらにいかないという為にはもう少し明確な理由付けが必要になってきます。

 大体は解りやすい分岐点、黒いレアカードを取った後に白いレアカードを取るだとか、黒白マルチカラーカード、
《運命の三人組/Triad of Fates》や《死の国の歩哨/Sentry of the Underworld》といったカードからこの組み合わせに入るというのが本筋であり、そういった時の為に一応のレパートリーとして心得ておいた方が良いと言ったところでしょうね。






・赤

 これまでに青緑白の組み合わせは既に全パターンが俎上に上がりました。

 同じく黒に関してもお勧めの組み合わせとして黒青、黒白が、お勧めしない組み合わせとしてひっそりと黒緑、黒赤が出てきました。
 赤緑はやはり怪物的の回でお勧めしない組み合わせとして出したので最後に残っているのは青赤と赤白です。

 その中で青赤はあまりお勧めできません。

 青の持ち味である飛行ビートダウンと赤の攻撃的かつ色拘束が強い地上戦力は噛み合わせが悪く、黒と違って除去の点数が高いので摘む事の旨みもあまりありません。

 どちらかといえば赤が濃い構成で例えば《双頭のケルベロス/Two-Headed Cerberus》を《雨雲のナイアード/Nimbus Naiad》で飛ばすと言った形が評価できるくらいですね。



赤の地上クリーチャーにナイアードするデッキウィン。




あるいは《炎語りの達人/Flamespeaker Adept》+《液態化/Aqueous Form》スペシャル。



 色拘束が強い割にはアピールするポイントに薄いというのが赤の残念なところ。そんな赤を使う上で重要なのは《死呻きの略奪者/Deathbellow Raider》を上手く活かせる構成にするかという事に尽きます。



 これらの単色だけど他の色の起動型能力を持っているシリーズのほとんどはドラフトでは両色が合っていないと使い物にならないのですが《死呻きの略奪者/Deathbellow Raider》だけはむしろ逆。
 例え赤黒であろうとも基本的な使い方は変わりません。

 序盤で再生マナを使わせられるくらいならどのみち投げ捨てる覚悟で、むしろどうやって継続的に略奪者でダメージを叩き込めるかを考えるのが本筋だからです。

 そういう文脈では赤黒、赤青はあまりよろしくありません。

 赤黒の場合継続的にサポートするカードが少ない上に授与は重く設定されているので不向き、赤青の場合はそもそもそんな事に頭を使うよりも《蒸気の精/Vaporkin》で殴った方が効率的です。赤緑は《残忍な発動/Feral Invocation》があるお陰でそこそこ理由付けができそうですね。


 ですがそれよりも有望なのが、最後に紹介が残った赤白。私がお勧めできる最後の組み合わせです。






・赤白
 
 白が入っている組み合わせのご多分に漏れず、この組み合わせでも白の英雄全部乗せ類型としての白赤がもちろんあります。
 
 ですが、白黒と同じくこうやって章を作って話せる要素となるのは、白赤の場合には白黒の時と同じく環境で珍しい横並び式のビートダウンが組めるからです。

 とは言っても基本は英雄と折衷式。

 1人の英雄が大きくなる戦略を取りつつも、わらわらと群れで攻めかかる戦略も取れると言った具合ですね。

 それは白赤のマルチカラーカードが体現しています。



《アクロスの重装歩兵/Akroan Hoplite》と《アナックスとサイミーディ/Anax and Cymede》。



 どちらも強烈に横に並べる事のメリットを押し出しているカードです。

 これらのカードを生かしつつデッキを構築するとなると真っ先に思い浮かぶのが《乗騎ペガサス/Cavalry Pegasus》。

 軽いクリーチャーを人間で固めてペガサスで全員飛行を付けて殴りに行こうというのは赤白の基本戦略。

 先ほどの《死呻きの略奪者/Deathbellow Raider》についても全員で延々と攻撃し続けるのであればデメリットを隠すことができますよね。

 また《タイタンの力/Titan's Strength》のような小回りが効くカードも群れて攻撃する事により効果的に使う事ができます。

 中途半端なブロックなら討ち取るのに使えて、そうでなければ本体に追加ダメージという選択を取るとかですね。



 テーロス環境でこの戦略が生きるのは戦力の分散がこちら主導で出来るというところです。

 もし1体の怪物で盤面を抑えこもうというのであれば、そのクリーチャーを《神聖なる評決/Divine Verdict》するなり、《裏切りの先触れ/Portent of Betrayal》。あるいは数の追加とチャンプアタックでライフを詰めてやればよいですし、数で対応しようとするのであれば、こちらは英雄的戦略に切り替えれば良いのです。

 授与のクリーチャーとしても使えるという部分と、相手にとって授与はエンチャントとして使いたいけどそうしてしまった場合ブロッカー不足になるという部分の間隙を突けるのです。



 敢え無く準々決勝でジュザ相手に3本目事故死してしまいましたがルーのデッキは完成度という点で決勝ドラフトテーブルで最も優れていました。
Lu Xiaoshi
グランプリ香港TOP8ドラフト
16land
7 《山/Mountain》
9 《平地/Plains》

17creature
2 《アクロスの重装歩兵/Akroan Hoplite》
1 《アナックスとサイミーディ/Anax and Cymede》
2 《闘技場の競技者/Arena Athlete》
1 《乗騎ペガサス/Cavalry Pegasus》
2 《死呻きの略奪者/Deathbellow Raider》
1 《百手巨人/Hundred-Handed One》
1 《ラゴンナ団の長老/Lagonna-Band Elder》
2 《目ざといアルセイド/Observant Alseid》
1 《イロアスの神官/Priest of Iroas》
1 《パーフォロスの使者/Purphoros's Emissary》
1 《旅する哲人/Traveling Philosopher》
2 《天馬の乗り手/Wingsteed Rider》

7spell

2 《ヘリオッドの選抜/Chosen by Heliod》
2 《ヘリオッドの試練/Ordeal of Heliod》
2 《裏切りの先触れ/Portent of Betrayal》
1 《タイタンの力/Titan's Strength》
 これで私のテーロスドラフト解説は終わりです。

 環境で基礎となる部分は全て書いたと思います。敢えてこうすれば良いと解答を提示するのではなく、こういう風に考えているという思考の変遷を主題にしたので残念ながらサンプルデッキの丸写しドラフトというのは難しいでしょう。

 それよりも中村はこういう風にテーロスでのドラフト理論を組み立てている、

・この部分は自分の考えと似通っているから流用できるか試してみるか。

・この部分は穴があるように思える。それを突く戦略などどうだろう?


 そういった感じで自分なりの試行錯誤をする材料の1つとして読んでいただけたら幸いです。

 それではこの記事であなたのドラフトライフがより充実することを期待して。



 それともし有効なメタ戦略が出来たならご一報を、






中村修平

 
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