text by Iwa-Show
朝食とは、一日の始まりである。英語ではbreakfast、そう「break(破る)」なのだ。寝ていた自分=昨日の自分を破り、今日を生きる自分となる、人間として生きる上で欠かすことの出来ないもの。僕は、そう考えている。
腹が減っては戦は出来ぬ、現代の学校・職場という戦場を生きる上で、朝食は必ず摂るべきである。朝からものを食べるのはちょっと…という人でも、コップ1杯の牛乳・一切れのパンでいいから胃に入れる習慣をつけて欲しいと切に願う。マジックプレイヤーとしても、脳を使う上で必要なエネルギーを必ず朝の内に摂取しておかなければならない。食べることが好きな方ならば、「明日の朝は○○を食べよう」と楽しみに思いながら就寝した時の寝つき・目覚めの良さはご存知かと思う。目をさまし、気持ちを切り替え、活力を漲らせる。静かな朝食というのは、神聖な時間でもあるのだ。
…
………
………………
いつも通りの時間に目を覚まし、洗面所で歯を磨き顔を洗い、さあ神聖なる朝食の時間だとキッチンの戸を開けた。一日の始まりであり、活力を漲らせるはずその時間。本日は、そうならなかった。
鎧兜を着込んだオッサン二人が、冷蔵庫を開けたり水道をひねったり忙しなく周囲を探索していたのだ。
えっと…
「やや」「これはこれは」
あんたらって神河の…山崎…
「如何にも」「何故我らの名を?」
いや、先に質問するのはこっちですよ。どっから来て何をされてるんでしょうか?
「これは失敬」「それが我らにも何が何だか…」
どうやら、定期的に行っている《激憤の神殿》でのお参り中、ご神体を手を合わせて拝んでいると、裂け目のようなものが頭上に現れ、飲み込まれてしまったとのことらしい。時空の裂け目…そんなところにまで影響が…
彼らには罪はないので、何はともあれ共に食事を摂ることにした。これも何かの縁だろう。
「ほう、この『しりある』というものは実に美味い」「我らの国には存在しない類いの甘味であるな」
麦とか苺とか葡萄とかを乾燥させてものですね
「成程」「左様であったか」
しかしこの人らどんだけ食うねん…そうそう、「シリアル」と言えば…
Vol.6 Cocoa
Pebbles
1.詳細
アメリカ製のシリアルで「Fruity Pebbles」というものがある。アメリカらしい「極彩色かつかなり甘い」ものだが、時折あの味を一口だけ食べたいという風に思うことがある。「Pebbles」という言葉はそもそも海辺に落ちている「小石」や「玉石」、「石つぶて」といった意味である。
マジックのデッキに、この「Pebbles(以下ペブルス)」をデッキ名に冠するものがかつて存在した。まずは、レシピを見ていただこう。
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Sample Deck |
19land
4 《Tundra》
1 《Underground Sea》
4 《Scrubland》
2 《氾濫原/Flood Plain》
2 《アダーカー荒原/Adarkar Wastes》
4 《Plateau》
2 《Volcanic Island》
5creature
4 《Shield Sphere》
1 《ファイレクシアの歩行機械/Phyrexian Walker》
36spell
3 《魔力の櫃/Mana Vault》
4 《ゴブリンの砲撃/Goblin Bombardment》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
4 《衝動/Impulse》
4 《永劫の輪廻/Enduring Renewal》
2 《悟りの教示者/Enlightened Tutor》
4 《税収/Tithe》
4 《Force of Will》
4 《Demonic Consultation》
3 《秘儀の否定/Arcane Denial》 |
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これはプロツアー99で「ジャーマン・ジャガーノート」ことカイ・ブッディ選手が使用したリストである。それだけで、このデッキが「ガチ」寄りのデッキだということが分かってもらえるだろう。このデッキは3枚のカードを利用したコンボデッキだ。
まずはコンボパーツである《永劫の輪廻》《ゴブリンの砲撃》そして0マナクリーチャーを揃える。3者が揃えば、そこでゲームオーバーだ。《ゴブリンの砲撃》で0マナクリーチャーを投げる→《永劫の輪廻》で帰ってくる→以下永久に繰り返す。これで一気に20点以上のダメージを与えて勝利するのが狙いである。このデッキが誕生したフォーマットは、今は亡きエクステンデッド。「アイスエイジ」以降のカードと、「リバイズド」から特別に、10種類の特殊土地…所謂「デュアルランド」のみが解禁されているという、「元祖レガシー」と言っても良い非常に楽しい・そして競技性の高いフォーマットだった。
このブッディの「ペブルス」は、純正の形のもので「フルーティ・ペブルス」と呼ばれることもあった。ここで「純正」という言葉を使ったからには、勿論「亜種」が存在する訳で…そして、その亜種こそがペブルスの名を世に轟かせた。同プロツアーにてトップ8に残ったのがこちらだ。
2.サンプル(+詳細) |
Sample
Deck |
22land
4 《Badlands》
4 《Scrubland》
4 《真鍮の都/City of Brass》
4 《宝石鉱山/Gemstone Mine》
3 《泥炭の沼地/Peat Bog》
3 《ファイレクシアの塔/Phyrexian Tower》
10creature
4 《Shield Sphere》
2 《ファイレクシアの歩行機械/Phyrexian Walker》
4 《アカデミーの学長/Academy Rector》
28spell
3 《モックス・ダイアモンド/Mox Diamond》
1 《魔力の櫃/Mana Vault》
4 《ゴブリンの砲撃/Goblin Bombardment》
1 《沈黙のオーラ/Aura of Silence》
4 《ネクロポーテンス/Necropotence》
3 《永劫の輪廻/Enduring Renewal》
4 《強迫/Duress》
4 《暗黒の儀式/Dark Ritual》
4 《Demonic Consultation》 |
15sideboard
2 《平和の番人/Peacekeeper》
3 《沈黙のオーラ/Aura of Silence》
1 《中心部の防衛/Defense of the Heart》
4 《紅蓮破/Pyroblast》
1 《中断/Abeyance》
2 《枯渇/Mana Short》
2 《不毛の大地/Wasteland》 |
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これが本日のタイトルにもなっている「ココアペブルス」だ。ココア要素は、青の代わりにメインに投入された黒のことだ。黒を入れる利点は《暗黒の儀式》というマナブースト、《強迫》という前方確認、そして《ネクロポーテンス》というクソッタレ…いや至高の1枚を使えることだ。
この時代、《ネクロポーテンス》は大正義であり絶対的な邪悪だった。1点のライフを1ドローに替える、どれだけ引いても相手より先に極めてしまえば良い。ネクロを中心に据えたデッキは勿論、色があってないコンボデッキでも「《暗黒の儀式》と《デュアルランド》入れておけばどうにかなるって♪」とお気軽に投入され、実際にどうにかなっていた。
その筆頭としてプロツアーという檜舞台に登場したのが「ココアペブルス」だったのだ。目指す方向は「ペブルス」と何ら変わりないが、その圧倒的なアドバンテージに物を言わせてのトップ8入りだろう。このレシピには《アカデミーの学長》が入っているのもポイントだ。《ネクロポーテンス》のために投入された《ファイレクシアの塔》とも噛み合うし、《ゴブリンの砲撃》があれば後はこれを投げ飛ばして《永劫の輪廻》を引っ張ってくれば良いだけだ。美しい動きをするコンボデッキである。
3.リブート
さて、いつも通りリブート…なわけだが、《ネクロポーテンス》はレガシーでさえ禁止を喰らっている1枚だ。これをどう打開するかがポイントな訳だが、ここでちょっと考えてみて欲しい。赤・黒・白で構成されており、《ゴブリンの砲撃》で何度もクリーチャーを飛ばす…あれ?
これって「Zombie Bombardment」じゃない?この「ゾンバー」にペブルスの要素を絡めれば、立派な現代版「ココアペブルス」になるんじゃないのか、というアプローチで組んだリストが以下のものである。
フォーマット:レガシー |
Sample Deck |
20land
2 《Badlands》
2 《Bayou》
2《血染めのぬかるみ/Bloodstained Mire》
2《湿地の干潟/Marsh Flats》
3《汚染された三角州/Polluted Delta》
2 《Scrubland》
2《沼/Swamp》
1《知られざる楽園/Undiscovered Paradise》
3《新緑の地下墓地/Verdant Catacombs》
1《ファイレクシアの塔/Phyrexian Tower》
24creature
4《墓所這い/Gravecrawler》
4《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》
2《屍肉喰らい/Carrion Feeder》
2《ロッテスのトロール/Lotleth Troll》
2《潮の虚ろの漕ぎ手/Tidehollow Sculler》
4《恐血鬼/Bloodghast》
3《ゲラルフの伝書使/Geralf's Messenger》
2《アカデミーの学長/Academy Rector》
1《鍛冶の神、パーフォロス/Purphoros, God of the
Forge》
17spell
4《陰謀団式療法/Cabal Therapy》
4《信仰無き物あさり/Faithless Looting》
3《ゴブリンの砲撃/Goblin Bombardment》
4《未練ある魂/Lingering Souls》
1《魂のカーニバル/Carnival of Souls》
1《汚染/Contamination》 |
15sideboard
2《壌土からの生命/Life from the Loam》
2《ドライアドの東屋/Dryad Arbor》
2《思考囲い/Thoughtseize》
3《外科的摘出/Surgical Extraction》
2《非業の死/Perish》
4《突然の衰微/Abrupt Decay》
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基本は「ゾンバー」と全く同じで、軽いゾンビを展開しながら《陰謀団式療法》などで相手の妨害をしつつ、《ゴブリンの砲撃》が効果的に運用できる場を構築していくことになるだろう。
ポイントは本家ココアペブルスへのリスペクトも含めて採用した2枚のアカデミーの学長と各種1枚挿しエンチャントだ。学長を生け贄に捧げて、《汚染》でマナを縛るも良し、《魂のカーニバル》でライフの限り《墓所這い》を撃ちこんでも良し、中長期戦になりそうならば《鍛冶の神、パーフォロス》を呼んで良し。ボンバーシステムの弾き出すダメージを3倍速にしてやろう。《未練ある魂》の飛行トークンと、全体パンプ能力も相性が良いぞ。
瞬殺コンボではなく、時代に沿ってギミック満載のビートダウンに生まれ変わった、これが新・ココアペブルスだ。
4.終わりに
今回は半ば強引に往年の名デッキの話題に持ち込んだ感は否めない。しかし、古き時代を制したものには、必ずや現代に繋がるヒントがあるはずである。こうやって振り返ることは良いことに違いないのだ。現実逃避も出来るしね
「かたじけない」「この恩、忘れはしませんぞ」
この双子オッサン、どうしようか…
次回、山崎兄弟は無事に神河へ帰還することが出来るのだろうか?続くッッ
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