2015.9.11 text by Ishida Hiroshi やったね、黒使いのみんな!新しい黒のPWが増えるよ! ちょっとお久しぶりです、石田です。 最近はやはり『戦乱のゼンディカー』の新カードの話題で持ちきりですね! 古きものども、エルドラージたちも魅力的なのですが…やっぱり自分は黒いカードに目が行きます。 その中でも黒の神話レアとして、パックのイラストにもなり『戦乱のゼンディカー』を代表する1枚と言っても良い、あのカード……皆さんも、やはり気になっているのではないでしょうか? 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》!
英語の公式フォーラムで「『戦乱のゼンディカー』ではこの次元で最悪のデーモンのプレインズウォーカー(PW)が出るぜ!」って紹介されていて、イラストもイベントで出ていたし予想はついていましたが、いやー出ましたね! 黒単色のPWとしてはリリアナ、ソリンに続く3人目であるオブ・ニクシリス。昨年発売の『統率者2014』に収録されていた自身に続く、2度目のPWでのカード化となります。 先ず以て、デーモンのPWというのが、最高にクールですね! さて、早速このカードの能力について解説……をする前に、今回はこの「オブ・ニクシリス」というキャラクターについて紹介したいと思います。 マジック:ザ・ギャザリングには詳細な背景世界の設定があります。それを知ることで、よりゲームも楽しめるものになるでしょう。 このオブ・ニクシリス、ここ一年ほど公式でもプッシュされてきたキャラクターで、背景設定についてはかなり詳しく公開されています。
●黒き誓約、オブ・ニクシリス 今では巨体に翼、頭部には角を持ち鱗のような皮膚で覆われた姿…即ち、デーモンになっているオブ・ニクシリスですが、実は彼は元々、人間でした。 そもそもマジックのデーモンとは「黒マナの塊」なのです。生物というよりは、黒いマナの悪しき力の具現化、権化といったところでしょうか。マナの塊である、ということは灯火をもってPWになることができない存在なのです。なのに、後述しますが『ゼンディカー』で登場した時の彼は、元PWのデーモンという設定。何故、ニクシリスはデーモンなのにPWだったのか。これは長年背景設定マニアの間で語られる謎の1つだったのですが、最近その理由が解き明かされました。 このデーモンになる前のオブ・ニクシリスの物語は、公式のUncharted Realmsでも翻訳されて紹介されています。 「最初の世界、最後の難関」 http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0011471/# かいつまんで要約しましょう。 オブ・ニクシリスの生まれた次元(次元名は不明)は、何世紀もの間戦争が続く、血で血を洗う世界でした。この戦争で、以前に300 年栄えた「ケオシア人」の帝国は「第七の大異変」によって滅んだとされています。そして、このケオシア人たちは“デーモン召喚の高度な術”を持っていました。
オブ・ニクシリスは、こんな世界で戦いに明け暮れる将軍の一人でした。恐るべき黒魔術の才覚を誇り、勝利のためにはあらゆる犠牲を厭わない、まさに黒い人間です。 ある時、部下に裏切られたニクシリス卿は窮地に陥ります。彼に残された部下は、最も忠実な二人のみ。この忠臣たちと共に、彼は廃墟に逃げ込みます。 偶然か、それとも運命だったのか。そこはケオシア人の遺産であり、“デーモン召喚の間”でした。 オブ・ニクシリスは、躊躇なくこの忠臣二人を生贄に捧げ、デーモンを召喚しました。この古のデーモンはニクシリスの心を探り回り、その究極の目的を叶えます。 そして……世界は滅びました。災厄でも戦争でもありません。完全に平凡に、ただただあらゆるものの生命が失われ、すべてが死に絶えました。
ただ一人生き残ったニクシリスは世界を彷徨い、自分とまったく同じ姿をした謎の存在と出会います。そして、オブ・ニクシリスは教えられます。世界とは偉大な存在の玩具として作り上げられたものなのだと。ニクシリスはその偉大な存在の目論見通り、「第七の大変異」に続く第八の、最後の異変を起こすという役目を見事に演じただけだったのだと。 あらゆるものを犠牲に、他者から様々なものを奪い続け、勝利に勝利を重ねた己の人生は……誰かに定められた、掌の上の出来事に過ぎなかったのだと……。 己の人生の真実を知ったニクシリスは、すべてが馬鹿らしくなりました。笑い、泣き、喘ぎ……そして深い暗闇が訪れ……彼には、灯が灯りました。 非常に濃い、そして黒い物語です。 そしてPWとなったオブ・ニクシリスは次元を渡り歩く征服者となり、自らの望むものすべてを手に入れていきます。 この彼の胸中たるや……どうだったのでしょうか。 さてこの時期の彼は既に述べたように《黒き誓約、オブ・ニクシリス》としてカード化されています。
統率者2014の新カードで、PWでありながら統率者としても指定できるのが特徴です。 この物語を知った後だと、その二つ名「黒き誓約」が重々しいですね。 能力はなかなか面白く、血を対価にデーモンを呼び出す能力がメインです。 他には敵対者全てから生命力を奪いとる能力に、仲間を犠牲にして更なる力を得る紋章の獲得と、ストーリーやその性格に相応しいラインナップになっています。 そこまで強いカードではありませんが、改めて見るとフレーバー性に富んでいる良いデザインですね。 統率者以外にも、エターナル環境では普通に使うことも出来ます。黒のPWの中ではトークン生成でボードに直接プレッシャーを与えられるのは貴重な能力で、上手くデーモントークンを2体以上出せればアドバンテージやテンポの面でも強力です。
「デーモン・ストンピィ」的なデッキで、《暗黒の儀式》などで素早く戦場に降臨させたり、あるいは「ポックス」系デッキのフィニッシャーとしても使えそうです。
●堕ちたる者、オブ・ニクシリス さて、こうしてPWになった後も、オブ・ニクシリスは征服者として様々な次元を渡り歩いては侵略し、望むものを尽く手に入れ続けます。 究極の力を求める彼にとって、多元宇宙において噂に名高いアーティファクト「鎖のヴェール」はとてつもなく魅力的なものでした。
ですが彼はヴェールの呪いに身体を侵され、人間からデーモンになってしまいます。 この辺り、呪いに苛まされながらもなんとか折り合いをつけている現ヴェールの所有者・リリアナとは違いますね。あ、もちろんこの話は、リリアナがヴェールを手に入れるずっと以前の話です。 さてデーモンになってしまったオブ様ですが、この時点では彼は未だ灯を失ってはいませんでした。 呪いを浄化する術を求め、豊富なマナを有する次元・ゼンディカーへとプレインズウォークします。 ですがゼンディカーの庇護者、ナヒリはデーモンである彼を危険な存在とみなします。
ナヒリとの戦いに破れたオブ・ニクシリスは、額に小型の面晶体を埋め込まれ、これによってプレインズウォーカーとしての力をすべて失ってしまいます。 この時の、灯を失いただのデーモンと化した時の姿が『ゼンディカー』に収録された《堕ちたる者、オブ・ニクシリス》です。
ゼンディカーのギミックである“上陸”を持ったデーモンですね。 力を封じられ、それにより翼も失ってしまったので、デーモンですが飛行はありません。 5マナ3/3というサイズも非常に頼りないですが、上陸のたびに徐々に過去の力を取り戻していくデザインでしょうか?+1/+1カウンターが乗っていき、どんどんサイズアップしていきます。さらには対戦相手のライフを直接狙えるのも強力です。『ゼンディカー』における上陸能力のボーナスとしては、相当強力な部類でしょう。 しかしいかんせん初期値が3/3というのはもろく、高速でゲームが進むゼンディカー環境で働きだすには実質6マナ以上かかるという重さは弱みでした。
構築ではあまり使われたカードではありませんでしたが、一撃必殺コンボとして「ワープワールド」というデッキのフィニッシャーで使われていた事もあります。 後は環境的にタフネス3の生存権を許さない《稲妻》が帰ってきてしまったのと、《悪斬の天使》というデーモン・キラーが跋扈していたのが苦しいですね……。
当時は背景設定に関して殆ど何も情報がなく、マジックにちょくちょく登場する「謎のレジェンドキャラ」の一人だったのですが、現在ではこうして堕ちたるデーモンのストーリーもわかってきました。
●解き放たれし者、オブ・ニクシリス (注意:以下には家庭用ゲーム「マジック2015デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ」のストーリーのネタバレが含まれています。1年以上前に発売されたゲームですが、自身でその結末を見届けたいという方はこの項目をご覧にならない方が良いです。それを踏まえた上でご覧ください。) ▼ クリックでストーリーを展開 こうして、ゼンディカーの地にてPWではなくなってしまったオブ・ニクシリスですが、彼の力への欲求はこの程度では止まりません。 復活を画策する彼は、ナヒリへの復讐を誓いながら、ゼンディカーの次元で何世紀も生き続け、面晶体の研究を続けました。 また同時に、彼は策略をしかけます。 ゼンディカーに訪れたプレインズウォーカーに接触し、案内人を装いながら自らの状態を教え、その情報が全多元宇宙に拡散するように仕向けるのです。 そして、この情報に踊らされた、自信に溢れたプレインズウォーカーが、自らを倒しに来るのを待ちます。 ゼンディカーのデーモンを打倒し面晶体を手に入れようとするものが現れれば――オブ・ニクシリスはあえて偽りの敗北を演出し、面晶体を「奪われる」事によって、その束縛から逃れようとしたのです。 この物語は、「マジック2015デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ」というゲームで描かれています。ジェイスの助言に従い、ニクシリスと同じくヴェールの呪いで暴走する《頂点捕食者、ガラク》を抑制するため、プレイヤーは面晶体を求めてオブ・ニクシリスと対決します。 そしてオブ・ニクシリスは倒され、額の面晶体を奪われます。これによりPWを狩る危険な狩人であるガラクは封印されるのですが……エンディングの後に、力を取り戻したオブ様の復活がムービーで流れます。 そう、すべてはオブ・ニクシリスの思いのまま。プレイヤーもジェイスも、デーモンの掌の上で踊らされていたのです。 あの時、彼自身が何者かの掌の上で踊らされていたように……。 この辺りのストーリーも、UnchartedRealmsで描かれています 「忌むべき者の夢」 http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0010855/# そして面晶体の束縛から解放された姿こそが《解き放たれし者、オブ・ニクシリス》です。
まだPWの灯を取り戻してはいないので、以前と同様に普通のデーモン・クリーチャーとしてカード化されています。 イラストでも、額の面晶体がなくなっているのがわかりますね。また立派な翼が生えていて、いかにもデーモン!という外見になっています。 10点ものダメージを与える能力はかなり派手でロマンがあるのですが、いかんせん重すぎましたね。構築では全く使われませんでした。サーチ手段の多い統率者戦でも、本人の重さのせいで流石に使われていません。戦場に出て来るころには、えてして各種サーチは終了してますからね…。 相手のフェッチ起動にスタックしてインスタントタイミングで出したりできれば面白いのですが……。 ●灯の再覚醒、オブ・ニクシリス そして戦乱の地となりしゼンディカー……力を取り戻したオブ・ニクシリスは、ついにPWとして復活しました。マジックのキャラクターは数えきれないほどいますが、その二つ名の通り、一度失った灯を再覚醒させたのはオブ様だけでしょう! どうやって灯を覚醒させたのか、詳細はまだ不明ですが……見てください。宿願のかなったオブ様の、この嬉しそうな表情ときたら!(笑)
姿は以前の人間には戻らずデーモンのままですが、以前にも増して強力な力を発揮しているようです。 さてこの新カードの能力を見ていきましょう。 5マナというコストは軽くはありませんが、使用に耐えないほどではありません。 初期忠誠値は5と、なかなかの硬さを誇っています。自分勝手なデーモンのくせに、妙に忠誠度が高いのはPWに返り咲いた余裕の表れでしょうか(笑)。 肝心の能力は、どれも実に「黒らしい」ものばかりです。 +1能力はライフ1点と引き換えにドローさせてくれるもの。《ファイレクシアの闘技場》や《地下世界の人脈》のような、黒らしいドロー強化です。
忠誠値を増やしながらアドバンテージが取れるのは、1ドローと地味ながら優秀です。単純なアドバンテージ・エンジンとしても使える部類でしょう。 -3がこのカードの核となる能力で、《殺害》相当の万能クリーチャー除去です。
色やサイズなどの条件なしで、どんなクリーチャーでも倒せるのは言うまでもなく強力です。 自分を殴ってくるクリーチャーを除去することで、実質的に自らを守る事にも繋がります。強いPWの条件の1つ「自己防衛が出来る」に当てはまりますね。 初期忠誠値5なので1回使っても場に残りますし、+1能力を使っていけば2発以上撃つことも可能で、そうなれば大きなアドバンテージが稼げます。カード1枚でクリーチャー2体破壊して1ドロー、と考えれば美味しい。 奥義は‐8で、重そうに見えますが、初期忠誠値が多いので存外早く辿り着けそうです。一見地味ながら、実はかなり致命的な効果の紋章で、ドローは自分と対戦相手どちらが行っても、相手のライフを失わせます。通常ドローだけでも毎ターン4点ずつの打点になり、すみやかにゲームを終わらせられるでしょう。《地獄界の夢》を4枚貼っているような状況ですから…
基本は+1と-3を繰り返し使いながらコントロールしていく事になると思いますが、完全に制圧しきった後は奥義で勝ちに行けるので、PWにありがちな飾り能力で終わらない、いい奥義だと思います。 またこの奥義の存在のおかげで、1枚でも勝てるカードとして、コントロールデッキ相手でも十分な役割が持てますね。むしろあまりクリーチャーを出してこないコントロールデッキ相手にこそ、強く使えるカードと言えるかもしれません。どっしりコントロール相手にはライフを払う対価は痛くないですし、手数が勝負を決めますからね。 …とは言え、やはりスタンダード環境・特に初期の環境はクリーチャーデッキが多いので、基本的には除去能力をアテにした、重めの除去+αなカードとしてデッキに採用されると思います。 過去には似たようなクリーチャー除去能力を持つPWとして《チャンドラ・ナラー》《見えざるもの、ヴラスカ》《龍語りのサルカン》などがいました。何度も使える除去能力は魅力ですが、これらのPWが支配的だったかというと必ずしもそうとは言えません。最近のクリーチャーはあまりにも強くて、これら1枚では抑えきれない事が殆どだったからです。 そして、オブ様にもこれらと同じことは言えると思います。このカードと同じ5マナといえば《風番いのロック》や《囁きの森の精霊》《龍王オジュタイ》など、強力なクリーチャーがひしめくマナ域です。
これら除去耐性に優れた面々を、オブ様だけで捌ききるのは容易な事ではありません。 ただし今の黒には《衰滅》《命運の核心》といった全体除去もあります。これら全体除去で露払いしてから、相手が温存していた二の矢三の矢の生物をオブ様で除去し、そのまま+1能力でアドをとってゲームを支配していく……というのが、やはり魅力的なプランに思えます。 しかし『戦乱のゼンディカー』では普段は土地で触れることが出来ない、“ミシュラランド”も収録されますから、それとの兼ね合いもありますね。《英雄の破滅》がおちてしまうのでインスタントタイミングでの除去手段が少なくなり、そうなるとミシュラランドや速攻クリーチャーに為すすべなくやられてしまう懸念もあります。 能力自体はかなり強力だと思うのですが、やはりどのカードもそうなのですが「環境次第」という事でしょう。そして『戦乱のゼンディカー』が入ったスタンダードは、一体どんな環境になるかはまだ現時点ではわかりません。かつてないほど重いカードばかりが公開されているので、現時点では遅い=復活したオブ様が存分にその力を振るって活躍できそうな環境には見えますが…カードパワー自体は、十分に強力ですからね。 まぁどのみち、黒いデーモンのPWだなんて、これ以上にクールなカードもなかなかありません。除去とアドバンテージ・エンジンを兼ね備えているというユーティリティはかなりのもので、かつてのヴラスカ以上に、コントロールデッキでもミッドレンジでも使える良いカードだと思います。とりあえずは、自分も黒単コントロールを初め色々と試してみると思います。 さて、今回は黒の新しい顔であるオブ・ニクシリスを特集してみましたが、いかがだったでしょうか? なんとこの記事を書いている最中に、公式でもオブ・ニクシリスというキャラクターの特集記事が公開されました。 「オブ・ニクシリスの様々な姿」 http://mtg-jp.com/reading/translated/0015709/# こちらでは、様々なオブ・ニクシリスのカードアートについて解説されています。 ここまで書いたのに内容が被ってしまったらどうしよう!?と思っていましたが、違う方向性で助かりました(笑)という裏話。 今回記事を書いていて気付いたのですが、オブ・ニクシリスはどのカードでも「相手のライフを直接失わせる」能力を持っていますね。
これは黒の特徴の一つであり、何かを奪う征服者である彼の特性をそのまま表した能力かと思います。 こうしたイメージの統一が為されているのは、デザインとして素晴らしいと思います。 新しいオブ様は黒らしい魅力のあるカードですし、デーモンのfoilは集めているのでコレクションとしても是非欲しいですね!『戦乱のゼンディカー』の発売が楽しみです。 それでは次回も……黒に染まりゃいいんだよ! ※編注:記事内の画像の一部は、以下より引用させて頂きました。 『マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト』 http://mtg-jp.com/