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Card of the Day
 
2015年3月14日(土)

「Kill! Destroy!」

「殺すというウィーク」、最後を飾るのはその名も「殺せ!破壊しろ!」。溢れ出る殺意、天晴れ。カード名に「!」が含まれている時点で、お察しの通り銀枠である(黒枠でそれが含まれているカードもあるにはある)。久しぶりに銀枠のカードを紹介するな、《Infernal Spawn of Evil》以来か。まああんまり頻繁に触れるのもちょっと「アレ」なので、このぐらいの付き合い方が良いのだろう。

このカードは純粋な性能では《英雄の破滅》に劣る、単体クリーチャー除去にはよくある程度の性能。ここだけだと銀枠感は全くない。基本セットに収録されていても何の違和感もない。このカードが銀枠たる所以は、墓地に落ちてから。これが墓地にある状況で、対戦相手が「Kill(殺・殺す)」「Destroy(破壊)」と口にする度に誘発し、あなたが「Gotcha(ゴチ!)」と言うことが出来れば、このカードを手札に回収することが可能なのだ。シンプルな除去でも、複数回使いまわせればカードとして非常に強力。

Gotchaは『アンヒンジド』のキーワード能力(もどきだった時代もある)で、特定の条件を対戦相手が満たした場合、「Gotchaaaaa!(もらったぁぁぁぁ!)」と叫ぶことでボーナスを得られるカード群。基本的には、マジックの対戦中によく言うルール用語・俗語に反応するように出来ている。殺す、破壊なんかもちょくちょく口にするよね。「これでそれ殺して」「ガッチャ!」こんな感じで、すかさず畳み掛けるように使うと気分も良いぞ。日本語では「ゴチ」と訳されているが、Gotchaには「とった!」「もらった!」「やった!」などの意味があり、「いただき!」という状況で使われることも多々ある。意味も字面も近い「ゴチ」を当てはめたのは美しい翻訳である。

イラストが謎すぎる1枚。かわいいリスに向けて、雨のように降り注ぐ武器。よ、避けてくれと願わずにはいられない。特に金庫とバスケットボールは悲劇的な殺しの現場になるので、お願いだ!もしかしたら、いつもいつも骨まで溶かしたり粉々に砕いたり首を刎ねるといった残虐行為を、こともなげに行ってきた我々に「お前の背負った業はこういうものなんだぞ」と示しているカードなのかもしれない。ゆ、許してくれぇぇぇぇ栗鼠ちゃぁぁぁぁん!



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2015/3/13 「安楽死」



御幣を恐れずに書くが、何も殺すということはネガティブな側面だけ持っている訳ではない。僕らは、何かの命を奪って生きている。直接的に手を下していなくても、食べるということはそういうことだ。だってお肉も魚も野菜も穀物も美味しいから、我慢なんて出来ないよ。生きるために、殺す。他に殺すということのネガティブ・ポジティブで度々話題に上がるのは、安楽死。死ぬより苦しい状況にある他者を、その苦しみから解放するための死。それは、いけないことなのか。こういう話をすれば尽きることはない。でも、本能からそれを求める人がいることも事実だと、僕は思いたい。一番大切なこととは、何なのだろう。

 重っ。じゃあ楽しくマジックの話を!マジックにおける《安楽死》は、フレイバーを読むにちょっと押しつけがましい。というかだいぶだ。「お前が死を望んでいるから、それに応えてやろう。まあお前はまだその気持ちに自分で気付いてないけどな!」こんなん、無茶苦茶や!悪役やん!…緑と白のセリフなんですよ…『シャドウムーア』になって『ローウィン』の頃より丸くなったエルフさん達ですが、相変わらず容赦がないというか…イイネ。カードとしてはカード名が示す通りの直接除去。クリーチャー1体を対象とし、そのコントローラーに生け贄を強要・その代わりに、そのクリーチャーのパワー分のエルフ・トークンをあげるよという、クリーチャーと他の何かを交換する除去を多数持つ、実に白らしい1枚と言える。緑っぽさはあまりないが、まあ出てくるトークンは緑のカードとシナジーを形成するエルフなので、そこは1つ。

 勿論、自分のクリーチャーに使用することも出来る。どうせ除去されるなら1/1の群れに分裂させようぜという使い方が出来るのは良いことだ。あるいは、当時のルールなら戦闘ダメージをスタックに乗せてから使用することも出来たので、複数ブロックされたアタッカーを分裂させてオイシイ思いをしたり実質的な警戒持ちとして運用したり。その種となるクリーチャーが頑強なんて持っていようものなら、溢れ出る旨味成分で贅沢病になっちまわぁ。というわけで、たまに除去として使えるトークン生成呪文と思った方が正しいと言えるだろう。

 日本語版のテキストは、「クリーチャーを生け贄に捧げる」ことと「トークンを出す」ということが文章として繋がっていないため、トークンがこの呪文を使用したプレイヤーのコントロール下に出てくると勘違いされることがあったようだ。というか、あった。プレリでこれを撃たれて、《野リンゴの軍勢》を除去されながらトークンを5体出された経験が僕にはあります。明らかに英語版の挙動と異なるので、ジャッジ(お店のスタッフさん)を呼んで説明。「これであってますよ」…あってるわけあるかぁ!打ち得呪文許すまじ。

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2015/3/12 「停止スイッチ」



「殺す」ということにまつわるカードを紹介する一週間なのに、関係のない1枚が急に出てきたって?安心してくれ、この《停止スイッチ》の英名は「Kill Switch」。直訳すれば殺人スイッチなわけだ。実際にはこのカード名と同じく、停止スイッチの意味で用いられる。燃料や電力などがエンジンに入っていくのを遮断して、緊急停止させる。エンジンという心臓を止めてしまう、機械にとっての殺人スイッチっちゅうわけだね。洒落た言葉じゃないか。

 《停止スイッチ》のカード自体も、勿論「機械殺し」なものに仕上がっている。スイッチを起動すると、他の全てのアーティファクトをタップ状態にしてしまう。電力(マナ?)の供給を断たれたアーティファクト達は、スイッチが解除されるまではタップしっぱなしで、アンタップされることはない。所謂、ロック状態に持ち込むことが可能。これが戦場に出てしまえば、もうアーティファクト・クリーチャーからの攻撃を受けるということはほぼないだろう。毎ターン2マナを注ぎ続けなければならないが、それで身の安全を確保できるのならば安いものだ。

 そもそもこのカードが『ネメシス』に収録されたのは、おそらくはウルザ・ブロックで増長してしまったアーティファクト系のデッキに対する牽制だろう。《厳かなモノリス》《スランの発電機》というマナブースト、《マスティコア》《ファイレクシアの処理装置》などの強烈なフィニッシャー、《通電式キー》《ミシュラのらせん》などといった強烈なサポート・妨害手段…いずれも同ブロックで生まれ、無色であることを売りにあらゆるデッキで幅を利かせていた。こりゃ、ダメだろ。何か致命的なものを投下しなくちゃ。たぶん、こんな感じで登場したんじゃないかな。あるいは、ここにこれを持ってくることありきで強烈なアーティファクトを作ったのか…卵かニワトリか。

 《マイコシンスの格子》と組み合わせると、完全ロックが成立する…かに見えるが、これは実はかなり難しい。何故ならば、アーティファクトになった自身のパーマネントが自身の《停止スイッチ》の影響を受けた場合、あなたのアンタップ・ステップに起き上がるパーマネントは、この《停止スイッチ》とその能力起動後に戦場に出たパーマネントのみである。これがアンタップ状態でアンタップ・ステップを迎えて、やっとアーティファクト達は機能し始める。同時に起きる、ということはないので、この組み合わせは1ターン相手を縛って、次ターンは無防備な状態を晒すという無意味極まるものである。これが統率者戦なんかだと、わざわざ皆の反感買ってからタコ殴りにされにいくっていうね…パーマネントをタップしたりせずに2マナ生み出す方法を編み出したのならば、完全ロックも目の前。

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2015/3/11 「快楽殺人の暗殺者」



またラクドスか。またです。申し訳ない。「殺すというウィーク」、他者を殺めることに特化したカードを紹介すること、それ即ち、ラクドス教団への道なのである。

このギルドはギルド創設者であるラクドスが男一代で築き上げたものであるが、結局のところこの暴君に惹かれた者達がラヴニカにはそもそも存在していたということだ。殺戮の化身であるラクドスの自由気ままに生きる様を観て、自身の内に眠る殺すという本能を開花させる者は後を絶たない。

何故そう言えるかって?殺すためなら自身も死んでも良い、そんな刹那的な生き方をする連中がいるこの教団に属するものが、どれだけ自爆や逮捕をされてもいなくなるということがない事実。これが雄大に物語っているよ。都会の生活で蓄積されたドス黒く重たいものを吐き出す術を見つけた者が、今日もまた一人…。

 そんな堕ちたるラヴニカの住人の一人かもしれない、《快楽殺人の暗殺者》を紹介しよう。2マナ1/2接死。《チフス鼠》の性能が当たり前となった現代では、比較してタフネスが1大きいだけというのは物足りなく見えるかもしれないが、リミテッドでは十分に戦力。昔はこれよりも遥かに重い連中がパワー2とかで接死にあたる、接触戦闘後に破壊するという誘発型能力を持っていたもので…それに比べりゃ随分使える方だ。

 1/2接死だと基本は壁役だ。殴りに行っても「1点なら」とプレイヤーのボディで受けられることがほとんどであるため、アタッカーには向かない。今は攻めたいのに…そんな状況でこのカードを引いたのならば、オプションを行使してやれば良い。

“解鎖”は、それを持つクリーチャーが戦場に出るに際し+1/+1カウンターを置いても良いよ、ただしこの能力を持つクリーチャーに同カウンターが置いてある場合、それらはブロックに参加できないよ、という能力。防御をかなぐり捨ててアタッカー一本として生きるならば、ラクドス様の加護が得られるぞと。

実際、どういう理屈でサイズが上がってるんだろうな。鎖から解き放たれる…精神的に、あるいは肉体的に?古代マヤの戦士のように興奮剤のようなものを用いているとしたら面白いな。

ともかく、2マナ2/3ならアタッカーとしては悪くない。2ターン目に飛び出て、以降は相手が何を展開してこようが殴り続けられる。リミテッドのみならず、構築シーンでも人間シナジーを持ったデッキや、黒い中速デッキなどでいぶし銀の活躍をしていたものだ。

 リミテッドでは、これを”解鎖”して出したところに《刺し傷》を貼られて、文字通り「為す術」がなくなって負けるということもちょくちょくあった。『ラヴニカへの回帰』×3ドラフト、久々にやりたいなぁ。

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2015/3/10 「殺戮の波」



やっぱり「殺す」色と言えば黒なんですよ。最近は他の色にもややゴア描写も含んだ殺しの呪文が増えてきたように思うが、やっぱり本家本元は黒なんですわ。
肉体を腐敗させるのもしかり、魂を粉砕するのもしかり。命を奪うのは、黒の特権。黒の殺しが一番綺麗なんですよ、矢を撃ったり獣にド突かせたりっていうのはスマートじゃあない。その点、リリアナ姉さんはよく解ってらっしゃる。リリアナ姉さんの殺しのテクニックの中でも、最上級はこの《殺戮の波》じゃないですかね。

お腹いっぱいの冒涜成分で構成されているイラストがたまらない。天使が骨まで腐敗し分解されている…神聖な存在だと思っていた彼女達も、肉を消し去れば残るのは羽の生えただけの人骨。わかっちゃいるけど認めていなかったアヴァシン教徒もいたことだろう。彼らに現実を見せつける。あぁ、黒い。たまらない。

カードとしては、所謂「相手に選択肢がある」シリーズになる。基本的に弱い・使えないカードが大多数を占めるこのシリーズの例に漏れ…て、このカードはなかなかに強力。

X点のライフを失うのか、クリーチャーを破棄するのか、1体ずつにその2択を迫ることが出来る。これ、コントロールで使う分にはライフを払われてそれでオシマイ、だけども、ビートダウンで使う分には効果的。ブロッカーどけばその分アタックが通るし、護るために残してもライフは失っている。効果的に用いるならば、自身のクリーチャーも「死んでOK」とテキストに書かれているものを使うのがベストだろう。

特に《ゲラルフの伝書士》《墓所這い》といったカードを備えるゾンビ系デッキとの相性はピカイチ。ここに《血の芸術家》が絡むと…もはや、何点のライフを失わせることが出来るのかはわからない。純粋な除去というよりは、フィニッシャーと言った方が良いのかもしれない。

フレイバーで「天使なんて大嫌い」とカワイイ台詞を披露するリリアナ姉さん。大嫌いな天使の中でも、この呪文の天敵である《鷺群れのシガルダ》には中指の一本や二本ではすまない怒りと憎しみ、殺意を抱いているのだろう。

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2015/3/9 「殺人服の信者」



『「殺す」という本能』。某映画のキャッチコピーなのだが、一目見て染みついてしまった。使い勝手が良すぎるんだな。「食べる」という本能、とか。色々派生は生みやすいが、やっぱり一番しっくりくるのは「殺す」という本能。

普通に都会で生活していては使用する場面などないが、大自然の中で獲物を狩る生活をしている人々はこの本能がしっかり備わっているんだろうな。

あぁ、我々都会っ子も殺意を剥き出しにすることがあるじゃないか。マジックだ。デッキなんかを知人に診てもらうと「殺意が足りてない」とか言われたことってないだろうか。

前のめりな、自身の防御を省みず対戦相手のライフを削ることのみに主眼を置くスタイルを、「殺意」と表現することがマジックの世界ではある。そして、文字通り殺意・殺すという本能を具現化したカードも存在する。今週はそんなカードを…「殺すというウィーク」。決して再生可能で更生不可能な男のバイオレントなコミックを読んで火がついたわけじゃあないぞ!

《殺人服の信者》。カード名が「意味不明なんだけど、わかる」の典型例。「殺人服」というものを検索エンジンで調べても、このカードくらいしかヒットしない。つまりはラヴニカの、ラクドスのオリジナル・アイテムと考えて良いだろう。

イラストを視ればわかるが、服というよりは暗殺用武器に布がひっついてるだけだ。合理的極まるが、これを着ながら飯を食ったり背中を掻くのは至難の業だろう。ラクドス教団の信者であるゴブリンが、オシゴトの際に身にまとい、突貫して行くのだろう。

カードとしては1マナ1/1強制アタックと、かの「バニラ(モンス)以下」こと《狂ったゴブリン》を髣髴とさせるが、勿論能力が別でついているので安心していただきたい。その能力は、接死付与、とでも言おうか。

黒マナを払い信者を生け贄とすることで、対象のクリーチャーが次にダメージを受ける際、それが1点だろうが13点だろうが、そのダメージが与えられる代わりに破壊されるという変更を行う。どんな小さなダメージでも、エルドラージ級のバケモンを仕留めるに足るものとなる。小さな傷口を、捨て身の殺人服攻撃で致命傷にまで発展させるのだろう。

かつてのルールでは、自身の戦闘ダメージをスタックに乗せてから能力を起動することで、ブロッカーを道連れに出来た。つまりはほぼ止められることないカードだったんだが…「基本セット2010」以降は超絶パワーダウン。無念だろうが、おそらく彼(彼女)自身はそんなことも微塵も気にせずに目標に一直線なのだろうな。

日本語版のフレイバーテキスト、「イチコロの身なり」というのを、「身形」ではなく「身、也」だとしばらく思っていた。英語版を見て、そらそうだよなと。かってにオシャレなセリフだと思っていてなんだか恥ずかしかった記憶があったことをここに白状しよう。


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2015/3/7 「鳳雛 龐統」



勘の良い人なら気付いていたかもしれない。ひな祭りに因んで、雛に関するカードを紹介してきた「雛ウィーク」。シメを飾るのは雛の中の雛、龐士元。三国志のお時間です。

そもそも何が雛なのか、おっちゃんやん!というところからお答えしよう。かの有名な天才軍師・諸葛孔明。彼は俗世から離れ、戦乱の世に関わることなく静かに暮らしていた。偉大な才を持ちながら、知られることなく野に潜んでいたその姿を、人物鑑定に定評のある水鏡先生こと司馬徽が、池に伏して眠る竜に準えて「伏竜」と呼んだことが前提としてある。そして、彼に並ぶ才を持ちながら、身なりが冴えないことからその能力を評価されていないある男を、同じく「鳳雛」鳳凰の雛鳥であると評価したのである。その男こそ、龐統だ。

一度は仕事を滞らせて劉備にクビにされるも、彼は大役を与えてこその人物という意見を聞き入れて再度登用。諸葛亮の勧めもあって、彼と同じ立場である軍師の地位につくと、いよいよその才能を発揮。劉備念願の自らの国、蜀を得るための策を進言し、劉備は国を得たが、その道中にて流れ矢に当たり、36歳の若さでこの世を去った。活躍期間が短いものの、各種媒体では一筋縄ではいかない濃いキャラクターにされているのでファンも多い。

そんな龐統が『ポータル三国志』でカード化された際に与えられた役割は、魏の軍師・曹操の参謀を務めた荀彧と対になった、自軍のクリーチャーサポートである。荀彧はクリーチャーのパワーを上げるが、龐統はその逆でタフネスのみを上昇させる。+0/+2修正、火力や戦闘から自身のクリーチャーを護るには程よい上昇で、シンプルなカードのみのポータル環境では要塞のように機能する…と見せかけて。実は、この能力はあなたのターンの、戦闘前にしか使用することが出来ない。…もう1回、言ってくれないか?はい、あなたの戦闘前に、任意のクリーチャーのタフネスを2点上昇させることが出来ます。うーん。いつでも使えたら、それこそ劉備の国取りをサポートした時の超有能軍師なんだけど…相手のターンは基本動けない、ポータル世界故致し方なしというところか。これ、インスタントタイミング起動だったらその能力で流れ矢から身を護れよって言われちゃうしね。

日本語版では、ターン終了時のテキストが抜けている。そのため、毎ターン使ってタフネスを膨れ上がらせた《猛将 張飛》で攻守一体戦法を使ってくる友人がいたのを覚えている。



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2015/3/6 「暗黒の雛」



 「Hatch」という言葉は、マジックのカード名でもちょくちょく登場し、「Hatcher」「Hatchling」の2つの形で用いられることが多い。今週紹介している「雛」は「Hatchling」の訳。この言葉自体は、生物の幼体・幼生を指す。ドレイクやドラゴンの幼体と呼ぶよりは、雛の方が響きも良いしファンタジーの雰囲気を損なわないので、そうテンプレ訳されているのだろう。

ならば本日の1枚、《暗黒の雛》はいかがだろう。「暗黒」という概念の「雛」。詩的で実に良いではないか。「Hatch」には「(卵から)孵化する・かえす」という意味の他に、「(計画を)たくらむ・もくろむ」という意味もある。暗黒の中で練られし陰謀が生まれ…あぁ、楽しくなってきた。

 《暗黒の雛》は非常にわかりやすい。何が?どういったカードが強いか、それを示すのにこれほどわかりやすい例もない。誰でも…最近はそうでもないか。最初にマジックに触れた時、クリーチャーを直接除去できる、黒という色の利便性に驚かされるものだ(最近は5色揃って割と出来ちゃう)。ちょっと時代を古くすれば、《闇への追放》がその代表だ。3マナで黒でないクリーチャー1体を破壊・再生不可。《恐怖》と違ってアーティファクト・クリーチャーも葬れる&3マナという絶妙なマナコストで強すぎない、この利点から、古き時代の大型エキスパンションには度々再録されていた。この基本中の基本である除去を内蔵した、3/3飛行クリーチャーが6マナである。単純に計算すれば、4BB-2B=2B、即ち3マナで3/3飛行を召喚していることになる。黒はどちらかというと、飛行は苦手ではないが得意という訳でもなく、マナはかかるが大型の吸血鬼やデーモンがいる、という色だった(度々言うが、最近はアンコモン以上では得意分野)。そう考えれば、この抱き合わせ商品はお買い得感抜群。

 マナコストの点もそうだが、除去とフライヤーという役割を1枚のカードがこなしてくれる=カードアドバンテージの概念を説明する上でもとてもわかりやすい。相手のクリーチャーを破壊しつつ、他のクリーチャーを相討ちになるor除去を撃たれる。これだけで1:2交換を達成している。「1枚で相手のカードを複数使わせると、リソースの差が出来るんだよ」ということを体現している。どうしても最初は、同じ6マナなら6/6トランプルみたいなカードの方が気になるのだが、マジックは右下の数字以上にテキスト欄が重要だったりするんだよと教えてくれる、先生的ポジションだ。

 そして、ここまで褒めておいて、構築では《ネクラタル》の足元にも及ばなかった、というのもカードの強さを教えるのに丁度良いんだなこれが。同じ役割なら、サイズで劣っても軽い方が強い、そういうことをヒヨッコだった僕らに教えてくれた忘れられない存在なのである。


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2015/3/5 「ヘルカイトの雛」



 どんな巨大生物にだって、赤子の時期がある。その時点で既にめちゃくちゃデカい、ゾウやクジラのような連中も居るが、彼らだって見るからに赤ちゃんであることがわかる。頭部が大きく、ずんぐりして丸っこい体型…カワイイという気持ちを呼び起こすシルエットをしているものだ。

 それはドラゴン__ヘルカイトにおいてもかわらない。大木のような四肢、空を覆い尽くす翼、闘争の具現化とも言える頭部、そのいずれもを、生まれつき持っている訳ではない。最大最強の捕食者も生まれてからしばらくは巣で過ごすようだ。

《ヘルカイトの雛》というカードの存在がそれを立証している。そこに描かれているのは、身体との境目がわからないほどに大きな頭部を持った、ヒキガエルのようなシルエットを持つ雛が、崖の切っ先に設けられた巣で親を待つ姿だ。

 マルチカラーの4マナ2/2と、雛の名に相応しい心許ないサイズではあるが、雛だからこその能力を有している。「貪食」というジャンドに割り振られた能力は、これを持つクリーチャーが戦場に出る際に、自身の他のクリーチャーをその餌として差し出し、生け贄に捧げられたクリーチャー1体につき設定された数字の分だけ+1/+1カウンターを置くというもの。

食えば食うほど強くなる、弱肉強食以外の理を持たないジャンドらしい能力である。この雛は、雛らしく設定された数字は最小の1ではあるが、餌を喰らうことでヘルカイトとしての血を目覚めさせる。

イラストでも描かれている、小さな頼りない翼が、宙を舞うのに十分なサイズへと成長して飛行を得、ますます増した食欲がトランプルを授ける。4マナ3/3飛行トランプルならなかなか。4/4、5/5、6/6とサイズが上がればそれだけ強力なのは言うまでもない。

 ジャンドには、喰われることを前提としたクリーチャーが数多く生息している。《芽吹くトリナクス》をはじめとするそれらのクリーチャーを餌とすることで、アドバンテージを失うことなく航空戦力が得られる。

構築では単体であまりにもパワーが低すぎるため採用しづらいが、リミテッドならばなかなかにパワフル。全力で餌を食わせて、除去がなければ勝ち、みたいなお願いムーブも案外決まったりする。賭けに出るときは出なきゃね。


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2015/3/4 「巣立つミサゴ」



名前に雛はつかないが、雛鳥を表したカード。それが《巣立つミサゴ》だ。イラストは見るからに雛、頭とお尻が大きくて翼が小さい。こんなんで巣立って本当に大丈夫?と思うが…。

カードとしては、1マナ1/1。まあ青がクリーチャー激弱時代のコモンのクリーチャーだから、ここにプラス能力があるというのも贅沢な話になってしまう。《砂州のマーフォーク》しかり《脱走魔術師》しかり。あぁ、テキストをよく読むと微妙なプラス能力が!オーラがつくと飛行を得る。なるほど、小さいには小さいがメリットはメリット。さよなら、《脱走魔術師》…。しかしわざわざ1マナ1/1にオーラを貼って飛行を持たせて嬉しいな、っていう状況、そうそうないように思うな…もっと他の能力を持っているクリーチャーに、飛行がつくオーラ貼っつける方が現実的…いやだからクリーチャーが弱い時代だったね。ゴメン。

何故、こういったカードがデザインされたのかと言うと、それは『ウルザズ・サーガ』『ウルザズ・レガシー』そしてミサゴが収録されている『ウルザズ・ディスティニー』がエンチャント推しブロックだったためだ。…いや、嘘じゃないよ。エンチャントなんかほとんど使わずアーティファクトばかり使ってたって?僕もです。まあ、一部のアーティファクトが突出していたせいもあってそれらの印象を受けるが、今あらためてカードプールを眺めるとエンチャント関連の方が量は遥かに多いのがわかる。そんなセット・ブロック全体がエンチャントを推していた一環として、このカードも小さな小さなオーラ万歳の声をあげているのだ。まあ《怨恨》のようなエターナル・エンチャントならミサゴが除去されても損はしないので、そこまで駄目なカードでもない。《空飛ぶ男》に笑われても、泣かない度量が肝要だ。

ところでミサゴって?はいはい動物大好きおじさんの時間ですよ。ミサゴとはユーラシアから北米、オーストラリアと広い大陸に生息するタカ目の猛禽。北米の個体はアフリカや南米に渡るため、ほぼ世界中で見ることが出来る鳥なのだ。勿論、日本にも生息している。青いカードであり、イラストは海辺にあることからもわかる通り、主に海岸に生息している。魚類を主に食する、名ハンターであり魚鷹とも呼ばれている。このミサゴが仕留めてから確保し、発酵したものを人がとって食べたところ旨味が増している、というのが寿司の起源であるとされ、ミサゴ鮨と呼ばれている。屋号が「みさご寿司」である寿司屋も少なくはないが、ミサゴに獲物を温存する習性などはないとも言われ、眉唾ものの伝承だったりする。


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2015/3/3 「明敏な雛」



 マジックあるある。意味ありげに見えて、何の説明もなく謎のまま終わるもの~。最近ではだいぶそういうのはなくなってきて、そのカードがそれぞれの次元でどういった役割の存在なのか、イラストやフレイバーからくみ取ることが容易くなったが。ちょっと前までは謎でしかないものが1セットに1サイクルほど存在したものだ。今回ピックアップした《明敏な雛》も、そんな謎カードの1つだ。僕が不勉強だったらごめんなさい。

 『イーブンタイド』に収録された対抗色ハイブリッドの5つのアンコモン・エレメンタル、それらはいずれも名前に「雛」を含み、共通の能力を持っている。イラストからわかるのは、それが今しがた卵から生まれた存在であることぐらいしかわからず、いずれも能力を複数有するためにフレイバーも書かれていない。いかに生まれてきたのか?謎多きエレメンタル達。

いずれも、4マナ6/6にして-1/-1カウンターが4個乗った状態で戦場に出るため実質2/2。そして、自身の持つ2色に該当する呪文を唱えると-1/-1カウンターを1つ取り除くという能力を持っている。2色とも有するマルチやハイブリッドの呪文なら、2個取り除けるので一気にサイズをアップすることが出来る。ただ、+1/+1カウンターが乗って成長して行く方式ではないので、MAXサイズは6/6に抑えられている。まあ抑えられているといっても、割と簡単に大きくなってくれるので文句は言えまへん。

 《明敏な雛》は青と赤のハイブリッド。その能力は上記の物に加えて、対象のクリーチャー1体をこの雛のブロッカーとして運用出来なくさせる一種の回避能力だ。構築だともっと簡単に高い打点で攻められる回避持ちがいるが、リミテッドではこの能力でも十二分に戦力だ。相手のクリーチャーが少なければその攻撃は止まることなく、これ1枚で勝ててしまうゲームもざらにあった。

 能力の起動にはマナを要する。これが、展開してサイズを上げつつブロックされずに殴る…というプランの脚を引っ張るように出来ている。アンコモンにあれもこれもくれるほどマジックの神様は甘くなく、そしてだからこそリミテッドは面白い。ア・神話レアにはあれもこれもくれているが、まあそれは…ね。


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2015/3/2 「トゲ尾の雛」



 ひな祭り。女の子のすこやかな成長を願う、節句の行事。漢字で書くと雛祭り。まんま、雛鳥の雛と同じ文字を使う。これは、雛が直接関係している訳ではなく、雛(ひよこ) のように小さく、愛らしい人形=雛人形を用いるからそう呼ばれるそうだ(かなり端折った)。雛といえば、マジックでもそれに関するカードはそこそこあるよ!ということで今週は「雛ウィーク」。生まれて間もない、愛らしい(?)クリーチャー達を紹介しよう。

 先頭を飾るのは、おそらく最も使用された雛カードである《トゲ尾の雛》。使ったなぁという方、使われたなぁという方。おそらく皆さん近い世代かと。弱い弱いと言われ続ける『プロフェシー』の中でも、かなり使われた1枚である。それがコモンというのがこのセットの背負った哀しみ…かどうかはさておき、同環境の他のカードと比べても見劣りしない、優秀なクリーチャーであった。

 2マナ1/1飛行と雛らしい小さなボディに、秘めたるは《魔力の乱れ》。1マナ支払わないと打ち消すぞ、という牽制を常時ちらつかせるのは、見た目よりもずっと強力な能力である。たかが1マナ…とあなどることなかれ。ただの牽制ではなく、そこにダメージも付随しているのがこのカードの強みである。チクチクと、微量だが確実に削ってくる。2ターン目に出して、以後セットランド・アタック・ゴーと動かれると厄介なことこの上ない。1マナをケアして1ターン行動なしのターンを挟んで、次のターンに唱えた呪文を手から《対抗呪文》唱えられて打ち消されたりすると、「フンガーーーーー!」となることこの上ない。

 そこに《水位の上昇》なんかが絡むと…「雁字搦め」とはこのような状況で用いる言葉なのだろう。「ライジング・ウォーター」「アグロ・ウォーター」といったマナを封じることを主戦略とした青単デッキで、トゲ尾はその存在感を遺憾なく発揮した。本当、これで20点削り切った時の達成感ったらないものだ。マスクス・インベ時代はマジックのスタンダードの歴史でもかなり愛されているものの1つじゃないかな。

 日本語では「トゲ尾」と訳されているが、尻尾にトゲがついているかいないかはあまり関係ないように思う。このカードの英名「Spiketail」はトゲそのものよりも《魔力の乱れ》の英名「Force Spike」にかけている意味で用いられていると思う。トカゲが尻尾を切って逃げるように、ドレイクも最後の抵抗として魔力を散らす力を持った尻尾を飛ばしてくるというわけだ。


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2015/2/28 「冬眠の終わり」



 一週間に渡りお届けした「冬眠ウィーク」は今回にて終了、というわけでストレートなカード名のこちらを紹介してシメにしよう。ただ単に《冬眠》と《冬眠の終わり》を見てパッと思いついただけなんだが、なんとか書ききることが出来た…一安心。

 緑の重いエンチャントで、なんかテキストが長い。この時点でもうちょっと怪しい存在に思えてならないが…まあまあ、我慢して読んでいこう。「累加アップキープ①」あぁ、逃げないで逃げないで。これはそこまで、そーこーまーで、ややこしい1枚ではないから。累加アップキープを支払う度に、支払ったマナと同等のコストのクリーチャーをライブラリーからサーチして直接戦場に出す。最初のアップキープには1マナのクリーチャーしか持ってこれないので効果は薄く感じるが、これが2、3、4と進んでいくと…あれ、強いね。支払ったマナの分だけの仕事はキッチリするため、維持している間に展開の足を引っ張ってしまう一般的な累加アップキープ持ちに比べると、随分と使いやすい1枚に仕上がっている。これが4マナだったりするとたしかに軽く思えるので、一見重い5マナと言うのも妥当なコストと言って良いだろう。

 息切れ防止や全体除去に対するリカバリー手段として、マナクリーチャーを採用した中速デッキに採用するのがベストだろう。最初に持ってくるのが1マナと言っても、今なら《貴族の教主》がいるので馬鹿には出来ない。これから生み出されるマナを、更に累加アップキープの支払いに充てていけば良い。段々と本当に強そうに思えてきたが、事実本当に良い仕事をする1枚で、各種CiP持ち(戦場に出た時に能力が誘発するクリーチャー)が多数とられているデッキに投入されていぶし銀の活躍を見せたりしたものだ。

 同じ『コールドスナップ』に収録された《炎の編み込み》と並ぶと楽々運用出来る。ここに《逆説のもや》が絡むと、所謂バイバイン現象。一度でいいからこんなデッキでトーナメントシーンで活躍してみたい、そう思っているうちに…春が来たみたいだ。さあ、穴蔵から飛び出そう。


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2015/2/27 「仔熊」



 やっぱり冬眠といったら熊でしょう。もうボチボチ、森の熊さん達は目覚めてペッコペコのお腹を山菜で慣らしていって、活動開始した他の動物を食べ…字面では、春の陽気と楽しげな雰囲気が伝わってくるが、現実はハード・サバイバルに他ならない。そもそも、熊みたいな巨体で、しっかりとした脳を持った生物が数か月間絶食して眠り続けること自体、かなり無茶をやっていることなのだ。

 それに加えて熊の雌は、冬眠中に更にワンステップ、無茶をしでかす。出産だ。熊の仲間は、着床遅延という生態を持っている。交尾からかなり間をおいて、受精卵が着床して妊娠するという独自の繁殖の仕組みであり、初夏から秋にかけての繁殖期を終えてから秋は脂肪を蓄えるのに費やし、冬になると巣穴で浅い眠りにつきながら妊娠・出産を行うのだ。ただでさえ冬を越すエネルギーが必要なのに、出産して産まれた子どもに春まで乳を与え続けなければならず、一体どれだけのエネルギーを蓄えればそんなことが出来るのやら…と驚かされる。

 そんな母熊によって産み落とされ、春の到来と共に姿を現す小熊がマジックのカードとなっている。その名も《仔熊》だ。かわいい。その一言で残りを埋め尽くしても良い、それぐらいかわいい。グロテスク・筋肉担当絵師、Roc Spencer氏が、普段とは大きく異なる愛くるしい方向に全力を傾けた、珠玉の1枚である。それこそ《骨砕き》が「剛」だとすれば、このカードは「柔」と言って良く、剛柔備えつつその筆には氏ならでは表現・世界観が見てとれる。流石、としか言いようがない。

カードとしては2マナ2/2バニラ、それ以上でも以下でもないが、既に一般的な《灰色熊》と同等の戦闘能力を誇る当たり、かなり大型で凶暴極まる熊の仔なのかもしれない。同セットの《カミソリ爪の熊》なんかが候補か。この愛らしさにして爪だけは猛獣のそれであるし。背景に顔だけ見える母熊も、穏やかな表情をしているけども外敵を察知すると人(熊)が変わるんだろうな。実際にフレイバーでも母熊の牙によって守られていると記されている。もしかしたら、戦闘はほぼ後ろの母熊が行っているのかもしれない。

 いろいろと愛される要素を持った1枚であるため、無限回収しているコレクターは少なくない。ゲームではまず見ることがないカードでも、生半可なパワーカードよりも愛されることだってあるのだ。


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2015/2/26 「盲目の狩人」



 意外に思われるかもしれないが、コウモリの仲間も冬場は活動せず、群れで冬眠している。夏場はあれだけ街灯に群がる虫を目当てに飛び交っていた彼らだが、その虫の大半が姿を消す冬場は食べるものがなくなってしまう。飛行はエネルギーの消耗が激しい運動であり、それに加えて小さな哺乳類は体温の維持のためにも食料が大量に必要なのである。下手に冬場活動なんてしたら、餓死確定だ。

 マジックの世界にもコウモリは現状14体存在する。これを多いと思うか少ないと思うか。一セットに複数体収録されている訳ではないが、あの次元にもこの次元にもいるような…と、存在感はそこそこに放つクリーチャーの様に思う。今日はラヴニカに生息する種をピックアップ。

 《盲目の狩人》というイカす名前。カード名だけ聞くと黒い戦士なんかをイメージしそうなものだが、イラストを見て「なるほど」と。昆虫食・その他肉食としての道を歩んでいったコウモリの多くは、植物食の連中とは異なる進化を遂げた。聴力と超音波に特化し、眼を退化させていったのだ。このオルゾフの領域に生息するコウモリも同様で、狩人と称されることからかなり獰猛な肉食種であると考えられる。マルチカラーの4マナ2/2飛行、リミテッドでの標準的なサイズではあるが、勿論「もう一声」オマケがついてくる。戦場に出た際に誘発する能力で、対戦相手のライフを2点ドレイン。吸血コウモリというわけだ。実質速攻+αを持っている様な物なのでリミテッドではこの時点で非常に有用。

 更にこの狩人は、「死んでもOK」という二声目のオマケも有している。『ギルドパクト』でオルゾフに割り振られた能力は「憑依」。狩人自身が死亡しても、それを他のクリーチャーに憑依させる形で追放することで、憑依されたものが死亡した際に狩人の2点ドレイン能力をオカワリ出来るというもの。出れば2点吸い、殴れば飛行で2点、死亡してもさらに2点吸えるチャンスがあると、とにかくいやらしい存在なのだ。憑依する先は自身の別のアタッカーにして、除去しづらい状況を作るのも良いし、対戦相手のクリーチャーに憑依させてチャンプブロックをしてもライフを詰められるなんていう詰みへの一手に使っても良い。とにかく、使い勝手が良い素晴らしいコモンカードである。名前もシブいしね。


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2015/2/25 「方解石のカミツキガメ」



 「冬眠ウィーク」をお送りしているが、我が家でもボチボチ冬眠から目覚めそうなものが居る。冬場はなかなか寝床から出てこない僕自身のことを指しているわけではない。カメだ。一見なんの変哲もないカメだがちょいレア、というものを飼育している。もうかれこれ10年の付き合いか。出合った時は500円玉サイズだったが、今は400ストレージくらいの大きさにまで成長した。そんなカメさんは毎年、11月頃から活動を停止して水中に留まり続ける。そこから暖かくなるまで眠り続けるのだから、毎年のイベントとはいえ毎度驚かされる(子どもの頃は冬眠する体力がないので加温して飼育していた)。そんなカメさんが近頃の気温で目を覚まして、水面から鼻先を出す姿を見るようになってきた。もう春が近いのだ。

 マジックの世界での「最強のカメ」を決めるならば、まずこのカードが筆頭に躍り出るとみて間違いない。《方解石のカミツキガメ》は、3マナ1/4という《角海亀》から受け継いだガッチリボディにさらに被覆を上乗せすることによって、地を這う小型生物を確実に足止めさせる便利な壁である。白・黒・赤がこれを突破するのは容易なことではない。元からサイズで勝る緑か、装備品の助け、あるいは同じ青の飛行クリーチャー群がいるならば突破も容易いかもしれない。ただ、このカメの恐ろしいところは、防御に回れないのならばと開き直って攻勢に出てくるところにある。

 あなたのコントロール下で土地が戦場に出る=上陸を達成すると、1/4から一転して4/1という超攻撃的スタイルへと変貌する。青いクリーチャーでかつ3マナで、この打点の高さというのは珍しい。そこに被覆が合わさっているのだから、タフネス1でもダメージやマイナス修正系の除去は全く意に介さずに攻め込むことが出来る。全体にそれらを及ぼす呪文には弱いが、逆に考えればそういった呪文にだけカウンターを合わせればよい。それにこのカードがスタンダード現役だった頃のそれに該当するカードと言えば《紅蓮地獄》であり、相手ターンであれば再び1/4という防御姿勢に戻っているためこれでは対処できなかった。相手にすればかなりたちの悪い、難敵と呼ぶに相応しい存在であった。当時多くのプロプレイヤーがこのカードを高く評価しており、『ワールドウェイク』のパワーを満天下に示す形となった。

 方解石というのは鉱石で言えば石灰石・石材で言えば大理石にあたる石であり、炭酸カルシウムの塊のことである。その昔、羅針盤がない時代にこれを用いて雨天や曇りでも太陽の方角を調べていたそうだ。「方角」が「解る」石ってことだろうね。カミツキガメはアメリカ大陸に生息するカメの仲間で、クチバシが1つの特徴である。フロリダや中南米などの暖かい地域に住む種が多いが、北米に分布するものは日本の冬を冬眠で凌ぐことが出来るようで、日本の野に放たれた個体が生態系を乱して問題になり、国内で一般的には飼育できなくなった。最近はこれらの個体が捕獲されたというニュースも聴かなくなり、悲しい存在と化してしまったカメが一頭でも少なくなっているようなのでホッとしている次第である。


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2015/2/24 「雄鹿クワガタ」



 冬眠する生物をフィーチャーしていく「冬眠ウィーク」。我が家でも何匹か冬眠している子達がいる。その姿はいつ見ても不思議なもので、本当に眠りこけている。はたから見ると、本当に生きているのか?と思ってしまうほど。哺乳類でも冬眠を行うものが多数いるが、数で言えばもっと原始的な連中の方が圧倒的多数。身体や脳(それにあたるもの)の仕組みがシンプルであるが故に容易に眠り続けることが出来るのだろう。

 昆虫たちなんかはそれの最たるものだろう。1シーズンで寿命を迎え、卵のまま冬を越すものが多数いるが、その一方で春の訪れまで1年の半分近くを眠り続けるものたちも我々の身近な場所に暮らしていたりする。ペットとして愛されているものの中から選ぶとすれば、やはりクワガタであろう。ノコギリやミヤマといったシャープな体型のものも人気が高いが、彼らは越冬することが出来ないグループだ。コクワ・ヒラタ・そして「黒いダイヤ」ことオオクワガタといった、ズッシリとして平たい重戦車のようなフォルムの連中が冬を越え、長生きするクワガタなのである。何の話だというところでマジックへと話を移そう。僕らが愛してやまないこのゲームにも、昆虫の王者はしっかりと登場する_それも複数だ。今回はその中から《雄鹿クワガタ》を。

 部族推奨セット『オンスロート』にて登場したこのカードは、エルフやゴブリンなどの猛プッシュされている部族には属さない昆虫カードである。が、クリーチャー同士の連携を主体としたカード群=ズラッと並んで睨み合いが頻発する同ブロックのリミテッドにおいては、レアの座に恥じないパワーを披露してくれる1枚である。戦場にいるクリーチャーの数だけの+1/+1カウンターが乗って登場する、ヘビー級…状況によってはガリガリのストロー級にも比類なきアンドレ・サイズにもなり得るクリーチャーで、シンプルにそれ以外の能力はなし。パワー/タフネスが☆/☆ではないため、この数値が変動しないのは往々にして利点である。9/9でアタックし続けて、変動型だとブロックしたクリーチャーが死亡する度にドンドンと小さくなって脅威でなくなってくるからだ。また、+1/+1カウンターを用いる点から、様々なカードとのシナジーも期待できる。

 英名「Stag Beetle」はまんま「クワガタムシ」という意味。個人的にはこれをそのままカード名にしてもある種の「レジェンド」となっていてそれはそれで良かっただろうなと思うが、ここは「Stag」が持つ意味を重ねてカッコイイ名前に翻訳してある。同じ「おじか」でも一般的に用いられる「牡鹿」ではなく「雄鹿」を用いているのは、「牡」の字が獣や鳥に限定して使われるものだからかな。

 最後に面白い話を1つ。このカードの中国語版Foilのカード名およびカードタイプ・テキスト欄は《アクローマの祝福》のものがプリントされているというエラーカードが報告されている。というか、僕も現物を持っている。パワー/タフネスがあるインスタントでクワガタ・アクローマ。激熱と言うしかないよね。


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2015/2/23 「冬眠」



 日本の様に四季が、とりわけ冬がある地域に住まう生物の一部は、極寒で食糧も数少なくなる真冬での活動を放棄する。冬眠だ。春から秋にかけて冬を乗り切るエネルギーを蓄え、次の春が来るまで代謝を極限まで抑えて、ただひたすら眠り続ける。生まれてから死ぬまで、四六時中活動する必要はない。ただ適切な時に動き、食べ、増えればよい。実に合理的なシステムではないか。我々ヒューマンはそういうライフサイクルを送るにはいささか構造が複雑すぎるので叶わないが、冬の間中寝て過ごせるなんて羨ましいにもほどがあるって!

 さて、マジックの世界で冬眠と言えば《冬眠》というそのまんまな1枚があるのでこれについて話そうじゃないか。「ウルザズ・サーガ」ではアンコモンに対抗色対策となるカードが複数用意されていた。ちょっと、必要以上にあるんじゃないかと思えるほどに…小遣い握りしめて買ったパックから溢れる色対策、それをメインデッキに入れるもんだからナチュラルメタが酷かったのをよく覚えている。白はプロテクション何種類もあっていいよなーとか。で、青を使っていた子は勿論メインからこのカードをぶっこんでおりまして。緑単に情熱を注いでいた子には「また自分とやるん?いややわ、《冬眠》撃たれて負けるねん!」とやや拒否られてもいたレベルで…よく「昔の色対策は容赦がない」と言われるが、これは本当に容赦がなかったよ。

 緑のパーマネントを全てバウンスする。文で見ると非常にシンプルではあるが、マジックあるある「テキストが短いカードは強い」「すべてのと書いてあるカードは強い」の2つに引っかかるテキストであり、そしてその実強力なのだ。緑はとにもかくにもクリーチャーで勝負する色だ。マナクリーチャーを出して、大物に繋げる…展開の色である。クリーチャーをサポートするのもエンチャントが多く、パーマネントオンリーデッキなんてのもざらにある。そんな色に対して、3マナで、インスタントで、すべてバウンス。これはねぇ…鬼ですよ。ライフを護りながら、再展開にはカウンターを合わせる。序盤は押されても、ジワリジワリと優位をひっくり返す…そんなゲームプランが練れる、当時の青単には頼もしいことこの上ないサイドカードの定番であった。

 後に『第7版』に再録され、そこでも《獣群の呼び声》《ワームの咆哮》に対してインスタントの《神の怒り》のような強さを見せていたが、《野生の雑種犬》や《魂売り》といった色を変える連中には居座られるため、緑側がかつてよりも苦にならない状況を計算しながら戦えるようになった。これには時代の流れを感じたね…。

 『ウルザズ・サーガ』版では冬眠しているのがまさかのアルマジロ。アアルマジロは南アメリカの生物であるため冬眠の習性はない。即ち、この呪文が「動物が勝手に寝た」わけではなくて、青の呪文で代謝などに干渉して強制的に冬眠状態にしているということがよくわかる。今週は「冬眠ウィーク」。冬眠する生物にまつわるカードなどピックしてお届けしていこう。


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2015/2/21 「肉裂き怪物」



 自らに危害を加え、時に敗北の決定打となりうるリスキーな面々を紹介してきた「マゾ・ウィーク」もここに集結。完走できたことに喜びを隠せない。陽の目の当たらない連中ではあるが、だからこそこういう場でスポットをあててあげたい。その気持ち1つでここまで走って来れた。お付き合いいただいた皆様にも感謝の一言。最後にはマゾヒズム及びスーサイドの完成形と言えるこちら、《肉裂き怪物》を紹介しよう。コイツについて書きたいから一週間頑張ったと言っても過言ではないだろう。

 2マナ4/4、クリーチャーがどんどんと強くなっていく昨今のインフレにも見劣りしないサイズ。無条件で4/4故に、《タルモゴイフ》を越えていると言っても良い。ただし。インフレよりも遥か昔、今よりもとにかくクリーチャーが頼りないにもほどがあった時代のカードなんである。甘く考えちゃ駄目だ。強烈も強烈、大強烈なデメリットが同居しているに決まっているのだ。

この肉裂きが対戦相手およびクリーチャーにダメージを与える度に、これはあなたにも同数のダメージを与えてくるのである。フレーバー的には「強い腐食性のある煙の塊」がそのダメージ源であるようだ。この、ほぼ噛みつくために作られた生物は、その口で獲物に喰らいつき攻撃をし、飲み込んだ血肉の分だけ背中の孔から煙を吐き出す…これ即ち、糞ってことなんじゃないか?たまらん。ただ、「やることは巧みにやってくれる」と書かれていることから、こう見えてコントロールの効くファイレクシアの家畜なのかもしれない。頭頂部にチョンとついているアンテナのようなものがそれを可能にしているのかもしれない。

 自身に4点という無視できないダメージを与えてくるが、それでも2マナで4/4というのは戦力として十分。先にライフを0にしてしまえば、こちらが実害を受ける前に勝負が決する。ということで、あろうことかコイツのパワーを《よじれた実験》でさらに上昇させてガッシガシ殴っていく「ツイスト・ブラック」なんていうデッキも誕生したのだ。無骨とかそういう言葉が似合う、愛すべきデッキだ。肉を斬らせて肉を斬り、骨を断たせて骨を断つ。最近はこういう、静かな激情を携えたクリーチャーをめっきり見かけなくなったのが寂しい限りではある。

 僕個人にとっては、その強烈な見た目がマジックを始めるきっかけにもなっている特段思い入れの強いカード。何このギーガーデザインみたいな生物!?と驚いたのも懐かしいな。スタンダードリーガルの時は使い倒したし、エクステンデッドでもスーサイド・ビートダウンで愛用した。もうゲーム内で接することはなくなって久しいが、いつも心にはこの1枚がいて、その気味の悪い脚で歩き回っている。実はプレインズウォーカーを攻撃するにはノーリスクだったり、まだまだ戦えそうな気もしなくないが、まあそれは嘘かな。愛さえあれば。


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2015/2/20 「漆黒の刃の死神」



 強いヤツは守らない。何故なら攻めに回って叩き潰すことが出来るから。自身の力が相手を上回っているのならば、わざわざそれから身を護る必要がなくなる。だから神の強者は護身術など学ばない。そんな記述を漫画か何かで目にした記憶がある。古今東西、強者として描かれるキャラクターはたおやかに余裕を持った立ち姿で描かれることが多い。「貴様らが私にかなうはずがない」と言いながらガチガチにガードを構えているシーンなんか見たことないが、もしあったら再来週にはそいつ負けてるね。

 マジックでも、時折このイズムを体現したような1枚が顔を見せる。捻じ伏せてしまえば防御なんて考えなくていい、そんなパワーカード_この場合は、一般的に言うそれではなく、力のみを追求したカードの意_の数々。それらの中のいくつかは成功し、大半は「何それ?」と言われる枠を担当することになる。《漆黒の刃の死神》なんてその筆頭だ。

 何よりも名前がスゴイ。「漆黒の」「刃の」「死神」。ファンタジーを愛する心にグッとくるフレーズの集合体、所謂「中2病」ぼ権化めいた存在である。そしてその正体は…人間?クレリック?「Reaper」は今でこそ「刈り取るもの」といった風に訳されている。「Reap」が持つ「刈り取る」「収穫」といった意味を重視しての訳だと思われるが、このカードに関しては同単語を「死神」と訳している。死神とは、農工具である鎌を手に生者の魂を刈りに来るものである。《漆黒の刃の死神》は漆黒の刃=短い鎌を手にしており、その肌や眼は冷血を体現するような色。人間とは言え、まさしく死神と呼ぶに相応しい風貌ではないか。

 カードとしては3マナ1/1と割とどうしようもない戦闘力。ただし、もし対戦相手に戦闘ダメージを与えることに成功すれば、その鎌の邪気が犠牲者のライフを半分ももぎとってしまう。ライフがフルだったとしても、これに殴られれば一気に9点に。まさしく死神の一撃だが、そうもオイシイ話が転がっている訳もなく、これが攻撃すると同時にそのコントローラーもライフを半分持っていかれてしまう。お前の物は俺の物、ならぬ俺の苦痛はお前の苦痛。なんともはた迷惑な存在であるが、そう開き直って使用するにもスペックの低さは気になってしまう。一番悲惨なのは、ライフを半分失ってから除去を撃たれること。一体何がしたかったのかわからなくなってしまう。そんなことも加味して、しっかりと変異を持っている。ただの2/2と思ったら大間違い、うっかり通すと悲惨なことになったり。

 ただこの手のカードの宿命として、通ったからと言って決して「一撃必殺」という訳ではない。《傷の反射》などによるサポートを添えてやる必要がある。あるいは、先制攻撃を与えて横に並ぶ他のアタッカーで半分に減少したライフを削るなど。書いてて(皆さんは読んでいて)気付くが、要するに「オーバーキル」なのだ。

 《死に微笑むもの、アリーシャ》で釣り上げる候補の1つにするのは面白いかもね。《残虐の達人》に続く第2候補にでもどうぞ。


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2015/2/19 「スレイマンの壺」



 スレイマン=ソロモン王の話は《King Suleiman》の回で記したので割愛。精霊・あるいは悪霊であるジン(及びイフリート)を従え自在に操ることが出来たという伝承が残っているこの王と同じ『アラビアン・ナイト』に収録されているのが《スレイマンの壺》である。《King Suleiman》の能力によって退治されたジンは、この壺に封印されるのかもしれない。今日はこのフレーバー満載のカードについて書いていこう。

 《スレイマンの壺》は「アラジンと魔法のランプ」の逸話をモデルにしているのであろう、壺からジンが出てきて願い事を叶えてくれる、「かもしれない」カードである。勿論のこと無色のアーティファクトである。初登場時はまさしく英名の「Bottle」に相応しい瓶上のものに見えたが、『第5版』からのイラストではそれこそ僕らがイメージするランプのような、見た目になっている。クシャミで飛び出る某大魔王の壺っぽくもある。というか「Bottle」を壺と訳したのは英断だったと思う。『第4版』を訳する時に、「瓶からジンが出てくるってのも違うだろう」という判断があったのだろうか。

この「Bottle」という単語はマジック界でも珍しく、テンプレ訳がかなり柔軟に行われている(《瓶詰の回廊》《ボトルのノーム》など。《壺のノーム》はちょっと違うもんな)。いずれにせよ、これはジンが封じ込められたアーティファクトで、プレイヤーはこの壺を起動させることで中に潜むジンを解き放つことが出来る。出てくるのは5/5飛行のジン・トークン。合計のマナコストで考えれば5マナでそのサイズを呼び出せるのだから、なかなか破格である。今ではすっかりそれより優れた連中が登場してしまったが、無色なので文句は言ってられない。

 問題は、これがかなりスーサイドな1枚であるということ。起動した時にコインを投げて賭けにまけてしまった場合、それは精霊ではなく悪霊を呼び出してしまう。5/5飛行どころか、それがあなたにワンパンチ入れて姿形もなく消えてしまう。カード1枚使って5点喰らう、なんて普通のゲームにおいては考えられないくらいのデメリットの塊、自ら敗北へ向かってまっしぐらである。

マジックを始めた頃、友人がこれを用いて自爆しながらもゲームに勝利した姿を見たことがある。「ミスったけど勝てた、あそこで5/5出てたらもっと早く勝てた」とのたまっていたが、つまりはこのカードそもそもいらないってことやんとツッコミたくてしょうがなかったが、そのイラストとリスキーな能力は「使いたい」と思わせるのに十分だということを僕も理解していたので、その言葉はここまで十数年間抱えてきていた。ようやく、壺に封印していたこの思いも解放されたというところで、今日は筆を置こう。


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2015/2/18 「ドロスの収穫者」



 「○○してもお釣りがくる」という表現がある。コストパフォーマンスの良さを表す言葉であり、個人的にはちょっと大袈裟に言ってから「いや○○は言い過ぎた」と修正するのが好きだ。コストパフォーマンス、皆の大好きな響きである。これに優れるものを消費して行くのが正解なのだろうが「安物買いの銭失い」という言葉もこの世界にはある。コスパが良い=安いというわけではない。それはマジックの世界でも同じなわけで…

 《ドロスの収穫者》は3マナ4/4プロテクション(白)という好戦的なボディに、クリーチャーが死亡する度にライフを2点回復と、攻防一体の能力を誇るホラー界でも屈指の存在だ。…デメリットもね。ターン終了時に失うライフはなんと4点。ライフが10以下の状況ではちょっと使う気になれない、ハンパではないデメリットだ。というかお互いが同数の状況で出すと、自分の方からライフを失っていくためこれ単体でアタックし続けて勝利する前に自分が干からびてしまう。これはマズい。速攻があればギリギリセーフ、途中でクリーチャーが2体死亡しても間に合う。

いずれにせよ、一筋縄でいかないということだ。使用するならばガッツリ除去と各種自爆生物や生け贄エンジンと併用したい。ライフルーズを考えると、プロテクションを持っているからと言って白ウィニーなんかへの壁役として使うには向いていない。毎ターン4点ずつ失いがら、相手がズラズラ並べて射程圏内まで詰めてくるのを眺めるほど悠長なゲームではないのだ。

 ドロスとは、メフィドロスの略称。ミラディンに存在する沼地のことである。この沼は生きる者を屍賊に変貌させる恐ろしい領域であるが、そういった現象以外にもこのような危険な金属生物が生息しているようだ。イラストを見るに人類と同じ上半身構造にナメクジのような脚の無い幅広の下半身を併せ持ち、道具を扱う知性を持っている様だ。その顔には表情と共に口吻などもなく、捕食は開閉式の脊髄で行っているようだ。ここで得た養分をプレイヤーに与えてくれるんだろうけど、それって…。


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2015/2/17 「Orcish Cannoneers」



 マジックを始めた当時の事を思い出してほしい。とりあえずデカいクリーチャーがただただ強かった。デッキには土地が16枚か、あるいは30枚か、極端な構成。ダメージを与える呪文は何も考えずに本体に投げていく。ライフ回復は偉い、あるだけデッキに入れる。飛行最強。ややこしいテキストのカードは使わない。こんな感じで遊んでいたことでしょう。最近ではデッキの組み方・カードの強さというものを多くの媒体で簡単に知ることが出来るが、『第5版』スターターに入っていた小さなルールブックを読みながらわからんわからん言いながら遊んでいた身としては、マジックに触れて最初の1年はずっとこんな感じだった。僕だけでなく、一緒に遊ぶ面々も___当時はまだ中学生になったばかりというのも大きい。

 そんな同級生で形成されたコミュニティでも、忌み嫌われるカード群があった。それが自身にダメージを与える類のカードだ。《アダーカー荒原》は何がしたいのかわからなかったぐらいだ。そんな中で《オーク弩弓隊》なんかは群を抜いて意味不明の存在だった。なんで2点与えるために3点食らう必要があるのか?サイズも1/3しかないしこれは弱い、アンコモン枠の無駄遣い!と当時は思っていた。そんな弩弓隊に、同型再版が存在することを知る。それが今日の1枚、《Orcish Cannoneers》である。始めてからしばらくはおもちゃ屋でパックを買っていたが、カードも取り扱う総合ゲームショップの存在を知り、そこに通うようになった。そこでは見たこともない古いパックや、ファイルに入れられたシングルカードというものが存在していた。ワクワクしながらファイルを開くと、『アイスエイジ』のコーナーに彼らはいたのだ。

 3マナ1/3、オーク、テキストには2ダメージ&3ダメージの表記。これアイツら(弩弓隊)と一緒やん!大砲になってるのにダメージ一緒なんかい!そう思ったのだが、イラストがなんかこう、心をね。捕らえて離さなかったのである。当時の少ない小遣いでも余裕で購入できる金額だったのでなんとなく2枚買ってしまった。家には同じ能力を持った弩弓隊が既に控えているのに、だ。まあ買ったからには使わねばならない。オーク達と火力とドラゴンを詰め込んだ赤単を持っていつも通り友人宅へ赴いた。自称「マゾ・デッキ」だった。しかしこれが、中々どうして強かったのである。

 《ラノワールのエルフ》に3点は痛いと思いながらしぶしぶ砲撃を喰らわせると、マナが伸びずに動けなくなったり。飛行持ちの2/2に2回殴られることを考えればそれより少ないダメージで除去できるって熱いなと思ったり。火力との合わせ技でタフネス5以上の大物を排除した時の達成感。何より、それらの仕事をしないターンは例えパワー1と言えどアタックに行けるではないか。カードって使って初めてその強さがわかるんだなと、思った次第である。こういう一見デメリットが大きく見え、線が細い生物でも役に立つと気付けたら、マジックの面白さはそこから更に深く底知れぬものになっていくだろう。


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2015/2/16 「狂気の種父」



 耐える、というのは美しい。真の強者は耐える側ではない、とも言うが、苦難や苦痛に耐える姿というのは強く美しい。プロレスは受けの美学、相手の苛烈なキック攻めを倒れても倒れても受ける姿に観客はのめり込む。ただ、これをほんの少し、たったほんの少しベクトルを「自主的」という方向にシフトすることで、ただの「マゾ」と扱われてしまうから不思議なものだ。そして、例えばそれが肉体的にというわけでは決してなくても、マゾヒストな方々はそこかしこに存在するものである。激辛と注意書きしてあるのに食べて苦しむ、そんなノリをマジックでも体現する人って少なくないのだ。自分にとって苦しいカードを愛用する…そんな人たちが。何故彼らはそうするのか?それは、そもそもそんなデザインのカードが多数存在しているからである。今週は「マゾ・ウィーク」。直球で行こう、後悔はしていない。

 マジックでマゾと言えば「ラクドス教団」がその道の総本山だ。ここに所属する連中は、全員がサディストであると同時にマゾヒスト。より苦痛を与えるために、自身が倍苦しむ必要があるのならばそれを実行してしまう。変態にも程があるが、その刹那的な生き方に憧れというか尊敬のようなものを抱いてしまうのは僕だけではないはずだ。勿論、他人を痛めつけることにではなく、あくまで「やりたいことをやりたい時に」という彼らの主義にね。他人を巻き込むのは最低最悪の下劣だ、そこは違う。

まあ、そんな教団の象徴のような1枚がこの《狂気の種父》。6マナ6/4回避能力・除去耐性なしはちょっと残念ではあるが、このデーモンの売りはその能力。各ターン終了時に、全てのプレイヤーはその手札を捨てねばならない。どれだけ手札を蓄えようが、この狂気の存在が降臨した暁には手を空にしてのトップ勝負に持ち込まれてしまう。《核の占い師、ジン=ギタクシアス》の自身へのメリット能力を取り除いたら少し軽くなった、そんなデザイン。ギタクシアスと大いに異なるのは、彼の法務官は対戦相手のターン終了を迎えなければその手札を撃ち落とせないのに対して、この種父は自身のターンにキャストしてターン終了を迎えると対戦相手の手札を奪うことが出来る。能力によりタイムラグが無く速効性が与えられるという形で調整されているのだ(まあギタクシアスも瞬速で唱えればラグはないけど)。

 ただし、自身のターンで効力を発揮するようになったということは手札の上限に干渉するのではなく、純粋に捨てさせる誘発型能力になったということである。これはこれで、狙いが外れることがある。《もみ消し》なんかで対処できるようになったのだ。この能力が実際に打ち消されることなどほとんどないとは思うが、起こりえないものと起こり得るもの間にある隔たりというものはおろそかにできない。また、やはり自身も巻き込んでしまうのがなんとも、ね。誘発してからバウンスで弾かれて自身の能力で自身を捨てる、なんてこともあるだろう。複数バウンスなんてもっての外。それを加味しても、使いたくなる怪しい魅力に満ち満ちているとは思わんかね?ようこそ、こちら側へ。今週は存分に楽しんでくれたまえ。


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2015/2/13 「夜魔の帰還」



 帰って参りました。というわけで平常運転に戻って最初の1枚を紹介。今週は僕の個人的な、旅にまつわる一週間にさせていただいて(これほど自由が許されているコラムがあるだろうか)きたが、最後は実際に無事帰ってきたということでこのカード。「帰還」というフレーズが使いたくて、マジックで同フレーズで言えば『アヴァシンの帰還』が真っ先に浮かぶだろうが…僕の場合は何を差し置いてもまずこれが浮かぶ。《夜魔の帰還》。

 『ポータル・セカンドエイジ』は、複雑なルールであるマジックへの入門版として作られた『ポータル』の文字通りの第2弾。インスタント・エンチャント・アーティファクトが存在せず、土地からクリーチャーを呼び出しソーサリーを用いて戦うシンプルなマジックを体験できるように作られたセットだ。『ポータル』ではそれこそクリーチャーも全て「クリーチャーの召喚」と記されるシンプル極まりない表記に統一されていたが、『セカンドエイジ』からはクリーチャータイプという概念も生まれてより一歩踏み込んだゲームが初心者たちを待っていた。とは言っても、それらを参照するカードは本当に一握りしか存在しなかった__まあ溢れ返ってもね、『オンスロート』みたいになってもしょうがない。

そんな数少ない部族カード枠の1枚がこの《夜魔の帰還》である。黒が担当した部族は「夜魔」。せいぜいミラージュでチラっと出ただけのちっぽけな部族がフィーチャーされると誰が思ったことだろう。ただ、初心者向けだからと言って基本セットの流れでゾンビと吸血鬼で、という妥協案ではなく新しい部族を掘り下げるという試みには初心者セットと言えど世界観を大事にしようという制作陣の深い、深い愛情を感じずにはいられない。結局僕らがマジック好きなのってこういうところなんだよな。

 さて、カードとして7マナのソーサリーということで所謂「必殺技」枠を担う1枚で、効果も黒らしく墓地からすべての夜魔たちが舞い戻るというもの。基本的なカードが大半を占める中で、この効果はなかなか強そうに見える…が、沼が全て破壊されるというハードすぎる制約が足を引っ張る。チャンプブロックや相討ちで死亡→復活を連続で決められれば強いのだけれど、そんな自由は許されておらず。また、夜魔の中でも最もアタッカー向きである《夜魔のエンジン》と絶望的に相性が悪い(パワーが墓地のクリーチャー数参照のため)。

 それでも、僕はこのカードが愛おしくてしょうがない。躍動感溢れる夜魔たちの姿が、見ていて楽しい気持ちにさせてくれる1枚なのだ。好きなカード100選を作るならば外せないな。


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2015/2/12 「家路」



 このコラムが掲載される頃には、僕の旅ももう終わり無事に我が家に帰っていることでしょう。というわけで今日の1枚は《家路》だ。旅の終わり、これ以上相応しい1枚もないだろう。

 そもそもが、土地カードというものはある情景を切り取っているものなのだが、「家路」とはある特定の場所を指す言葉ではない。あくまで、ある一個人にとっての主観的な存在であって。どこそこを指すわけではないのはご存知の通り。《汚染された三角州》であれば誰の目から見ても等しいものであるが(ファイレクシア人には違う光景に見えるんだろうな)、家路に関してはそれがどこになるかは人それぞれ。概念上の存在が土地カードになる訳だが、その効果を把握すればこれがどこを指すのかはわかるように思う。

 《家路》は基本的には無色のマナソースに過ぎないが、対戦相手にクリーチャーを奪われている状況において、その真価を発揮する。各プレイヤーは、自身がオーナーであるクリーチャーのコントロールを得る。平時では何の意味もない能力だが、《支配魔法》や《金粉のドレイク》といったカードで何かをとられているならば、取り返すことが可能だ。この効果は全てのプレイヤーに及ぶので、統率者戦で困っているプレイヤーがいたら助けてあげることも可能だ。恩義は売っておいて損はない、それが統率者というゲームだ。《暴動》のような致命的な一撃に対する抑止力にもなる。

ただし、全員に効果が及ぶということは、《どんでん返し》で一方的にアドバンテージを取るといった芸当は出来ないということ。それは《刻印》が担当するものであり、この2枚の間にどちらかが明確な「格上」であるという定義が為されていないのは素晴らしい。

 この土地が故郷からの光を見せると、クリーチャー達は還ってくる。即ち、この道がある場所は我々がゲームを行っている際に利用している戦場の一部ということだ。マジックを遊ぶ際に、土地とその他のパーマネントの置く場所というもので2つのスタイルに別れることがある。

近年では、ビデオカバレージなどの関係もあって土地を手前に、クリーチャー達を対戦相手側に配置するのが「公式スタイル」とでも言おうか、広く浸透している。一方で、このゲームを始めた時にクリーチャー達を手前に、土地を対戦相手側にという配置で遊ぶスタイルで教わり、今日までそれを続けているプレイヤーも少なからず存在する。後者のスタイルは、感覚的に戦闘が分かりやすい前者・一般的なスタイルの影に隠れてしまっているが、この《家路》を起動した時なんかは後者の配置スタイルの方が「クリーチャーが家路を通って自分の元に帰ってきた」という感覚が味わえるのではないかな。


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2015/2/10 「ゴブリンの毛皮商人」



 旅立つ前にこれを書いているので、憶測も含まれた記事になってしまうことをお詫びしておく。ワシントンの気温は平気でマイナスに達する。おそらく、着いて最初の感想は「寒っ」になることだろう。僕が現地で最も遭遇したいクリーチャーは、この子になるんじゃないかな。《ゴブリンの毛皮商人》、ポテポテと歩いてないかな。

 そもそもゴブリンとは変温動物なのか恒温動物なのかもよくわからない。妙に爬虫類的特徴をその身体に持っているが、この毛皮商人のように雪が積もるような環境でも活動を行うことが出来るようだ。そもそもファンタジーの生物にそういったことを求めるのも、ちょっとヤボじゃないか?という思いもあるのだが、マジックは世界設定がかなり作り込まれているだけにそこの所がどうしても気になってしまうのだ。…アロサウルスが沸騰する血液を持っている時点で、あんまり高温も変温も関係ないけどね。

とりあえず、ゴブリンも寒さを感じるようで、それを厚着で乗り越えるというのは人間と変わらないようだ。同セットに上下ノースリーブで暴れ回っているゴブリンがいることは置いといて、防寒着の基本はやはり毛皮。ポリエステルとかないからね。自然界に存在する、最も寒さに強いもの。それは極寒の地でも活動を続ける動物の毛皮に他ならない。動物愛護を謳って、この毛皮というものを目の敵にする人々もいるが、例えばモンゴルで伝統的な鷹匠で生活している人々にとっては、最良の贈り物であり生きるために必須な物なのである。このゴブリンも、生きるためにはウサギの毛皮が必要で__それは、己を護るためも勿論、それを売って腹を満たすためでもある。その地域での生き方というものがあって、それを他の文化圏に住まうものが頭ごなしに否定することしてはならないと、僕は思う。

このゴブリンはユキウサギのような警戒心の強い生き物を仕留めることが出来る、腕っこきのハンターなのだが、その能力は氷雪クリーチャーにダメージを与えることが出来ない、というもの。ユキウサギなんてもろ氷雪っぽいが、まあその辺はご愛嬌ということで。氷雪クリーチャーのいない環境では2マナ2/2としてデメリットなしに使えるが、まあわざわざこれを使う必要もないだろう。チェックのマフラーがオシャレ、それがこのカードの最大の魅力であり、存在理由でも良いじゃないか。


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2015/2/9 「トリーヴァの魔除け」



 所用があって旅に出ており、これが掲載される頃には雲の上かなぁと思っている。旅に出るなら安全祈願。僕は飛行機には全く抵抗がないのだが、著しい拒否反応を示す方々は少なくない。確かに、どういう原理で浮いてるのかもよくわからないものに10時間以上揺られる、というのはストレスフル極まりない状況である。そんな時に、お守りなんかがあれば良いのかもしれない。霊験あらたかでなくても、心のよりどころというか落ち使えるポイント、プラシーボなものがあれば人は己を支えられるのではないだろうか。

 そんなわけで今日はお守り的存在・魔除けサイクルの中から優しそうな色である《トリーヴァの魔除け》をチョイス。当コラムで3枚目の紹介になるかな、サイクルものとしては枚数を紹介している方にはなるが、それでも45種中3種となるとまだまだ1/15。もうしばらく引っ張れそうである(3枚以上書いていたらごめんなさい)。《トリーヴァの魔除け》は魔除けサイクル第3世代、『プレーンシフト』にて登場した「ドラゴンの魔除け」サイクルの1枚である。善なる存在か悪なる存在か、その見た目から受ける印象とストーリー上の立ち位置が大きく異なる『インベイジョン』のエルダードラゴンの中でも、トリーヴァはその色の組み合わせも相まって見た目は清純・正義という印象を受けるのに…という1枚である(詳しくはいつぞやのBIG MAGIC LIVEを観ていただきたい)。そんなトリーヴァさんが授けてくれる魔除けの効果は、バントカラーの構成色それぞれに合わせたものとなっている。

白:攻撃クリーチャーを除去(追放)
青:1ドロー1ディスカード
緑:エンチャント1つを対象とし、破壊

あれ、弱い。まあ白は良い。3マナ3色の除去としては範囲が攻撃クリーチャーに絞られているのはしょっぱいが、除去は除去。おそらくこのモードをメインに使っていくことになるだろう。緑もエンチャント破壊と、これまた効果が狭い。が、1:1交換は最低限行っているのでカードとしての役目は果たしている。当時はかなり危険なエンチャントが同じ時代に生きていた(《対立》《ヤヴィマヤの火》《はじける子嚢》など)ため、腐ることはほぼなかったと言って良い。十分に強かったのだ。

 問題なのは、青である。なんだこれは。3色3マナのカードを1枚使って、1枚引いて1枚捨てる。何をしているかわかっているのか?何故これが「カードを1枚引く」という、所謂サイクリングでなかったのかを考えると謎が謎を呼ぶ。後に《エスパーの魔除け》が登場。同じエンチャント1枚破壊モードを持っていて、この格差は辛い。カード1枚使って2枚引くのと、2枚使って1枚引く。この格差は辛いなぁ。

 ただ、イラストは良い。デカいトリーヴァさんの手の平に乗ってることを考えても、この魔除けは人間一人で持ち上げるのは難しいくらいデカいんじゃないかな。


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2015/2/7 「開闢の巻物」



 「開闢」とは元々中国語の「開天闢地」という言葉を日本語でよりわかりやすく「天地開闢」と訳したものをさらに短くしたもの。意味は、天と地の境目が出来たその時・世界の始まり。転じて、聖地である山を切り拓いて寺院などを建てたりする際にも用いるらしい。こんなマイナーな言葉、会話の中でもおそらく生涯耳にしない人生の方が圧倒的多数だろう。まだまだ知らない日本語ってあるんだなと。楽しくなってまいりました。

 そんな訳で、始まりを意味するカードをあえて「節分ウィーク」の最後に持ってきた(計算ではなくたまたま)。《開闢の巻物》がどちらの意味の開闢なのかは明記されていないが、フレーバーから察するに歴史の=世界の始まりを記したものなのだろう。英名も「Scroll of Origins」で、これを「起源の巻物」とテンプレ翻訳しなかったのはなかなかに心憎い演出である。『神河救済』という1つの歴史物語が幕を閉じるタイミングで登場したこのカードは、誰が予測したであろう、かの《Library of Alexandria》のリメイクとも言える1枚となった。

同セットでは、手札が多ければ多いほどメリットが発生する、なんだったら7枚以上あればさらにドン!そんなデザインのカードが多数存在する。この《開闢の巻物》はそれらの親玉的ポジションである。手札が7枚以上ある場合のみ2マナで1枚ドロー出来る、半額の《ジェイムデー秘本》として運用できるアーティファクトである。トータル8マナで1ドローのジェイムデーに比べると、全て込みで4マナ1ドローはかなり強く見える。

が、実際は…どうだろうね。先手だと1ターン目土地をセットして6枚→ドロー、セット、巻物で5枚、と手札が落ち込む。これを起動するには最速で2ターン後だが、次のターンに土地をセットしたり呪文を唱えないことが最低条件となる。そこまでして、4ターン目に手札を8枚にすることは意味があるのか?基本的にはないだろう。よっぽど特殊なデッキ・マッチアップでのみ嬉しいのではないだろうか。本家である《Library of Alexandria》は、土地だった。これが強さのポイントで、能力を起動する機会が訪れなくとも、無色とはいえ1マナ生み出すことが出来たのだ。まあ単純に1ターン目セットの2ターン目起動っていう動きがぶっ壊れなんですけどね…。

 過去に駄目なカードワースト100というコラムが書かれていたが、先人に倣って「どうすればよいか」考えるなら、この巻物も純粋なマナアーティファクトとして使用できれば良かったんじゃないかなと。どの色でも使えるマナ加速があんまり良いものじゃないと考えているのが最近のカードデザインからは見て取れるが、天地開闢を記した巻物にそれぐらいのパワーがあっても誰も文句言わなかったんじゃないかなと思わずにはいられない。


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2015/2/6 「内臓捻りの鬼」



鬼を扱うウィークだったら神河ブロックの面々は外せないでしょ。ストレートに、鬼。そのものである。

FiendとかじゃなくOni。神河の世界で言うところのデーモンである。この次元にはオーガも生息しており、彼らも他の次元では十分に「鬼」を名乗れる風格なのだが、神河には上には上がいる。

そもそもこのオーガ達と鬼は仲が良い。仲が良い、というと語弊があるかもしれないが、危険極まりない鬼を制御できるのはオーガしかいないということである。オーガは鬼を信仰しており、鬼は彼らに呼び出されて顕現し暴れる、邪神であるということだ。

 それをこの上なく体現しているカードの1つが《内臓捻りの鬼》だ。《痛めつける鬼》と対を為す、オーガがいないことでデメリットを誘発するデーモン・スピリットである。

内臓を捻る、という物騒な名前のこの鬼は、あなたがオーガをコントロールしていない場合、アップキープに手札を1枚掻っ攫っていく。普通にポンと出して使用する場合は、パワー5のトランプルというサイズと言えど非常に使い辛い。

これがオーガが隣に1体でもいるだけで大人しくなるのだから、オーガってば癒し系なのだ。

まあオーガ不在で使用しても、展開の最後に据えてこれを唱えてちょうど手札0という運用をすれば大きなデメリットにはならないだろう(構えたい呪文を引いてきた場合は知らない)。

この手のデーモンにありがちな、捨てられないのならばタップ状態になるとか本体に何点ダメージとかそういったシャレにならないデメリットは持っているわけではないので、リミテッドでも使用に耐えうる1枚である。

鬼達はデーモンの基本装備である翼を持たないため飛行は有していないが、その分欲もほどほどといったところだろうか。

 幼少時のキキジキ達はこのような鬼をからかって遊んでいたらしい。まったくもってアホである。危機管理能力というのは持って生まれた才能なのだ。

文字通り内臓を捻られた兄弟友人もいたことだろう。あるいは、こういうアホの子達がいることで神河の生態系は成り立っているのかもしれない。ほほえましい話である。


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2015/2/5 「巻物の大魔術師」



「節分ウィーク」、今日は巻物の日。そもそも巻物というのは何かを記した紙であり、過去の情報を未来に繋ぐために残された。紙というのは非常に保存・管理が難しい。現代の製紙技術ならまだしも、それこそ1000年2000年前とかになるとね。そんな太古に作られ記された何かを、我々現代人が知ることが出来ているのは巻物の誕生も無視できないファクターだ。大きな紙に書いて、しっかりしたガワをつくって丸めて保存。このシンプルな技法は、紙を用いた全ての文明に存在すると言っても過言ではないだろう(実際調べた訳ではない)。

そんな過去の失われしものがまとめられた巻物、ファンタジーではなくてはならないアイテムの1つである。呪文に関する情報を記してあるものとして、これほど納得のいくものもあるまい。遺跡の深奥で砂埃を被ったボロボロの大きな巻物にのみ記された大いなる魔術。定番だね。ということでマジックでも巻物はちょくちょく登場するアイテムなのだが、それを扱うことに長けた魔術師、否、大魔術師こそ本日ご紹介する《巻物の大魔術師》その人だ。

彼は遠く過去の巻物を解読し、その力を己の物としたのだろう。過去に活躍したアーティファクトをクリーチャーとしてリメイクした『時のらせん』の「大魔術師」サイクル。赤に割り振られたのは歴代でも屈指の支配力を環境に示した《呪われた巻物》である。元々《呪われた巻物》自体が赤という色と相性が良く、手札を投げていって自然とランダム要素を含むはずの能力の的中率が100%となり、2点という大きなダメージでバーン・スライ戦略をサポートする、なくてはならない相棒となっていた時代があった。その巻物が、解読した魔術師となった。クリーチャーになったことにはメリット・デメリット共に付きまとうものだ。特に、メインから簡単に破壊・対処されてしまうようになった点は大きなマイナスだ。

しかしながら、かつての巻物が1ターン目に設置しても働きだすのは2ターン後であるし、マナがなければダメージを与えられなかった点を考えると、最低限のクロックとしてダメージを与えていけるクリーチャーというのは大きな利点である。よく比較されるのは《渋面の溶岩使い》。そして、基本的にはあらゆる面で溶岩使いが勝っている。ただ、簡単に対策される墓地をリソースとする溶岩使いと比べると、巻物の方は「手札の枚数が少ない(1枚)状態」という対策もヘッタクレもないものを参照元にしている点では勝っていると言えるかもしれない。溶岩使いで能力のみで20点のダメージを刻もうと思ったらカードが40枚必要だが、大魔術師ならば消費は0枚。この違いをネットという現代の巻物に記しておくことで、遥か未来の誰かに役に立てればと心から思うものである。


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2015/2/4 「ファイレクシアの憤怒鬼」


 「節分ウィーク」3日目は鬼のターンである。手下悪鬼に続いて紹介するのは、憤怒鬼。「ふんぬき」なんて言葉はこのカード以外で見たことも聴いたこともない。ちなみに英語では「Rager」と表記する。「Rage」はそのまま「憤怒」、即ち激しい怒りを意味するがRagerという言葉はあまり使うことのない単語の様だ。どちらかというと、スラングとして用いられることの方が多いようで、やや造語チックな英語であると考えて良いと思う。まあ「ファイレクシアの怒り狂う者」みたいな雑な名前にならずに、憤怒鬼というしっくりくる訳に仕上げてくれたことには感謝したい。

 さて、カードとしては非常にシンプルなものだ。3マナ2/2、ホラーという何のサポートもないタイプを持つ《スケイズ・ゾンビ》以下のスペックにこの能力がつくだけでここまで化けるか、という印象を当時受けたのを覚えている。戦場に出た時にコントローラーのライフを1点失わせて、代わりに1ドローさせる。ライフを失うのはデメリットだが、カードを引くことはメリットもメリット、大メリット。3マナ2/2は戦闘力で見ればかなり落ちる性能だが、それを実質的な損失ゼロで運用出来るとなると話は別だ。2/2バニラが突破できる戦線はあまりないが、能力で除去を引いてきたのならばそれを使用すれば良い。相手が1、2ターン目に展開してきたクリーチャーと適当に相討ちが取れたりすると万々歳。こっちがリソースで1枚有利になった瞬間である。

派手なカードよりもこういったカードを強いな、と思うようになったら脱初心者と言っても良いだろう(ゲームの理解の話ね。腕はまた別)。憤怒している割に、カードを与えてくれるのだから優しくも感じる。唯一キレてるな、と思うタイミングはライフが1の時にトップデッキした時くらいか。『アポカリプス』でさり気なく登場し、上位カードの《ファイレクシアのガルガンチュア》を差し置いて使用され、《ファイレクシアの闘技場》と共に「ノワール」などの中速デッキのアドバンテージエンジンを務めた。

 それから長い時が経って。まさかまさかの『ミラディン包囲戦』再録、当時これを愛用していた面々は「これファイレクシアの勝ちだな」と悟ったんじゃないだろうか。リミテッドでは本当にいやらしく渋い活躍をしたものだ。イラストがより現代的になっており、SFの世界の表現法というものが年月と共に変わって行っているのを実感。それを踏まえても、やっぱり古い方のイラストが好きだなぁとしみじみ実感する今日この頃。「ゲームぎゃざ」という雑誌の付録だったね。


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2015/2/3 「商人の巻物」



 さて、節分である。もともとは文字通り「季節を分ける」という意味の言葉であり、立春・立夏・立秋・立冬の前日を指していたが、江戸時代以降は立春(2/4)の前日、2/3を指す言葉としてほぼ固定されている。この日に恵方巻きにかぶりつくという文化は元々大阪の風習であるというのは前回に記した。これを何故行うのかと言うと、無病息災や家内安全、そして商売繁盛を祈願するためである。商売となると、今日の1枚は《商人の巻物》しかあるまい。

 このカードは『ホームランド』が初出である。ストレートに言ってしまうと「しょっぱいセット」である同セット、その中で《商人の巻物》は頭1つも2つも抜けたポテンシャルの高さを誇っていた。青いインスタントしかサーチ出来ない、とは言っても手札が減らないサーチであり、青いデッキならば欲しいものはほぼインスタントとあればこれは実質青い《Demonic Tutor》だ。ゴメン言い過ぎた。まあカウンターかドローを持ってこれる、便利呪文ではあったがこれ自体がソーサリーということもあって、多少の隙を生み出しかねない。土地がズラリ並んだ終盤ならまだしもゲーム序盤では気軽に唱えることは出来ないだろう。

 確かに、所謂「フルパーミッション」系のデッキではそれが弱点にもなろう。しかしコンボにおいては、それは全く気にする必要がない取るに足らない問題だ。2ターン目にこれを唱えて《直観》を持ってきても良し、コンボを仕掛ける前のターンならば《Force of Will》を補充しておくのも良いだろう。「トリックス」では大活躍した1枚である。現在でも統率者戦では嗜みみたいなもんで、大量ドローや《Mana Drain》といった極悪呪文に繋げることが出来る優秀な1枚として愛されている。ヴィンテージでは最強インスタントの一角《Ancestral Recall》を引っ張って来れる時点でカードとしての価値がある。そのためヴィンテージでは制限カードとなっている。

 有名な話だが、『第8版』日本語版では「商人の巻物」という謎のカードタイプを持っている。「初心者は基本セットから始めよう!」の謳い文句の通りに購入すると、ルールブックに載っていない謎のカードが…という経験をされたプレイヤーが何人いたのか想像すると面白い。こんなお茶目なエラーもあって、日本語Foilは立派な高額カードとして取引されている。これをご覧になった「昔やってた勢」の皆さん、心あたりがあるならば今すぐ押し入れを漁ってみよう。


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2015/2/2 「ウーコーの手下悪鬼」



  節分!…には1日早いけども、なんだかほんの少しだけテンションが上がるものである。やっぱり、自分の生まれ育った土地の古来からの風習というのはなんとなく受け継いでいきたいものである。これって不思議な感覚だね。そもそも節分に恵方巻き、というイベントは大阪で行われていた風習らしく、ここ数年で一気に全国区になったものらしい。らしい、というのは僕が物心ついたころから当たり前の光景であったから、それが商業的なアレで全国に広まったという感覚が全くないからである。そんな節分に因んで、恵方巻き…なんてカードはなく、巻物に関するカードで誤魔化そうかとも思ったが地味だな…ってことで、今週は鬼と巻物を紹介しよう!ということで「節分ウィーク」だ。かーなーり力技。

 一発目は鬼側から、《ウーコーの手下悪鬼》。一度聴いたら忘れられないフレーズ、手下悪鬼という初見にして即座に意味を理解できる単語の素晴らしさ。手下悪鬼という聞くからに最下層の雑魚敵っぽい役職でありながら、3/2速攻と戦闘力はそこそこあるのも面白い。そして、『未来予知』ならでは「初」づくしの縁起の良いカードでもあるのだ。伊達に未来枠ではないぞ。

 赤と黒両方で支払える、所謂ハイブリッド(混成)マナシンボルを起動型能力のコストとして持つ初めてのカードのうちの1つである。もう1枚は《偶像の石塚》であり、赤黒がこの能力を担当していることが伺える。この起動型能力は、なんてことはないパンプ能力・パワーしか上がらないのでブレス能力と言った方が正しいかもしれない(《ドラゴンの息》由来)。赤はもともとその色であるとして、黒も各種「シェイド」達がマナを注がれてサイズを上げる能力を持っているので、違和感のない作りにまとまっている。この能力は、後に『シャドウムーア』『イーブンタイド』にて導入された。しかしそこに《ウーコーの手下悪鬼》やそれに準ずる名前のカードはなかったため、次元ローウィンからきたものではないことが判明した。

 もう1つは初でありオンリーワン能力。カード自体の色とは別の色によるエコーコストが設定されている。赤のクリーチャーだが、継続して利用しようと思えば黒マナを必要とする。自ずと赤黒でしか運用出来ないように見えるが、そこは速攻持ち。赤単か黒を使用しない構成ならば、それこそ歩く火力として投げ捨てればよい。その運用が強いか弱いかと問われれば返事は後者になるが、赤単でも使える赤黒のカード、なんていうクールなデザインは評価されてよい。

 親玉であるデーモンの王、ウーコーさんご本人にはいつになったらお会いできるのかも楽しみの1つである。


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2015/1/31 「黒曜石の戦斧」



  戦士という部族は実はその歴史が浅い。検索エンジンを使って調べると、なんだ『レジェンド』の時点で《猫族の戦士》がいるじゃねえかとなるのだが…ところがどっこいそいつは昔は「猫族の戦士の召喚」だった。クリーチャーのタイプを○○の召喚と書かなくなった後も、しばらくは猫族の戦士というタイプは存続した。それが後に「猫」と「戦士」に分離することになる訳だが、それでは戦士の初出はいつなのか?と言うと、これが意外に『ミラディン』である。ちょうどモダンの話をしていたウィークなので、噛み合っている。

戦士が戦士としてデザインされだしたのは、モダンに含まれるカード以降の物しかないというわけだ。そしてタイプから部族としてサポートされるようになったのは『モーニングタイド』にて、さらに『タルキール覇王譚』でも大幅に強化されることとなり、今脂がのりにのっている部族である。「モダンのいぶし銀ウィーク」(代わりになるタイトルが見つからなかった。激渋ワンチャンスウィーク?論外)のシメはこの戦士を支えるカードを迎えよう、《黒曜石の戦斧》だ。

 3マナの装備品で装備コストも3マナ。修正値は+2/+1でオマケに速攻付与。悪くはないがちょっと重い。2マナ2/2を後半引いてきても5マナ4/3速攻として扱えるのは、まあ悪くはない。既に戦場に出てるクリーチャーに持たせるんだったら速攻はいらないし、修正値の効率で見ても《骨断ちの矛槍》の方が…となるのは当然。初めに言った通り、これは戦士を支えるカード、戦士と組み合わせてこそその真価を発揮するのだ。

 戦士が戦場に出ると、誘発型能力でマナ不要で装備させることが出来る。これの後に続く戦士はただただ強く、速くなっていくのだ。3マナで設置するだけでOKであり、ある種装備品でありながら《ヤヴィマヤの火》のようなエンチャント的に機能するカードである。

 このカードと相性の良いものは《カメレオンの巨像》《レンの地の克服者》と数え上げればキリがない、それこそ全ての戦士をメチャ強にしてくれるから全部トントンと言えばそうなのだが…《傲慢な完全者》との組み合わせは、危険極まるものだ。3ターン目斧設置、4ターン目完全者を出して装備させ、能力起動。エルフ・戦士が出てきて斧を担いで4/3速攻が殴りに行く。以後、毎ターン4/3を射出し続けると考えると、汗が止まらない。これに《茨森の模範》が絡むともう訳が分からん。当時のスタンダードでは本当にお世話になったものだ。

 先述したように『タルキール覇王譚』『運命再編』では白と黒に特に強力な戦士が集結している。これら2色でも良いし、先のエルフ戦士エンジンと組み合わせてアブザン・ウォリアーズなんてのも面白いかもしれない。《タルモゴイフ》が4枚揃えられなくとも、安くて面白いカードでモダンを遊びつくすことは可能なのだ。


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2015/1/30 「魔女の腑のネフィリム」



  『運命再編』でも目玉神話レアと言われて、実際にスタンダードでも使用されその能力の一端を見せたのも記憶に新しい《僧院の導師》。この手の、非クリーチャー呪文と相性の良いクリーチャーというのは古くから存在する。

《クウィリーオンのドライアド》は非常に多くのプレイヤーの心を掴んだ。土地を切り詰め、少数のクロックと1マナドローやピッチスペル、「グロウフィッシュ」「ミラクルグロウ」「スーパーグロウ」「カナディアンスレッショルド」「RUGデルバー」…皆好きなはずだ。

そのファミリーに、もしかしたら《僧院の導師》率いる新たなデッキが名前を連ねるかもしれない。が、今日は同系列のカードにしてもっとパンチの効いた、オススメの1枚を紹介しよう。

 まず、イラストよ。これはアカン。「魔女の腑」の名の通り、確かに「腸」っぽいデロンとした身体に人間のような歯茎剥き出しの口と長い舌、蟲のような長い手足に毛が生えて、そしておでこにあたる部分に謎の人面上の紋様。

こんなものがハラワタとして腹の中に収まってる魔女は真の化け物じゃねーか。グロテスク極まりないその見た目に反して、色鮮やかな間海外の4色というマナコスト。

そしてサイズはたったの1/1!ただ、そんな人間一人分の戦闘力も(この見た目で人間と同等のサイズとか想像もしたくないが)、あっという間に象を上回り、ドラゴンを見下げて、魔界の王族すら踏み潰す大怪物へと成長するのだから恐ろしい限りだ。

この手のクリーチャーは呪文の色やタイプを指定してくるのが常だが、ネフィリムは呼び出すのに4色も要求しているだけあってその辺はおおらか。

呪文であれば何でも喜んでその精気を吸い、一気にサイズを2段階成長させる。まあこのマナコストなら呪文2回唱えてやっとスタートライン、3回目からは頼もしい怪物として暴れてくれることだろう。

 書いててやっぱり、活躍できない気しかしなくなってきた。これならまだ《クウィリーオンのドライアド》2ターン目に出して育てた方が随分マシである。《タルモゴイフ》最強。

 さて、空気のような2つ目の能力。攻撃時にパワーが10以上であればトランプルを得るというもの。これ、普通にパワー10越えたらトランプルを得る、で良いんじゃないの?と思われる方も多いと思うが(最初から持ってていいじゃないか、というのはナシで。この話の焦点はそこじゃない)、これは実はわざわざこんなわかりにくい能力として設定している。

何故なら「ネフィリムがパワー10以上の時、これはトランプルを得る」という能力はマジックのルール上、機能しないのである。「???」と思われた方は、お近くのジャッジに聞いてみて欲しい。…丸投げEND、たまにはそういうのも良いじゃない。ジャッジと交流していこう!


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2015/1/29 「奇妙な収穫」



  《出産の殻》、禁止。そらそうだ。《宝船の巡航》《時を超えた探索》を締め出すのであれば、一強になってしまうだろう《出産の殻》もセットになろうというもの。《包囲サイ》を招き入れたことで、なんとなく《台所の嫌がらせ屋》をサイに繋げて《修復の天使》でブリンクして勝てるデッキになってしまった。まあ毎回の禁止改定で「今度こそアウト」と言われ続けたカードだったし、長きに渡って頑張った方だと思う。お疲れさん。

で、その後釜…前回の《怒鳴りつけ》と内容は重なるけど、「スポットが当たるかも知れなくもないんじゃないの?」な1枚をご紹介。《奇妙な収穫》。古くは『オンスロート』が初出のカードだ。GGXというマナコストで、各プレイヤーはX枚クリーチャーをサーチして手札に加えるというソーサリーだ。かつての《繁栄》を緑にしたらこうなった、そんな感じの1枚である。《繁栄》は対戦相手もドローするということで一見弱いカードだったのだが、結局のところ自分のターンでこれで得たアドバンテージを消費しきってコンボを決めれば勝ち、という強力な1枚だった。というわけで、この《奇妙な収穫》も同様に使われた経験がある。それもただのドローではなくサーチなので、クリーチャーを用いたコンボにおいては確実性が非常に高く信頼のおける1枚となっている。

実績としてはスタンダード現役時(第9版)では「禍我シュート」、エクステンデッドでは「親和エルフ」、それらのデッキで決め手とそれに繋ぐエンジン、サイドボードの1枚とあらゆるものをサーチ出来るカードとして存在感を示したものだ。ただし逆の観点から見ると、マナがかかるのもまた事実であり、しかもサーチした上で展開まで繋げなければならない。1枚サーチするだけでも3マナは食ってしまう。

比較すべきカードは《召喚の調べ》で、調べの場合打ち消されてもただの1:1交換だが、《奇妙な収穫》X=1で唱えてからサーチしたクリーチャーを打ち消されてしまうと、対戦相手が1枚サーチした分明確に得しているのだ。この挙動、かかるコストはクリーチャーのマナコスト+3マナと両者同じであることを含めて考えると両者の特色が大きく出てなかなかに面白い。《奇妙な収穫》には《召喚の調べ》が逆立ちしたってたどり着けない複数サーチが可能なことを、今一度強調しておこう。

というか、両者使ってデッキが組めないだろうか。「親和エルフ」チックなものを目指したいなぁ。…《クローサの拳、バルー》?

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2015/1/28 「怒鳴りつけ」




  《宝船の巡航》、禁止。そらそうだ。これ以上出航されちゃモダンの国庫がスッカラカンになってしまう。宝船自由貿易時代は終わったのだ、もう過去であり「あの頃」と懐かしむ前時代となったのである。そんな時代に、最もオイシイ思いをしていたのはバーンだったと言い切って良いだろう。火力を撃って撃って撃ち尽くして、墓地をごっそり貯めたら船を待つ。フェッチランド×《蒸気孔》という万全のマナベースに、火力とクリーチャーと4枚の宝船。これほどわかりやすく、また強力な構築もない。いくら自由が許された大地であるとは言え、自由すぎるのも理想郷とは程遠い。こうして、タッチ宝船時代は終焉を迎えたのであった。勿論、そうよ。

 さて、そんな「宝船の後釜」などあるべくもないが、まあかつての名カードを掘り返せば、ちょっとは代わりになるカードもあるかもしれないよということで。カードパワーは大きく差があるが、今日の1枚は《怒鳴りつけ》。3枚ドローのソーサリーという時点でこれらは共通している。している、ってことにしておこう。

 所謂「懲罰者」と呼ばれるサイクルに属する1枚である。AをしなかったらBということが起こるよ、という二択を対戦相手に迫るカード群である。これらのカードは、結局のところ「選択肢が相手にあるカードは弱い」というマジックの定説に収まりきる程度のパワーしか持たなかったが、どんな世界にもイレギュラーは存在するものだ。この《怒鳴りつけ》だけは他と格が違う、強カードとして認知される1枚であった。このカードが迫るのは「本体へ5点ダメージ」or「3枚ドロー」。3マナで得られる効果としては何れも破格である。また、バーン系のデッキが3枚もカードを引けば、5点のダメージを弾き出すことも容易い、即ちどう転んでも高ダメージに繋がる呪文なのだ。そのためこのカードは懲罰者サイクルはおろか、赤という色の中でも頭1つ抜けた、様々なデッキで愛用された存在となったのだ。

 最新のオラクルでは、直観的な使い方と挙動が少々異なるので注意。まず、対象にとるプレイヤーは「あなた自身」。これを勘違いすると酷いことになる。あなたがカードを3枚引くことを、他のプレイヤーは5点のダメージを受けることで打ち消しても良いよ、という呪文である。うっかり、ターゲットはあなた!なんて言ってしまうと、相手に3枚献上してしまうことになるので気を付けたい。特に、Magic Online上ではね。《神聖の力線》を相手が貼って来てもチャンスのある呪文である__その状況で《稲妻》を3枚引いても仕方ないだろうが。宝船には遥かに劣るが、そういったぶっ壊れカードが無くなったことでいろんなカードが使われるといいなという、願いを込めて。


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2015/1/27 「アンデッドの戦長」




  『時のらせん』の再録はなかなかに渋いものを重点的に取り扱っていた__当時もそう思ったし、今見返してみてもそう思う。いくらお祭り・同窓会的セットと言えど、各時代で活躍しまくったカードを全員集合させても悲惨極まりないことになってしまうのは目に見えている。適度なパワーバランスで、バリエーション豊かなカードが一堂に集結するのが望ましい。ということで実に渋い、激渋カード達が還ってくることになった。その中に個人的なお気に入りがいて、それはそれは嬉しかったものだ。《アンデッドの戦長》である。

 4マナ1/1という一見ビビっちゃう貧弱ボディに見えて、珍しく自身の能力で強化されるロードなので一安心。しかも+2/+1と破格のサイズアップだ。4マナ3/2ならば、まあまだ許せるレベルである。大事なのは本人ではなく、周りのゾンビが大きくなること。パワー4の《墓所這い》がカミカゼアタックを毎ターンしかけてきては耐えられるデッキの方が少ない。そして、パワーを上昇させる味方を後からどんどん展開しやすい様に1マナコストを軽くするという魅惑の能力付き。《ゴブリンの戦長》とサイクルを形成しているだけあって、アンコモンであったとは思えない優れたロードである。

 《生命散らしのゾンビ》《アンデッドの王》《死の男爵》《アスフォデルの灰色商人》と、マナが安くなることで嬉しいゾンビは沢山いるものだ。これらをゾロゾロと並べると、黙示録の日を迎えたようで非常に楽しいことこの上ない。…と思うのは僕だけじゃないと信じている。皆ゾンビ好きでしょ、大丈夫隠さなくて良いから。モダンでデッキを組んで遊ぼうじゃないか。オンスロート期のスタンダードでも決定力の高さから「ゾンビ召集」でズラリと並んだ雄姿をよく目にしたものだ。

 「ゾンビの戦長」ではなくアンデッドのそれであるのは、単に語感の問題であろうか。マジックにおいてはアンデッド=ゾンビであるため、特別これらを呼び分ける必要はないのだが…まあなんとなくなんだろう。タイプとしてはつぎはぎ系ゾンビで、しかもパーツに損傷は腐敗は見られず血色も比較的良い。「死にぞこない」というよりは組みなおされ別物になった死者、というところだろう。


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2015/1/26 「硫黄の精霊」




  来週に控えたプロツアー『運命再編』。フォーマットはリミテッドとモダンだ。モダンがフィーチャーされるのも随分久しぶりで、しかも《宝船の巡航》《時を超えた探索》《出産の殻》が禁止・《ゴルガリの墓トロール》が解禁を受けた直後のプレミア・イベントということで、全世界の期待が高まっている状況である。今週は、そんな環境が激変するであろうモダンで、活躍し得るポテンシャルを持ったカードを紹介しよう。「モダンのいぶし銀ウィーク」…まあ、今週の終わりまでには良い纏め方を見つけておくよ。なんにせよ、1枚目の紹介行ってみよう。

 というわけで《硫黄の精霊》。変わった能力を持っており、とても『次元の混乱』色が色濃く出たデザインである。赤くて瞬速持ちのクリーチャーというのは非常に珍しい。赤は速攻の色なので、瞬速の「ソーサリー除去を受けずに殴ることが出来る」というメリットをそれほど必要とはしていない。ただ、色の役割が大きく変わろうとしているのがこの『次元の混乱』で、速攻の亜種と呼べなくもない瞬速を持っていることにそれほど違和感がある訳ではない。

 無視できないのは、白のクリーチャー全てに+1/-1の修正を与えるという能力。元々、赤は白への憎しみを込めたカードが多くデザインされている。お互いに敵意剥き出しのカードを持つ、THE対抗色といった間柄の2色であるが、この《硫黄の精霊》は一味違う。パワーを上昇させるというメリットと、タフネスを減少させるデメリットを併せ持っているのだ。ただタフネスを下げるだけだと強力すぎる故のデメリットなのか、あるいは自軍のパワーを上げて打点を高めるという選択肢も取れるカードとしての幅を広げたのか。制作秘話はどうあれ、使われ方はほぼ「対白決戦兵器」としての運用一本だった。環境に溢れるタフネス1の白のクリーチャー、《サバンナ・ライオン》や《砂の殉教者》、そして永らく赤の天敵であった《サルタリーの僧侶》を文字通り一掃したのだった。

 このカードの強みは、もう1つの能力「刹那」にもある。見てから対応出来ない、不可避の全体除去兼クロック。これが2枚並んだりすると、ほとんどの白いクリーチャー(構築シーンにいるということは、軽くて小さいものだ)は生存を許されなくなる。尋常じゃないよね。赤の復讐の時間が始まった、当時はそう実感し戦慄した。

 現在、プラチナレベルに輝くプロプレイヤー、渡辺雄也氏をGP優勝へと導いた1枚でもある。サイドボード用に見えるカードだが、「青赤トロン」でメインに4枚フル投入され、優勝へ導いた…あの年から8年近く経つのか。2015年のモダンでも、白いクリーチャーを中心としたデッキ、特に《僧院の導師》を迎えたトークンデッキなんかが流行ったりすればまたスターダムにのし上がってくることだろう。


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2015/1/23 「大蛇の守護神」




  「守護」に続く言葉で1位に輝くのはおそらく「神」であろう。各種スポーツでも「絶対的守護神」なんてフレーズを聞くとルールをよくわかっていなくてもその人の役割が何となくわかるというもの。マジックの世界にも、護ってくれる神が如き力を持ったものが存在する。アバターや「テーロス」にて登場した神なんかもそうだが、もっと直球に「守護神サイクル」というカード群が存在する。今日はそんな中から緑の1枚を紹介しよう。

 《大蛇の守護神》は、その名の通り大蛇人・即ち蛇を護る神である。「神河謀叛」において5色それぞれの主要部族にそれを守護するスピリットが登場した。彼らは、護るだけでなく対価を求める存在でもあった…。「献身」という彼らのためだけに創られた能力。守護神は皆ヘビー級のマナコストを誇るが、彼らがそれぞれ護っている者達がその身を捧げる・即ちそれらのクリーチャーを1体生け贄に捧げることで、そのクリーチャーのマナコスト分だけコストを軽くした上にインスタント・タイミングで唱えることが可能になる。

例えばこの《大蛇の守護神》は8マナだが、《樫族の戦士》を捧げれば実に3マナで呼び出すことが可能となる。除去されそうな・あるいは当時のルールならば戦闘ダメージをスタックに乗せた後の者を媒介にして、奇襲的にキャストされた7/7はそれだけで恐ろしいものだ。この献身という能力はなかなかに面白いものだが、公式のパーマネントをコストとすることについてのコラムでは「このジャンルではキーワード能力は未だに登場していない」と、完全に空気として扱われていて少々切ない。

 サイズを抜きにしても、この守護神の能力はなかなか強烈だ。1ターンに一度しか使えないという制限付きのタップ能力は、全ての緑のクリーチャーと《森》をアンタップするというもの。純粋に《森》から精製されるマナが2倍になり、緑のお家芸であるマナクリーチャー達も起き上がり倍のマナをプロデュース。直接大蛇と関係のある能力ではないが、その展開力を大いに支えることになるだろう。《大蛇の孵卵器》とのシナジーは恐ろしいの一言に尽きる。うまくクリーチャーを手札にバウンスしたり速攻を付けるシステムを形成できれば、無限マナも夢ではない。まあ、そこまでやらなくても20マナとか出ればゲームは終わるでしょう。

 特殊フォーマット「モミール・ベーシック」では8マナという深淵の領域に潜む1枚であり、ちょくちょくお会いすることもある神様。これがあることを計算して、8マナ目は2枚目の森をセットする、など意識しだしたらもう立派なモミール中毒者。こっちだけマナをを伸ばすことが出来る可能性があるのは魅力的だが、対戦相手の緑のクリーチャーと《森》もアンタップされるため、無暗に起動してしまうとアタックにいけなくなったりアドバンテージをとられてしまうので気を付けよう。


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2015/1/22 「森を護る者」




 「インビテーショナル97」を知る人は最古参を名乗って良い。もう開催されなくなって久しいインビテーショナルというイベントの記念すべき第1回である。その名の通り世界中から招待されたプレイヤーが、複合フォーマットで戦い強豪の中で頂点を目指す__今の世界選手権に近いトーナメントであった。そんな大会を優勝したのはスウェーデンのオーレ・ラーデ(Olle Råde)。初代インビテーショナル王者である彼は、初代Player of the Yearでもある。そしてアメリカ人以外で初の・同時に当時の最年少PT王者である。要するに、手がつけられないバケモノだったのだ。美しい長髪から貴公子と形容されていたが、兵役を機に坊主頭になったりして話題になった(スウェーデンの兵役の義務は現在は撤廃されている)。

 インビテーショナルと言えば、その優勝副賞でご存知の方もいるだろう。カードをデザインし、それが調整を重ねた末に自身の顔・姿が描かれたカードとして実際に製品化されるという、マジックの歴史に物としてその名を残すことが出来る特権である。この副賞は第1回の際には設けられていなかった。そのため、ラーデはこの特権を後年に受け取ることになる。優勝してから5年後に発売されるセットに収録されるカードをデザインするに至ったのだ。そういった経緯でラーデがデザインしたのは、インビテーショナル・カードの中でも最軽量の1マナクリーチャーだった。《森を護る者》である。

 1マナ1/1、戦闘面では頼りないが、その能力で戦線を支えるTHE システムクリーチャー。《森》を1枚生け贄に捧げることで、クリーチャー1体に被覆を与える、「守護ウィーク」にて語るに相応しい1枚である。自身は打撃力はないが、横にいるワームやビーストが生き延びれば勝負を決められるのが緑という色。臭い匂いは元から…とこの守護者自身に除去を撃っても、自身もその能力で護ってしまうためなかなかに凶悪。《森》の枚数と除去の枚数のチキンレースが始まってしまうことも考えて、安定して《森》が供給されるシステムを作ろう。白緑のシステムクリーチャー満載ビート「マーベリック」や、瞬殺コンボ「ハルクフラッシュ」においてスリヴァー達のお守りに採用されるという形で、レガシーにおいて活躍した。かつてのスタンダードでは、見た目はエルフなのにウィザードであり(オデッセイ・ブロックではエルフが登場しないため)、その点でカードパワーに見合わない出場機会となっていた。後に人間のタイプを獲得。

 「森を護る」存在が《森》をバンバン生け贄に捧げるってどういうこと?と思ってしまうかもしれないが、これは「森の」という書き方がどうしても森そのものを指しているように思えるため。この「森の」は「森に住む・森における」というニュアンスであり、「森の平和を護る者」と考えるのが良いだろう。

 巨大な蜘蛛に乗った姿も印象的だ。これは「バグバインド」というデッキを駆りPTコロンバス96で優勝した彼へのリスペクトの表れだろう。激渋クリーチャー《巨大トタテグモ》を活躍させ、蜘蛛という構築であまり見ない存在へ光を当てた彼の功績を讃えたものだ。


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2015/1/21 「オーガの歩哨」




現在、赤は強力な軽量クリーチャーと一気にライフを詰める火力、アドバンテージを生み出すプレインズウォーカーと駒が揃っており、非常に安定した戦力を誇るカラーとなっている。

…嘘だろ、と現状を疑ってしまうことが時折ある。それは、僕が赤の冬の時代を知っているからである。長く遊ばれている方ならば、その時代を知っているはずだ。

『テンペスト』の頃、赤は黄金期であった。殴って焼いて転がして、そんな「スライ」の時代はいつまでも許されなかった。これまでの強さを失い、静まり返った赤。長く、冬の時代が到来した。《山》よりも使用枚数の多い他の色のカード達に飲まれて、赤は開き直って「混沌系」カードを大量に生み出し、迷走して行った。


かつての赤では、2マナ2/2デメリットなしですら許されなかった。なんらかの足枷があったものだ。2マナ2/1、能力が活きないというクリーチャーをデッキの主力として搭載した赤単が登場したりもした。そんな辛き時代を乗り越えて、徐々にクリーチャーの質も改善され、《稲妻》が再録されたりして…赤はその存在感を取り戻してゆくのだ。そんな中で2マナ3/3能力持ちが登場。こんなもん、事件やないかい!と思って冷静にテキストを読んで「あぁ、そうね」となった。そんな思い出がある1枚、《オーガの歩哨》である。


思えば2マナ3/3など、クリーチャーに最も長けた緑ですら単色では《アルビノ・トロール》くらいしか到達していない領域である。それを赤が成し遂げたのは素晴らしいが(実はコイツ以前にも他のオーガが先駆けていたりするが)、まさかの防衛持ちとはなぁ。最初にプレビューを見た時はそう思ったものだ。


『エルドラージ覚醒』がそのベールを脱ぐ。このオーガをはじめとする防衛持ちによるシナジー、レベルアップ、無色・エルドラージ呪文、反復呪文…いろいろなものが詰め込まれたこのセットを用いたドラフトの面白さは、筆舌に尽くしがたいものだった。

何度遊んでも、未知のシナジーにより苦しめられたり勝利することが出来る。のめり込むとはああいうものを前にした時に言うのだろう。様々なアーキタイプでのドラフトを経験したが、このオーガにも本当に世話になったものだ。

序盤のアタッカーであればなんでも相討ちにとってみせるそのサイズ。壁なのにパワーが3もあるので、相手も損失なしでは突破することが難しい。所謂「ジャイグロ系」の呪文を、防衛持ちが多くても強く使用できるというのも良かった。そして《戦争売りの戦車》を装備させてアタッカーに転じさせた時の信頼感…あぁ、本当に良い時代で、素晴らしい1枚であった。


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2015/1/20 「精油の壁」




『運命再編』の発売が迫っている。ワクワクする世界設定、変化するであろう運命に備えよ___。それらしいことをなんとなく書いてみたが、言いたいことはシンプル。いろいろ変わるから、それらに備えようということ。そこで今週は、何かに対して備える防御力重視なカードを紹介していこう。「守護ウィーク」だ。

《精油の壁》は、まさしく防御に特化したカードそのものである。まず、「壁」であるし。マジック誕生時以来存在するクリーチャータイプである壁には、マナコストの割に高いタフネスが割り振られているが攻撃できないという独自のルールが与えられていた。

「防衛」という能力が定義されて以降は、壁であることと攻撃出来る出来ない云々は結びつかないものとなって、壁以外でも攻撃に参加できない「守備職人」が増えたものだ。しかし、壁が絶滅した訳でもなく、今でも最新セットにその姿を見かけることがある。非生物だから殴れない、っていうのは初心者にイラストからカードの役割が伝わりやすくて非常によろしい(中には明らかに生きているものや生きていたものもあるが…)。

この《精油の壁》はイラストでは壁というかバリヤー呪文のようにも見えるが、まあ術者を護るものであることには変わりない。髑髏なんかの悪しき者が行く手を阻まれていることでその雰囲気も伝わりやすい。カードとしては2マナ0/4、まあ平均的な壁だ。

この壁に、魑魅魍魎が危害を加えんと触れると、その与えたダメージ分、壁の向こうの標的のライフが回復してしまう。2/2を2体並べた状況でこの壁が立ちふさがると、2体でアタックしてどちらかがブロックをすり抜けてダメージ…というのは意味がなくなってしまう。1枚で2体のクリーチャーを足止め出来る可能性があるカードというのは素晴らしい。

これを突破しそうなサイズの巨大生物にだけ除去を合わせていけば、無駄なく盤面を抑え込めるではないか。万に1つ、《巨大化》などを絡めて討ち取られてしまっても、とりあえずライフは回復出来るのでOKということにしようではないか。ちなみに、戦闘ダメージ以外のダメージには為す術がないのでそこは注意。《紅蓮の達人、チャンドラ》の+1能力は天敵。

このカードはまさかの『基本セット2015』に再録されて、初出の『ストロングホールド』の古き時代のマジックらしさが色濃く残ったイラストのまま新枠になったが、意外にマッチしてかっこいいじゃないかと思ったものだ。ただ、意味不明すぎるフレーバーテキストが除かれたのは残念。「天井と床が恋に落ちた。しかしそれを知っているのは壁だけだった。__ダルの格言」…格言、とは。


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2015/1/16 「ガイアの祝福」



年明けなんで、美しいものを。趣味に走れば「そうじゃない」物はいくらでも紹介できるからね。美しいイラストと言えば、やっぱりRebecca Guayでしょう。

2015年、彼女が新しいカードのイラストを担当することになれば、マジックの歴史では無視できない大きな出来事となったりするんだけど、どうかなぁ。…ここは強く願おう。皆の心が一つになれば、奇跡だって起きるのだから。


そんな彼女の代表作として、どのカードを挙げるか。これは非常に難しいところである。あれもいいこれもいいで話が進まない。これは「素晴らしいアーティストあるある」、唯々議論するだけで時間が過ぎて行く。素敵じゃないか、そもそも1枚だけに決まる訳なんてないのだから…。


ただマジックはゲームであり、イラストに関わらず強ければ多く使われて人の目にも着くことになる。では最も飛び交ったRebeccaのカードって、何なのだろうか?これも実は、ちょっとばかし難しい。

彼女がイラストを担当するカード達は決してバリバリの武闘派というわけではないが、しかしデッキの中でそれにしか出来ない役割を与えられたカードも複数存在する。

それらの中で、期間を限定してしまえば…ある時期に最も見られた1枚はこの《ガイアの祝福》ということになる。「だろう」ではなく、「なる」。言い切れてしまう。


このカードが自身で使用される道を切り拓いた、というよりは便乗した感が強い。後に登場した《ドリーム・ホール》を用いたコンボデッキ「ターボ・ズヴィ」に、そして現在でもヴィンテージでしかその姿を見ることが出来ない《ドルイドの誓い》擁する「オース」系デッキに、ライブラリー修復要員として投入されることとなった。

ライブラリーから墓地に落ちると、オートマチック全修復を行ってくれる便利な誘発型能力に注目が集まったというわけだ。

むしろ、このカードがその役割を担えるからこそ、《ドルイドの誓い》を軸にしたデッキは誕生したのだと言ってしまっても良いだろう。

これが必然の噛み合わせだったのか、偶然の産物だったのかはわからない。マジックにはこういう、後に登場するカードと組み合わせることで化けるカードというものが多数存在する。

実は、もう目の前にあるのかもね。大事なことは、不確定なものを確定させたり、受動的なケースを能動的に引き起こせるということ。ちょっとした常識外しが登場したら、現行のカードプールを洗いなおすということを、プレビュー期間の日課にすると良いと思う。


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2015/1/15 「エイヴンの強兵」





ようやっと落ち着いたので、2015年のCard of the Dayもボチボチ始動させようと思う。

今年の目標は…もっと地味なヤツらを美味しくしてあげること!ということで、そんな新年第1発目にもってこいなこちらの1枚で幕を開けよう。


この《エイヴンの強兵》はイラストが全てだ。なんか、めでたいでしょ。日の丸っぽいというか、なんかお正月やお歳暮に添えられた紙にデザインされていてもおかしくないイラストである。まあ近づいてみるとまあまあ変な感じはするんだろうけどね。

この不思議なイラストの1枚は「トーメント」で登場した。同セットが掲げたのは「黒で戦え」という一言。僕もここまでそこそこマジックを触っていたが、まさかの一色肩入れという事態に驚いたと共に狂喜した。

当時まだ高1いや2年…だったかな?アルバイトも初めて自分でお金稼げるようになったので、初めてボックス購入をしてみようと友人らと買いに行ったら発売日にまさかの売り切れ。嘘だろと思いながら一週間後の再入荷を予約して待つことに。

この一週間の待ち遠しさと言ったらなかったよ。耐えに耐えた後の剥いても剥いてもパックが無くならない、開封祭りの楽しかったことったらなかった。

剥いたら1枚ずつ見ていくから、時間もものすごくかかったなぁ。今ではそんな思い出のボックスを購入したお店でお仕事して、1ボックス開封に5分かからないこともあるのだから人生ってやつは先が全く読めない。


さて、そんな楽しい「トーメント」パーティの後に残ったのは、夥しい数のコモンである。中でもこのカードはその見た目もあって、非常に目立った目立った。

しかも、カードとしてはめちゃくちゃ弱いときたのだからたまらない。4マナ1/1飛行・3マナと手札1枚をコストに+1/+2修正…こりゃ、ジョークだろ。黒が強いのは嬉しいが、使わない色とは言えこんな弱いカード山ほど手に入ってもしゃーない。当時は心からそう思ったものだ。学生だったし余計にね。


ただ、学生とは強いもので、このどうしようもないスペックのカードをどうにかしたいと考えるようになる。そこで開催されたのが「全日本エイヴンの強兵選手権」だ。

《エイヴンの強兵》を4枚必ず使用したデッキで対戦するというフォーマットの元、一週間は楽しめたんじゃないかな。4人で。

どんなデッキを作ったかは全く覚えていない。《激発》を共鳴者能力からマッドネスされて地獄を見たのは覚えている。ちなみに、唯一の禁止カードが《陽を浴びるルートワラ》だったことも記しておこう。若いってのは素晴らしいね、いろんな発想で自分で何とかできたもんだ。


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2014/12/29 「サンダーメア」



2014年最後の更新になる。今年も1年間、ご愛読いただき誠にありがとうございました。皆さんのレスポンスがあることで、無事に走り切ることが出来た。今年は午年(うまどし)。ということで、走り切ったということともかけて、最後は「馬」なカードについて語って締めることとしよう。

 《サンダーメア》。RPGの呪文のような響きだが、かつてはクリーチャータイプもその名と同じ独自タイプであった、立派な生物(精霊)。6マナ5/5速攻と、攻めっ気溢れるやんちゃなスタイルに、これまた攻め一辺倒としか言えない能力。

戦場に出た時に、自身を除く全てのクリーチャーをタップするというそれは、実に赤らしくド派手で後先を考えないものだ。その姿を現したターンにはこの馬の前を阻む者はなく、敵本陣に5/5を突入させることが出来る。最後の一撃…としては、《溶岩の斧》にやや劣るが、もう一撃欲しい…という場合は5/5残る分こちらがイカしている。

 忘れてはならないのは、この気高き馬の嘶きで自軍のゴブリンやバーバリアン達も怯んでしまうという点だ。この能力がその威力を発揮するのは、対戦相手の戦場にクリーチャーが並び立っているという状況。これらがタップ状態でない=アタックしてこないということは、こちらにも相応の軍備が整えられている、膠着状態というわけだ。

ここで、《サンダーメア》を投下して全軍寝かせるという動きは、メアの一撃で残りライフを削り切れるorこちらのライフが有り余るほどの状況であればOKなのだが、そうでない場合はNGとなってしまうだろう。次のターン、総攻撃を受けることが確定してしまう。

これが対戦相手のクリーチャー限定だったりしたら、それはそれで強すぎるが…まあ、野性の馬を手懐けるのは簡単ではないということで。その性質上、ブロッカーとして用いるのも困難を極める。むしろ全体タップを《静態の宝珠》などでうまく活かしてやるのが構築の妙味というものか。

 名前の意味は、「サンダー」はご存知の事かと思うが、「メア」は牝馬のことを指す。それも仔馬ではなく成長しきった雌の馬だ。雄馬は「horse」と呼び分けている。日本語文化からすれば不思議に感じるものだが、それらを全く別の物として接してきた文化がこのような単語を生んだのだろうと考えると面白いね。ちなみに「Nightmare」も直訳すれば「夜の馬」、ということでこのカードが《夢魔》のサイクルだということはお分かりいただけただろう。


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2014/12/26 「旅行者の護符」


 「シールドは綺麗なデッキを」「シールドはとにかく勝てるカードを積む」__個々人、あるいは環境で大きく変わるが、毎年必ず1回はシールドのGP、PTQといった練習無くては乗り越えられないトーナメントがプレイヤーの前に立ちはだかる。同じ練習量を積んだプレイヤーでさえ、その意見は大きく異なる場合がある。それがなんとも面白いではないか。よく、シールドは正解はないが失敗はあると言われる。最近は、色を足してでもボム(1枚で戦況を変える爆弾のようなカード)を追加して、デッキパワーを少しでも高めるという手法がとられることが多いかな?と思う。そういう考え方が広く浸透したのだろう。強いプレイヤーが様々な解説をネット上でしてくれているしね。

そのような「チョイ足し」手法がとられるようになったのは、かつてのセットより格段にそれがやりやすくなった現在のセット構成が手伝っている部分も大きいだろう。その昔は、緑以外の色マナサポートはそのほとんどがアンコモンであり、誰でもプールの中に持っているというわけではなかった。ところがここ数年、おそらく意図的な物と思われるが、多色デッキをサポートするアーティファクトや土地がコモンに必ずと言っていいほど含まれるようになった。今日の1枚《旅行者の護符》もそうした枠を担う1枚である。

1マナのアーティファクトというお手軽な存在にして、1マナと生け贄のコストを支払うことで好きな基本土地をライブラリーからサーチ出来るというなかなかの性能。戦場に出るわけではないので、所謂マナブーストではないが、しかし手札の損失もなく、淀みなく土地を供給してくれるという存在は有難いものだ。これにより、基本土地1・2枚とその色の爆弾レア、みたいなタッチ構成も不可能ではない。ダブルシンボルを多く要求するデッキに入れたり、フラッシュバックコストが他の色の呪文も運用しやすくなる。《放浪者の小枝》の同型再版ではあるのだが、「ローウィン」のそれと「イニストラード」のこれとでは、有用性に非常に大きな差がある。カードが活きるのは環境次第、その典型的な例である。

一方で当たり前だが、良い所ばかりでもない。結局、このカードを入れるということは、デッキの枠を1つ消費していることを忘れてはいけない。初手にある時の安心感はこの上ないが、ここぞという盤面でトップした場合八つ当たりしたくなるレベルで何もしないカードである。つまり、色を足してまで有用なカードを使おうとしているのに、それをサポートするのに戦力としてカウント出来ないカードが増えるのもまたリスクなのだということだ。色を足したが、本当にデッキのパワーは上昇しているのか?その辺りを見抜けるようになれば、1つ上のレベルに行けるのだろう。行ったことがないから、推測でしかないけれど。

さて、この《旅行者の護符》。実はフレイバー的意味合いでも素晴らしいカードなのだ。旅行者が目標の土地に辿り着ける、というのもさることながら、その身を護る小物というデザインをゲーム上で体感することも出来る。呪文が唱えられなかったターンを経験すると変身し牙を剥く「狼男」。リミテッドでは彼らと遭遇することが頻繁にあるが、それら邪悪なる怪物から身を守るのに、この1マナのカードは一役買ってくれる。このターンは他の呪文を構えて終わりたいが、動かなければ変身されてしまう…そんな時に、1マナでスッとキャストできるこのカードは非常に有用。こういう細かいプレイングが、高い次元のマッチでは重要になってくる(のだと思う)。「とりあえず使う」その前に、もっと有用な使い方を見つけられるカードは沢山あるはずだ。


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2014/12/25 「異教徒の罰」



 構築でもドラフトでも見ることがない・活躍することが難しいレアが、一転して猛威を振るうこともある。カードに秘められた可能性が、爆発する余地がある。なんと素晴らしい事か。「こんなん使わんよな」で終わっては、あまりにも勿体ないからね。そういった点でシールドは、是非とも遊んでいただきたいフォーマットなのだ。「重すぎる」の一言で切り捨てられる面々の安住の地が、そこにはある。

 《異教徒の罰》も、それ自体は5マナと、軽くもないが決して重すぎるわけではないカードだが…それが効力を発揮するのに、さらに起動の4マナが必要になることで実質9マナの呪文に換算される。そりゃ、重いよ。5マナで設置して次のターンを迎える…というのも、悠長に感じられる。結果、ドラフトでもデッキを選び、構築においては見向きもされなかった1枚であった。まあ、よくある話だ。

 しかしシールドにおいては…これはまさに異教徒に与えられた罰であった。というか、こんな罰与えられたら死んでしまう。過激派にもほどがあろうて。「イニストラード」プレリリースにおいて、僕はこのカード1枚で数多の勝利をもぎ取った。「エンド前、残りライフは?11?ペラペラペラじゃあ5点。アンタップアップキープドロー、起動ペラペラペラ4点。セットランドでもう一回…3点!」二桁ライフを一瞬で溶かすなんて、酷い話だがこれが現実。一番エクストリームな動きを見せたのは、7マナしかないから2発撃てないなぁなんて思いながら起動して墓地に落とされた中に《農民の結集》がコンニチワして、フラッシュバックから一気にライフをもぎ取った時。マナフラッド(土地ばかり引いて溢れ返る様)を起こせば起こすほど「ここで異教徒引いたら勝てる…勝てる!」と変な期待が高まっていたのを覚えている。

 「ヘレティックズ・パニッシュメント」という英名も実にメタル感があって良い。マジックの長い歴史においても、この「Heretic」という単語を「異教徒」と訳されたのはこれが唯一の例である。それまでの同単語は「異端者」というように訳されていた…まあ、ナチュラルで宗教色の薄いカードが多かったから自然とそうなったのと、しばしば問題となった宗教色の強いカードの封印(デーモン関係など。詳しくは当コラムの《Infernal Spawn of Evil》参照)などもあっての配慮かと思われる。そして、まあ時代も進み幾分おおらかになったところで、より作品の世界観にあった「異教徒」という言葉が用いられた、そうとらえるのが正しいのかなと。そう思っていたら続く「闇の隆盛」では「異端者」に訳されていたり。どうも、広い範囲を指す単語のようだ。


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2014/12/24 「敬慕される教師」



 ジレンマ___それと戦い、向き合っていくのがマジックというゲームである(たぶん)。ゲーム中の選択肢・デッキ構築・メタゲームの読み…などもそうだが、最も顕著に出るのがシールドの構築であると個人的には思う。この色はレアが最強だがクリーチャーが足りない、クリーチャーが足りる色はそもそも他の色よりも評価が一段階低い色なので、妥協して組んでもGP初日を突破できるかは怪しい。じゃあどうするか…いっそのことマナサポートを信じて贅沢にいってみるか?…こういった状況で100点満点の正しい答えを出せるプレイヤーは世界のほんの一握りで、一般的なプレイヤーは世界を目指すよりも失敗を避けることを優先するべきだ。シールドは本当に難しい。

 「エルドラージ覚醒」がMagic Onlineに登場した時、僕はこのリミテッドの虜となった。ドラフトもシールドもとにかく遊んでパックを稼いで(ちょくちょく大損して)、毎日楽しいMOライフを送っていたのも懐かしい話だ。シールドでは特に、《敬慕される教師》を見ての感想が多かったな、と思い出した次第で、今日の1枚に抜粋させてもらった。

 どういった感想が出てたのかというと、「ティーチャーいるのに青いLvアップいねぇ~」というものだ。同セットの看板能力「Lvアップ」は、クリーチャーにマナを注いでレベルを上げればだんだんと強くなっていく、RPG風味の能力だ。これをサポートするのがこの「ティーチャー」。自身は3マナ2/2のバニラと良いところなし…とまでは言わないがカードとしての下限といったところの能力。しかし戦場にLvアップ持ちがいればもうバニラとは言わせまいと、彼らに戦術を叩き込んでその才能を引き上げる。戦場に出た時に全てのLvアップ持ちにLvカウンターを2個置く=2レベルアップさせるという能力は、下準備が整っている状況では強力極まりない。1ターン目《空見張りの達人》、2ターン目《珊瑚兜の司令官》、3ターン目ティーチャーとか使う方も使われる方もクラッとくる強さだ。

 このティーチャーが、例えばプールに3枚あるけども青自体は貧弱。白にLvアップ持ちがいっぱい…こんな時、《勇者のドレイク》がいたらなぁ。そういった思いにさせられることが多かった。またあの環境のシールドで遊んでみたいが…難しいだろうなぁ。


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2014/12/22 「高射砲手」



 一口に「リミテッド」と言っても、「ドラフト」と「シールド」は全く別のゲームだ。シールドにおいてプレイヤーは、与えられたカードプールの中からトーナメントで勝つために最善のデッキを組みあげることを目指す。よくプールが弱い、強いという話をするものだが、本当に強いプレイヤーはプールが弱いながらも最善を尽くしたデッキで勝ち抜くこともあるし、プールに所謂「ボムレア」3枚もあるわ~と胡坐をかいていたら盛大に組み間違えていて悲惨な結果に…という経験をするプレイヤーも決して少なくない。ドラフトはピックの段階でカードの取捨選択を迫られるが、シールドは「流れ」がないために何が正しいのかを自分で判断して組まなければならないという、別の難しさがある。ドラフトでは13手目のようなカードが、シールドではゲームスピードの違いから戦力として十分に機能したりする。マジックって本当に面白い。今週は先週の予告通り「シールド・ウィーク」をお送りしよう。

 個人的に、シールドで本当に強いと感じたカードの1つが《高射砲手》だ。「ラヴニカへの回帰」の頃はPTQに出るためにシールドの練習を何度かしたものだ。その度に、このカードの渋い仕事に感動したのを覚えている。いざ本番でも、これのおかげでスイスラウンドを好成績で抜けることが出来た。プールを見て2枚いたりすると「おっ」と嬉しくなったり。このゴブリン・戦士は、その部族に似合わず防衛持ち、即ち壁である。3マナ0/4とサイズも平凡。しかしながら、本当に良い働きっぷりを見せてくれたんだよこれが。

 タップすると対戦相手に1点のダメージを与える。これが「各対戦相手」であり、地味に多人数戦を想定しているのもなかなかにかわいらしいが、それは置いておこう。3マナで壁として登場し、地上戦力の基本線である2/2・3/3をキャッチしつつ、エンド前に本体1点。この動きが地味~にいやらしい。たかが1点、されど1点。3マナ1/4警戒&ブロックされないというスペックのクリーチャーと考えると、リミテッドならば悪くないじゃないかと思われることだろう。

 そして真価を発揮するのは、多色の呪文が複数デッキに入っている場合。それらの呪文を唱えると、この砲手はキビキビと次の撃ち方の用意を始める。これによりダメージ→マルチ呪文→アンタップ→相手のエンド前ダメージ、という2点クロックへとサイズアップする。この動きは鉄板で、気が付けばブロッカーを出しているだけなのにダメージレースで勝っていた、なんてこともザラだった。

 リソースが限られているシールド。それ故に、戦線が膠着することが世の常なのだが、そんな時にこういった直接ダメージを与えることが出来て防御に優れたクリーチャーがデッキに1、2枚入っていると、差をつけることが出来るだろう。長期戦に強いっていうのは、それだけでステータス。


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2014/12/20 「エメリアの盾、イオナ」



 「Shield」の意味は「盾」だが、転じて「護る者」「保護者」という意味で用いることがある。日本語でも「後ろ盾」という言葉があるように、頼もしき存在を実際の防具に例えることは全世界共通の認識だ。「シールド(盾)ウィーク」のトリを飾る、最後の大盾である《エメリアの盾、イオナ》も、その名の盾が意味するところは「エメリアの保護者」であろう。

 この伝説の守護天使、実はムチャクチャでかい。デカすぎる。バケモノだ。彼女の眼前に浮遊する岩に、よく見れば人が乗っている。デカい。正直、こんなものと直面したらそれが何か認識できないだろう。怪獣や巨大ロボットの世界じゃないか。怖いよ。でも日ごろの行いが良ければ、彼女は守護天使として護ってくれるんだろうな。これほど頼もしい存在もないだろう。彼女は「エメリア」を護る者であるが、この「エメリア」というのは《空の遺跡、エメリア》のこと。この遺跡は「空の神、エム」にまつわるもので、次元ゼンディカーでは古来より崇められている存在である。その正体は…ヒントは「エム」「太古の昔」「神」。もう、お分かりでしょう。詳しくはまた、機が訪れれば…

 そんな空の神の遺跡を護るこの大天使は、9マナ7/7飛行とそのサイズも天使のサイズを逸脱したものだ。そして、その能力こそが彼女が「エメリアの盾」と呼ばれる所以である。戦場に出るに際し、色を1つ選ぶ。以後、この天使が戦場に居続ける限り対戦相手はその色の呪文を唱えることが出来なくなる。強烈な、無慈悲なまでのロック。これはトリプルシンボル9マナという強烈なコストなのも頷ける。相手が単色だった場合、多くの場合はこれにてジ・エンド。まさしく「フィニッシャー」、ゲームを終わらせる強さというものを体現した1枚である。

 その強烈な能力は、ひと手間かけるだけの価値があるもの。ひと手間、即ち「リアニメイト」。《納墓》や各種ドロー&ディスカード呪文などで墓地に埋めたら《再活性》《死体発掘》で釣り上げてやると2キル、《暗黒の儀式》を絡めれば1キルだって容易い。レガシーは2色、3色は当たり前に存在する環境なので「即詰み」という状況にはそう簡単にはならないが、しかし「バーン」「エルフ」など1色封じられただけで機能不全に陥るデッキが存在するのもまた事実。こういったことを避けるために、デッキ内の除去の色を散らしたり、《Karakas》という最強のお守りを忘れずに投入するといった、構築段階での勝負に負けないようにしたいものだ。

 その能力は色を封じる。いわば、プロテクションの上位能力のようなものだ。…プロテクション?色?「プロテクション(有色の呪文)」を持つ、「空の神、エム」を髣髴とさせるではないか(答え言ってるも同じやね)。


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2014/12/19 「エルゴードの盾の仲間」



 今週は「シールド(盾)ウィーク」ということで、物理的なシールドについて書いてきたが、魔法が飛び交うマジックの世界では、それだけしか能がない盾では限度というものがある。恐怖と闇に飲みこまれたり、潮流に絡め取られたり、強烈な光で浄化させられたり…ダメージ以外の魔法の力で、クリーチャーは簡単にその命を落とす。それらの魔の手から見方を護る「対魔法盾」があれば、これは心強い武装となる。魔法と科学の力を合わせて作り上げたのであろう、その盾を持つ連中が次元イニストラードには存在するようだ。

 《エルゴードの盾の仲間》は、そんな盾を自身の仲間にも提供する心優しき人物である。「アヴァシンの帰還」により闇が晴れたイニストラードでは、魂レベルで結びつくことで能力を共有する「結魂」という能力に目覚めた者が複数登場した。多くは、マジックの基本的な能力を共有し合うもので、このエルゴードの兵士は呪禁を共有する能力の持ち主。純粋な除去耐性を付与するその能力は、盤面で既に活動しているクリーチャーのマウントがひっくり返らなくなる様に使っても良いし、これから出てくる大物がややこしいことになるぞ、という無言のプレッシャーをかけ続けても良いだろう。シンプルイズベスト。

 自身が呪禁を持つというのもありがたく、こちらが潰されてその仲間も…という展開にはなりにくいのがこのカードのウリだ。ただ、結魂には誘発してから解決するまでのタイムラグが存在するため、その間を狙い撃ちされるのはやむを得ない。このカードに限ったことではないが、うまくいった時のリターンが大きいのであれば、多少のリスクを払うことは気にしちゃいけない。時折パーフェクトなカードも登場するが、それらが特別すぎるというだけの話だ__コモンにあんまりそこまで求めるのも酷というもの。

 一見、見方に魔力シールドを共有する「イイヤツ」に見えるのだが、結魂とは、魂を結びつける相手がいて初めて機能する能力である。この盾の仲間も、実は自分自身が呪禁を得て己の身を護るために、二人(二体)でなければ起動できない盾を「ちょっとそっち持ってくれない?」と誘っているだけ…なのかもしれない。まあ世の中、やらぬ善より~という言葉もあるくらいで、彼女もむしろ良いことはしているんだが…2/3という絶妙にに戦闘に参加しないサイズなのも、自分はガチガチに護って後は味方がなんとかするのを見ている…そんな映画とかでもよく出てくるダメキャラに見える一因なのかもしれない。戦闘能力を上げてくれる結魂持ち、特に緑の連中と組み合わせれば、彼女も武闘派になりイメージが変わるかも?まあイメージはさて置き、その組み合わせは鉄板だ。


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2014/12/18 「ボロスの怒りの盾」



 なんとなく「ランボー/怒りの脱出」っぽく聞こえるのは気のせいだろうか。《ボロスの怒りの盾》。直球ネーミングだ。怒っている割に大ハンマーやチェーンソウではなく盾、というところが警察・自警軍的存在のボロスらしい。同じようにラクドスがキレたらドリルを持ち出しそう。アゾリウスは法律書か、角の所でドーンと。それはさておき、怒りを護るための防具に込めるのは感情のコントロールとして素晴らしい。

 しかしカードとしてはどうか。盾と名がつくからにはそういった挙動をするのだろう、イラストもそんな感じだし…とプレイヤーの予測を裏切らない=直観的にプレイ出来るという現在のマジックの信念に沿ったデザインが為されているか…Yes!《ボロスの怒りの盾》はその名の通りダメージ軽減呪文だ。ただ、使用する際にはちょっとした注意が必要な1枚である。

 これまでの「盾」系呪文は、あなたやあなたのクリーチャーをダメージから護るために使用されるものが主であった。「次にAにダメージが与えられる場合、~軽減する」といったように、盾で護られるもの・盾の内側をその呪文の主としていた。これに対して、ボロスが用意した盾は、その外側・即ち危害を加えんとするクリーチャーを対象にする呪文である。いずれにせよ、護ってくれるんならそれで良いよ、と思ってしまいがちだが、そういうわけにはいかない。この両者は明確に違うものである。

前者である、一般的な盾系呪文は、プレイヤーやクリーチャーがダメージを受ける際に、それを軽減して0にするという文字通りの盾を発生させる。これを戦闘中に用いた場合、基本的に対戦相手側は為す術がない。これらの呪文は、ダメージ軽減の盾を作るもので対象をとらない。これに対して怒りの盾は、対戦相手のクリーチャーを対象にとり、それから戦闘ダメージを与えるという能力を奪ってしまうという呪文だ。対戦相手は、これを《レインジャーの悪知恵》なんかで弾くことが出来る。結果としてほぼ同様の役割を果たす呪文でも、その過程は全く違うことがある。気を付けてゲームをしたいものだ。

 さて、この怒りの盾が何故そのような別種の呪文になったのか。それはこのカードの「怒り」の部分を示すオマケにある。「向上呪文」という、「ラヴニカ:ギルドの都」で登場したサイクルは、単色の呪文でありながら、それを唱えるための不特定マナコストを特定の色で支払った場合にボーナスが付与されるというカード群である。この怒りの盾は、唱える際に赤マナが支払われていると、対象にとったクリーチャーのパワー分のダメージをそのオーナーに跳ね返すことが出来る。これは往々にして予想外の一撃となり、勝負を決めることも多々あるだろう。ドラフトではコモンでありながら非常に有用な呪文であり、注意が必要だ。ただし先述したように対象をとるため、被覆や呪禁・プロテクションにより弾かれやすいのが欠点であり、またそこがバランスをうまく保っている。


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2014/12/17 「哀悼者の盾」



 なんとなく聞いたことはあるけど正しい意味や使い方は知らなかったという言葉にまだまだ直面する。日本語が難しいと思う瞬間だ。「哀悼の意を表します」というフレーズ、耳にしたことがあるかと思う。哀悼とは「哀しみ」「悼む」__この「悼む」は「痛む」と語源は同じだという。人の死を哀しみ、心が悼むというのが「哀悼」。その意を表するのだから、私は○○さんが亡くなってとても悲しいです、という意味で使う言葉だ。まあ、それぐらいは知ってはいたのだが、最近知ったのがその使い方。これ、口に出す言葉としては用いない方が良いそうだ。そもそもが弔電において用いられる言い回しであるため、「表します」という格調高い言葉を用いている。これを口に出すと、少々変な感じがしてしまうということだ。1つ、恥をかかずに済んでホッとしたものだ。

 何故こんな話をしたのかはご覧の通り。今日の1枚は《哀悼者の盾》である。このアーティファクトは「ミラディン」で登場した「刻印」をフィーチャーし、その能力の自由度の高さを伝えるのに一役買った1枚である。いずれかの領域にあるカードを追放することで、そのカードを参照する能力で何かしら美味しい思いが出来るアーティファクト群が「刻印」カードである。この《哀悼者の盾》は、墓地のカードを1枚刻印し、起動型能力で刻印したものと同色の発生源からのダメージを軽減して0にする。1ターンに1回しか起動できないが、何色でも使える「防御円」と考えるのがわかりやすい。本来、こういったことが出来ない色でも、対戦相手の猛撃からその身を護ることが出来るようになるというのは、使うかどうかは別にして、選択肢を拡げるという意味で素晴らしい。

 当時、このカードはちょっと利用し甲斐のある1枚だった。サイドボード要員としてだが、さてどんな相手にサイドインしていたかわかるかな?…正解を言おう。「白コントロール」だ。…対コントロールで?と思われるかもしれないが、これが絶妙に効いたのだ。いや、対白コントロールと言うよりも、正確には対《永遠のドラゴン》カードとして抜群のアンチっぷりを発揮したのだ。《永遠のドラゴン》は、文字通り終わらないサイクリング&回収ループで恐るべきアドバンテージを稼ぐエンジンであると同時に、最終盤は5/5飛行・除去されても回収可能という驚異のフィニッシャーだ。これをこの盾は封じ切ることが出来る。サイクリングされ墓地に眠っている隙を見つけたならば、すかさず刻印!アドバンテージエンジンを潰しながら、後に出てくるであろう他のドラゴンにライフを削られずに済むという、1枚で2枚分対策出来る驚異の1枚である。どんな世界にも、予期せぬ天敵というものはいるものだ。


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2014/12/16 「ハズダーの盾兵」



 盾にまつわるカードを紹介してゆく一週間が始まった訳だが、ここで改めて「盾」という存在がなんなのか、再認識したい。

 古くは紀元前5世紀から使用されていた記録が残っている、身を護るための道具である。中国では漆が塗られたものが発見され、ヨーロッパでは古代ギリシアで丸盾が使用されていたのが確認されている。その後、木製から革製、青銅、鉄と材質を変えたり、用途の変化によって形状を大きく変えている。現在の盾は機動隊が暴動鎮圧時に使用するポリカーボネートなどで作られた視認性も軽さもばっちりなものが用いられるが、かつては馬に乗りながら全身を覆い隠せる鉄の盾を片手で扱ったりしていたのだから恐れ入る。冷静に考えて、片手に常に5キロの負担がかかっている状態というだけでも十分に大変だ。その状態でもう片方の手ではこれまた重い鉄拳を振り回したりしなければならない。昔の人ってすごいわ。

 そんな盾を片手で軽々扱う豪傑の一人がマジックの世界にも居る。《ハズダーの盾兵》は、自身の体躯と変わらぬ巨大な盾を扱う、見るからに誇り高き兵士といった風格を漂わせている。こりゃ戦闘バリバリこなすやつやで!と思って冷静にカードを見ると、3マナ1/1。意外にも、肉弾戦にはめっぽう弱い。盾と同じくらいデカい剣もかざしているが、彼の本質は攻撃することに非ず。あくまで、盾兵である。もしかしたら儀式的な要素を持つ宝剣の類かもしれない。いやそれにしても無茶苦茶強そうなんだけどなぁ。

 盾兵の名が示す通り、その能力は盾をかざして護るためのものである。ただし、自身ではなくその主、あなたを護るものだ。指定した発生源からのダメージを軽減して0にする。対象をとらないため、ありとあらゆる発生源からあなたを護ることが出来る、所謂「防御円」系能力だ。起動に白マナが必要だが、あらゆる攻撃を完封する可能性がある。となればアグレッシブなダメージの色、赤に対して劇的に効きそうではあるが…前述したように、自身をダメージを護ることは出来ない。《ショック》で簡単に撃ち落とされてしまう。なまじ発生源を選ぶ能力だけに、除去されるのにスタックで適当に軽減を起動してこのターンのダメージを防ぐ…というのも、盤面に出ているカード以外は指定しづらいので使いづらい。自身へのダメージも軽減できれば活躍のチャンスも訪れたであろうに…ただただ、純粋な、生き方すらも「盾」であるが故の悲劇である。優し過ぎて不器用説。

 しかし強そうなイラストが本当に気になる。これは本当に盾持ちとして依頼されたイラストなのか?盾はデカいが、攻める気満々ではないか。実は全く別の、騎士のイラストとして依頼したものを流用した説を推すことにしよう。


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2014/12/15 「カルドラの盾」



 2015年1月10日から本戦が始まるGP静岡(9日から直前トライアルなどのイベントもやってるよ!)。本トーナメントのフォーマットは「タルキール覇王譚」リミテッドだ。発売後からタルキール旋風を巻き起こしているこのセットを用いたリミテッド、「運命再編」発売前の遊び収めにはちょうど良いタイミングと言えるだろう。

リミテッドのGPは、基本的に初日シールド、二日目ドラフトという形式で行われる。シールドは良いカードを自身のプールに引き込めるか、という運の要素も勿論大きいが、「組み間違い」のないように、与えられた戦力を最大限に活かす構築力も大いに問われるフォーマットだ。そんな「シールド」で皆が良い結果を残せることを祈って、本日から2週にわたって「シールド・ウィーク」をお届けしよう!

 …はい、画像をご覧の通りシールド=盾で御座います。1週目の頭からいきなりのダジャレというわけで、今週は「シールド(盾)ウィーク」なのでありまして、ご容赦いただきたく。

 《カルドラの盾》はコストがかかる装備品だ。キャストして即装備、と考えると8マナ必要になる。そうやって得られる効果は、クリーチャーへの「破壊不能」付与。確かにこれは強力だ。

クリーチャーの大半が溢れ返るアーティファクト破壊で即死する「ミラディン」「ダークスティール」環境ならば、これはなかなかに頼もしい…いやしかし重いな、そんな評価を受けた1枚である。後の《ダークスティールの板金鎧》はキャストから装備でトータル5マナであり、随分とシェイプアップされたものだ。そちらが今でも人気カードなのは、1年半ほど前にこのコラムでも記した通りである。

 ならば、このカードは《ダークスティールの板金鎧》の下位互換なのか?そう問われると、返事はNoだ。この盾が護ることが出来るのはクリーチャーのみならず、同じ主「カルドラ」の名を冠した伝説の武具にも破壊不能のコーティングを施す。ルール上、自身にも破壊不能を与えるテキストになっているのが面白く、またルールの不思議さを生み出すことになる。例えば対戦相手の戦場に出ているカルドラシリーズにもその破壊不能は適応されるので、注意して使用したいものだ(そんなケース出くわしたことないが)。

 このカードはマジックの歴史にその名を刻む先駆者的カードである。プレリリースで配布されるプロモとなったことで、それに参加した全てのプレイヤーがそれを手にすることになったのだが…よくよく見れば《カルドラの兜》という、現時点では未発表のカード名が記されているのだ。発売時点で存在しないカードを指定する1枚は、マジックの歴史ではこれが初登場である。この先行公開的能力は、後に《タルモゴイフ》や《ウギンの目》に引き継がれ、世界中のマジック愛好家の物議のタネとなり、次なるセットへの注目を向けるのに一役買っているのだ。


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2014/12/13 「Wood Elemental」



 遂にこの時が来た。この「樹の精」について書くタイミングをどこにしようか、本当に迷ったものだ。まだまだ先にとっておいても良かったのだが、インスピレーションとは大事だ。惜しみなく、書こうじゃないかウッド様。「絵本ウィーク」のシメは、伝説の《Wood Elemental》で決まりだ。

最弱のクリーチャーとは何か?その議論に間違いなく食い込んでくるのが《Wood Elemental》であり、その談義でこの方の名前が出なければそれは随分と「有情」な会だったと言ってよい。コミック調なイラストはまさに絵本に出てくる大木の精霊、森の長老といった風合いで、兵士達が槍を向けるのも理解できる。でも、ほんまに見た目だけなんですよ。この方は。むしろ、この見た目だからこそ、なのかもしれない。ビックリするくらい弱いよ!シングルシンボルの4マナ。そのサイズは、戦場に出るに際し生け贄に捧げられた「アンタップ状態の森」の数に等しい。

ここで気を付けたいのは、あくまで「アンタップ」状態であること。どうだでかくなるだろうと言わんばかりの能力を設定しているように見せかけて、4マナとアンタップの森1つを使ってやっとこさ1/1を呼び出すという所業。《さまようもの》の実質5倍のマナを注ぎ込んで同じサイズのバニラを出すということ…この事実の重さを、各自改めて認識していただきたい。一般的なサイズの《タルモゴイフ》の前に立ちはだからせたかったら、4マナとアンタップ森が5つは必要だ。一体何を言っているのか自分でもわからん。4マナで生物を呼び出すことが罪だというなら、何故あなた方は《アーナム・ジン》などを先に創ったのですか?そんな叫びさえ聞こえてきそうだ。

かわいさとちょっとホラーな雰囲気が合わさったイラストでは、兵士がやたらと槍を突き付けている。これは…過剰防衛と言わざるをえない。仮にこれらの鉄槍集団が《長槍兵》だとすると、あれは3人写ったイラストで1/1だったため、このイラストでは合計6/6くらいの集団だろうか。このウッド様を送り込んだオーナーは頑張り屋さんである。そんな頑張りを打ち砕く《長槍兵》の先制攻撃。嗚呼。

ただし、これを「歴代最弱」とまで言い切ってしまうのは、ちょっとまったと異論を挟みたくなるものだ。どんなにダメダメ性能でも、4マナと森1枚と20ターン(出たターンを含めれば21ターン)あれば人を1人殺める性能がある時点で、マシに分類されるほど、酷いクリーチャーは果たして存在するのか?今後のレビューにこうご期待。

しかしほんと、凄いカードだよ。収録されているのは「レジェンド」で、しかも再録禁止カードだ。今後一切枚数が増えることはなく、上位互換は山ほど登場しても彼自身は二度と姿を現さない。手に入れる機会があれば、是非家に連れて帰ってやって欲しい。ある日どこぞの金持ちが「ウッド様買占めよ~」とか思った暁には、大事な文化が地上から姿を消してしまうのだよ。…いや、それはそれで面白いか。


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2014/12/12 「Infernal Spawn of Evil」



このかわいいイラスト!大好きなんである。Ron Spencer氏は、どうしようもなくグロテスクなテカテカ筋肉生命体を描くことが多いけれども、それと同じくリスやこういった小動物のキャラクターなんかをかわいく描くことも得意としている。正反対のジャンルを極めた、まさに達人と呼ぶにふさわしいアーティストだ。

 彼が「アングルード」で描いたこの1枚も、ニッコリ笑顔が愛らしいネズミっぽい小動物キャラが描かれていて、なんともほっこり。非常に寒そうな状況にありながら、マフラーとホットチョコレートwithマシュマロがそれを和らげてくれるのか、本当に良い笑顔をしている。

絵本の主役となってもおかしくないだろう。登場する作品を読みたくなるほどの良い笑顔をしている。これが表紙なら、ハッピーエンドは確定なので子どものために購入するのも安心だ。さて、肝心のこのキャラクターの名前は…その名も「邪悪なる冥界の落とし子」。

 そんな馬鹿な、と思ってしまう名前と姿のアンバランスさ。これぞ銀枠世界だ!めちゃくちゃかわいいのに《Infernal Spawn of Evil》なのか、《Infernal Spawn of Evil》なのにかわいいのか。それはさておき、その能力の解説に移ろう。

 9マナ7/7飛行・先制攻撃…イラストのどこにそんな要素があるんだ。しかしカード名にはまごうことなきフィット感。今の基準で考えればトランプルもほしいところだが、そこはクリーチャーが弱かった時代ゆえ致し方なし。むしろ、この手のカードが要求する変なアップキープコストを要求してこないだけ優秀である。

クリーチャータイプはデーモン…と書かれた文字は塗りつぶされ、ビーストとなっている。これ、お遊びに見えて実は開発部の思いが込められているようだ。今でこそ、デーモンは1セットに1体は少なからず存在する種族であるが、そういうわけにもいかない時代もあった。実は、(アンチ)宗教色がどうしても強くなる悪魔という存在を扱うのが難しかった時代がある。

その頃の開発は、本来はこの能力を持ったカードをデーモンで作りたかったのに、泣く泣くホラーに…といった経験をしたことだろう。このカードは、本来は極悪なデーモンが作りたかったという気持ちを殺して別のものに置き換えてきた開発の実情を訴える1枚…というのは考え過ぎだろうか。

 手札にある時に、アップキープにマナを払って公開しながら、「It's coming!(来るぞ!)」と叫ぶと1点のダメージを対戦相手に飛ばすことが出来る。これ、叫ぶ部分がなければ後のアゾリウスの能力「予見」と全く同じものというのも面白い。より邪悪な彼の息子も、いつか紹介したいと思うのでお楽しみに。


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2014/12/11 「狼と梟の寓話」



名前勝ちしているカードというジャンルがある(と思っている)。もし本屋でこのイラストの表紙で「狼と梟」というタイトルの絵本が陳列されていたら、手に取る人は多いかと思う(勿論、長方形のワイド版だ)。

紅葉・枯葉がそれぞれに姿を変えているかのように見えるイラストは幻想的な美しさで、おそらく大判で印刷されたもの・あるいは原画を見ると言葉を失ってしまうだろう。

空が明るくも暗くもない、独自のエメラルドグリーン系に塗られているのも特徴的だ。これはもしかしたら青と緑両方の色が共存するハイブリッド・カラーの枠を意識してのものかもしれない。北欧なんかの絵本という感じのイラストは本当に美しくいつまで見ていても飽きない。

ここまでイラストを絶賛している《狼と梟の寓話》が今日の1枚だ。対抗色ハイブリッドをメカニズムの中心に据えた「イーブンタイド」にて登場。青緑という組み合わせはこの世界では湿った森林地帯に生息する動物の類が主要カードとなっている。

このセットはハイブリッドをそのどちらの色でも使えるカードとしながら、一方でその両方の色を使用するデッキでこそ真価を発揮するような、実質的なマルチカラー呪文として使わせようとする試みが取られている。そのメカニズムを代表するレアの1つがこのエンチャントである。

青と緑のカード両方にそれぞれトークンのオマケを与えるという、これ自身は何かするわけではないが後続を強くしていくタイプのカードである。緑の呪文には2/2の狼が、青の呪文には1/1飛行の鳥がついてくる。

これは勿論、マルチカラーだったりハイブリッドだったりでその両方の色を持つカードにはオマケをW(ダブル)でつけてくれる。《神秘の蛇》で相手の呪文を打ち消したら、2/2・2/2・1/1飛行という群れが発生することになる。これは勝負が決まってしまうレベルだ。

ただし、この手のカード全般に言えることで、それ単体では仕事をしないのに重たいカードというものは非常に使いにくいものだ。これを設置する頃には、手札に潤沢な青と緑のカードが存在するかは怪しい所だ。

これを設置して手札は空、あとはトップからの青緑呪文トップにかける!という使い方をした場合、2ターン連続でそれらを引かない限り、場合によっちゃ6マナ6/6バニラより遥かに落ちるカードとなってしまうこともある。逆に手札が潤いまくっている状態で設置出来たら勿論むちゃくちゃ強力ではあるが、これを設置する前にそれらをさっさと展開した方が良いという可能性も…。なんともジレンマを抱えた1枚だ。

1枚のカードから数え切れないほどのクリーチャーを生み出す可能性を秘めたカードであることは事実で、様々な手段で無限コンボを生み出すことが出来る。夜行バスで眠れないなんて時は、これを中心とした組み合わせを考えれば…むしろ目が冴えるか。


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2014/12/10 「リサイクル」



 Phil Foglio。「絵本ウィーク」と題しているのならば、彼のカードを紹介しないことはまあ有り得ない。元祖「かわいい」タッチと言っても良いだろう。

「レジェンド」から参入した彼は、マジックの「ファンタジー」世界として幅を大いに広げる活躍をした。コミカルでかわいらしい、それこそ子供向けの絵本で出てきそうな独特なイラストは、正反対のリアリティ書き込み系イラストに囲まれていると明らかに異質な存在ではあるのだが、そんな作品も内包して1つの世界を創り上げているのが「テンペスト」あたりまでのマジックだった。

Philさんは自身でコミック会社を立ち上げたり、紆余曲折を経てウィザーズに入社したりと、とにかくエネルギッシュなお方である。人物の持つ魅力が、その絵柄にも反映されているのだろう。

そんなPhilさんの代表作の1つ《リサイクル》が今日の1枚だ。「ウェザーライト・サーガ」の主人公であるジェラードと、彼の同僚であるゴブリンのスクイー。彼らのコミカルな表情が描かれているため、一目見ると忘れることが出来ない1枚だ。

フレイバーが存在しない為、詳細な情報はわからないが…スクイーが自信満々に料理をし、ジェラードがその犠牲となったのだろう。スクイー君、コック帽まで被ってものすごくゴキゲンだ。

さり気なく湯気が昇る寸胴鍋を小脇に抱えるという人間には出来ない離れ業をやってのけている当たり、さすが後の不死身のゴブリンだなといったところ。ジェラードは…まだまだお皿にはたっぷり入ってるからね。残しちゃだめだよ。

カードとしては、6マナというヘビー級のエンチャントで、これ自身はなにかをするわけではない。手札の上限が2枚になる&ドローステップを飛ばすという緑には非常に珍しいデメリットを代償にして、プレイヤーが何かを「プレイ」した際に1ドローをプレゼントするというエンジン系のカードである。

プレイという言葉は最近まず見なくなったルール用語だが、ここでは呪文を唱えることと土地を手札から戦場に出すことの両者をひっくるめた言葉として用いられている。

土地を出すことが出来ればとりあえず1ドロー、しかし例えば《原始のタイタン》で土地を出してもドローすることは出来ない。あくまでも「プレイ」である点に注意しよう。

各種フリースペル(実質0マナの呪文)やマナブーストを連打しているだけで、簡単にストーム数を伸ばすことが出来るだろう。ドローステップが消え去るのは辛いが、出したターンでチェーンコンボを始動してしまえば2つ持っているデメリットなどへのかっぱ。

弱点は手札破壊の類。設置してターンを返す→2枚しかない手札が精神腐敗を…なんてことになったら最早投了するしかあるまい。逆に《思考囲い》1枚程度なら土地さえ握っていれば大丈夫なので、相手によっては2枚の手札に残るカードをうまく調節しよう。




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2014/12/09 「ボガートの悪ふざけ」



 「ローウィン」そのものが絵本の世界の様だ。夜になっても真の暗闇が訪れるわけではない、永遠に気候は夏。大小さまざまな架空の生き物たちが、これといった争いは(表面上)行わずに生きている。絵本の題材にはもってこいな次元である。公式でそういうの、出さないのかなぁ。

そんな「ローウィン」には、それこそ絵本の1ページとしてみても違和感のないイラストが多数存在している。今日はそんな中から《ボガートの悪ふざけ》を紹介しよう。

そのイラストはマジックの主流である、描き込みやCGによるリアリティ重視のものとは真逆と言ってしまっても良いだろう。シンプルな線と色遣いで、柔らかな…「クリーチャー」というよりは「キャラクター」という印象を受けるゴブリン達が描かれている。

彼らは、鳥の巣を見つけたようで、雛を見つけてニヤニヤしている。その振りかぶった手には槌が握られている…後はお察し。絵本でも、無邪気なイラストで少々残酷なストーリーが展開されるものも多い。

フレイバーから察するに、ボガート(ローウィンのゴブリン)達はその大好きな「新しい感覚」のために鳥の巣にハンマーをぶち込むのだろう。人間の子どもも、小さな生き物を殺す遊びは度々行う。人間の場合、そこから自責の念とかそういったものを学習して、精神的に成長していく。

ボガート達は、その遊びから得られる純粋な楽しさのみを追求していくのだろう。1枚のカードから、文化というか生物的な差異が判明した(大袈裟)。

カードとしては「イタチの最後っ屁」よろしく、ゴブリンが死亡する度に1点のダメージを飛ばす部族エンチャントだ。

1点、と言っても馬鹿にはならない。場に出て即除去されたゴブリンでも1点のダメージを飛ばすことが出来れば、最低限カード1枚がそっくり無駄だったわけではない。

むしろライフを追い詰めている状況でこれを貼られると、詰みの状況を作りやすくなる。部族エンチャントというのも優秀で、《ゴブリンの女看守》《ボガートの先触れ》といった連中でサーチしたり、マナコスト軽減カードの恩恵を受けることも出来る。

また、ゴブリンという連中は《モグの狂信者》や《包囲攻撃の司令官》に見られるように、自身・または他のゴブリンを生け贄に捧げることをコストとする起動型能力を有するものが数多く存在する。それらと組み合わせれば、悪ふざけにもほどがある状況を作れるだろう。

ハンマー持ちのボガートのおでこには、モルフォ蝶のような鮮やかな蝶が張り付けてある。奥の子はキューピーちゃんヘアーで、なかなかオシャレな連中である。かわいいけど関わりたくないキャラクターっていうのも、絵本ぽいよなぁ。



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2014/12/8 「My First Tome」


 個人の極々狭い感覚を押し付けて申し訳ないのだが、12月と言えば「絵本」のシーズンである(言い切ってしまった)。何故かはわからないが、年末に送るギフトやクリスマスプレゼントなどで絵本を推す広告をよく見たり、僕自身が幼少期からそういった経験をしてきたからかもしれない。暖炉を前にして、孫に絵本を読み聞かせるおじいちゃん、という構図も何かで度々見て、そういった刷り込みが為されているのかも。そんなわけで今週は「絵本ウィーク」。まるで絵本に登場するかのようなイラストがマジックには山盛り存在する。そういった心温まるカードを紹介して行きたい。

初日に紹介する《My First Tome》は、絵本のようなイラストというより絵本そのものである。カード名は「はじめての秘本」。《ジェイムデー秘本》の系譜、「○○秘本」というドロー・アーティファクト群の1枚である。…とは言っても銀枠なので、なんともかわいらしいキッズ魔道士向けの「飛び出す絵本」となっている。こういうものを見て育つと、ドラゴンを自在に呼び出し従える一流魔道士に育ったりするのだろうか。

子ども向けのアイテムとは言え、秘本は秘本。カードアドバンテージを弾き出してくれる立派な1冊である。しかもキャストに3マナ、軌道に1マナとそのコストは安い。そんなんで良いの?とも思うが、勿論条件がある。あなたの手札にあるカード1枚のフレイバーテキストを読み上げ、そのカードが何かを対戦相手に当てさせるという、ちょっとしたクイズを行う。対戦相手が不正解のカード名を言った場合、「ブブー」と宣告しながら正解の1枚を見せてあげよう。そうしたら1ドロー獲得だ。もし対戦相手が正解した場合、そのカードを見せても見せなくても良い。

このカードは結構うまく出来ていて、一度問題にしたカードでは対戦相手はもう引っかかってくれず、常に手札に新しい1枚があって初めてドロー出来るという点が、銀枠にしてはよく調整されている。ちなみにこのカードのフレイバーは「このカードの名前は《My First Tome》です」となっており、これを複数デッキに入れると起動しても対戦相手のツッコミしか得られないという状況が出来上がるかもしれない。

使う際には、対戦相手が自身よりマジック知識が薄いことを確認しよう。立て続けに正解されると、グゥの音も出ないぞ。そんな対戦相手でも《Denied!》と《Flaccify》の両方をデッキに入れていれば正答率は50%に持ち込むことが出来る。何故なら、《Flaccify》には《Denied!》のフレイバーを切り抜いて張り付けてあるからだ。銀枠、最高。



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2014/12/6 「重力の変容」


 「シネマチック・ウィーク」、マジックも映画も大好きな僕としては書いていて楽しい一週間だった(まあどのウィークも楽しくやってるんだけど)。近々、劇場でマジックの世界観を楽しめる日が来るかもしれないという現状。制作会社は決定したので、後はプロジェクトが動くことを楽しみに待ちたいと思う今日この頃。

 このウィークのラストを飾るのはSF物では鉄板描写である、途方もなくデカい物体が飛行するシーンについて。ゴゴゴゴ、グワングワングワン、そういった音が大地を揺るがすのだが、本当にそういう現象に直面したらやっぱり「怖い」のだろうか。ジェット機が頭上を移動するだけであの迫力だもんな。某SF大作で宇宙人が都市一個分くらいの円盤でニューヨークかどっかに居座ってたけど、空を完全に遮られるってどういう経験なんだろうな。こういった、脳が思い描きもしなかった世界を見せてくれるから、映画ってのは本当に素晴らしい。

 マジックの世界では、空を覆うような超巨大艦隊というのはまだ登場していないが、超巨大飛行生物はちょくちょくその姿を見せている。中でも最大なのは、やはり「エムラクール」ではないだろうか。カードとしてのサイズ、15/15。それを裏付けるかのような、超巨大物体として描かれるイラスト。文句なしの空の覇者。そんなエムラクール、どんな感じで飛行しているのかな…と思ったら《重力の変容》のイラストを見たところ、結構速そうである。反重力で飛行しているのだろうけど、その勢い・あるいは重力変動に巻き込まれて、大地が削り取られるほどだ。こんなのに遭遇したら、頭上を通過されるだけで命を落としかねない。

 《重力の変容》は、飛行サポート兼地上妨害エンチャントだ。「エルドラージ覚醒」の頃にはもうその姿を見せなくなって来ていた、真の意味での「全体強化」を持っている珍しいカードである。即ち、条件さえ満たしていれば敵味方の区別なく強化する類のカードである。飛行生物達は弱まった重力のお蔭か、強まった反重力のおかげかはわからないけども、動きがキレッキレにでもなってその力が強まるのだろう。+2という修正値は大きいが、それもパワーのみだということを覚えておこう。同様に、地べたを這いずり回る連中は、その空間ではしがみつくのがやっととなって、パワーが-2修正されてしまう。この2点というのは大きな開きで、ダメージレース修復不能なまでの差をもたらすことになるだろう。自身の《ラガークトカゲ》がいきなり1点クロックになり、向こうの《霜風の発動者》が2ターンでこちらのライフを削り切れるバケモノに成長だなんて、ひどいジョークだ。

 前述の通り、自身の地上戦力もその「全体」弱体化に巻き込まれるため、リミテッドにおいても手放しで絶賛するようなカードではない。おもしろいカードであることは間違いないので、タワーマジックなどに仕込むのが良いんじゃないかな。《タルモゴイフ》が沈黙し、《羽ばたき飛行機械》が活躍する…そんなゲーム、遊びたいじゃないか。



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2014/12/5 「真実の確信」


 前哨戦を勝利して、勝鬨上げるぜよっしゃーー!あるいはこれから攻めてくる敵の本隊、怯える仲間達にリーダー格が高台から演説、心1つによっしゃーー!…僕は映画におけるこの「よっしゃーー!」シーンが好きだ。実生活では中々こんなことする機会に恵まれないが、映画を観ればいつでもその興奮のただ中に飛び込み、一員となることが出来る。

ここで観ている側を置き去りにせずに、その心を高ぶらせることが出来たなら良い映画だと言っていいんじゃないだろうか。王道は良いものなんじゃよ。

マジックでもよっしゃーー!構図は度々見かける。人間の感情を表現するに、最も原始的だがわかりやすい、純粋な手段なんだろうな。

勢力や部族は大きく違えど、よっしゃータイムに突入しているイラストはいずれも喜びや自信に満ちている。ポジティブな効果をもたらすカードであることが多い。

最近で言うと《真実の確信》なんかもう自信に満ち満ちた感じがね、もう素晴らしい。オーリオック達の「ファイレクシアには負けん!」という気概が伝わってくる。オーリオックの人ら、ガタイも良すぎやね。こんな身体してたら、そら多少の戦闘では勝利を確信出来るでしょう。

カードとしては、白のトリプルシンボルの6マナエンチャントと、気軽には使えない1枚である。しかしてその効果は、自軍全体に二段攻撃と絆魂の付与。こんなん、文字通り死んでしまう。

6マナエンチャントで全体に二段攻撃と言うと、《怒りの反射》が既に同一の能力を持っている。しかし、これが全体強化をお家芸とする白に渡り、更にトリプルシンボルとなることで、ダメージレースを全否定する絆魂もついてくるのだから恐ろしい。

これがある限りは、どれだけライフで負けようがクリーチャーを展開することを優先していけば良い。例え残りライフが1点まで減らされようが、隙アリッ!と叩きつけて一撃で勝負を決めれば良いし、たとえ届かなかったとしても10点以上回復すれば相手の死ぬことはあるまい。これぞリミテッドの爆弾レアの象徴といったところだ。

こんな爆弾が神話レアでもなく許されたのには理由がある。「ミラディンの傷痕」では、このカードで対戦相手のライフが20点を大きく超えようとも、返しの攻撃で勝利することが比較的容易であった。「感染」持ちによる毒殺が横行していたからだ。

毒だけは、彼らの確信に満ちた肉体を内部から蝕むことが出来るものだった。ただ、同じくこの環境はアーティファクト・クリーチャーにも満ちていたため、初手でこれをピックして後は白いカードとそれらを取り続ければ、白単に近い形でのデッキを組むことも容易かったのも事実である。

これさえ出せばクリーチャーの質は割と無視できる。トリプルシンボルが無理なく捻出できる構成を目指せば、後はでっかい勝利に向かってまっしぐら。



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2014/12/4 「捨て身の儀式」


 シーンは変わって、敵の本拠地。偉いヤツらは高台の上から見下ろしている。奥から幹部が出てきてそいつらに「どうだ?」と聴き「丁度良い所に」云々の話をして、下にいる階級が下の連中が何やら働いて装置が起動されたり・儀式が執り行われたり。

そうして実験ないし儀式は成功し、パワーの奔流が起こり、光の塊がバチバチいったりスパークして、そして何故か周囲の物がカタカタ鳴り出して吸い込まれたり吹き飛ばされたり…それが弾け飛んだかと思うと静けさの中、ボスキャラっぽいのが立っていて、上にいる幹部がニヤリ。

でもこのパッと見強そうなやつが、最初の戦闘ではやたらと強くても、二度目の遭遇ではアッサリ倒されて…。


以上、映画あるある。こういうのに近いシーンなのであろうカード《捨て身の儀式》について今日は語ろう。

ゴブリン(悪忌)達が何かの儀式を執り行った後なのだろうか。氷山の大地が裂け、その下を流れる溶岩が見える。そしてその溶岩の中から柱状の塊がズヌヌと立ち上がり、その先端には球状の塊と中心に光が見える。

そしてイラストから察するに、それは強烈な回転運動を行っている様だ。放射状に溶岩が拡がっていて危険さを物語っている。そして、逃げ遅れたのか・あるいは儀式がここまでの結果をもたらすことを知らなかったのか、悪忌が2体取り残され、絶体絶命の状況である。

岩にしがみついても引きずり落とされそうな姿ということは、現在進行形で大地が震動しているのかもしれない。何にせよかなり無茶な儀式を行ったもんだ。


ここまで命懸けな儀式ではあるが、その成果は「赤マナが1つ増える」という、それだけ聴くとなんだそんなもんかという印象を受けてしまう程度のものである。

イラストで暴れ回っているのは、赤マナ3つの塊なのであろう。このカードの先代というか、原型となったカードである《暗黒の儀式》も御大層なことをやってマナを増やしていた。儀式っていうのは大袈裟なぐらいが丁度いいのだろう。


黒がマナ加速という担当から外れて、湧き上がる炎とマグマの色である赤がそれを継ぐことになったのも、もう随分と前の話だ。時代の流れを感じつつ、当時始まったばかりのその系譜に名を連ねた《捨て身の儀式》を見て、最初の感想は「弱っ」というものだったのを覚えている。僕らは《暗黒の儀式》で1ターン目に《ファイレクシアの抹殺者》を着地させていた世代、その「ダリチュ」の下位互換にしか見えないこのカードは「ないわ」としか思えなかった。

これの前に「ミラディン」で《煮えたぎる歌》が登場し、3マナと重めながらも2マナ増えるという《暗黒の儀式》と同質のカードを見ているだけに、このショックは大きかったものだ。

何せ1ターン目に撃てるわけでもないのに1マナしか増えないのだ。「連繋」を絡めて…ということもまあ考えられるが、やっぱり単品でキリキリ働けるカードの方が良いじゃないかと。

その評価は後に大きく変わることとなった。赤くてマナを伸ばすことを良しとするデッキの、なんと増えたことか。「All in Red(デミゴッド・ストンピィ)」「青赤昇天」その他ストームやコンボなど…軽いカード1枚で1マナ増えれば、それだけで勝負を決めることが出来るカードが実に増えたものだ。

モダンでは他のマナブースト連中が禁止されたため、候補としては筆頭である。



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2014/12/3 「二重の詠唱」


 邪悪な存在に対して、森の住人が獣の群れを解き放つシーンって、ファンタジー物ではまさに「王道」である。エルフとかそういった種族や、あるいは獣と心を通わせる能力を持った子どもなんかがその扇動の役目を担うことになり、巨大な草食獣から牙を剥く食肉目、猿のような樹上生活者から小さなトカゲや昆虫の群れに至るまで、ワラワラと森の奥から飛び出してくる光景には胸が躍る。こうした映像を作製することが出来るようになったのは紛れもなくCGの発展のお蔭であり、古き良き特殊撮影を愛しCGを毛嫌いする映画ファンの気持ちもわからなくはないが、良い面だって山ほどあるということをあえて声を大にして言いたい。

まあそんな主張は置いといて、今日の1枚はまさにそんなシーンを描いたカード《二重の詠唱》である。これは圧倒的優位な邪悪な連中へのカウンターパンチとして、焦らしに焦らした末に魔法を発動させて大逆転、敵軍撤退~なシーンで、前半の山場だったりするんだろう。そしてエルフの女魔道士に「この森へようこそ」と案内されて皆で酒盛りして夜になって焚き火がパチパチ弾ける前に1人佇む主人公…までは軽く妄想できる。

カードとしてはイラストとカード名の通り、自軍のクリーチャーを倍増させる。戦場に出ているものと同名の1枚をライブラリーからサーチして戦場に出す。2体以上クリーチャーをコントロールしていればとりあえずアドバンテージは獲得出来る。そこから数が増えれば増えるほど、クリーチャーの質が高くなればなるほどこの呪文の殺傷能力は高まることになる。どうせなら、速攻を持っていたり戦場に出た時に誘発する能力を持った連中を増やして一気に勝負を決めたり美味しい思いをしたいものだ。増やしたい候補としては《永遠の証人》《酸のスライム》《森の始源体》《原始のタイタン》…と枚挙に遑がないが、まあ適当にクリーチャー増やせば勝てるでしょ。統率者戦ではゲームの本質的に何も為さないカードなので、そこの所だけが惜しい。

日本語版では同名カードとなっているが、持ってこれるのは正確にはクリーチャー・カードのみである。クリーチャー化した他種のパーマネントなんかが増えるわけではないので要注意。イリュージョントークンを出していて《空想/現実》が飛び出したりすることはないが、組立作業員トークンから《組立作業員》を呼び出すことは可能。そんな場面無いだろうけど、こういう知識で記憶容量を無駄遣いするのも万物の霊長である人類の特権ということで。



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2014/12/2 「落盤」


 映画を観ていて「お金かかってるなー」と思うシーンはこれまで数え切れないほど見てきた(その逆も然り)。CGは勿論だが、個人的にはそれらに頼らない「実際に○○する」という方が贅沢というか、その気概を買いたくなるもので。○○するに当てはまるのは概ね、壊すとかそういう単語なんだけど、一番好きなのは「爆破する」かなと。某映画の病院の爆破なんかはちょっとトラブル起こったけど、そのおかげで素晴らしいアドリブも生まれたものだ。ちょっと話はそれたが、爆破シーンは何故か人間の心に響くものだ。不思議な話だが、何かが崩れ去り爆炎を上げる様は文字通り焼きつくものだ。マジックで爆破シーンと言えば、《落盤》なんかはまさに映画のワンシーン。今日はこの1枚について書こう。

 「メルカディアン・マスクス」ではテーマの1つに「ピッチスペル」が取り上げられた。本来のマナコストを支払うかわりに、別のもので支払ったり、あるいは条件によっては純粋にマナコストがタダになる、そういったカード達が溢れることになった。それらピッチの赤のレア枠の1つを担当したのがこの《落盤》である。その効果は《紅蓮地獄》オマケ付きといったもの。プレイヤー&クリーチャー全体に2点のダメージをバラまくソーサリー全体火力だ。正直、5マナでこの効果はリミテッドでは強力でも構築ではあと一押し足りない。

その一押しが、赤い手札1枚を追放することでマナを払わなくてもOKという優秀なピッチコストだ。この同色の手札1枚を切って…というのは各色のレアに用意されているサイクルなのだが、このカードはサイクルの中でもピッチの便利さがずば抜けている。というのも、基本的にピッチコストの支払いはカードアドバンテージを自ら破棄するものであるため、便利だけども割高なのである。しかし《落盤》は、状況によってはトークンやウィニーを展開してきたところをグバンと一網打尽に出来るため、2:(2以上)の交換をとることが可能であり、アド損所か得する1枚なのである。

 ソーサリーであり、手に持ってからすぐに撃てる点は《燃え立つ願い》のサーチ先としてなかなか優秀であり、「デスゴブリンウィッシュ」や「アグロローム」などでしばしば採用されていたもんだ。おそらく、今のスタンダード環境にこれが存在するならば、大活躍を見せる1枚となっていただろう。15年前とは思えない、非常に完成度の高い1枚だ。


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2014/12/1 「劇的な救出」


 つい先日、かのSF超大作シリーズ「STAR WARS」の新作予告編が解禁となった。以前に受けたインタビューでもSTAR WARS好きだと公言していた僕ですが、勿論この特報には震えたものです。まだほんのさわりでしかないけども、あの世界を代表する宇宙船、ミレニアム・ファルコン号がグイーンと天地を逆さに飛行してゆくシーンだけで、もう、十分。お腹いっぱいになったものです。ああいう映像っていうのは映画ならではだよなぁ。  マジックにも映画のシーンを髣髴とさせる、迫力があったりストーリー性が強く感じられる素晴らしい構図のイラストが多く存在する。今週は「シネマチック・ウィーク」と題して、そんなワンシーンを切り取ったようなカード達を紹介して行こう。

 1枚目は《劇的な救出》、英名に「Dramatic」と入ったりする辺りもこのウィークに相応しい1枚だ。イラストでは、火災が起きた塔からアゾリウス評議会のメンバーが、同ギルドに属するグリフィンに救い出されているシーンが描かれている。間一髪という場面を越えて、次の静かなシーンへと繋ぐ構図だ。このままグリフィンが画面に向かって飛んできて、そして消える。パンフレットなんかに載っている写真だなという感じ。

 そのイラスト通り、アゾリウスに所属するこのカードは青白の2マナでクリーチャーを1体バウンスするという《送還》に、白1マナ分のオマケ・2点の回復がついてくるというもの。白1マナで言うと《治癒の軟膏》と同等のマナであるため3点回復が妥当かというところだが、1枚のカードで2つ分の役割を果たす時点で十分に強力であるため、回復部分は気持ち抑えられている仕様になっている。《対抗呪文》+《治癒の軟膏》だった《吸収》はやはり「おかしい」1枚だったということだ。軽いバウンス呪文ということで、リミテッドでは十分に有用。「ラヴニカへの回帰」環境にはアゾリウスがばらまくトークンやゴルガリがカウンター乗っけまくった・あるいはオーラを貼り付けまくったクリーチャーなど、手札に戻すことで実質除去したのと同義のカードが多く存在する。そうでなくても、バウンス+2点回復はライフを削り切れると判断してフルパンチをかましてきた相手の計算を根底から覆すことになるだろう。青白2マナ立てている相手にはこれを警戒しながらアタックを行っていかなければ、この環境で勝つことは出来ないと言っても言い過ぎではない。

 また、救出ということで戻すクリーチャーは自分のものでも構わない。同環境には《拘引》という《平和な心》系の除去もあったし、《刺し傷》という「許してはいけない」鬼の1枚も存在した。これらから身を守ることが出来、除去呪文として自身のアタッカーの道を拓くことも出来る。万能呪文というのはこういうカードの事を言うのだ。…でmの、構築ではもっと万能呪文が存在したため見ることはなかったなぁ。


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2014/11/28 「屍肉吠え」


 昔、まだ僕が小学校低学年…1年か2年くらいか。下校中、友達とも別れて一人歩いていた時だ。駅からやや離れた場所に広い駐輪所があって、その時はなんとなくその中を抜けて帰ろうと思った。駐輪所と言っても、その実態はアスファルトで固められた地面と水色の鉄柵で囲まれただけのスペースで、管理人などもおらず皆思い思いに自転車を停めている。この時はまだこういうスペースがそこかしこにあったので、停まっている自転車もまばらだ。そんな空間を、なんとなく歩きたくなったのだ。時間にすれば子どもの脚でも2分ほどで出口に達するくらい。

その出口に差し掛かった時、入り口付近で渋滞している自転車の間からヌッと出てくる影が1つ。もう随分と前に見た光景なのに、僕の脳裏には焼き付いていて今でもアリアリと思い出せる。口からよだれか何かわからない粘液を滴らせ、耳は折れ、毛が所々抜け落ちてねずみ色の皮膚が剥き出しになっている。その眼は、明らかな殺意を持って僕に向けられていた…野良犬だ。漫画なんかに出てくる、あのステレオタイプの「アブナイ野良犬」って実際にいるもんなんですよ。最も原始的な恐怖を味わったこのエンカウントの顛末は、またどこかでお話ししましょう。

 そんな「思い出の狂犬」を思い出させる1枚がこの《屍肉吠え》。ゾンビ・狼という熱い組み合わせのクリーチャータイプと、納得のイラスト。こんなんがうろついているラヴニカの夜の街なんて絶対繰り出したくないね。お家で寝るのが一番。カードとしては4マナ2/2で、ライフを1点支払うと+2/-1修正を受けるという「流動石」っぽいスーサイド系能力を持っている。普通に考えれば、1点のライフを払ってようやく同マナ域の連中と相討ちできる程度の生物というのはちょっと、弱い方に入るんじゃないかなぁ…と思ってしまうが、そこはほら、工夫のし甲斐があるってことよ。タフネスの減少値は1なのだから、タフネスを1つ上げるごとに起動回数が1回増える。同じ「ラヴニカ:ギルドの都」でのドラフトでよく見たのは《腐れ蔦の外套》との組み合わせ。こんなん「スルーで」って言えるわけないやん!他にはシミックの「移植」持ちや相討ちしてからの《死後剛直》などで+1/+1カウンターを乗っけてというプランも。まあ、回避能力しっかりつければ4マナパワー4は確定してるので十分に使えるカードだった。

 ライフを糧に大きくなるという点は、《憎悪》で育ったスーサイド大好き世代にはたまらない。


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2014/11/27 「溶鉄の火の鳥」


 GP静岡のファクトシートも公開され、2015年年明け最初の大型イベントへの準備で毎日が消費されてゆく。今回のGPでは、皆が大好きなChristopher Moeller氏をお招きすることが出来るのが個人的には嬉しいところ。

氏のイラストは、クッキリと描かれた塗り分けられた影がメリハリを生み出していて…美術的な細かいことはわからないけど、とにかく印象に残るものばかりで、どれもカッコイイ。

また、その作品の多さも魅力の1つで、すべてのカードを集めればそれだけでファイルが1冊埋まるレベルでコレクター冥利に尽きる。それだけ描いてるってことは強いカードも多々あるので、そういったコレクションをしていない人でも、自ずと氏のカードを大量に持ち歩いている可能性もあるのだ。いやぁChristopherさん、まさしく大御所なり。

 そんな大御所特集ウィークは、祝日を挟まずにしっかりと6日分更新できてなおかつGP静岡直前に持ってくるとして、今日は純粋に1枚を紹介。選ばれた1枚は《熔鉄の火の鳥》。理由はなんとなく、好きだから。

 一風変わったカードである。元ネタありというか、「次元の混乱」のリメイク連中の1つである。これは《Ivory Gargoyle》の色を赤に変えたもの。そのスペックは5マナ2/2飛行、ドラゴンを有する赤の航空戦力としては、少々物足りない。

そしてその能力は「フルオート復活」とでも呼ぶべきしぶとさの結晶である。死亡した場合、そのターンの終了時に戦場に復帰してくるという、不死身の能力持ちなのだ。

おぉ、まさしくフェニックス!元のガーゴイルよりも、フェニックスの方が復活するイメージは強いため、色を変えてもその能力に無理を感じない。除去しても除去しても何度でも飛翔する2/2は、相手によっては5/5速攻のドラゴンよりも効果的なこともあるだろう。しかし何もせずとも帰ってくるのはすごいな。

 …なんて思っていたら間違いで、勿論世の中「タダ」なんてことは有り得ない。

マナなどのリソースを要求する代わりに、このフェニックスは次のあなたのドローする機会を糧として不死の炎の火種とするのだ。

勿論、ドローするよりも2/2飛行が残ってくれる方が嬉しい場面はある。あるが、常にそういうわけではない。この調整が絶妙で、長所を短所と絡めて「どちらであるとも言い切れない」能力を作り上げている。

 ただ、欲を言えば4/1とか3/3にして欲しかったというのはあるね…現代マジックは、クリーチャーへのハードルが非常に高いのだ。


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2014/11/26 「Snowfall」


 急激な冷え込み、アメリカでは各州で観測史上最低気温を更新したとかなんとかで、とにかく冬がやってきたのである。

今年の秋は比較的過ごしやすかったように思うが、突然こたつを出さなければならなくなった家も多かったことだろう。

個人的には、冬の方が家でマジックをやることが多くなると思っている。家で仲間内でワイワイ楽しむのはいいものだ。

夜寝るときはコタツの取り合いになるのは定番。今日はそんな冬が突然やって来た感満点の1枚をご紹介しよう。《Snowfall》大先生の登場だ。

《Snowfall》大先生は「アイスエイジ」のコモンでありながら、同セットから登場した新たなメカニズム「累加アップキープ」「氷雪土地」の両者に関係があるという偉大なエンチャントである。

大先生自身は累加アップキープUを持っている。アップキープを迎える度に青マナを1つ2つ3つ…と要求する、一筋縄ではいかないコストを持っている。

しかし、そのテキストを見ると驚くことになる。「島がマナを引き出す目的でタップされた時、そのコントローラーのマナプールにUを加える。」…え、マジで言ってるんですか?常に《High Tide》状態ってこと?いや恐ろしい!そんなエンチャントがあったとは!と、驚いたそこのあなた。まだ早い。

「その島が氷雪土地である場合、代わりにUUを加える。」いや、だーかーら、強すぎでしょ?これ自身が3マナとしても、とりあえずキャストして《冠雪の島》寝かせりゃ元は取れると。

後は純粋にブーストなわけで、はっきり言ってこんなんぶっ壊れでしょ!当時、いくらストームデッキなんかが組めなかったとは言え、こんなん今のレガシーでも下手したら戦えるよ?シングル1枚何円よ?



さて、現実逃避を続けていたが、このカードの最後一文を読んでみよう。「これらのマナは、累加アップキープのコストを支払うためにのみ使用できる。」

…うん、えっと、その…むっちゃ弱い。ここまで直球な一言を書いたのは初めてかもしれない。そもそもが、累加アップキープにアゲインストするカード自身が累加アップキープを持っている時点でどうなのかと。

氷雪から溢れ出るマナでこれ自身を維持することはハッキリ言って簡単だが、そこまでしてこのカードがすることは、他の累加アップキープ持ちの補助である。

しかも大事なのは、青マナしか供給されないため、それで支払える青か無色のコスト持ちのカードのサポートしか出来ないのだ。

《Illusions of Grandeur》の維持が出来るよ!と言っても毎ターン着実に上がって行くマナコストに永遠に対処することは出来ず、こんなカードを使用しても結局数ターン維持できるか否かというところだろう。

その典型的な駄目っぷりから、かつて「最低なカードベスト100」という記事で25位の座に就いたことがある。いよっ、大先生!

めちゃくちゃ寒い効果に良く似合う、寒そうでたまらないイラスト。というかこの青いの、何の種族なのだろう。絵本のワンシーンの様で本当に素敵で、それが唯一の救いでもある1枚。こういうのがあるのがマジックの良さなんだよなぁ。


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2014/11/25 「一角獣の饗宴」


11/23が何の日かは皆様ご存知の通り。それになぞらえて、先週は「Workウィーク」をお届けした。

元々「勤労感謝の日」は「新嘗祭」という祭事の日である。新米とかいろんな海山の幸を神に捧げた後、自分達もそれを食べることで食物を得られることに感謝する…というお祭りらしい。

なるほどなるほど。食べまくって良いんですね!そんなことを調べていたら、この日が「珍味の日」でもあるということを知った。

珍味の日…なんという素晴らしい響きだろう。

「結局、普段食ってる物の方が美味い」となることは多いのだけども、食べる機会がない物への興味というのは尽きないものだ。

マジックでも、そんな珍味をふるまうシーンがカード化されたものがある。《一角獣の饗宴》だ。

一角獣の頭部をローストしたものだろう、イラストを見るにその頭部は結構デカい。最大の特徴である一角は残したまま調理されていることがミソかもしれない。これを切り落とすと馬と区別がつかなくなるだろう。

その角は薬になるという言い伝えもあってマジックのユニコーン達はダメージ軽減能力を持っていたりするので、この角もそういった漢方薬的効果を狙ってのものかもしれない。

しかしおそらくは、気高き生き物であるユニコーンを食しているという実感を得るのが最大の目的だろう。

何せこのカードは黒で、この料理がふるまわれたのはかの「センギア城」だ。吸血鬼・センギア男爵の御馳走とくれば、ただ食うだけが楽しみではあるまい。

カードとしては、黒いパワーアップ系オーラである。その修正値は+4/0という驚きのパワー偏重。本体にドデカい一撃かませるなら、相討ちしてきても構わん!という気概が見える。

これが回避持ちにつけばなかなかに驚異的だが、4マナという重さもまた無視できないところだ。あと1マナ増やせば、装備品定番の「○○と△△の剣」をキャストから装備するところまでいけると考えると、オーラであることを考慮すれば「もう一声」と思ってしまう。

当時は今みたいに呪禁を持っているクリーチャーも全くいなかったことを考えると、リスキーな1枚ではあった訳だが…ただハマれば、永続的にパワーを4も上げるカードもなかなかないのも事実だ。上手く使いたい場合は、黒い再生持ちに貼り付けるのがベストではないだろうか。

過去に某ゲーム機で発売された「第6版」をそのメインに据えたマジックの家庭用ゲームではその戦法で序盤を乗り切ったのを思い出す。懐かしいなぁもうセーブ消えてそうだ。

センギア城に招待されたフェロッズとセラは、センギアの大母にこの料理を出されて、ドン引きしている。

《Autumn Willow》に至っては「これ以上に汚い行いがあるでしょうか」と大批判。これに対してセンギア男爵の意見は「冷酷なものにしか味わえない珍味というものもある」というもの。ゴブリン達も魅了されているようだ。食文化の相容れなさってのは、どんな世界にもあるもんだね…


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2014/11/21 「組立作業員」



 「時のらせん」は、音楽で言うなればコンセプトアルバムでありセルフカバーだ。過去に多数のセットに収録してきたカードを、あれこれ加えてもう一度作り直す。この試みには、多大なる勇気と犠牲が必要だったことかと思う。今となっては、この冒険があったからこそ20年を超えてなお輝きを増し続けるこのゲームがあるのだと思っている。このセットは収録カード422種類というボリュームに、プレイヤー達をニヤリとさせる遊び心がふんだんに盛り込まれている。「Workウィーク」最終日を飾る《組立作業員》もそんなカードの1つだ。

そもそも「組立作業員」という言葉は、2つ目のエキスパンション「アンティキティー」にて登場している。《ミシュラの工廠》が起動型能力によってクリーチャー化する際、得ることの出来るタイプであり、その能力によって強化できる対象でもある。この能力を設定した当時は、これ以外にも組立作業員のタイプを持ったカードを登場させてシナジーを形成させる予定だったのかもしれないし、他のクリーチャーとまず被らないであろう固有タイプを与えることで《ミシュラの工廠》同士での限定的な能力にしたかったのかもしれない。いずれにせよ、その能力を分かち合える存在が出てくるまでには随分と時間がかかったものだ。

この《組立作業員》は、《ミシュラの工廠》のクリーチャー部分と全く同じ能力を有している。3マナ2/2で少なくともブロック時には3/3になれるということで、無色なのも手伝ってリミテッドではとりあえず入れておけばOK性能。警戒を当てたりすることが出来ればアタッカーとしても機能することだろう。これが、2枚3枚と複数取れているのであれば評価はもうちょっと上がる。《ウルザの工廠》もとれていれば、相手からすればいやらしい戦線を構築できるだろう。

フレーバーを読む限り《ミシュラの工廠》消え去っても、そこで活動していた彼ら作業員用自動人形は今も何処かで活動を続けているとのこと。数千年稼働し続けるって、ミシュラの科学力ハンパじゃないね。見た目が、ウルザが着用していたシリンダーみたいなものがついているアーマーと似ているのも、何か因縁というかドラマを感じる部分である。

ちなみに《ウルザの工廠》から出した「組立作業員トークン」に《撲滅》や《木っ端微塵》を撃ちこまれると、トークンと同名であるこのカードが吹っ飛んでいくことになるので注意しよう。


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2014/11/21 「役馬」



 木とかブリキのような温もりを感じる素材で出来た、自らの意思で動く自動人形・ゴーレム…

何にせよ、魔力をもって生まれた心を持った機械のキャラクターといえば、ファンタジーものの鉄板である。

ガッションガッション動くさまはユニークで、心優しくて力強いけど自分は機械だという現実に悩んでいる…あるある。

そういったキャラクターが物語の途中で出会う、自身と同様の自動機械の類って妙に無表情で無機質に描かれていることも、所謂テンプレの中に含まれているように思うんよね。今日の1枚は、そんな無表情機械役として出てきそうな《役馬》だ。

 そもそも「役馬」というのは荷物を運んだり、耕作を手伝う働く馬の事である(役者としての馬のこともそう呼ぶことがあるみたい)。

「Workウィーク」にぴったりではないか。馬は、人類にわけがわからないほど貢献してくれた動物である。

彼らを飼い慣らすことが出来なかったとしたら…長距離移動は行われず、人類は未だに一所に固まっていたのかもしれない。この《役馬》もそれだけ役に立ってくれる…のかというと、そこまで爆発的な物ではないけどでも仕事はするよ、と言っておこう。

 6マナで4つの+1/+1カウンターが乗って場に出る0/0のアーティファクト・クリーチャーである《役馬》。このカウンターを1つ取り除けば、無色マナを1つ生み出すというマナ能力は、今週既に紹介した《スパイクの働き手》でも触れた部族・スパイクっぽさを感じさせる。

同じ「エクソダス」には同じく+1/+1カウンターを消費するアーティファクト・クリーチャーが複数存在し、スパイク達の持つ移植能力を多種族のクリーチャーとの間でシナジーを形成するのに使って欲しいという意図があったのかもしれない。

イラストでは黒を除く4つのマナらしきものを腹部に詰め込んだ様子が描かれているが、生み出すのは無色マナであるのでそこは気を付けて。

ただ、このイラストからアーティストに「マナを4つ貯蔵している」という細かい能力の説明はなされているんだなぁということがわかる。こういう制作背景が垣間見えるようなカードが本当に好きだ。

 6マナのクリーチャーを使い捨てにして4マナ生み出すというのは効率が悪くも思えるが、当時はこれを用いた無限マナコンボを仕込んだ《適者生存》&《繰り返す悪夢》デッキの1つである「ウマクラフト」が登場し、しっかりとデッキの重要パーツとして頑張っていたのだから驚くよね。

 クリーチャータイプは「馬」。直球過ぎて笑えるレベルだが、マジックの世界の馬21体中、実に5枚ものカードがアーティファクトである。《怨馬》が馬じゃないのにこれや《アクロスの木馬》なんかが馬とされていることは不思議でならないよ。


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2014/11/20 「機械仕掛けのドラゴン」



 人類の歴史は模倣の歴史と言っても良いのではないだろうか。自然を模倣し・ある者の発見を模倣し、そうやって文化と呼べるものが出来上がった。

「模倣できる能力」はヒト以外には猿や鳥類といった、高い知能を持った種しか持っていない(ミミックオクトパスとかは除く。まああれは模倣というよりは擬態やね)。空を飛ぶ鳥を模倣した結果、今は巨大な旅客機や音速戦闘機といった極致に至ったわけだ。

しかし、一方で模倣はあくまで模倣だ。オリジナルを超えることはおろか、並ぶことすらできないものも多数存在する。

微細な生物のエネルギー獲得方法や、虫たちが織り上げる糸といったものは自然界にあるものに近付こうと日々研究者・技術者が研鑽を積んでいる。生命を機械で模倣する研究もおこなわれているが…

「人間に近い動きが出来るようになった」というニュースはよく耳にするが、それらの映像を観ると何かこう、「違う」という感情が沸き起こるものだ。

マジックの世界でも、模倣により生まれた機械生物が複数存在する。「機械仕掛け」サイクルだ。

これらは「アルファ」から「ホームランド」までの第1世代と、「ミラディン」と「時のらせん」の第2世代に分けられる。

今回紹介するのは第2世代の親玉《機械仕掛けのドラゴン》。第1と第2の世代の違いは、後にネタを置いておきたいという僕の純粋な思いから今回は触れないこととしよう。

機械仕掛け連中は一見するとコストに見合ったサイズで無色なことも考えれば割安だが、一度戦闘に参加するとその上から+1/+1が1つ取り除かれてサイズダウンしてしまうというデメリットを持っている。

例えばこのドラゴンは、どの色でも使える6/6飛行にメリット能力とくれば7マナでは割安に感じる。《ルーメングリッドのガーゴイル》と比べれば如何にお得かが分かるだろう。

しかしサイズダウンしていくことを考えると、実はドラゴンもガーゴイルも20点のダメージを与えるには5回のアタックを必要とする。1回目のアタックの前にブロックに参加していたりすると、実はガーゴイルよりも時間がかかってしまう。

これだけではレアとは…という感じだが、そこは流石レアでドラゴンなカード、3マナ支払えばいつでも+1/+1カウンターを補充可能だ。この能力に十分にマナを支払えるのであれば、機械仕掛けデメリットなど些細なものだ。

これは同じパンプ能力の元祖である《ドラゴンの血》を意識しているものと思われる。これが「ミラディン」に再録されていることからも明らかだろう。これはリミテッドでは余裕の初手、構築でも環境によってはお呼びがかかるレベルである。

しかしながら、不遇な1枚でもある。「ウルザトロン」のフィニッシャーに用いられたかと思えば《ダークスティールの巨像》にすぐさま追いやられ、「第10版」の収録カードを選ぶ企画では錚々たるドラゴン達と並んでノミネートされるも得票数は最下位というありさま。なんかかわいそうになってきたが、どっかで大逆転こないかなぁこないんだろうなぁ。


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2014/11/19 「クラーク族の鉄工所」


ここまで「使える」カードの紹介も随分と久しぶりな気もする。基本的に、プロプレイヤー達がまず触れないようなカードにスポットを当てている風潮があるので「あ、それなら知ってるよ」と万人が認識しているカードは書きにくいというか、アラが出ちゃうと言うか…まあ、頑張ってみますよ。

《クラーク族の鉄工所》は、様々なカードの一文をアーティファクトに置き換えたリメイクが溢れる初代ミラディン・ブロックのそれらの内の1枚であり、最も成功したカードである。

これは《アシュノッドの供犠台》のリメイクで、アーティファクトを1つ生け贄に捧げることで2マナを生み出す。アーティファクト・土地が存在する分、クリーチャーよりも簡単に生け贄とする種を用意できるノガウリで、それ故に《アシュノッドの供犠台》よりも1マナ重くなっている。

出したターンにアーティファクトを2つ注いでも元が取れないような設計となっているのは調整の証と言えるかもしれない。

こういったカードは、何も考えずにデッキに入れりゃ良いってもんでもない。全くないと言っても良い。時折現れる「専用のデッキを組んでナンボなアンコモン」である。

そして、しっかりと使いこなせばこの手のカードはその熱意に応えてくれるものだ。

これを中心に据えた「アイアンワークス」は、上記のアーティファクト・土地やマナ・アーティファクトをバラ撒き、それらからマナを出しつつこの鉄工所に放り込み、大量のマナから《マイアの保育器》でマイアを山ほど生み出し、またそれをマナにして《ゴブリンの大砲》をポンポン撃ちこんだり極大《火の玉》投げたり、あるいは土地がなくなったライブラリーを《ゴブリンの放火砲》の弾にしても良い。

というより普通にマイアで殴っても勝てる。日本ではマイアが保育器から沢山出てくる様に例えて「ベビーシッター」とも呼ばれていたね。勝ちパターンが多くあるデッキなので、様々な妨害手段に強いのがウリ!と思わせて、実はこの鉄工所をピンで抜かれると詰むという、そんな素敵なデッキの心臓部がこのカードだった。

今でも愛好家は多く、《テラリオン》や《蔵の解放》と言った当時は存在しなかった相棒を手に入れてモダンなどで活躍を続けている。「モダンマスターズ」に収録されているのも納得だ。

「Workウィーク」ということで紹介したこのカード、「Ironworks」とは製鉄所や鉄鋼所。もっと言うならWorksとは工場の意味だ。

日本語だとどうしても「働く」という意味で最初に教えるので変な感じがするが…英語では「作業」や「作品」などの意味も持つ、非常に幅の広い言葉だ。自身を生け贄にしてもマナが出てくるが、その光景を想像すると面白い。ゴブリン達が一生懸命自身の作業場の壁や窓をはがしてポイポイ炉に投げこむ姿は、昔のアニメのような滑稽さに溢れている。

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2014/11/18 「スパイクの働き手」


マジックに出てくるクリーチャーは、その大半が初めて触る人にもわかりやすいようにという配慮もあってのことだとは思うが、他のファンタジーでもその姿を見ることが出来る部族で構成されている。

人間は勿論のこと、エルフ・マーフォーク(マーマンとかトリトンとか)・ゴブリン・オーク・ゾンビ・スケルトン・ドラゴン・デーモン・天使…そして我々のこの地球にも生息する動物にファンタジー要素を付与したもの。概ねこんなところである。

その姿勢をブチ壊したのが、個人的には「テンペスト」「ストロングホールド」「エクソダス」からなる「ラース・サイクル」であると思っている。

その名の通り、次元ラースでの冒険譚であるこれらの作品では、サルタリー・サラカス・ダウスィー・スリヴァーといった、このブロック独自の未知なる生命体がそのセットのクリーチャーの大多数を占めた。

そして、それらの緑の担当と言えるのが、「ストロングホールド」で数を増やした「スパイク」である。

スパイクは《スパイクの飼育係》《スパイクの織り手》と構築シーンでも存在感を発揮したカードもあり比較的恵まれている部族であると言える。

その外見は、硬質なうろこ状の皮膚とナメクジのような軟体、クワガタのような大顎にハエトリグモのような複眼を併せ持ち、四肢は持たないという…かなり特徴的なものとなっている。不気味にも見えるし、可愛げがあるようにも見える。

そうそう、最大の特徴は、その背中に小型のスパイクを宿していること。タコの吸盤を肥大化させレンズをはめ込んだような器官を複数背負っており、その部屋で小さなスパイクが待機しているという設定の様だ。

これがクローンを生み出す単為生殖(雌単一個体のみで生殖をおこなうという、有性生殖の1バリエーション)なのか、それとも別個体に産み付けられた卵なのかは不明であるが、何にせよ気味が悪いようにみえることがほとんどだと思われる。

この小さなスパイクを彼らは他者に移植することが出来、1/1のスパイクがその身体にへばりつくことでサイズが上がるのだ。

これ、同種族でやるなら好きにしてくれと思うけど…人間に移植するとめちゃくちゃキモチワルイ想像をしてしまうのでやめておこう。ちゃんと接することが出来れば益虫だね。

長くなったが、《スパイクの働き手》はそんなスパイク界でも最も基本的なものとして作られている。同じ移植能力に加えてカウンターを消費する能力を持ったスパイクが同じマナ域に2体いるが、それらはどちらもダブルシンボルなので完全上位互換であるとは言い切れないあたり、よく出来ている。

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2014/11/17 「Miracle Worker」


これを書くのは、久方ぶりの充実した週末を終えた月曜日。完全に仕事を離れて、何もかも忘れて楽園のような束の間を味わって直面するは、「オシゴト」だ。

僕の場合、好きなことを扱っている仕事なのでイヤというわけではないが、それでも仕事は仕事。気合いを入れてやっていることなので、また気持ちを現実モードに引き締めなければいけない。これが辛いっていうのは、皆小学校の夏休みからず~っと感じていることでしょう。

今週は、そんな働く人々を応援するための「Workウィーク」をお届けしながら、皆で日々を乗り越えていきたい。

Workという文字が名前に入っているカード、ということでまずはこの《Miracle Worker》。早速、Workの意味合いが若干「働く」とは異なるが、まあ良いでしょう。

訳は「奇跡の人」。これはかの有名なヘレン・ケラーと彼女の家庭教師にして、奇跡を起こしたアン・サリバンを描いた戯曲のタイトル「The Miracle Worker」がそう訳されているのに倣った。

カードとしても、実はこの戯曲を意識していると思われる。イラストに描かれているのは、僧侶にして自ら視力を断った男。彼はその信仰の証として、その眼を捧げた。

これにより超自然的感覚を手に入れ、むしろ視覚を有していた時よりも世界が良く見えるようになったのだという。

この宗教における奇跡を起こした人物の総称、ということらしい。「ザ・ダーク」出身なので、おそらくはイラストが先に描かれて後から設定およびカードとしてのデザインが付随した1枚であると思われる。「ザ・ダーク」の世界観は本当に素晴らしい。

カードとしては白の1マナ1/1人間・クレリック。クレリックは盤面に同種族の枚数を要求する傾向がある部族なので、そういったデッキにはお呼びがかかるかもしれない。

起動型能力は、自身のクリーチャーにつけられたオーラを破壊するというもの。《平和な心》系をバキバキ割る、というか牽制するのが仕事になるだろう。オーナーではなくコントロールしているもの限定になるので、《支配魔法》の類の対抗策とならないのが惜しい。

後に同様の効果で、対戦相手のクリーチャーについているオーラも触れる《真心のハープ奏者》が登場。彼女もなんらかの「奇跡」を起こしているのかもね。

しかしまあ、奇跡を起こす僧侶だけあって見た目は強そうだ。首と胸の筋肉がおかしい。そして、経典デカい!これを片手で持ち上げられないと始まらないのでしょう。皆もまずは筋トレから始めてみないか?


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2014/11/15 「死者の夜明け」


今週は「ゾンビ・ウィーク」と題してやらせてもらってるわけですよ。興味の無い方にはちょっと申し訳なく思ったりもするけども、好きなことを書けて僕は幸せでしかなかったわけですよ。それで、このウィークのシメに持ってくるのは何のゾンビかな?と思われた方もおられるでしょう。しかし、ここはゾンビそのものではなく、ゾンビを呼び起こすこのエンチャントでシメさせていただきたく。というか、これじゃなきゃダメなんです。というわけで、《死者の夜明け》。

「トーメント」で登場したこのトリプルシンボルのエンチャント、個人的にはトリプルの時点で黒単でしか使わないだろうし、いっそのことクウィンタプルシンボル=髑髏が5つ並んでいる方がより美しかったように思える。まあ、そういう調整でカード作ってるわけじゃないしね…おそらくは、ダブルシンボルだとチト強力すぎるのかな。

《死者の夜明け》はアップキープが訪れる度に、あなたのライフを1点吸い取り、死者を蘇らせる。蘇ったクリーチャーは速攻を持つが、ターン終了時に追放される。つまりは同一のカードをずっとグルグルというわけにはいかず、継続して機能させるためには墓地にしっかりとクリーチャーを補充せねばならない。黒は《生き埋め》《納墓》に加えて「共鳴者」(自らの手札をコストにした起動型能力を持つクリーチャーの総称)も数多くいるため、この点は容易にクリアできると言えよう。

問題は、そこまでして使ってやっと勝利手段足り得るという点にある。5マナのエンチャントでそれは少々難儀と言うか…同じ効果を2マナで得られる《浅すぎる墓穴》の方が瞬間的であるとは言えより軽いため「ニコルシュート」のようなコンボは狙いやすい。むしろ《死者の夜明け》は、戦場に出た時に誘発する能力を持つクリーチャーを盛り込んだビートダウンデッキでマナカーブの頂点に据えて最後の一押しやリカバリー要因に使うのがいいのかもしれない。トリプルシンボルということもあって《アスフォデルの灰色商人》との相性はもはやエクストリーム・ヘル。ごめん、ちょっと興奮しすぎた。

何故このカードを「ゾンビ・ウィーク」のシメとして取り上げたのか。その理由は、このカードの名がゾンビマニアにとっては唯一無二・燦然と輝く最高峰であるからだ。英語版の「Dawn of the Dead」という名は、ゾンビというものを全世界に広めた名作「ゾンビ」の原題である。僕のような人間にとってはゾンビ=Dawn of the Deadであり、今でも色褪せない名作だと思っている。この映画がなければ、ゾンビというものがここまでメジャーにはなっていなかっただろう。このカード名も、明らかにそれを意識したものに違いがないのだ。


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2014/11/14 「Drowned」


 「溺死体」。ド直球なネーミング、小細工なんていらんのですよ。
古いカードで青いゾンビというのも珍しい(今ではゲラルフ君が大量に増やしたのでそうでもないが)が、驚くことにマジックの歴史上「2枚目」のゾンビカードである。え?と思われるかもしれないが、「ザ・ダーク」まで《ゾンビ使い》は《スケイズ・ゾンビ》専門のロードだったのだ。

そう考えると、このカードが出て本当に良かったなぁと心から思う。「ザ・ダーク」はアーティストが「暗黒時代」から連想されるものをイラストにして、そこからそれに合うようにカードをデザインしているとのこと。

どうも全てのカードがそうだというわけではなさそうだが、仮にこの《Drowned》がその方式で作られたのだとしたら、Quintonさんには感謝してもしきれない。もしかしたらゾンビがメジャー部族じゃなかった可能性だって大いにあるのだから。

 カードとしては青い《蠢く骸骨》・ゾンビバージョンの一言で説明が済んでしまう。2マナ1/1で再生持ち、典型的な壁専用生物である。再生の起動に用いるマナが黒マナと、自身と能力の色が違うという、これも古いカードでは珍しいというか、特殊なものである。

今ではありふれた能力だけども、当時はまだ所謂「ダメージランド」すらない環境でそんな簡単に多色は組めない時代である。故に、カード画像を掲載した昔の公式カード辞典(とてもじゃないがハンドブックとは呼べないデカさ)でも、存在感を強く放っていた。

部分欠損したり白目をむいたりといった「安易なゾンビ表現」に逃げずに、腐敗の進んだ者・海賊風の男・水夫・シャーマン風といった連中が揃っているのがリアリティがあって実に良い。

彼らの共通点は、この海で溺れ死んだということ・そして死にきれずに彷徨っているということだ。アマモのような海藻の中に立つ姿は、1980年代ホラー感溢れる構図で素晴らしい。これ映画で同じ構図取れたら最高なんだけど、難しいよなぁ。まず、浮いちゃうしね。ウェイトつけて、水中で落ちないメイクして、役者に息を我慢してもらって…あ、CGとか甘え手段は勿論ナシですよ!「サンゲリア」の海ゾンビは1体だけだったけど、これみたいにゾロゾロってのは本当に困難を極めそうだ。

 記念すべき2体目のゾンビにして、《ゾンビ使い》の恩恵を大して受けない(再生能力をすでに持っている)辺りも、ゾンビ映画特有のなんじゃそら設定っぽくて素敵ではないか。



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2014/11/13 「シヴのゾンビ」


 激渋である。いや、これはダジャレであってダジャレでない、率直な感想だ。赤黒の2マナ2/2、プロテクション(白)という実直な性能。まずはこの時点で渋い。シブいよぉ~ピン除去もクリーチャーも妨害エンチャントも、なんでもこいやという強気の能力。黒の2マナパワー2の伝統ですわな、《黒騎士》《ストロームガルドの騎士》皆素敵だ大好きだ。

そして、そのイラスト。たまらんよぉこれは。「インベイジョン」特有の、口部を謎のパーツで改造されたゾンビ達。見た目では腐敗が進んでいる感じもせず、あくまで死者を機械的に再利用しているだけなのかもしれない。脊髄から棘が貫通している当たり、技術的にヴォルラスが用いていたものに近いのだろう。フレーバーからは、シヴ山に住む誇り高きバーバリアンの戦死者をファイレクシアが自軍に迎えた経緯が書かれている。黄昏の向こうには、ファイレクシア人らしき連中が勝鬨をあげているような様子が見える。彼らはこの新たな兵士を迎え入れている光景なのか、戦果を上げて帰還する蛮人を讃えているのか。なんとも言えない構図に100点。

カードとしては、ブロック構築でなかなか「やりおる」働きを見せていたことを覚えている。本命デッキであった「ドロマーコントロール」に対して、白に対するプロテクションが強烈に刺さるのである。《名誉回復》&《ドロマーの魔除け》、効かないね。《幽体のオオヤマネコ》、すり抜けるね。《吸収》《蝕み》、3マナでしょ?こっち2マナね。といった具合に、「アンサー」とも言えるようなアンチっぷりを見せつけていたのだ。殴り続けて射程圏内までとらえれば、あとは《ウルザの激怒》なんかにピシャリと抑えて貰えば良い。楽しい時代だったなぁインベブロック構築。

個人的な話になってしまうが(いつものこと)、これのFoilが好き過ぎて、いい歳になってから所謂「大人買い」をしまくっていた時期があった。何せ80円とかで売ってたから、じゃああるだけ全部買うかと。こういう時に、中学の頃と比べて自分は(経済力的に)成長したと思うか・あるいは本質が変わっていなさすぎると思うか…大人になるって難しいね。



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2014/11/12 「ゾンビの殺し屋」


 昔から違和感というか、不思議に思っていることがある。マジックにおける「ゾンビ」を名に冠するカードの1つ1つに、妙な感覚を覚え続けてはや16年。最近、その正体が分かってきた。「ゾンビの○○」という表記がその原因だ。

なんのこっちゃと思われるかもしれないが、ゾンビ愛好家は各種映画やゲームのゾンビを「○○ゾンビ」と呼ぶし、そう表記する。これが例えば、「犬ゾンビ」「ゾンビの犬」となるだけでもちょっと変な感じがするの、分かってもらえるだろうか?物凄くどうでも良い話をすると、「サンゲリア2」という救いようがないほどにつまらないゾンビ映画に、鉈を高速で振り回す様がベテラン芸人の老人役の演技のようにコミカルであることから「寛平ゾンビ」と呼ばれ親しまれているゾンビが登場する。これを逆の表記にしてしまうと「ゾンビの寛平」となる。…順番って大事だね。

 これはマジックにおけるゾンビが、1つの部族であることがポイントだろう。呪術などで蘇った死者は、人間や他の動物などの区別もなくゾンビである。状態を指す言葉と言うよりは、ゾンビという生き物と思った方が良い(変な言葉ではあるが、そうとしか言いようがない)。映画に出てくるゾンビは、○○という職業・特徴の人間がゾンビになることで○○ゾンビとなる。しかしマジックの世界では、ゾンビが○○という職を行ったり武装を持ったりする。だからゾンビの○○なのだ。どうか「ドーデモイイ」とか言わないで…

 この《ゾンビの殺し屋》も、ゾンビが殺し屋という稼業を行っているのだ。掘り下げて考えてみるとなかなかおもしろいよね。カードとしては、変異持ちでその変異コストはマナではなく5点のライフという、超スーサイドな1枚に仕上がっている。実質3マナ3/4であり、しかも5色全て使えるときたものだから、リミテッドでは物凄く重宝される1枚である。素出しではやや心許ないが、他の変異連中よりも・どの色よりも早く3/4に仕事をさせることが出来る事実には、5点のライフを投資する価値がある。

2枚目以降は苦しくなるかもしれないが、色が合わない青白などでも、1枚はピックしてデッキに入れるべきである。イラスト通りの強さを誇るぞ。  フレーバーから察するに暗殺者であるようなのだが、何故かクリーチャータイプとしてそれを持っていない。ちなみにソックリネームの《ゾンビの暗殺者》は暗殺者のタイプを持っている。当たり前の話か。


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2014/11/11 「餌の取り合い」


 ゾンビ映画の鉄板描写として、足元から起き上がる死者に囲まれて、肉を求める腕に覆い尽くされて、殺到する死者の群れに食われてウギャーーーという一連の流れがある。

あんなよろよろしたヤツらに囲まれても気合いで突破できるんじゃないか?なんて観ていてツッコミたくなる時もあるが、実際に自分が血が滴り部分欠損して、なおも立ち上がり自分に食欲を向けてくる死体に囲まれた確実に「腰を抜かす」だろうなとも思う。

描写自体は間違っていない、表現(ゾンビのメイク)がしょっぱいだけだなと思いながら観るのが良いだろう。

それでも明らかにモタモタしすぎだろうという時もある。「そんな、あからさまな謎の液体とかに反応しなくて良いから…あーもーほら死んだ」こういうイライラを持ちながら観るのもまた正しい鑑賞法である。


この兵士も相当にドンくさかったのだろうか。《餌の取り合い》ははっきり言って「詰み」のシーンをカード化したものだ。

こうなってはもう助かる術はない。このインスタントは、戦場に居るゾンビがその捕食対象を発見し、群がるというシーンが見事に再現されている。ゾンビ1体につき-1/-1修正を与える「オンスロート」らしい部族支援型除去だ。

注意すべき点は、自身のゾンビだけでなく、戦場全体のゾンビを参照することだ。相手に《スケイズ・ゾンビ》1匹だけの状況で《変わり谷》を起動してブロックしようとするとこれで除去されてしまう。何か変な感じもするが、細かいことは言いっこなし。

まあそもそも黒には純粋な除去呪文が非常に選択肢数多とあるので、ゾンビデッキを使っていても確定で除去出来てしかも軽い《破滅の刃》なんかを用いた方が良いというのは、まあ当然の話だと思う。

同じ部族呪文でも、相手のゾンビを数えなくても良いからコストの軽い《群れの侮蔑》使うって?良いんだよ、こういうの雰囲気が大事なんだよという心構えで愛用してやって欲しい。

 英名の「Feeding Franzy」は訳すると「狂乱索餌」。テレビでサメの群れが海中に流れた血の匂いで1体の魚に狂ったように噛みつき貪る姿を見たこがあるかと思う。あれは、感覚器で捉えることの出来る情報が多すぎて情報を処理しきれずにあんなことになるんだそうな。また、そこから転じた比喩表現として、英語圏ではマスコミなどによる、執拗なまでの個人への攻撃をこう表現するらしい。確かに狂乱状態で飯食ってるもんなぁこれはお見事。


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