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岩Showの『世界、激シブ発見!』その2 
 

text by Iwa Show

先日、アメリカのプロレスの過去の映像を観ていた。定期的にこうやって、自分が好きだった時代を振り返る習慣がある。

「やっぱり、アライアンス時代はストーリーラインも試合も最高。たまらんなぁ…」なんて噛みしめる、所謂懐古おじさん。その都度思うのが、やっぱりレスラーも技も、シブいのが自分の好みなんだなと。スポットライトを浴びて拳1つ振り上げて会場を1つにする華々しさも素晴らしい。その陰になりがちな、パワーはないけど関節の取り合いに秀でた選手が地味ながら見どころのある試合をする。これも同様に素晴らしいものだ。このまま最後までプロレスの話して良い?

今回のシブさの源泉はスタンダード!『タルキール龍紀伝』は、3色から2色へと再編されたタルキール世界を描いたセットであり、どちらかと言えば『タルキール覇王譚』より派手さは控えめなセットである。しかしながら、シブさで言えば…こちらに軍配が上がるだろう。《包囲サイ》はパワフルな3色カード、使うためのデッキを選ぶが、色マナを供給できるならば裏切ることがない高いカードパワー。見てわかりやすいね。


これに比べると、単色のカード中心となる龍紀伝の面々がインパクトに欠けるのは当然の事。彼らは、いずれも単色なので扱いやすい。まずは扱って、そこから真のカードパワー・魅力を発揮する。そんな面々が揃っているのだろうなと思う。

そんな龍紀伝参入後のスタンダード、日本国内での最初の晴れ舞台は…PPTQ!4/5に、BIG MAGICの2店舗で行われた、プロツアーへ向けた最初のステップ。ガチンコもガチンコなこの空間にて、他と一線を画す「激シブ」が存在したと伝え聞く。スタンダードめちゃめちゃ研究してます!…とは口が裂けても言えず、人のデッキを解説するなんてとてもとても…な僕でもね、「激シブ」というジャンルならバッチリだってぇ!シブいリスト投げてくれ!語らせてくれ!シブいデッキについて、語りたいということだよ!


BIG MAGIC池袋店主催 プロツアーミルウォーキー予備予選 TOP8 優勝
Player:スナカワ ケイジ
Deck Name:ローグ"Ojutai Ascemdarcy"
24land
4《神秘の僧院/Mystic Monastery》
4《凱旋の神殿/Temple of Triumph》
1《天啓の神殿/Temple of Epiphany》
4《シヴの浅瀬/Shivan Reef》
3《溢れかえる岸辺/Flooded Strand》
1《戦場の鍛冶場/Battlefield Forge》
2《島/Island》
2《山/Mountain》
2《平地/Plains》
1《啓蒙の神殿/Temple of Enlightenment》

3creature
3《龍王オジュタイ/Dragonlord Ojutai》

33spell
3《ジェスカイの隆盛/Jeskai Ascendancy》
4《乱撃斬/Wild Slash》
4《稲妻の一撃/Lightning Strike》
4《ジェスカイの魔除け/Jeskai Charm》
4《かき立てる炎/Stoke the Flames》
3《勇敢な姿勢/Valorous Stance》
4《軍族童の突発/Hordeling Outburst》
4《宝船の巡航/Treasure Cruise》
3《予期/Anticipate》


15Sideboard
4《オジュタイの模範/Ojutai Exemplars》
1《荒野の確保/Secure the Wastes》
2《双雷弾/Twin Bolt》

3《否認/Negate》
4《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke》
1《光輝の粛清/Radiant Purge》

(編:筆者が参照した資料と実際のデッキ名とに差異が御座いました。正しくは"Ojutai Ascemdarcy"のみがデッキ名となります。ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。)

デッキ名を見ていただきたい。「ローグ」という冠に、このデッキを持ちこんだ際の気概が見て取れる。
「誰ともこの内容が被るはずがない」そんな鉄の意志がしっかりと伝わってくる。

「ローグ」を名乗るからには、「ローグ」でなくてはならない。被ること、これ即ちローグにとっての死と言っても過言ではない。ローグは常に一人(あるいはチームの人数分)。誰もみつけていないシナジー、コンボ、デッキの形。自分だけが到達した・形にしたという誇りの証明である。何を熱くなっているんだ僕は。


"Ojutai Ascendancy"の名が示す通り、《龍王オジュタイ》と《ジェスカイの隆盛》がデッキの肝である。ベースとなるのは《カマキリの乗り手》や《ゴブリンの熟練扇動者》といった最低限のクロックと、バーン&ドロースペルで構成された「ジェスカイ・ウインズ」のようだ。これに同じジェスカイでもアプローチが異なる「ジェスカイ・トークン」の定番《ジェスカイの隆盛》と《軍族童の突発》をハイブリッド、それらをまとめ上げるのがオジュタイ様というわけだ。


龍紀伝の登場により、軽い単体除去は大幅に強化された。これらが存在する環境で、上述のような打点は期待できても除去耐性を持たないクリーチャーを主軸とした「ジェスカイ・ウインズ」を使用するのは無謀に見える。そこで除去耐性があって打点も高く、しかもアドバンテージまで稼げる《龍王オジュタイ》に白羽の矢が立った、のだろう。

《龍王オジュタイ》も、呪禁によりその身が護られているのはアンタップ状態の時のみ。全知全能というわけではないのだ。かと言って殴る=タップ状態にしなければ、ダメージも与えられないし能力による手札の補充も行えない。この隙を帳消しにするのが、彼が1000年以上前に滅ぼした氏族・ジェスカイ道の繁栄を表すカードと言うのも面白い。なかなかにシブいストーリーではないか。


オジュタイでアタックしてタップ状態となったところに、狙い澄ました除去が飛んで…きた場合、それにスタックでインスタント呪文を唱えることで《ジェスカイの隆盛》が誘発。この能力を解決すれば、オジュタイをアンタップして呪禁を与えることが出来るのだ。さらに打点も強化されるので、隙だらけの相手には手札の火力を本体へオールインして1回のアタックで全てのライフを削り切る…なんてことも可能だ。

《ジェスカイの隆盛》が無駄にならないように、最低限のトークン生成カードとして《軍族童の突発》が4枚搭載されている。オジュタイを見せずにここだけでメインボードを勝利することが出来た場合、対戦相手は「トークンだな」と思いながらそれらへの対策をサイドインしてくることだろう。これをオジュタイ様単騎駆けであざ笑うのは、さぞや爽快に違いない。こういうテクニックもシブいねぇ!


サイドボードにも、龍紀伝で登場したカードを数多く採用しているのも特徴的だ。《双雷弾》《光輝の粛清》など、まさに激シブな働きをしそうなチョイスがたまらない。《オジュタイの模範》は除去呪文を減らしてきた相手に牙を剥くだろうし、流行の赤単系にも《双雷弾》などで捌いてここまで繋ぐことが出来れば勝利と言っても良いだろう。

既知のデッキを装いつつも、最小限の新戦力で新たなアプローチを見せたこのシブさ。スナカワさんには8000激シブpointくらいあげちゃおう!お近くの激シブpoint交換所で景品と換えてくださいね。



2015/04/05 BIG MAGIC名古屋店主催 プロツアーミルウォーキー予備予選
Player:フクナガ ケイスケ
Deck Name:黒赤緑ウィップ”武藤ウィップ”
Deck Designer:世界のBKTKし
23land
4《樹木茂る山麓/Wooded Foothills》
4《血染めのぬかるみ/Bloodstained Mire》
2《奔放の神殿/Temple of Abandon》
4《疾病の神殿/Temple of Malady》
3《ラノワールの荒原/Llanowar Wastes》
2《森/Forest》
2《山/Mountain》
2《沼/Swamp》

27creature
4《エルフの神秘家/Elvish Mystic》
4《森の女人像/Sylvan Caryatid》
4《サテュロスの道探し/Satyr Wayfinder》
4《ゴブリンの熟練扇動者/Goblin Rabblemaster》
2《無慈悲な処刑人/Merciless Executioner》
4《ラクシャーサの墓呼び/Rakshasa Gravecaller》
2《快速ウォーカイト/Swift Warkite》
3《龍王アタルカ/Dragonlord Atarka》


10spell
3《神々との融和/Commune with the Gods》
4《残忍な切断/Murderous Cut》
3《エレボスの鞭/Whip of Erebos》


15Sideboard
4《思考囲い/Thoughtseize》
2《再利用の賢者/Reclamation Sage》
1《無慈悲な処刑人/Merciless Executioner》
1《苦痛の公使/Minister of Pain》
1《究極の価格/Ultimate Price》
2《英雄の破滅/Hero's Downfall》
2《破滅喚起の巨人/Doomwake Giant》
2《世界を目覚めさせる者、ニッサ/Nissa, Worldwaker》

  出ましたよ、《エレボスの鞭》を用いたデッキの、新型が。デッキ名にも、ちゃんとアーキタイプとしてわかりやすい表記と、身内にはわかるノリな表記の両面記載でシブありがたい。黒赤緑、ジャンドカラーの墓地利用デッキ!ながらく3色デッキと言えばタルキールの氏族カラーが主流であったが、エスパーカラー(青白黒)のコントロールが出てきたり、このジャンド・ウィップが出てきたりと勢力図は塗り替わる・あるいは混沌を極めるのかもしれない。


「シディシ・ウィップ」はスゥルタイ(青黒緑)カラーで構成されたウィップ系でも最も戦果をあげていたデッキである。青はあくまで《血の暴君、シディシ》を採用するためのタッチであり、デッキの根幹は緑のマナ・クリーチャーと墓地肥やし呪文&黒の除去や《思考囲い》、《エレボスの鞭》、釣り上げる大物といった2色のカードで構成されている。つまり、緑と黒のパーツだけはそのままに、スゥルタイ・アブザン(緑白黒)・ジャンドと、タッチカラーを変えるだけで3種類のデッキに化けることが出来るのだ。


アブザンだと、《包囲サイ》をただただ連打したり、《テーロスの魂》の能力を墓地から起動するといった必殺技を有していた。むしろウィップを解雇して、《血の暴君、シディシ》をタッチしてマナ・クリーチャーやゾンビトークンを《テーロスの魂》で強化することを主目的とした「シディシ・ソウル」なんてのも登場した。

ちょっと話が脱線しそうになったが、これまで緑と黒のベースに赤が乗せられたデッキが登場しなかった・活躍できなかったのは、赤を足す旨味に欠けていたからである。上述した相性の良いカード、必殺技を有していないのだから、わざわざ赤を絡める理由は皆無だった。「だった」と書くからには、今現在はその事情が覆されたという事。というわけで、長い前フリだった。


龍王、食いしん坊お嬢さんのアタルカ姉貴。彼女はそれ1枚で、赤を足す理由足り得る。かつて「昇竜拳」というリアニメイト・デッキで釣り上げられていた《ボガーダンのヘルカイト》と同様の制圧力!5点ダメージをクリーチャーとプレインズウォーカーに振り分ける、強烈な除去能力を有しながら、7マナ8/8飛行トランプルという驚異的なサイズを併せ持つ!これぞ怪物!龍王!最強!

この《龍王アタルカ》を《エレボスの鞭》で釣り上げると、対戦相手の戦場に被害を与えた上で8点という初期ライフの1/3を上回る大打撃を与え、さらにはあなた自身は13点ものライフをゲイン出来るのだ。例え対戦相手の戦場に《女王スズメバチ》とその配下のトークンが並んでいても、それらをまとめてブチ抜き6点のダメージを与えることが出来る。素出しで散らして女王本体と相討ちしたら、次のターンに鞭で釣り上げてトドメを刺してやろう。仕留めきれなくてもこの間に26点ゲインしているので、まあ負けるということはないだろう。

このアタルカ×ウィップの破壊力は、それこそ龍紀伝発売直前から囁かれてはいた。今回このデッキが見せつけたのは、もう1つの龍の持つ力であり、実はこちらこそが主役かもしれない。


前代未聞のカード名で話題になってはいたが、構築の場でここまで早く結果を残すとは…《快速ウォーカイト》。その能力は、これが戦場に出た時に墓地から3マナ以下のクリーチャーを釣り上げ速攻を与え、ターン終了時にそれを手札に戻す。

なかなか類を見ない能力を持ったクリーチャーだ。リミテッドでは6マナ4/4飛行でテンポを失わずにダメージを与えることが可能で、アドバンテージにも繋がるということでなかなか強力なドラゴン(あくまで個人的な意見)。これが構築だと、6マナ4/4飛行だけではお世辞にも強力とは言えない。となると、その能力で何を釣り上げるのか。これが肝。


このデッキでは釣り上げられるカードが18枚存在するが、それらの中でも釣って「オイシイ」のはこれらのカードだろう。《ゴブリンの熟練扇動者》はフツーに強力なアタッカー。《サテュロスの道探し》を釣るのはいぶし銀、シブい仕事である。《龍王アタルカ》を埋めながら土地を伸ばせられるのはたまらない。 1回目でヒットしなくても、手札に戻して次のターン素出しすれば良いだけの話だ。そして、最も強力であろう1枚は《無慈悲な処刑人》。序盤に自身の能力で対戦相手のクリーチャーを道連れにさせておいて、後半ウォーカイトで再利用。アタッカーにしてもパワー3と最低の基準ではあるし、別にこれ自身を生け贄にしても構わない。あるいはウォーカイトを生け贄に捧げて自身は手札に戻り、次のターンに処刑人→自身を生け贄→《エレボスの鞭》でウォーカイト釣り上げてまた処刑人、なんて動きをすれば対戦相手のクリーチャーをズタズタのボロボロにしてしまえるだろう。これぞ激シブムーブだ。


また、龍紀伝から“濫用”持ちも採用しているのも注目ポイント。《ラクシャーサの墓呼び》は、僕が龍紀伝発売前トップ5予想で最後の最後まで悩んで6位に落としてチョイスしなかった1枚でもある(「イラストが海外版「いっき」やね」とかふざけたことを書くのが仕事ゆえ、仕方がない)。

5マナ3/6、濫用でマナクリやサテュロスを食べさせると2/2のゾンビが2体飛び出す。比較対象となるのは《アンデッドの大臣、シディシ》。あちらの方がサイズやその能力の幅で勝るが、《ラクシャーサの墓呼び》はアドバンテージの取り方がタイムラグなしで即座に盤面に還元するという点で勝っていると言えるだろう。これで地上を固めれば、わざわざサーチしてこなくても《龍王アタルカ》に辿り着き、勝利できるというわけでデッキにはコチラの方がフィットしているようにも思える。サイドボードの《苦痛の行使》も、《アタルカの命令》入りのスライや各種トークンデッキにシブい活躍を見せることだろう。

新セットの持ち味を、派手な神話レアだけでなくシブいアンコモン達もチョイスして引き出したフクナガさんには、M88激シブpoint進呈。これからもウルトラ怪獣で盤面を蹂躙されることを期待しております。


というわけで、今回の「世界、激シブ発見!」はここまで。皆が既に知っているものの中にも、使い方1つで激シブに化けるカードは存在することでしょう。また、世界の激シブを見つけたら、こっそり伝書鳩でも飛ばしてください。サヨナラ!

 
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