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石田弘 「ポックスリアニその1~誕生編~」 
 
text by Hiroshi Ishida

ポックスリアニその2~デッキ解説編~

ポックスリアニその3~サイドボード編~

ポックスリアニその4~調整編~


序文:
初めまして、編集のSです。
裏方ですので、こういったコラムや記事などに出る事はありませんが、本日はどうしても「これは紹介したい!」というデッキに出会えたので紹介させていただきます。

 私はレガシーというフォーマットが大好きで、それなりに長くやっているのですが、先日非常に面白い、独創的なデッキと対戦する機会に恵まれました。
その日、私はKMCという大会に出ていたのですが、5ラウンド目を迎えたときにそのデッキと対戦しました。

 《思考囲い/Thoughtseize》から《小悪疫/Smallpox》とプレイされて私は、すぐにPoxというデッキを思い浮かべました。ですが、対戦相手が小悪疫のディスカードを墓地に置いたとき衝撃を受けました。
何とグリセルブランドを捨てているではないですか。そしておもむろにプレイされた再活性で1ゲーム目はそのまま為す術無く負けてしまいました。

 この一見奇妙なデッキはアンバランスな様で、実は見事に1つのデッキとして調和していました。リアニメイトの爆発力とポックスの防御力が互いの長所を引き出し合っていました。


対戦相手に由来を尋ねたところ、何と制作者は石田弘さんとのこと。これは是非本人に解説していただきたいと思い今回の記事を依頼しました。
序文が長くなってしまいましたが、ここからは石田弘さんの解説をお楽しみください。









ポックスリアニその1~誕生編~



 前回のモミール・ベーシック記事からしばらくぶりになります、石田です。今回、オリジナルデッキ紹介の記事を書かせて頂くことになりました。

 まずは、これが今回紹介するデッキの最新型レシピとなります。


Sample Deck:ポックスリアニ
22land
17《沼/Swamp》
1《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》
4《不毛の大地/Wasteland》

6creature
1《グリセルブランド/Griselbrand》
1《エメリアの盾、イオナ/Iona, Shield of Emeria》
1《核の占い師、ジン=ギタクシアス/Jin-Gita
xias, Core Augur》
1《大修道士、エリシュ・ノーン/Elesh Norn, Grand Cenobite》
1《墓所のタイタン/Grave Titan》
1《灰燼の乗り手/Ashen Rider》


32spell
4《思考囲い/Thoughtseize》
4《Hymn to Tourach》
4《小悪疫/Smallpox》
4《暗黒の儀式/Dark Ritual》
4《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》
4《納墓/Entomb》
4《再活性/Reanimate》
4《動く死体/Animate Dead》
15sideboard
1《ワームとぐろエンジン/Wurmcoil Engine》
3《漸増爆弾/Ratchet Bomb》
3《無垢の血/Innocent Blood》
1《Dystopia》
2《仕組まれた疫病/Engineered Plague》
2《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》
3《真髄の針/Pithing Needle》


 レガシー環境での黒単色のオリジナルデッキです。
 発想の原点としては、ポックスデッキとリアニメイトデッキの折半になります。
 ですがこの形に至るまで、色々な経緯がありましたので、今回の記事ではその辺りについて書いていきます。



●オリジナルデッキ制作への姿勢

 そもそも、自分はオリジナルデッキの構築はとても面白いものだと思っています。
 近年のMTGでは情報の伝達速度も早く、実際に大きなトーナメントで結果を残した強力なデッキのレシピを簡単に手に入れることができます。

 著名なプロや敏腕プレイヤーが調整し、実戦でも結果を残したデッキレシピですから、その強さは折り紙つきです。そのままコピーして回し方さえ覚えれば、十分な結果は保証されているといっても過言ではないでしょう。

 ですが。それでも。敢えて。


 やはりMTGというゲームをやるなら、自分が考えたオリジナルデッキで戦いたい!

 「自分だけのオリジナルデッキで、いつか結果を残してやる!」

 そう考えてしまうプレイヤーも少なく無いと思いますし、自分もそうですw

 そもそも、自分はデッキを考え、作るという工程そのものが大好きなんですよね。

 MTGにはもちろん色々な楽しみ方がありますが、自分としては実際のゲームよりもデッキ構築のほうが好きなぐらいです(ドラフトでも、ゲームよりピックのほうが好きです)。

 なので、できれば自分が使うデッキは、自分でデザインしたいといつも思っています。



 コピーデッキを否定するわけではありません。
 むしろ強くなりたいなら、結果を残したデッキは積極的にコピーして回すべきだと思います。そうすることで、「なぜそのデッキが強いのか?」もわかりますし、正しい環境把握にも近づきます。

 かくいう自分も、気に入ったデッキレシピを見たらコピーすることも少なく無いです。


 強いデッキを完全に回せるのも才能だと思いますし、素晴らしいことだと思います。

 その上で、自分は、勝っても負けても自分が満足できるデッキで戦いたいんですよね。負けたとして、デッキのせいにはしたくないというか……

 コピーデッキに乗るとしても、完全に納得して「このデッキと心中するなら構わん!」ぐらいに惚れたデッキしか使いたくないです。
その点、自分で考えたオリジナルデッキなら、すべての責任は自分にありますからねw


 というわけで自分はオリジナルデッキを作って回すことが多いのですが、この際に心がけていることがあります。

 それは「勝利を目指して構築する」事です。

 好きなカードを使いたいとしても、それだけで満足していてはいけないと考えます。

 間違えないで欲しいですが、勝ち負けが絶対と言っているわけではないです。やはりMTGは趣味で、ゲームなんですから、楽しんだほうが一番いいに決まっています。

 でも、大会に参加するとなれば、勝敗度外視というは、それもちょっと違うと思うんですよね。

 MTGとは対戦ゲームでありコミュニケーションゲームです。勝ち負け関係なくただ自己満足したいだけなら、対戦相手は必要ないしMTGをプレイする意味もないと思います。

  同じ「勝利」という共通の目標を目指して対戦相手と一緒に遊ぶからこそ、MTGは面白いし素晴らしいと思うんですよね。
その上で、自分だけのオリジナルデッキで勝てれば、これ以上気持ちいいこともありませんよね。




 ですが、1から全てを作るのはとても難しい事です。
というか、今のMTGのデッキ構築を考える上で、完全なオリジナルなどというのは不可能でしょう。

 例えば最適なマナ配分であるとか、大まかなデッキタイプであるとか、特定カード同士を組み合わせた場合の有効なシナジーであるとか……そういった大筋の部分は、長い長いMTGの歴史の中で築き上げられてきたものです。

 例えば今のスタンダードでは基本的に土地は24枚前後が適しているとされていますが、これは数えきれないほどの先人が、理論と実践両方の、膨大なデータを積み上げ、その中で探し当ててきた真実なのです。

  ですがこれを1から探し出そうとしたら、それはすごく難しい膨大すぎる時間がかかるでしょう。



 オリジナルデッキを組むに当たっては、何も1からすべてを作る必要はありません。

 良いものは認めて、吸収して、真似てしまえばいいんです。

 デッキレシピやアイディアに著作権はありませんからねw



 それにMTGのデッキはすごく繊細で、僅か数枚のカードの変更だけで動きが変わったり、まるで違うデッキのようになる事だってあります。

 そうした調整の結果、デッキを自分だけの形に変化させていくことも、立派なオリジナルデッキ調整だと思います。





 さて、このデッキに話を戻しましょう。

 このデッキも、すべてを1から生み出した完全なオリジナルデッキではありません。

 発想の原点にあるのは、ポックスデッキとリアニメイトデッキという、まるで違う二つのデッキのミキシングです。



 それぞれのデッキについて軽く説明します。



●ポックスデッキ

 まずはポックスデッキについて、サンプルレシピを上げさせてもらいます。


StarCityGames.com Legacy Open Providence 2013/11/24
順位:12位
Player:Matthew Everitt
25land
13 《沼/Swamp》
4 《ミシュラの工廠/Mishra's Factory》
4 《不毛の大地/Wasteland》
4 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》

2creature
2 《冥界のスピリット/Nether Spirit》

12spell
4 《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》
3 《呪われた巻物/Cursed Scroll》
4 《暗黒の儀式/Dark Ritual》
1 《魂の裏切りの夜/Night of Souls' Betrayal》
4 《Hymn to Tourach》
4 《無垢の血/Innocent Blood》
4 《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek》
4 《Sinkhole》
4 《小悪疫/Smallpox》
1 《Nether Void》
15sideboard
2 《真髄の針/Pithing Needle》
4 《仕組まれた疫病/Engineered Plague》
2 《虚空の力線/Leyline of the Void》
2 《根絶/Extirpate》
3 《闇の旋動/Spinning Darkness》
2 《毒の濁流/Toxic Deluge》

 ポックスデッキはレガシーの黒単デッキの中ではメジャーなもので、相手からアドバンテージを毟り取る独特なゲームプランが魅力的なデッキです。

 手札破壊や土地破壊で相手のリソースをズタズタにして機能不全に追い込み、動けないでいる間に少数の勝ち筋で相手を倒すのが基本の動きになります。

 このデッキは単色タイプですが、緑がタッチされているものもあります。

 デッキ自体が特異かつ挙動が非常に独特で、いかにも黒らしいデッキなので、一部に熱狂的なファンが付いているデッキタイプです。



 自分も一時期ポックスデッキを使っていたのですが、このデッキで不満に感じた点として、とにかく決定力がない、という事でした。

 相手を機能不全に追い込んだはいいが、こちらもろくに動けずグダってしまい、その後はトップ勝負になって先に相手がリカバリーしてしまう……という展開もよくあります。

 またグダりすぎて試合が時間切れになってしまうことも何度かありましたw




 ですがレガシー環境的に《小悪疫》《ヴェールのリリアナ》といったカードはとても強く、《不毛の大地》《Hymn to Tourach》と合わさった場合には時折一方的なゲーム展開を生み出すこともあります。

 ディスアドバンテージなど意に介さないデッキなので、《暗黒の儀式》がデッキ自体ととても合っていて、爆発力もあります。
初動儀式→リリアナという動きは、ほとんどのデッキを動き出す前にズタズタにしてしまえます。




 安定感こそないものの、黒らしい邪悪な魅力に満ちたデッキです。

 自分もそれなりに使っていて、調整を重ねていたのですが、結局はその安定感のなさと決定力の無さに、使用を諦めてしまいました。

 ちなみに自分の活動している名古屋では、一部に熱狂的なポックス愛好家がおり、現在でも大会では常に一定数のポックスデッキがいますw



●リアニメイトデッキ

 次に、リアニメイトデッキについて軽く解説……しようと思いましたが、すでにこちらのサイトで素晴らしい記事が上がっていますのでそちらを紹介することでかわらせて頂こうと思います。


レガシー特別記事「Enter the Entomb ―レガシーにおける最強のリアニメイトを目指して」



 自分は黒単型のリアニメイト、青黒のリアニメイトの両方を使ったことがありますが、デッキとしてはかなり強力だという印象でした。



 やはり実質的に、最初の数ターンで勝負を決められるのは何よりの強みです。

 決定力は抜群で、普通なら召喚するのも難しい巨大クリーチャーで蹂躙するのも爽快です。




 ですが、やはりこれはコンボデッキの宿命ですが……決まれば強いですが、決まらなければ何も出来ないのです。
初手依存が強く、ドローが弱いと何がしたいかわからない動きになってしまいます。

 青黒型ではドロー補助、サーチ呪文やカウンターでのバックアップで安定感を増していますが、それでも上手く妨害されてしまうとそれだけで負けてしまいます。

 特にサイド後ではその欠点は顕著になりますし、何より環境に蔓延する《死儀礼のシャーマン》が辛すぎました。



 根本的に自分がコンボデッキをあまり好まない事もあって、リアニメイトデッキはあまり好きではなく、使わなくなっていきました。





●ポックスリアニの誕生



 自分はレガシーの経験はせいぜい2年程度しかなく、環境への理解もそれほど深くないと思います。
それでも色々なデッキを試したり、自分なりの調整を入れたり、あるいはオリジナルなデッキを組んだりして遊んでいました。

 数えきれないほどのカードを使用できるレガシー環境は、自分の好きなカードを使ってオリジナルデッキを作り、それで遊ぶには最適の環境だと思いました。


 SNTやカナディアン・スレッショルドのような、強力で支配的なデッキはもちろんありますし使用者も多いのですが、カードプールの広さからそれらにも対応する事は不可能ではありません。

 自分はポックスデッキにはメインから罠の橋を採用し、SNTにも戦えるように調整したりしていました。

 それはそうと、ポックスリアニデッキの発想に至ったのは、偶然の発想によります。

 ポックスデッキでは、メインアタッカーである冥界のスピリットをサーチするために、納墓を少数枚採用しているものもあります。

 特に黒緑タイプだと浄土からの生命をサーチしたり、墓地を増やして墓忍びを早期に召喚できるようになるので有力なオプションなのですが、そこで自分は考えました。



 「この《納墓》、《冥界のスピリット》をサーチするだけでなく、リアニメイト戦術も一緒に取り入れられないだろうか?」



 あるいはそれは、悪魔の囁きだったのかもしれませんが……



 考えてみれば、ポックスデッキの根幹カードである《ヴェールのリリアナ》《小悪疫》は、両方ともハンドに来てしまったリアニメイト用生物を捨てることが出来ます。

 黒単色のリアニメイトデッキではハンドに来た生物を捨てるために《朽ちゆくインプ》を採用していましたが、あのカードの弱さには本当キレそうでしたw



 しかしそれが《小悪疫》であったなら……そして、そもそも強力な《小悪疫》をもっと活かせるようにデッキ全体をデザインできたなら?



 こう考えだすと、もう止まりません。



 今まで黒単ポックス、黒単リアニ、青黒リアニ、すべてのデッキを使ってきた実践経験が、様々なカードのシナジーや可能性に気づかせてくれました。

 ポックスデッキは相手の生物を根絶やしにできるデッキ……ならば、あの忌々しい《死儀礼のシャーマン》にも簡単に対応できそうだ!?



 リアニメイトデッキの爆発力、決定力は証明済み……一瞬でゲームを決められる大型生物こそ、ポックスデッキのフィニッシャーとして相応しいのでは!

 リアニメイトコンボが初動ハンドに揃っていなくても、ポックスデッキとして振る舞ってグダグダと長引かせていけば戦えるのでは?

 小悪疫やリリアナで自然と大物は墓地に落ちるのだから、トップから釣り竿さえ引けばそのままフィニッシュできる……ポックスデッキなら相手のハンドをズタズタにできるのだから、カウンターを恐れずに釣ってしまえば勝ち確定!? 

 そもそも、ただでさえ強い《ヴェールのリリアナ》を今まで以上に強く使える……それだけでも可能性はあるのでは!?


 それに。何より。



このデッキ面白いぞ!、黒いぞ!!  強そうだぞ、勝てそうだぞ!!!





 という訳でめくるめく思考の果て、ポックス+リアニデッキの原型が完成し、一人回しや実践含めての調整を経て、現在の形となりました。

 もちろんこのポックスリアニ、勝利を目指して構築されたデッキです。そして現在、少なくとも満足できる程度には十分な戦績を収めています。


 それに、使っていてすごく面白いんですよ!これですよ、これ。

 これこそオリジナルデッキ制作の醍醐味です。





 というわけで、今回はデッキの誕生編でした。
次回では実際にデッキの使い方や、採用カードの理由なども話していきたいと思います。

 
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