text by Ishida Ryuichiro
あなたはプロツアー(PT)に参加してみたいと思いますか?
-自分は参加したいです。
かつては、自分もプロツアーに参加していました。
賞金のかかった大規模なイベントで海外の有名プレイヤーと対戦、PTに参加する日本人同士でもコミュニケーション、最近ではPT参加者ならタダでドラフトができたりなんてこともありましたね。
何よりもPTとは、MTGという1つのゲームで熱くなれる「ガチ勝負」の最高峰の舞台の一つであること。純粋な、真剣勝負の場所で戦えるということが一番楽しかったです。
個人としてはPTで満足のいく成績を残すことはできませんでしたが、それでもまた次に行く機会があれば、何よりも優先して絶対に行きたい。次こそ何かを掴んでみたいと思う、憧れの場所。
私にとってPTとはそういう場所です。
何故PTの話をしたかと言えば、現在のPPTQ制度になってから「スタンダード」の重要性が年間を通じ大きくなったように感じているからです。
各店舗予選で使用されるフォーマットの大半はスタンダードです。
そのためPPTQ突破のためにスタンダードに触れる機会がより上がったというように自分は感じています。
MTGの楽しみ方は多様にありますが、自分はMTGで「勝負をして楽しみたい」、勝って喜ぶためにMTGしていたい。
『勝ちたい』という大前提の元に思考や行動を積み重ねていきたい、そう思っています。
そんなガチのMTGを楽しみたかったら、「スタンダード」は注力すべきフォーマットなのです。
今回の連載について岩SHOWさんからお話を頂いた際に、「Bigwebの記事の方針を、「我が道を往く」スタイルに」「スタンダードを中心に「とことん真面目に」考察した記事を書いてもらいたい」とのことでお話をいただきました。
最初に自分のMTGに対するスタンスとスタンダードについて熱く語ってみました。
この記事ではスタンダードについてガチな感じでいきたいと思います。
―――――――――
|
|
――今回のテーマ
執筆時の今は新セット発売前。
現環境の既存のデッキについて語るよりも折角なのでタルキール龍紀伝の目玉レアである〈卓絶のナーセット〉について考えてみようと思います。
癖はあるもののカードパワーが高く、値段の高さからも注目度の高さが伝わるこのカード。
今回はこのナーセットについてデッキ構築も交えつつ考察していきます。
|
|
――〈卓絶のナーセット〉について
まず目に付くのが〈卓絶のナーセット〉の特徴である4マナに対して6という異常に高い初期忠誠値。
+1して7という膨大な忠誠値を1ターンで削れというのは如何せんビートダウンにとって無茶な話です。
ナーセットの返しに《包囲サイ》を出されても全然怖くなさそうだから凄い。
|
|
肝心の能力はと言えば、非クリーチャー呪文に特化した《ドムリ・ラーデ》というのが第一印象でした。
+1能力でアドバンテージを稼ぎ、-2の反復で更に手札を増やしたり盤面に干渉していくことが出来たりと、効果の幅は相当に広いです。
|
|
欠点はと言えば、自身の能力のみでは盤面へ干渉することが一切出来ない事。
必然的に盤面に触れるカードを大量に入れておかないとデッキとしては機能不全に陥り易そうです。
そう考えると《悪夢の織り手、アショク》や《正義の勇者ギデオン》に近い性能なのかもしれません。
|
|
適切なデッキであれば相当厄介なカードではあるものの、状況によっては機能不全で折角の高い忠誠値と反復の能力も活かしきれない場がしばしば起こり得るのではないでしょうか?
それと適正枚数について。
メイン2枚、多くとも3枚が理想的だと直感的には思えます。
盤面に影響を及ぼさないので手札でダブついた時に選択肢が減ってしまい、処理に困る姿が目に浮かびます。
けれど4積みしたパターンも想像してみると悪くないのでは?とも思えます。
相手の〈卓絶のナーセット〉のプラス能力が〈卓絶のナーセット〉をめくった時を想像するだけでも煩わしい。
忠誠値7をライフと換算して見れば、もしやこれは新時代の《スフィンクスの啓示》!!?
|
|
…というのは言い過ぎですがサイドも含めて4枚取るという構成もコントロール対決ならあり得るやもしれません。
このあたりは構成とマッチアップ次第と言ったところでしょうか。
総じて〈卓絶のナーセット〉は強いのですが、デッキの構成をかなり選ぶので闇雲に枚数を入れても強くはないでしょう。用法容量を守って正しく使いたい。
|
2 or 3 or 4…?
|
|
|
――〈卓絶のナーセット〉を使用するデッキについて
続いてどんなデッキで〈卓絶のナーセット〉使うのかを考えていきたいと思います。
当然ですが、非クリーチャー呪文を数多く搭載できるデッキで、かつ盤面に影響できるカードの多いものが好ましいでしょう。
現状のデッキでクリーチャーの少ない青白要素を含む主流なデッキで思い浮かぶのが「ジェスカイ隆盛トークンズ」と「エスパーコントロール」でした。
考察①
「ジェスカイ隆盛トークンズ」
|
Sample Deck |
24land
24土地
8creature
3《道の探求者/Seeker of the Way》
2《魂火の大導師/Soulfire Grand Master》
3《僧院の導師/Monastery Mentor》
28spell
2〈卓絶のナーセット/Narset
Transcendent〉
4《急報/Raise the Alarm》
2《ドラゴンの餌/Dragon
Fodder》
4《稲妻の一撃/Lightning Strike》
4《軍族童の突発/Hordeling Outburst》
4《ジェスカイの隆盛/Jeskai Ascendancy》
4《かき立てる炎/Stoke the Flames》
4《宝船の巡航/Treasure Cruise》 |
|
《ゴブリンの熟練扇動者》や《ジェスカイの魔除け》に新顔の〈オジュタイの命令〉あたりも使いたいところ。
細かい構成については、あくまでサンプルということで目を瞑って頂きたい。
|
|
「ジェスカイ隆盛トークンズ」の爆発力は言わずもがなですが、欠点として《ジェスカイの隆盛》を引けなかった時の線の細さがあります。
しかし〈卓絶のナーセット〉の+能力で手札を補充しつつトークンで防御的な立ち回りをすることができるようになりました。
《ジェスカイの隆盛》と〈卓絶のナーセット〉はどちらも一旦機能し始めると手が付けられないので、これらを如何に機能させるかが肝になってきます。
《宝船の巡航》をはじめとする探査呪文や《かき立てる炎》のような召集呪文などのコスト軽減能力を持つカードは《卓絶のナーセット》の-能力の反復と相性が良いのも特筆したいところ。
|
|
《宝船の巡航》については反復できれば既にオーバーキルですが、《かき立てる炎》は狙い易くかつ効果は絶大です。
2、3ターン目に展開していれば、4ターン目に《卓絶のナーセット》+《かき立てる炎》と動けるので積極的に狙っていきたいです。
今回《ドラゴンの餌》を採用している理由に《かき立てる炎》を召集で唱えられる率を少しでも上げたいという思惑があります。
そうすれば《魂火の大導師》のバイバック能力を使用することができる率も上がるので、赤いクリーチャーの枚数には気を使いたいです。
|
|
また《ゴブリンの熟練扇動者》が無い理由に、《卓絶のナーセット》を活かすために防御的な立ち回りも意識したいという考えから《僧院の導師》にしました。
〈卓絶のナーセット〉が入ったことでサイド後に《対立の終結》を使うような防御的な動きもし易く、構える動きを強化しつつも強い動きが増えるというのは大きなメリットと言えるでしょう。
《ジェスカイの隆盛》といい《卓絶のナーセット》といい盤面に影響を一切加えないのでこの2種を合わせてデッキ内に6枚以下に抑えたいところですが、相性自体は非常によい組合せと言えます。
実際ジェスカイトークンズこそ〈卓絶のナーセット〉を一番有効に使えるのではと期待しています。
考察2
「エスパーコントロール」
|
Sample Deck |
26land
26土地
2creature
1〈龍王オジュタイ/Dragonlord Ojutai〉
1《漂う死、シルムガル/Silumgar, the Drifting
Death》
28spell
2〈卓絶のナーセット/Narset
Transcendent〉
2《精霊龍、ウギン/Ugin, the Spirit Dragon》
4《胆汁病/Bile
Blight》
4〈予期/Anticipate〉
1《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke》
4《解消/Dissolve》
4《英雄の破滅/Hero’s Downfall》
2《完全なる終わり/Utter End》
3《命運の核心/Crux of Fate》
1〈シルムガルの命令/Silumgar's
Command〉
1〈龍王の大権/Dragonlord's
Prerogative〉
4《時を越えた探索/Dig Through Time》
|
|
|
対戦相手が〈卓絶のナーセット〉を対処しようとクリーチャーを展開したところを《命運の核心》で除去するのが理想的なプラン。
高い忠誠値を活かしつつノンクリーチャーデッキの強みを活かすなら《英雄の破滅》や《胆汁病》といった黒の優良除去と組み合わせようというのはごく自然なことだと思います。
|
|
また《命運の核心》を反復することが出来れば相手はクリーチャーを展開することが困難になるので、状況によっては擬似的な《時間のねじれ》としても機能させることができます。
また今回は2マナの軽量ドロー呪文である〈予期〉や軽量除去の《究極の価格》の再録、命令シリーズに新たな龍王達などコントロールデッキにとって強化された要素は大きいです。
選択肢が増えたことで最適解を見つけ出すのが難しくもあるのですが、環境初期ということもあり色々と試してみるのが良さそうです。
折角なのでサンプルデッキと各カードの選択肢と新カードについても考察してみたいと思います。
《胆汁病》《英雄の破滅》《解消》《完全なる終わり》
これらについては元々の根底になっている青黒系のコントロールの必須パーツということで基本4積み。
色拘束がきつくトライランド(「タルキール覇王譚」の3色土地サイクル)を積めない影響もあり、土地基盤についてはシビアになりますが…妥協もしたくないところです。土地構成・マナ基盤についても考察する必要はあるでしょうが、今回は割愛。
|
|
《完全なる終わり》については《ラクシャーサの死与え》や各種PWの対処のために採用しています。デッキに1,2枚あるだけで安心感が違うので、4マナと重いので数は積めないものの必須と感じたので採用しています。
〈龍王オジュタイ〉
アンタップ状態ならば呪禁ということで安心して使える1枚。やや対処されやすくなったものの積極性の増した《予知するスフィンクス》といった印象です。
今回は《漂う死、シルムガル》と〈龍王の大権〉との相性の良さを買っての採用としてみました。
またドラゴンをフィニッシャーとすることで《命運の核心》の使い勝手が上がるのを期待してもいます。
|
|
ここで懸念材料として一応問題提起。
タルキール龍紀伝でドラゴンが増えると《命運の核心》全体除去としてきちんと機能しない可能性が一応あるので、もしかしたら色拘束を無茶してでも《対立の終結》を採用する必要があるやもしれません。杞憂にも思えますが、一応。
〈オジュタイの命令〉と〈シムルガルの命令〉
この2種類の命令についてはコントロール向けのアドバンテージ兼除去カード。
どちらも一対二交換を取れるカードなので非常に重宝することでしょう。
しかし今回はそれぞれ不採用と1刺しという形になっています。
理由としてそれぞれコストの重さもありますが、状況を選ぶことが多く感じられたからです。
〈オジュタイの命令〉は2マナ以下のクリーチャーを採用していない構成においては、3つの中からしかモードが選べません。
すると《本質の散乱》のモードはできれば使いたいところです。コントロール相手では殆どサイクリングのような働きになってしまうのでは物足りなく思えます。
4マナ以降のクリーチャーをカウンターしたいのであれば《軽蔑的な一撃》の方が現状では優っているように思えるので、今回は不採用になっています。
|
|
ただ〈オジュタイの命令〉自体のカードパワーは低くないので、少し構成を弄るだけでもその強さと運用の幅が広がります。もし入れるのであれば構成に噛み合う形で2マナ以下のクリーチャーを2~4枚採用することをオススメします。
無理なく入れられる構成に噛み合ったカードであることが必須ですが、《道の探求者》や《魂火の大導師》、色が合えば《サテュロスの道探し》あたりの選択肢を用意してあげた方がプレイングに幅ができるのでオススメです。
|
|
その点〈シルムガルの命令〉は《否認》と除去の組合せならば相手に関わらず1対2交換を取り易く腐りにくく思えたので、5マナと重いもの考慮し1枚のみ採用してみました。
〈予期〉
今回は軽量ドロースペルを4枚積むことで土地を1枚減らし安定感と全体のカードパワーを上げてしまおうという算段で採用。
マナ基盤の安定性の向上と状況に応じてよりクリティカルな回答を用意するためのカードとしては十分な性能のカードに思えます。
また軽いスペルということで〈卓絶のナーセット〉の反復をしつつカウンターor除去を構える動きを出来るようになったのも助かりますね。
|
|
コントロールデッキについては運命再編で《精霊龍、ウギン》という強力なフィニッシャーを得たことで強化されました。しかし、いかにフィニッシャーが優秀と言えど、対処が遅れるとカード1枚で負けてしまうことも多いのがこの環境。
その点で言えば本当に欲しいパーツはコレ(ナーセット)なのか?と疑問視してもいます。
しかしそれを度外視してでも試したくなるだけのカードパワーを持って有り余る性能と魅力が〈卓絶のナーセット〉にはあると思います。
|
|
――〈卓絶のナーセット〉について、総括
ジェスカイトークンズならば積極的に反復を狙っていきたいカードも多く、戦略性が広がり強化されたと思います。
逆にエスパーコントロールにとっては必須パーツという訳ではないかもしれません。
〈卓絶のナーセット〉を使うのであれば確実にその相方となる反復したい呪文や、盤面へ影響を及ぼしやすい呪文をきちんとデッキに仕込んでおくことが必須で、かつコントロールデッキでも相手のターンで動くより自分のターンで動くタップアウト構成のデッキの方が〈卓絶のナーセット〉の性能をより発揮することができるのではと思います。
・非クリーチャー呪文の枚数が少なくともデッキの4割(24枚)が目安
・盤面に触れるカードを多く含むこと
・自分のターンで唱えたい、反復効果の影響力の高いカードがあること
これらを意識してデッキを組むことで〈卓絶のナーセット〉の能力を最大限に発揮することができるでしょう。
特に3つ目について極論を言えば、デッキタイプとして《時を越えた探索》より《宝船の巡航》を使うタイプデッキの方が〈卓絶のナーセット〉が入り易いデッキだと言えます。どちらも反復できれば強力ですが、構える動きより積極的に自分のターンで動くことを望むので構成としては合致しやすいと思われます。
またタップアウト型を意識するのであれば、《宿命的報復》など全体除去を多めに入れる構成のデッキやタップアウト構成のデッキあたりの方がより強く彼女を運用できるデッキが組めそうです。
この辺りのデッキについては、「タルキール龍紀伝」の全カードリストが発表されてからのお楽しみにしておきましょう。
〈卓絶のナーセット〉の初見時は忠誠値の高さからとんでもないカードが出てきたと驚かされましたが、時間がたち冷静に見ると癖が強く、扱いの難しさも強く感じさせられています。
カードパワーの高いカードが多い現スタンダード環境の中で〈卓絶のナーセット〉輝くデッキは何かと考察させて頂きましたが、現段階ではタップアウト型の非クリーチャーデッキのアクセントが彼女を一番上手く使えるということで、今回は纏めたいと思います。
勿論これは自分の予想にすぎません。この予想が覆され〈卓絶のナーセット〉は新時代の《スフィンクスの啓示》として4積みのキレキレのデッキが活躍することを期待してもいます。
その辺りは4月のPTブリュッセルで各プロプレイヤーのデッキで答え合わせをしていきたいと思います。
―――――――――
|
|
如何でしたでしょうか?
新セット発売直前のスタンダード記事ということで、注目新カードの〈卓絶のナーセット〉の考察を中心に書かせて頂きました。彼女がスタンダード環境でどういった活躍を見せるのか非常に楽しみです。
…正直、冒頭はdds666さんの記事に感化されて熱くなりすぎた気もしますが、また連載記事を書かせて頂くにあたり心躍る心境であることも確かです。
この記事を読んでいる方にガチなスタンダードの楽しみが伝わっていれば何よりです。
冒頭でも書きましたが、「ガチでやるMTG」の最高峰の一つはPTです。
PTに出たいなら、即ちRPTQで上位に入るためには、PPTQで優勝する必要があります。
PTを目指してスタンダードをガチでやってみませんか?
|
|
|