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石田弘「黒に染まりゃいいんだよ!」第0回 
 

text by Ishida Hiroshi



「"黒"に染まれ…」


どうも、石田弘です。
モミールベーシック紹介ポックスリアニ記事など、今まで色々な記事をBIGWEB上で書かせて頂いてきましたが……

今回からの連載は一味違いますよ!!
岩showさんから「好き勝手やっていい」と言われて震えております。

そのお題は……『黒』!!

自分が……いや敢えて言いましょう。
dds666が一番好きなカラーです。(編注:dds666は石田さんのハンドルネーム)
むしろ黒がなかったらMTGやってません!

自分は『第4版』や『ミラージュ』の頃から始めたのですが、その頃から黒が一番好きでした。
それこそ、《極楽鳥》を《奈落の王》でシャーク・トレードされた事もありますよ!

いや、当時は《奈落の王》一番欲しかったので全然後悔してないんですが。


ちなみにその1枚だけの《奈落の王》のためにデッキ組みましたね……
《増殖槽》や《蜂の巣》で生贄用意したり、《魂の絆》張ってダメージを受けるデメリットを無効にしたり。
いや~、若かったですねあの頃は……

と、話し出せば黒については語り切れません。
こんな調子なのに「もう脱線し放題で好き勝手やってもらったらいいです!」という悪魔の囁きをしてしまった岩showさんは、さながら《魔性の教示者》というところでしょうか!?
という感じで、非常に無軌道なこの企画、お付き合い頂ければ幸いです。


ですが考えてみれば、そもそも、黒の哲学は唯我独尊。
究極的には他の存在など全く関係なく、自分さえよければ全て良し! という素晴らしいものです。
そういう意味では、これも実に黒らしいやり方なのかもしれません。

さて今回は第一回ということで、まずは自分勝手に黒の魅力を語っていきたいと思います。





・まず、悪い! 



『悪』。

どうです、皆さんも大好きでしょうこの響き!
ファンタジーを題材にしたカードゲームを遊んでいるプレイヤーは、大半厨二病ですからね、悪とか闇とか嫌いなわけがない!
人間社会においては善行を求められますが、MTGはあくまでゲーム、趣味なんですから、その中ではどんな極悪非道邪悪外道であってもいいわけです。

実際はMTGのカラーパイでは、必ずしも「黒=悪」ではないのですが、そういう事は置いといて……

みんな悪いことしたいでしょ!? 
暗黒魔法とか憧れちゃうでしょ? 
悪魔王とか大好きでしょ? 
邪悪とかダークネスとか大好きすぎるでしょ!?


そ、全部できるんです。
黒ならね。

死の呪文で命あるものを一瞬で朽ち果てさせたり、対戦相手の精神をズタズタに切り刻んだり、生命力そのものを奪い取ったり、巨大な悪魔を召喚したり、あるいは一度死んだはずの怪物を再び蘇らせたり……

ああ!
なんて悪いんでしょう。
こういうね、厨二ムーブが好きなプレイヤーのハートをがっちり掴んじゃうわけですよ、黒は!





・システム的にも特別!  黒はオンリーワンのカラー!


さてMTGのシステムから考えても、黒は独特な魅力に満ちています。
いや、もうここは敢えて言いましょう。

黒こそ至高にして最強の色であると!
MTGの5色を全部混ぜると黒になることからもそれは当然です。

ゲームの話に戻りますと、ゲーム内でも黒だけに許されたシステムがいくつかあり、しかも強いのです。


まずは手札破壊。どんな強い呪文であっても、効果を発揮する前に捨てさせてしまえばまったく関係ありません。
打ち消し呪文? まぁあれも悪くないけど、《魂の洞窟》一枚で泣いちゃう貧弱魔法使いに用はありませんね。
そもそも打ち消しなんてのは相手が動くまで構える後の先の戦略、相手が動かなかったらこっちも何もできません。
その点手札破壊は先の先を取る絶対の戦略! 真にゲームの流れを支配するのはこちらです。(勿論、状況にも依ります。が、この記事は黒について語り、讃えるものであります!)

そして墓地活用。本来は莫大なコストを必要とする巨大生物を僅かなコストで場に出してしまうこの手のスペルは、古の時代から理不尽なデッキを多く生み出してきました。
また墓地活用は瞬殺だけでなく、タイプによってはまさにゾンビのごとくしぶとく生き返ったり何度もクリーチャーを引きずり出したりしてアドバンテージを稼いでいくタイプもあります。最近のカードではこちらのタイプの墓地活用のほうが多いですね。

こういった手札や墓地への干渉という、他のカラーでは手の出せない領域へ触れられるのが、黒のシステム的な魅力です。
フレーバー的にも精神を覗いたり、死体を操ったりという事でとても邪悪でいい感じです。


昔は「黒の生物には黒除去が効かない」という除去耐性もあったのですが、最近ではなくなってしまいましたね。これも闇の特権と言うか「恐怖を糧とし闇に棲まう黒の魔物には、同系統の呪文など通じない!」という厨二病なフレーバー性があったので少し残念ですw

その代わり、エンチャントやアーティファクトには基本的には触れませんが……実はこの弱点は、最近ではあまり気にしなくても大丈夫です。

昔はそれこそ、《黒の防御円》や《たい肥》などが割れないせいでこれ1枚で投了、という事も多かったのですが、最近ではこういったデッドリーな色対策カードは出さない方針になってきています。

そもそも強力な手札破壊が充実しているので、出される前に落としてしまえば対策する前でもなく対処できてしまえるわけです。
昔は《解呪》……今で言う《帰化》ですが、その系統の呪文がメインに数枚入っていたものですが、現在のMTGではこの手の限定的な呪文はメインデッキに入れるにはパワー不足とみなされることが多いです。逆に、《思考囲い》を代表とする軽量手札破壊はメインから積まれやすく、これによって黒は不器用どころかむしろ万能感さえあるカラーになっています。
本当、「第4版」の頃から考えるといい時代になったものだと思いますよ……あの頃はサイド後《日中の光》1枚で投了とか……






・ライフは一点あればいい!  ハイリスクハイリターンは黒の特権!


黒は力を得るためならなんでもする、というカラーパイの役割があります。
「ライフは一点あればいい」とは黒使いの至言でして、カードが引けるならライフなんていくらでも支払いますし、代償としてクリーチャーを生贄にしたりカードを捨てたり、勝利のためならなんでも犠牲にします。時には敵以上に危険なデーモンや、自分にも破滅をもたらしかねない危険な呪文を使うこともあります。

スーサイドとはあくまで黒の一面にすぎませんが、これも黒の魅力の一つです。


基本的にデメリットを負ったカードは、当然、そうではないカードよりも強力なデザインになっています。
例えば少し前に大暴れした《冒涜の悪魔》など、本来なら6マナ以上のコストを要求されるスペックですが、デメリットのお陰でたったの4マナでデザインされています。
MTGではたった1マナでも軽いだけで大変強さに変化が出ます。
多少のデメリットで本来成し得ない高性能なカードが使える……これこそ力を渇望する黒の本懐。他のカラーにも多少は存在しますが、やはりハイリスクハイリターンなカードは黒が本家です!


・もう少し突っ込んだシステム的な魅力


さて、このフレーバー性たっぷりの自らを傷つけるスタイルですが、ゲーム的にはこれが黒独自のプレイ感覚、黒い魅力になっています。

システム的にいうと、黒の真髄は「リソースの変換」なのです。

例えばかの有名な《ネクロポーテンス》、あるいは最近で言えば《地下世界の人脈》や《死者の神、エレボス》を考えてもらってもいいんですが、これはライフをカードへと変換しているわけです。
そしてその引いたカードが、例えばクリーチャーならボードへ影響しますし、除去や手札破壊なら相手のカードと相打ちになっていくわけですね。
そう考えると最終的には、ライフ一点が相手のクリーチャー1枚と取引になったりしているわけです。
その中でライフゲインなどあったら……例えば今フォーマットを問わず大暴れの《包囲サイ》なんかを出したら、1ライフがカード1枚になったあと、さらに3ゲインするのでこれがまた新しいカードになって……というリソースの変換、そして増加に繋がっていきます。

こうやってリソースを変換して、各種アドバンテージに繋げていき、最終的に勝利という目的を達成するのが、黒の戦術であり魅力です。


今のはわかりやすくするために「ネクロ算」をしましたが、例えば黒にありがちなデメリット付きのカードはこういったリソース変換で捉えるとわかりやすいです。
例えば《吠える鞍暴れ》は4ライフと引き換えに、通常より高いマナレシオを獲得しています。
デメリット付きの強力カードは他のカラーにもありますが、とりわけ黒にはその手のカードが多い傾向にあります。
やはり力のためには何でも犠牲にする精神性の現れでしょう。
4マナ払ったら普通4マナなりの効果が使える程度ですが、黒なら2マナクラスの被害を受ける代わりに6マナクラスの効果が使える、といったところでしょうか。

そしてそういったカードには、時折、デメリット=メリット間の計算を間違った馬鹿げた強力カードが登場することがあります。

というわけで、ちょうど時期もあっていますし紹介しましょう!
古の黒の精神を宿しつつ、近代MTGならではのカードパワーを兼ね備えたリソースの変換者が、最新セット「タルキール龍紀伝」で登場します!

ご登場いただきましょう……《アンデッドの大臣、シディシ》!!


見てください、黒単色でこの性能!
BIGWEBさんでは毎回新セットの度に「注目カードTOP5!」というコラムに参加させてもらっているんですが、いや~残念ながら今回は出来レースですね。
まず1位にこれを置くのは確定事項でしょう!

さて実際のカードを見ていきますと、単純なボディのサイズ、及び接死という能力だけでも、5マナクリーチャーとしての性能はあります。
環境的には《包囲サイ》や《黄金牙、タシグル》を一方的に倒せるサイズはそれだけで評価できますね。パワーよりタフネスが高いのも、接死と噛み合っていていい感じです。
しかしシディシの強みは戦闘能力の高さだけではありません。
伝説のクリーチャーという事で、さらなる付加能力があります。

「タルキール龍紀伝」での新能力"濫用"がそれです。
この濫用、非常に黒らしい能力……まさしくリソースの変換をする能力です。

そもそも黒と生贄は切っても切れない関係です。
役に立たないクリーチャーを生贄にして、より有益なリソースへと変換する……黒の基本的な行動とも言えるでしょう。
そういう意味では濫用はとても黒らしい能力と言えます。

このシディシの場合はどうでしょうか?
どうでもいいようなクリーチャーを生贄にした対価は、あまりにも破格です。
一番役に立たないクリーチャー一体を、デッキ内で最も欲しいカードとトレードできてしまうのですから!

余談ですが、この、好きなカードをサーチする能力も、《Demonic Tutor》の時代から黒の特権です(悪魔と契約してどんな知識でも得られるとは、なんて素晴らしい!)。

さて、ライブラリから好きなカードを持ってこれるというのは、言うまでもなくすべてのサーチ・ドローの中でも最高峰の効果です。
現在のスタンダードでは同じ効果のカードはありませんが、『基本セット2014』時代には《魔性の教示者》というカードがありました。
実に4マナのソーサリーですが、シディシはこれをオマケで行ってしまえるのです!

ドローカードやサーチカードは強力ですが、それだけでは盤面に影響をもたらしません。
《魔性の教示者》の弱点はまさにそこで、4マナ支払ってそのターンは無防備、というのはクリーチャーパワーの高い現代のMTGではあまりに危険です(《陰謀団の貴重品室》から莫大なマナを出して一気にサーチ→プレイまで出来る旧時代の黒コンでは有益な呪文でした)。
しかし、このシディシはひと味違います。
5マナ支払って《魔性の教示者》をプレイしながら、ボードには4/6接死という強力なクリーチャーが登場するのです。
まさに攻防一体、いや攻めながらにして二の矢を番える(それもデッキ内最強の!)という素晴らしいカードです。

濫用では、生贄にする雑魚がいなければ自分自身を生贄にすることもできますが、流石に勿体無いので、他にも多くのクリーチャーを擁するデッキで使うのが良いでしょう。

例えば役目を終えた《サテュロスの道探し》や要らなくなったマナクリーチャーなどは最適ですし、《ゴブリンの熟練扇動者》や《軍族童の突発》と一緒に使うのも面白そうです。

別の運命での姿である血の暴君、シディシとも相性が良いので、同じデッキで使うのも良さそうですね。キーカードであるエレボスの鞭をサーチするのにもピッタリです。

自身の部族がゾンビなので、モダン以下では《墓所這い》を使いまわすのも良さそうです。

しかも、濫用は無理に使う必要はありません(昔の黒だったら強制だった気がします(笑))。
シディシの濫用はあまりに強力なので基本的には使いたいですが、状況に応じて無理のない選択ができるのはイイ事です。チャンプブロック用の生物が必須な状況だってありそうですしね。

いずれによこのシディシ、単体でも強力かつ、デッキ構築の幅が広がることは間違いありません。
いやはや、こんな素晴らしいカードが黒単色で使えるとは……これは「タルキール龍紀伝」発売が楽しみです!


・さらなる黒へ、深淵へ
好き勝手書かせてもらって、ハッスルしてしまいました(笑)
とにかく黒が好きなので、こうして黒のことを語るだけでもいくらでも話せます。

さて次回はもう少し実戦的な話を……
開催も迫っているGP京都に向けて「レガシーでの黒」をテーマとし書かせていただく予定です。

黒は最強、そして最高!
次回も……黒に染まりゃいいんだよ!




石田弘
自他共に認めるリミテッダーで、dds666のハンドルネームでおなじみである。
国内のリミテッドPEで2度の入賞、初出場のプロツアー“ギルド門侵犯”においても賞金圏内に入賞を果たすなど、その実力は確かなもの。

本人のブログ:ライフは一点あればいい


主な戦績
グランプリ神戸2011 Top8
The Limits2011 Top8
プロツアー“ギルド門侵犯” 出場
「黒に染まりゃいいんだよ!」
第0回

「カジュアルで遊ぼう」
第1回モミールベーシックで遊ぼう1
第2回モミールベーシックで遊ぼう2
第3回モミール戦略:構築編
第4回モミール戦略:戦術編

「ポックスリアニ」
その1~誕生編~
その2~デッキ解説編~
その3~サイドボード編~
その4~調整編~

「コンスピラシードラフトを楽しもう」
その1
その2

赤黒ゾンビデッキとの遭遇

「グランプリ静岡参加レポート」
 
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