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by Yasutaka Hibino
僕はモダン記事を執筆するにあたり、最初の記事でこう書きました。
「モダンはどんなデッキにも可能性がある」と。
今回ご紹介する「潜在能力」デッキは、最初の記事を書いた頃には無名だったのですが、
最近行われたPTQでTOP8に二回も入賞と、急激に頭角を現してきたデッキです。
キーカードとなるのは《吹き荒れる潜在能力》
「面白そうなカードだけど、やっぱりネタデッキ専用だよね」
そう言われ続け、ストレージの中で50円カードとして眠り続けてきたこのカード。
それがまさか、モダン環境に一石を投じるとは、誰が想像したでしょうか?
まさに、モダン環境の無限の「可能性」を体現したこのデッキ、ご紹介したいと思います
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PTQタルキール覇王譚
Top8 Tonouchi Keita
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25land
4《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
2《霧深い雨林/Misty Rainforest》
3《蒸気孔/Steam Vents》
4《硫黄の滝/Sulfur Falls》
4《トレイリア西部/Tolaria West》
2《生けるものの洞窟/Zoetic Cavern》
1《僻地の灯台/Desolate Lighthouse》
4《島/Island》
1《山/Mountain》
3creature
1《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》
2《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul,
the Aeons Torn》
32spell
4《血清の幻視/Serum Visions》
3《稲妻/Lightning Bolt》
2《万の眠り/Gigadrowse》
4《マナ漏出/Mana Leak》
4《差し戻し/Remand》
4《イゼットの魔除け/Izzet Charm》
3《熟慮/Think Twice》
4《謎めいた命令/Cryptic Command》
4《吹き荒れる潜在能力/Possibility
Storm》
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15sideboard
4《神聖の力線/Leyline of Sanctity》
4《紅蓮地獄/Pyroclasm》
2《焼却/Combust》
2《否認/Negate》
2《ハーキルの召還術/Hurkyl’s Recall》
1《否定の契約/Pact of Negation》
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初見ではなかなかイメージし辛いこのデッキの勝ち筋ですが、勝ち手段は以下の通りです。
①:《吹き荒れる潜在能力》を場に出す。
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②:クリーチャースペル(《メムナイト》など)をプレイする
↓
③:《吹き荒れる潜在能力》の能力によって、ライブラリからクリーチャーカードが捲れるまで公開する。ライブラリには《メムナイト》の他には《引き裂かれし永劫、エムラクール》しか入っていないため、エムラクールが確定で捲れる。
↓
④:《引き裂かれし永劫、エムラクール》の効果で追加1ターンを得る。続くターン、滅殺6とともに15点ダメージが本体に叩き込まれる。ライフが減っているorパーマネントの数が少なければここで詰み。返すターンに殺せなければもう一度エムラクールに殴られて死亡。
…というわけで、いろいろと周りくどい攻め方ではありますが、結局のところは《引き裂かれし永劫、エムラクール》をプレイされて殴られて死亡。というのがこのデッキの死因です。
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このデッキの要注意ポイントは、デッキの代名詞でもある《吹き荒れる潜在能力》です。これは一旦場に出てしまうと非常に対策が難しく
・相手が《メムナイト》を持っていた場合、「《吹き荒れる潜在能力》をプレイ→《メムナイト》をプレイ」まで優先権は発生しません。また、《メムナイト》をプレイした段階で《吹き荒れる潜在能力》の効果は誘発しており、仮に《メムナイト》を打ち消したとしても《吹き荒れる潜在能力》は解決されるため、いわゆる「フィズる」といった形での妨害ができず、打ち消し呪文は意味を為しません。
・《引き裂かれし永劫、エムラクール》がプレイされてしまうと、追加ターンを得る上にプロテクション(有色の呪文)であるため、ごく限られた手段でしか干渉できません。滅殺6を叩きこまれてしまうとそれだけで壊滅的な被害を受けるため、立て直しの猶予も与えてもらえません。
・極めつけに《吹き荒れる潜在能力》は自身の効果で、対策スペルそのものを違ったスペルに変換されてしまい、コンボパーツでありながら自分自身を守るという役割まで担っているため、設置された後の対策は非常に難しいです。
(例えば、《精神壊しの罠》であれば《引き裂かれし永劫、エムラクール》も打ち消すことが可能ですが、《精神壊しの罠》を唱えても別のスペルに変換されてしまうため、狙って打ち消すことはほぼ不可能です)
結果として相手に《吹き荒れる潜在能力》を設置されるまえに倒すことが基本戦略となります。
《吹き荒れる潜在能力》を設置するにはソーサリータイミングで5マナ必要であり、モダン環境においては非常に重い部類のカードとなるため、その弱点を付きましょう。
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あなたがビートダウンデッキの場合は、とにかく全力展開し、殴り倒すことを考えましょう。
《欠片の双子》デッキのように早いターンで突然死することは無く、相手が仕掛けてくるタイミングは最短でも5T目であるため、それまでは躊躇なく毎ターンフルタップし、全力展開して問題ありません。
ハンデスを仕掛けたり、カウンターを構える場合は、相手が5マナに到達する直前のターンがキーとなるターンとなります。
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あなたが打ち消しを持っているデッキの場合は、《吹き荒れる潜在能力》をピンポイントで打ち消すのが基本ですが、《万の眠り》というカード1枚でその相性差はひっくり返ります。
このカードは、中盤以降にお互いカウンターを握った睨み合いで絶大な威力を発揮します。
エンドフェイズに大量の「複製」を生み出すことで、一時的にあなたの土地をフルタップ状態にされ、悠々と《吹き荒れる潜在能力》をプレイされてしまいます。(「複製」は唱えた時点でコピーが作成されるため、元となった《万の眠り》を打ち消しても複製が残ってしまいます)
睨み合いになった場合、《吹き荒れる潜在能力》側は《万の眠り》を引くのを待っているパターンが多く、引かれてしまうと対応が難しいため、自分が何枚も打ち消しスペルを手札に持っているからといって決して安心したりせず、《瞬唱の魔道士》を極力早めに着地させてクロックを刻むなど、勝負を決めにいくことが重要です。
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《吹き荒れる潜在能力》に有効なサイドボードは、以下のようなものです。
《強迫》《思考囲い》
まずはシンプルにハンデス。コンボデッキに対してこれらのカードが強力なのはもちろんですが、《吹き荒れる潜在能力》側が対策が困難であること、抜くべきカードが明確であることから、シンプルながら非常に優秀な対策となります。
(今回ご紹介したデッキリストでは、一切の白マナが出ないにも関わらず、ハンデス対策として《神聖の力戦》を採用しているほどです)
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《殺戮遊戯》
もっとも有効なカードがこのカードです。《引き裂かれし永劫、エムラクール》を指定するだけで、相手のデッキは一切の勝ち手段を失い、ゲームセットとなります。
(ただし、潜在能力側もサイドからサブプランを用意している場合があります。その解説はこの後で行います)
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《対抗変転》
カウンター合戦で「万の眠り」が強いことは先述の通りですが、このカードは「超過」でプレイすることにより、《万の眠り》によって生み出された複製ごと消し去ることが可能で、かつそれ自身もカウンターされないため、カウンター合戦において非常に強力な1枚です。
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《真髄の針》
ほぼパーマネントが存在しないため一見刺さりそうにないこのカードですが、《トレイリア西部》を指定することで、コンボパーツである《メムナイト》や《生けるものの洞窟》、コンボ補助のための《否定の契約》のサーチを阻害できるため、非常に効果的です。
特に《メムナイト》のみを採用しているリストでは《トレイリア西部》を含めて都合5枚のカウントとしているため、針で変成を封じることで、デッキに1枚の《メムナイト》を引かなければならないようになり、相手のコンボ成立を大きく阻害することが出来ます。
《エーテル宣誓会の法学者》《弁論の幻霊》
これらのカードが場に出ていると、プレイしたスペルを一旦追放し、その後ライブラリから「唱える」という挙動である《吹き荒れる潜在能力》は、「1ターンに1度だけしかスペルをプレイできない」という制約にひっかかるため、プレイすることが出来ません。更に、最初に唱えたスペルもリムーブされてしまうため、実質的に(自分も含めて)一切のスペルがプレイできなくなってしまう、という奇妙な状態が発生します。
《弁論の幻霊》などは自身がクロッカーにもなるため、そのまま殴り勝てるでしょう。
《エーテル宣誓会の法学者》で対策する場合は注意が必要です。《吹き荒れる潜在能力》自身が唱えられたターンは既にアーティファクトでない呪文が唱えられているため、そのまま《メムナイト》から《引き裂かれし永劫、エムラクール》を唱えられることはありません。
しかし、《メムナイト》はアーティファクトであるため次のターンになって改めて《メムナイト》を唱えられるとコンボが成立してしまいます。ですが、1ターンは確実に時間が稼げるのでサイドボードにあるならサイドインすべきでしょう。
なお、お互いに全く攻め手が無い状態でロック状態になった場合、潜在能力は《引き裂かれし永劫、エムラクール》がデッキに入っている都合上ライブラリアウトすることがありえないため、むしろ勝利が確定してしまう、という点には注意しましょう。
《罠の橋》
「潜在能力デッキは最終的には《引き裂かれし永劫、エムラクール》で殴って勝つ」という点に着目し
たサイドボードです。このカードをあらかじめ場に置いておけば、相手がたとえコンボを成立させたとしてもアタックできないため、実質的にコンボを無効化することが可能です。
ただし、《罠の橋》の効果はこちらにも及ぶため、バーンデッキやメガハンデス等の、クリーチャーのビートダウンに依らない特殊なデッキ専用のサイドボードとなるでしょう。
■《生けるものの洞窟》について
大多数の人が所見であろうこのカード。「変異」という能力を持ち、3マナ支払い裏向きにプレイして、2/2のクリーチャーとして利用することが出来るというカードです。
変異でプレイしたカードは「クリーチャー」という扱いで《吹き荒れる潜在能力》の効果が誘発します。そのため、このカードは《トレイリア西部》でサーチ可能で、かつ《思考囲い》でも落とされない、2枚目以降の《メムナイト》になるというカードになります。
なお、《生けるものの洞窟》から《吹き荒れる潜在能力》を誘発させた場合、おおよそ1/3の確率で《メムナイト》が捲れる可能性が存在します。万が一コンボを決められても、すぐに投了せず、しっかり《引き裂かれし永劫、エムラクール》が捲れたのを見てから投了しましょう。
※2014/7現在、Magic
Onlineでは変異でプレイしても、クリーチャーとは認識されません。これはMagic
Onlineのバグであり、ルーリング的には「変異でプレイしたカードはクリーチャーである」が正しいルールです。
このバグが存在するため、Magic Online上の潜在能力デッキには《生けるものの洞窟》が採用されていません。
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■ライフ15というボーダー
このデッキを相手にするときには、基本的にライフを気にする必要はありません。唯一気をつけるとすれば「ライフは15をボーダーに考える」ということです。この15という数字は《引き裂かれし永劫、エムラクール》のパワーの数値で、コンボを決められた後、即死するかどうかのボーダーです。
ライフが1でも残れば、エムラクールの「滅殺6」に対し、土地を吹き飛ばしてクリーチャーを存命させ、返しで殴って勝つという戦略が取れます。また《神の怒り》などでエムラクールを除去できる可能性が発生します。
そのため、ライフ16以上になるならばライフをケアする意味があります。逆に、15以下になるようであれば、ライフはあまり気にせずにプレイして問題ありません。(もちろん、ライフを16以上にすることにこだわるあまり展開が遅れては本末転倒なので、基本的には全力展開を推奨します)
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■《吹き荒れる潜在能力》は手札からプレイした時限定
《吹き荒れる潜在能力》の能力は「手札から」プレイしたスペルに限定されます。そのため、例えば墓地にある《未練ある魂》をフラッシュバックした場合、通常通りにトークンが戦場に出ます。他にも、例えば以下のような場合は手札からプレイしていないため、通常通り効果が解決されます。
・待機カウンターが0になった《裂け目の稲妻》や《明日への探査》
・「続唱」から捲れた《死せる生》
・《ぶとう弾》から「ストーム」で発生したスペル
・《万の眠り》から「複製」で発生したスペル
・《紅蓮の達人、チャンドラ》の±0の能力で捲ったカード
・《風立ての高地》などの「秘匿」地形からプレイされたカード
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■《引き裂かれし永劫、エムラクール》に対する対処
「打ち消されない」「プロテクション(有色のスペル)」と、歴代のカードの中でも最強クラスの能力を持つカードですが、対処手段が全く無い訳ではありません。
まず、「プロテクション(有色のスペル)」については、あくまでスペルが対象であり、パーマネントであれば対応が可能です。
・具体的には《やっかい児》のタップ能力は《引き裂かれし永劫、エムラクール》をタップすることが可能です。インスタントタイミングでプレイが可能であるため、実質的に1ターン相手の動きを止めることが可能です。
・インスタントタイミングでは他に《天界のほとばしり》や《謎めいた命令》のタップモードなど、エムラクールではなくプレイヤーを対象とするようなカードであれば対応が可能です。
ソーサリータイミングとなると、一度「滅殺6」を受けているため、状況的には厳しくなってきますが
・《神の怒り》などの全体除去
・《ヴェールのリリアナ》の生け贄能力
・《忘却の輪》《拘留の宝珠》などの除去
など、対応可能なカードも増えるため、サイドボードに用意している場合は積んでおくと役に立つときもあるでしょう。
※なお、《引き裂かれし永劫、エムラクール》をプレイされているということは《吹き荒れる潜在能力》が既に設置済みということであり、これらの対策スペルも「一旦他のスペルをプレイし、変換された先でたまたま当たらないとプレイできない」という点にはご注意下さい!
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■サイドプランの可能性について
今回提示したリストでは採用されていませんが、《吹き荒れる潜在能力》デッキでは、以下のようなサイドプランがありえます。
《詐欺師の総督》+《欠片の双子》プラン
もはやモダンの代表格とも言える双子コンボですが、カラーリングもパーツも似ているため、サイドボードから《吹き荒れる潜在能力》コンボ一式とサイドボードから組み替えることが可能です。
《吹き荒れる潜在能力》はクリーチャー除去カードが全く機能せず、序盤からフルタップで攻めるのがセオリーである一方で、双子プランはクリーチャー除去が大量に必要で、かつ不用意なフルタップは死につながるため、対策がまったく逆になります。どちらのパターンも仕掛けてくるまではカードが見えないという点も似通っているため、注意していても対処が難しいプランです。
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《集団意識》プラン
重めのエンチャントをプレイして即死、という点では非常に似ていますが、クリーチャーが必要無いため、《吹き荒れる潜在能力》とのハイブリッドが成立するのが強みです。デッキに4枚入っている《トレイリア西部》も自然な形で使え、親和性が高いためメインボードから投入されているリストも存在します。
対策としては、同じく「エンチャント」である上、こちらの方がマナコストは高いため、通常の「潜在能力」を相手にする場合とさほど変わりません。どちらかといえば《殺戮遊戯》等でコンボパーツを根絶されてしまった場合のサブプランという位置づけとなります。
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《風景の変容》プラン
《風景の変容》(+《溶岩の先鋒、ヴァラクート》と、山換算の土地を6枚以上)を積むことで、ヴァラクート戦略を取ることも可能です。このコンボもクリーチャーを必要としないため、比較的「潜在能力」と相性が良いと言えるでしょう。
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■このデッキを使うべきとき
このデッキの強みは、デッキの動きを知らない場合は初見殺しが容易であることと、双子デッキやストームデッキと動きが似ているため、相手が対応を誤ってしまう可能性が高いことです。また、コンボパーツ以外はドローとカウンターと除去で固められているため、見た目以上にデッキが安定して回ることもメリットであると言えます。
すでに話題になってきているため、分からん殺しは難しいかもしれませんが、他コンボとのハイブリッドも視野に入れ、「コンボめいた妖しい動きが大好きな人」「相手をびっくりさせたい人」などにお勧めのデッキです。
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