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石田弘 「赤黒ゾンビデッキとの遭遇」 
 
text by Ishida Hiroshi


GP神戸に参加された皆様、お疲れ様でした!
今回のGPも大盛況でしたね。

日本でのMTG、そしてモダンというフォーマットの人気を感じるイベントでした。

多数のサイドイベントやサイン会なども熱いイベントでしたが、自分は本戦に参加して初日は7-2でギリギリ抜け、二日目は3-3で惜しくも賞金獲得ならず……という結果でした。

ですが結果はともあれゲーム自体はとても面白く、モダンというフォーマットの奥深さや面白さをタップリと楽しむことが出来た二日間でした。

自分が使用したデッキは、今大会でも人気でトップメタの一角であるBGタッチwです。

sample deck
25land
2《沼/Swamp》
1《森/Forest》
4《新緑の地下墓地/Verdant Catacombs》
4《湿地の干潟/Marsh Flats》
2《草むした墓/Overgrown Tomb》
1《寺院の庭/Temple Garden》
1《神無き祭殿/Godless Shrine》
1《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》
1《黄昏のぬかるみ/Twilight Mire》
2《活発な野生林/Stirring Wildwood》
3《樹上の村/Treetop Village》
3《ガヴォニーの居住区/Gavony Township》

10creature
4《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
4《漁る軟泥/Scavenging Ooze》
2《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》

25spell
4《未練ある魂/Lingering Souls》
3《思考囲い/Thoughtseize》
3《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek》
4《突然の衰微/Abrupt Decay》
2《四肢切断/Dismember》
2《流刑への道/Path to Exile》
1《光と影の剣/Sword of Light and Shadow》
4《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》
2《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》
15sideboard
2《神聖の力線/Leyline of Sanctity》
2《忍び寄る腐食/Creeping Corrosion》
2《強情なベイロス/Obstinate Baloth》
2《呪文滑り/Spellskite》
1《ガドック・ティーグ/Gaddock Teeg》
2《エイヴンの思考検閲者/Aven Mindcensor》
1《大爆発の魔道士/Fulminator Mage》
1《思考囲い/Thoughtseize》
1《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》
1《機を見た援軍/Timely Reinforcements》

自分自身、モダンというフォーマットに関してそれほど習熟しているわけではないのですが、それなりに自分好みに手を加えたリストです。
《闇の腹心》の不採用が特徴となりますが、これは国内PEでの流れから、バーンや親和といった高速でライフを狙ってくるデッキタイプの使用者が増えそうだという意識からの調整になります。メインの微調整やサイドボードもそれらのデッキタイプを強く意識しています。

そして、《闇の腹心》が有用となるコンボやボードコン相手に対しては、そもそも《闇の腹心》がいなくても有利という印象でした。トリコ系などに対しても、腹心は電解でついでにやられてしまう事が多いですし、ライフロスを狙われて本体に火力集中されての負け筋を作ってしまうと感じました。

この調整が結果的に正解だったかどうかはともかく、個人的には気に入っています。
ただそ今見直してみると同型への強みがないので、《妄信的迫害》は取るべきだったと思います。


●赤黒ゾンビデッキとの遭遇
さて、いざこのデッキを使ってのGP本戦となりますが、モダンには多種多様なデッキタイプが存在していて本当に面白かったです。

例えばトリコカラーのデッキには4回当たったのですが、その全てがタイプが違っていて、《聖トラフトの霊》を使う高速型から、BGを強く意識した《刃の接合者》型、さらには《聖別されたスフィンクス》をフィニッシャーに置いた重コントロールタイプまで色々なデッキに当たり、それぞれが違うゲームプランで戦う必要がありとても楽しかったです。
ですが15回戦の中で最も印象に残った戦いは、二日目の賞金圏をかけたバブルマッチで当たったオリジナルデッキの「赤黒ゾンビ」でした。

●赤黒ゾンビとの戦い
お互い4敗ラインの成績なのですから、容易な相手であるはずがありません。
1ターン目に黒割れの崖をセットされ、意識したのはタッチ黒の高速バーンデッキ……でしたが相手のアクションは予想外の《墓所這い》でした。
驚く間もなく、続くターンに召喚される《恐血鬼》、そして《ゲラルフの伝書使》。



あまりに予想外の展開に呆気にとられる自分ですが、この展開されるクリーチャーたちの前に呆けている余裕はありません。

なにせこいつら、すべてBGの除去では根本的に処分できないのです!

《突然の衰微》では一時しのぎにしかなりませんし、《ヴェールのリリアナ》もほとんど無意味。
《未練ある魂》のトークンで複数ブロックすれば倒すことは出来ますが、それも結局は時間稼ぎにしかなりません。

よもや「衰微、衰微、未練、リリアナ、土地3」というどんな相手にも安定のハンドが、ほとんど通じない相手とは!

上手く除去とウーズの墓地除去を合わせられればいいのですが、常に守勢に立たされているこちらには構える余裕もあまりなく、《稲妻》や《終始》といった除去呪文を受けてやられてしまいます。

唯一《タルモゴイフ》だけは頼りになるブロッカーでしたが、どうせ死んでも帰ってくるような連中です。数を並べてのフルアタックからの火力でゲームを取られてしまいました。

一回だけは相手のマナフラッドも手伝って勝てたのですが、構造的にBGではかなり辛い相手だと思いました。
《貪欲なベイロス》や《機を見た援軍》をプレイしてなお敗北したのですから、完敗といっていいでしょう。
《タルモゴイフ》を複数枚連打できれば違うでしょうが、そうそう上手く引けるものではありませんしね。

しかし負けても、悔しさなどありませんでした、
この赤黒ゾンビの強さ、何よりそのオリジナリティとカッコよさに完全に虜になってしまい、負けても何ら悔いのない戦いだったのです。


●赤黒ゾンビ そのデッキ構造
さて「赤黒ゾンビ」デッキと表記しましたが、その本質はバーンデッキのようでもありました。
《稲妻》だけでなく《夜の衝突》までも取られていて、ゾンビたちの攻撃と相まって素早くライフを削ることを主眼に作られていました。

当時のスタンでのゾンビデッキがゾンビクリーチャーによる純正のビートダウン、あるいは《血の芸術家》を絡めた準コンボデッキ的な側面を持っていたことを考えると、結構違うアプローチをしているデッキだと思われます。

モダンの速度域やクリーチャーの強さを考えると、旧スタンのゾンビデッキのような素直なデッキでは勝ち抜くのは難しいでしょう。
その点この赤黒ゾンビ……正確には赤黒ゾンビバーンとでも呼ぶべきでしょうか?
このデッキには環境に適応できるようにしっかりと調整されており、オリジナリティとともに実用性も高く、とても素晴らしいデッキと感じました。

また第三ゲームで使われて衝撃を受けたカードが有りました。
それが《爆破基地》です。



そもそも何度でも再生するゾンビ系クリーチャーは生贄コストのカードとは相性が良く、旧スタンでも《迫撃鞘》や《ファルケンラスの貴種》といったカードと組み合わされていました。
この《爆破基地》のシナジーは強烈無比で、アンタップ能力とゾンビたちの復活能力が組み合わさり、瞬間的かつ継続的に火力を叩き込んでくるのです。

例えば《ゲラルフの伝書使》なら召喚して即時に合計6ライフを奪う事が出来ますし、《墓所這い》なら黒マナ1点につき1ダメージを自在に飛ばすことが出来ます。

複数枚出てもあまり意味が無いので枚数はつめなさそうですが、動きも面白くかつ強いので、このカードはとても素晴らしいチョイスだと思いました。

他に入っているゾンビでは《呪詛術士》がいましたが、これもまたメタゲームに合致しているカードだと思います。
BGタッチwを見てもわかりますが、モダンでは多色化および大量の特殊地形搭載が流行っており、それを狙い撃ちにする《血染めの月》戦略もあります。

《呪詛術士》は《血染めの月》程の劇的な効果はありませんが、ライフを一直線に狙うデッキ戦略と合致していますし、こちらは特殊地形を使えるという強みもあります。
アラーラ時代のスタンでも特殊地形満載デッキへの対策として存在感を放っていた《呪詛術士》ですが、今のモダンでもかなり強いのではないか、と感じました。

ゾンビたちの弱点として、ゲームから追放されると組成できなくなってしまう点があります。
モダンでよく使われているカードでは《流刑への道》が代表となるでしょうが、逆に言えばそのぐらいです。
旧スタンでは《天界の粛清》で無情にも除外されていたゾンビたちですが、モダンでは余り見るカードではありません。
そして《流刑への道》は、受けると土地をサーチすることが出来ます。通常のビートダウンでは土地が伸びてもあまり意味がありませんがこのデッキは違います。

《夜の衝突》のフラッシュバックや《呪詛術士》の蘇生には大量のマナが必要なので、土地が伸びるのは決して無駄ではないのです。

このように一見単純そうに見えて、旧スタンのものとはまるで違い、モダンの赤黒ゾンビデッキは実に計算深く構築されていました。


●赤黒ゾンビ そのメタゲーム上の優位
とにかくクールで面白いゾンビデッキですが、実際考えてみるとメタゲーム的にも悪くない選択ではないのではないか、と思われます。

まず自分がそうだったように、BG系に対しては除去カードを実質的に腐らせられることで、構造的にはかなり有利だと思います。

双子系に対しても、ハンデスも除去もしっかり取れるので分は悪くないでしょう。

トリコ系に対しては《流刑への道》が弱点になってしまいますが、逆に火力除去に対しては非常に強いですし、ロングプランでの《呪詛術士》は脅威です。

殻に対しては回られたら無理そうですが、逆にこちらのドブンなら速度で戦えると思います。

自分より速いバーンや親和には分が悪そうですが、総合的に見てモダンのメタデッキ相手に結構強く立ち回れると思います。

またサイドボード後においても、最近では墓地対策は結構緩く、多くても2枚程度の《大祖師の遺産》ぐらいに落ち着いています。
そして前述したようにリムーブ系の除去も少ないので、旧スタン当時よりも立ち回りやすくなっています。
《神聖の力線》も効くことは効きますが、フルバーンと違ってクリーチャーによる戦闘も重視されていますのでそれだけで勝利することは難しく、意外と対策しにくいのも利点でしょう(事実、自分も力線をサイドインしましたが、《ゲラルフの伝書使》の打点のまえにやられてしまいました)。


●赤黒ゾンビ そのデッキリスト
デッキリストを見たわけではありませんが、3戦通して見たカードやコンセプトからある程度の推測は可能です。
とりあえずは自分が作るなら、こんな感じになります。

sample deck
22land
2《湿地の干潟/Marsh Flats》
2《乾燥台地/Arid Mesa》
3《血の墓所/Blood Crypt》
4《黒割れの崖/Blackcleave Cliffs》
1《山/Mountain》
4《沼/Swamp》
2《偶像の石塚/Graven Cairns》
3《魂の洞窟/Cavern of Souls》
1《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》

20creature
4《墓所這い/Gravecrawler》
4《闇の腹心/Dark Confidant》
1《殺人王、ティマレット/Tymaret, the Murder King》
4《恐血鬼/Bloodghast》
4《ゲラルフの伝書使/Geralf's Messenger》
3《呪詛術士/Anathemancer》
18spell
4《稲妻/Lightning Bolt》
4《夜の衝突/Bump in the Night》
4《終止/Terminate》
4《思考囲い/Thoughtseize》
2《爆破基地/Blasting Station》

基本的には攻撃的なカードでまとめられていますが、フルバーンと比較して瞬殺力は劣るものの、継戦能力はかなり高くなっています。
実際、カードパワーでは随一のBGタッチWに対しても長期戦になりながら削り切るほどのパワーが有りました。

《終止》は《タルモゴイフ》へや《漁る軟泥》への解答として欠かせませんし、トリコの《修復の天使》や《天界の列柱》までなんでも倒せますから、かなり強力なカードだと思います。

しっかりと弱点への対策もしてあるという事で、考えれば考えるほど見事な構成。素晴らしいデッキデザインです。

ゾンビということで《変わり谷》も相性が良さそうなのですが、《ゲラルフの伝書使》のトリプルシンボルと相性が悪いのが難点ですね。それでも、赤黒はミシュラランドが弱いという欠点もありますので、何枚か採用してもいいかもしれません。その際には《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》の増量も一考の価値ありでしょう。

サイドボードでは親和対策に《粉砕の嵐》込みでアーティファクト破壊系カードを4枚ほど取りたいところです。こちらに殆ど被害が出ないので、《紅蓮地獄》も良さそうです。

後はコンボ用に追加の手札破壊や《殺戮遊戯》、《タルモゴイフ》用に追加の除去あたりでしょうか。そこまで狙いがしっかりしていれば《死の印》も良いかと思います。あるいはゾンビという点に注目すれば、《生命散らしのゾンビ》なども面白いかもしれません。

トークンデッキ対策に《オリヴィア・ヴォルダーレン》も良さそうです。生き残れば殆どのクリーチャーデッキに対してミシュラランドごと制圧してしまえるので、メインでもありえるかもしれません。

ただ、このカラーだとバーン対策に良いカードがないのが残念です。《虚空の杯》ぐらい尖ったカードを入れるという手もありますが、それよりはいっそ、先に相手を殺すという思考でアグレッシブに行ったほうがいいかもしれませんね。

また、これは2色のデッキなので、土地構成を基本地形寄りにして、《血染めの月》を採用するということも出来るかもしれません。
あるいは逆の発想で色を増やすこともモダンなら容易ですので、旧スタンの頃のように《ロッテスのトロール》を使うために緑をタッチするのもありでしょう。そうなると《タルモゴイフ》にも声がかかりそうですが、他に《朽ちゆくヒル》なども強力な打点を持つゾンビとして使えるかもしれません。

しかしいずれにせよ、このデッキの強さは従来のクリーチャーメインのゾンビデッキではなくバーン要素を強めた部分にあると思いますので、あまりクリーチャー比率を上げ過ぎるのは本末転倒かもしれません。

う~ん、考えれば考えるほど、絶妙のバランスとセンスでデザインされたデッキだと感心します。


●まとめ
結局GPではぎりぎりでマネーフィニッシュには至らなかったのですが、そんなことよりもこの赤黒ゾンビデッキと出会えた喜びのほうが大きかったです。

自分自身もそうなのですが、独自調整のデッキで大きな大会に挑むのはとても楽しいものです。対戦相手の方もとても楽しそうにプレイされていて、それだけでこのGPに参加した甲斐があったと思いました。

モダンシーズンは一段落しますが、このフォーマットはまだまだ多くの可能性を秘めていて、とても奥深いフォーマットだと思います。
自分も今後とも、モダンのデッキ構築やゲームを続けていきたいと思いました。
その際には、まずはこの赤黒ゾンビデッキを自分も使ってみようと思います。


石田弘
自他共に認めるリミテッダーで、dds666のハンドルネームでおなじみである。
国内のリミテッドPEで2度の入賞、初出場のプロツアー“ギルド門侵犯”においても賞金圏内に入賞を果たすなど、その実力は確かなもの。

本人のブログ:ライフは一点あればいい


主な戦績
グランプリ神戸2011 Top8
The Limits2011 Top8
プロツアー“ギルド門侵犯” 出場
「カジュアルで遊ぼう」
第1回モミールベーシックで遊ぼう1
第2回モミールベーシックで遊ぼう2
第3回モミール戦略:構築編
第4回モミール戦略:戦術編

「ポックスリアニ」
その1~誕生編~
その2~デッキ解説編~
その3~サイドボード編~
その4~調整編~

「コンスピラシードラフトを楽しもう」
その1
その2

赤黒ゾンビデッキとの遭遇


 
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