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「ファイレクシアの十字軍」
GPは何かが起きる場所であり、何かを起こす人のための場所でもある…と思っている。15回戦の後にさらに3回戦を勝ち抜き、2、3000人の頂点に立つなんて何かを起こせる人間にしか辿り着けなさそうな、険しい道のりである。誰も思いつかないようなテクニック、思いついても実行しなかった構築…そういうのを形にできる人が王者となるのだろう(勿論、そういう人ばかりではない。王道をトコトン極めるということもまた、同様に困難で偉大なことだと思う)。
《ファイレクシアの十字軍》というカードもまた、GPという舞台を彩った1枚である。まずはこのカードについて説明していこう。その名の通り、マジックの背景世界における邪悪の象徴、ファイレクシアに属するクリーチャーである。これは次元としてのファイレクシアが破壊され、機械の軍勢を率いたヨーグモスが死んだ侵略戦争から長き時を経て…次元ミラディンにて蘇ったファイレクシアの血脈・ミラディンを汚染し新ファイレクシアへと造り替えるファイレクシア第2世代、その先鋒ともいえるゾンビの騎士だ。
3マナ2/2のボディに能力が3つ。“感染”に先制攻撃と赤と白に対するプロテクション。プロテクションは優秀な除去が豊富な赤と白のそれをシャットアウトし、地上のクリーチャーの前には絶対なる鉄壁として、また止められない攻め手として活躍することが期待できる素晴らしい色の組み合わせ。このカードが登場したミラディンの傷跡・ブロックにおいては赤と白は主にミラディン陣営のカードで構成されており、十字軍という信仰を異にする者を討つ軍勢の名が与えられているのも納得である。
そして感染。これがもう1つの能力・先制攻撃と合わさると強烈無比。プレイヤーには毒カウンター/クリーチャーには-1/-1カウンターという形でダメージを与えるこの能力のおかげで、サイズで上回る3/3のクリーチャーにブロックされても討ち取られることなく一方的に向こうを弱体化させることが可能だ。もし攻撃を通してしまえば、回復することが不可能な毒を2つも受けてしまう。毒は相手に10個与えればゲームに勝利することが出来るので、このカードは5回殴れば勝利することが出来る。パワー2と印刷されているが、実質4のようなものである。5回と聞くと長いが、他の感染クリーチャーや緑の《巨大化》系のパワー上昇呪文、装備品を絡めると2パンくらいで勝負を決めてしまう。当時は《饗宴と飢餓の剣》のようなえげつない装備品も存在したため、これを装備してしまえばもうゲームに勝ったようなもんだったな。3マナにして強烈なプレッシャーをかける、フィニッシャーとなるクリーチャーでありスタンダードのみならず幅広いフォーマットで多くのプレイヤーに愛された名カードだ。強くてカッコイイ。この動力パイプのみで構成された関節とか、デカすぎる左右非対称な腕とか、どうなってるかよくわからん顔とか…人気出るにきまってるがな!
このカードを手にGP神戸11を制覇したのは、かの殿堂入りプレイヤー・皆大好き八十岡翔太さんだ。独自の構築を行うことで知られる八十岡さんが、エクステンデッドで開かれた最後のイベントに持ち込んだのはこの十字軍を4枚サイドボードに仕込んだ「青黒フェアリー」。除去体制が高く、軸をずらして攻めてくるこのカードを前にフェアリー対策を握りしめながら散っていった対戦相手もいたことだろう。準決勝でも白単を相手に2体のゾンビの騎士が華麗な毒殺を決めていたのも記憶に新し…くはないか、もう4年も前だし。このサイドボーディングには、発想とそれを実行し、そして的確にそれを運用する…プロプレイヤーって本当にすごいなと、感動したものだ。
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2015/11/17
「長毛のソクター」
GP神戸、日本国内でももう既に6度も開催されている定番イベントである。7度目の今回・GP神戸2015のフォーマットはスタンダードだが、なんとこの地でこのフォーマットのGPが開催されるのは初の出来事。これまではブロック構築やリミテッドにモダン、そして…今は無き、思い出のフォーマット・エクステンデッドにて開催されていたのだ。今日はそんなエクステンデッドにて開催されたGP神戸09の優勝デッキ「ナヤZoo」に採用されていたカードについて書いていこう。《長毛のソクター》だ。3マナ5/4という、何一つ能力を持っていないがその巨体こそが異能のクリーチャーだ。『アラーラの断片』は1つの次元が5つの断片に分断され、そのそれぞれが3色のマナしか持たず独自の進化を遂げた…という背景世界を持っている。このソクターが属する断片は、緑を中心にその友好色である赤と白のマナをベースとしたナヤ。一面をジャングルで覆われたこの断片には、数々の巨獣達が生息している。これらの怪物はガルガンチュアンと呼ばれ、そこに住まう人間やエルフ達から神聖視されている。この背景世界に基づいてデザインされたナヤの緑赤白のカードは、ガルガンチュアン信仰=巨大なクリーチャー・具体的にはパワー5以上のそれをコントロールしていることでボーナスを得られるというものが主となっている。『タルキール覇王譚』の“獰猛”のご先祖様だ。で、このソクターはそれらパワー5以上のクリーチャーとシナジーを形成するカードの恩恵を得るための火種。3色とは言え3マナでパワー5のクリーチャーが得られるのは破格だ。《モストドン》《熊手爪のガルガンチュアン》《血茨のなじり屋》その他もろもろでトランプルや先制攻撃、速攻など戦闘力を高める能力与えてやるもよし、《あふれ出る火焚き》《鼓声狩人》らの能力起動の条件を満たしてもよし、《メイエルのアリア》でなんだかすごいことになっちゃうのを狙ってもよし。
ただ、そんなことを抜きにして、何度も言うが3マナ5/4。このカードの登場まで、これほどのスペックを誇ったカードは稀有な存在だった。《包囲の搭、ドラン》か、あるいはとてつもないデメリット持ちくらいしかおらず、それらと比べて伝説でなくバニラであり、しかもレアリティはアンコモンという事実は…インフレを感じずにはいられなかった。塗族シナジーを活かした強力なクリーチャー群が揃ったローウィン・ブロックを経て、単騎で完結した強さを持ったクリーチャーへ…まあ、今となっては「3色のカードなんだからこれぐらいは当たり前」と思ってしまうが、その当たり前という新しい価値観を打ち出したのはこのカードだと個人的には思っている(あと、同サイクルの《ロウクスの戦修道士》)。
このカードが4枚投入された「ナヤZoo」でエクステンデッドのGPを勝利したのは皆さんご存知、齋藤友晴さん。当時の彼の戦術記には、《野生のナカティル》《タルモゴイフ》らと並んでこの《長毛のソクター》もデッキに4積み必須の主力であると書かれていた。ここまで絶賛されたバニラクリーチャーってのもなかなかないな。
今回長いのは承知だが、どうしても紹介しておかねばならない逸話がこのカードにはある。そもそも、3色3マナバニラというカードは、ソクターというビーストではなく、ナヤに住む猫のヒューマノイド・ナカティルの戦士として作られる予定だったのでイラストもまさしくナカティルの戦士が剣を手に咆哮しているものだった。しかし開発が進み、このカードのサイズは猫族に相応しくない5/4へと膨張。そこでイラストを差し替えてビーストに変更しよう、と2マナ2/2バニラのために用意されていた角の生えた毛むくじゃらの獣のイラスト…このカードの現行イラストに差し替えられたのだ。元は2/2だったとは…今となってはとてもそうは見えない。ちなみにその2/2バニラにはエルフのイラストが充てられ、ナカティル戦士は紆余曲折を経てコンバットトリックに採用されることとなった。それぞれ何かわかるかな?
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2015/11/16
「傷刃の精鋭」
もうGP神戸2015が目の前!やらなきゃならない仕事がまだまだあるし、GP本番前はお腹が痛くなる不安に満ち満ちた期間である。いざ、始まってしまえばなんか気が付けば終わってる、そんな3日間なんだが準備期間というのは独特の雰囲気があるよね。プレイヤー達にとっても、デッキを決定しサイドボードの調整をし、状況ごとの最適解を確認し…それでもなお、勝てるのか不安が募る時期、であると思う。このヘヴィな空気の中、今日は僕が経験したとあるグランプリのお話をしよう。
ローウィンブロック限定構築で開催されたGP神戸08。最終セットの『イーブンタイド』も登場し、部族と多色という2つのテーマが1つになったこの環境、マナベースもクリーチャーもよりどりみどり。本命は「白単キスキン」「緑黒エルフ」そして「青黒フェアリー」。当時からよくわからんデッキばかり使っていた僕は、このGPにも自称「キスキンとエルフを食える」デッキで出場した。そのデッキを成り立たせていたカードこそ《傷刃の精鋭》。このカードは『モーニングタイド』のテーマである“職業”シナジーを体現する1枚。ウィザードや兵士などのメジャー職業でない、それまでロードにあたるカードが存在しなかったものたちにもスポットが当たったのはマジック大好きおじさんとしては嬉しかった。《傷刃の精鋭》は、それまで職業としてクリーチャータイプ欄に印刷されていながらも、それであることに意味を与えられていなかった「暗殺者」に価値を与えた1枚である。2マナ2/2のエルフ・暗殺者で、タップして墓地の暗殺者カードを追放するコストを支払うと、対象のクリーチャー1体を破壊できるのだ。2マナのクリーチャーで、対象の制限もなく、マナも不要な破壊能力。お、強くないか?確かに暗殺者というマイナーなタイプを持つカードは少ないが、この環境には絶対的な1枚があるではないか。《名も無き転置》という、除去にして多層を持ち2マナと軽い絶好のカードが。というわけでこれらを4枚ずつ並べて、追加の暗殺者としてカードとして素で強い《残忍なレッドキャップ》も追加。これらに追加で白から全体除去と《台所の嫌がらせ屋》などの戦線を支えてくれるカードをいくつか採用して、これらをフィルターランドと《反射池》でまとめあげ、フィニッシャーは《名誉の御身》!…とかいうやる気ゴリッゴリのマッシヴなデッキが完成。友人とテストとしてエルフとキスキンを相手に回してみると、これがなかなか勝率が良い、というか圧倒してしまえた。どちらのデッキを相手にしても《傷刃の精鋭》が2マナ2/2といういざともなればブロッカーに回り、後続の同カードの能力のタネになれるというスペックを活かして大活躍。これはGP神戸貰ったな!と意気込んでいざ出陣。
して、結果は。まさかまさかの「黒単コントロール」と2回連続で当たり、クリーチャーを展開してこない相手に《傷刃の精鋭》はただの熊と化し、こちらよりヘビーコントロールな向こうの《堕落》連打によって早くも2敗。そこからは仮想敵キスキン、エルフを相手に勝利するも、フェアリー(だったかな?)に負けて没。エルフのプレイヤーには「手も足も出ない。何でこのデッキが(2敗)ラインにいるんだ…」との、有難いんだか悲しいんだかわからない賛辞を頂いたのが良い思い出。黒コン2連打なんて聞いてない!傷刃、転置が揃った初手を見て内心ニヤついていたらこの仕打ち。そんな素敵な、忘れられない経験をさせてくれた最高のカードである。ちなみにこのGPを制したのは「青黒フェアリー」を駆るあんちゃんこと高橋優太さん。国内GP連覇という快挙を成し遂げたのが…もう7年前なのか、驚き。
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2015/11/14
「獣の統率者、ガラク」
「統率する者ウィーク」最後に登場するのは…個人的に大好きな、ガラク。4マナ、5マナと順調に増量してきたガラク。基本セットの緑の神話レア・プレインズウォーカー枠にて『基本セット2010』からスタメンを張り続けてきた男が、『基本セット2014』で見せた新たな姿は…なんと更なる増量、6マナという重量級プレインズウォーカーとして登場!これには驚いたが…能力も、これまでのガラクと趣をガラリと変えてきたもので、その点でも当時驚いたものだった。早速その能力を見ていこう。
6マナで忠誠値は4スタート。まず起動すると思われる+1能力は、《暴走の先導》という緑のソーサリーによく似た、不確定アドバンテージ獲得系。ライブラリーを上から5枚公開し、その中のクリーチャーカードを全取り!最大5枚ものドローになるが、現実では土地やその他の呪文も見えることかと思うので、2・3枚引ければ御の字。最低0もあり得るが、その時は有効牌がそもそもないトップを綺麗にできて良かったとポジティブに考えていこう。まあ、1枚は引けるけどね(僕は2度経験がある)。
続いては-3能力、こちらも過去の緑のカードに似た効果を持っており、これは《劇的な入場》に類似している。緑のクリーチャーを手札から直接戦場に出すというもの。今回のガラクがこれまでと大きく趣を変えたと言ったが、それはこれまでガラクの定番だったクリーチャー・トークンを生み出す能力を失ったからだ。現在、5種類のガラクのうちトークンを生み出さないのはこれのみ。代わりに、このカードが得たクリーチャー展開手段がこの-3能力である。マナコストを無視して手札から叩きつける獣は、大きければ大きいほど美味しい。戦場に出たターンに自衛のために起動しても良いし、まずは+1能力で球を補充してから通常のマナを用いた展開とこの能力を組み合わせて圧倒的な戦場を作り出しても良い。出てきたのが《世界棘のワーム》や《大祖始》だったら気持ちいいなんてもんじゃないだろう。この2つの能力を駆使すれば、獣の統率者という異名を実感することが出来るだろう。
所謂奥義、-7能力もド派手なもので、かつこれも以前緑に登場した《野生のつがい》のアッパーバージョンと言ったところ。クリーチャー呪文を1つ唱えるたびに、ライブラリーからクリーチャーを探してきて戦場に出す。例え唱えたのが《ラノワールのエルフ》であっても、それが《超大なベイロス》を呼んでくるのだからとてもつもない。この能力軌道に至るまで、3回も+1能力を起動していれば弾となるクリーチャーも手札に溢れているだろう。
このヘビー級のプレインズウォーカーが輝いたデッキとして真っ先に上がるのが、プロツアー『テーロス』で三原槙仁さんが使用しTOP4まで勝ち上がった「コロッサルグルール」。渡辺雄也さんと共にデザインされたこのデッキは、ヘビー級のクリーチャーを最大限に活用する、クリーチャーとプレインズウォーカーのみで構成された見た目にもインパクトのあるデッキだった。あれは記憶に残るデッキの1つだなぁ。
このカードはSan Diego Comic Conという、アメリカのコミック・ゲーム・映画などの祭典の場にて、同期のプレインズウォーカーと5体セットで発売された特別仕様のものが存在する。メタリックな漆黒のそのカードは高級感とアメコミのクールさを併せ持つ、めちゃくちゃカッコイイもの。僕も思わず購入してしまった。いや~いつ見ても最高ッッ!
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2015/11/13
「魏の大将 曹仁」
曹仁、字を子孝。かの曹操の従兄弟であり、その曹操軍最古参の武将である。従兄弟とは言っても、厳密には曹操と血の繋がりはない。曹操の祖父の兄の孫にあたるのだが、曹操の祖父は宦官であり(詳しくはググってね)曹操の父を養子として迎えているからだ。若い頃から武勇に優れ、馬術や弓術の鍛錬をしながら、時に仲間を率いて暴れていた曹仁は、反董卓連合を結成し挙兵した曹操に付き従う。袁術、陶謙、そして呂布…強敵らとの戦いにおいて、曹仁は先鋒を務め軍を率いて戦果を挙げた。曹操が新たな都を築いて皇帝を迎え入れた際には、曹仁もこれに大いに貢献したと評価され広陽郡の太守に任命される。しかし、曹仁という将は戦場でこそ輝く、それをわかっていた曹操は曹仁をその地には赴任させず、以前の地位のまま騎兵隊の指揮を任せた。曹操が中華をその手に収めるには、曹仁の戦働きは不可欠だったのだ。この遷都から1年後の197年、曹操は失態を犯し敗北を喫する。近隣で別の戦闘を行っていた曹仁は急行し、絶体絶命の危機と味わったことのない敗北に士気が下がる曹操軍の兵士達を激励し、追撃を退けることに成功した。曹仁なくしては、曹操の命運もここまでだったのかもしれない。
圧倒的な軍事力の差を見せる袁紹を相手にした官渡の戦いでは、劉備が多くの勢力を袁紹側に寝返らせて戦力の差は広がる一方だったが、曹仁は劉備が袁紹陣営に入って日が浅い今ならこれを打ち破ることが出来ると進言。騎兵による攻めで一度は離反した勢力を再び降伏させることに成功し、また他にも戦況を覆す活躍・進言を行って曹操軍の勝利に貢献。爵位を授かった…と、彼の生涯前半の功績だけでもこれだけ出てくる。三国志ブームの中でも曹仁は比較的地味なキャラクターとして描かれていたが、名将中の名将であり、呂布や張遼を押しのけて三国志の最強武将に彼の名を挙げるコアなファンもいるほどだ。
『ポータル三国志』の曹仁も、そういったシブい活躍をする強力カードの1つだ。4マナ3/3馬術とスペックは断トツだが、戦場に出た時に3点のライフを失ってしまう。典型的な初心者が嫌うカードである。何故自分がライフを失うのか、とついつい思ってしまうが…使えばその強さがわかる、そんな1枚だ。同セット内のクリーチャーは軒並みスペックが良くない中、4マナで3/3馬術は他の同スペックカードよりも1マナ軽い。3点のライフを失おうが、ガンガン殴って取り戻せば良いのである。1度殴れば借金チャラ、2発目からボーナスだ。曹仁より大きいクリーチャーは、魏が誇る黒い除去呪文で殺してしまえばよろしい。
若かりし頃の無法ぶりを悔い、曹操の元についてからは軍規を何よりも重視した厳しい武将。その厳格さに率いられた軍は、張遼のような神話の如き伝説的戦果は挙げてはいないが、安定してシブい活躍を見せ貢献した。そんなフレイバーを感じ取ることが出来るデザインになっているのも最高な1枚。「三国志限定ジェネラルEDH」とか、昔やったなぁ。
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2015/11/12
「統率の取れた突撃」
闇雲に荒れ狂う攻撃を繰り広げる巨体で多数の敵軍を、統率者の指令の元に乱れぬ陣形を形成し迎え撃ち、戦況をひっくり返す…時代物アクションとかでよく見る展開である。所謂ファランクスを組んで猛攻に耐え、ジワリジワリと槍で押し返していって、そこに増援が到着して敵軍一旦退却みたいなね。SFとかだと軍隊がエイリアンなんかの化け物相手にパニックになるもリーダーが無線で皆を落ち着かせて的確な行動をとって状況を打破…戦闘において大事なことは、個々の戦闘力よりも軍勢の統率かもしれない。
マジックにおいてもその価値観は同一のようで、クリーチャー1体をバキバキに強化する呪文よりも、複数体の戦闘能力を底上げするカードの方が強いことが多い(勿論状況にもよるし、《強大化》×《ティムールの激闘》のような飛びぬけた例外も存在する)。戦闘中に使用する奇襲的呪文群、所謂“コンバットトリック”も、1体のクリーチャーを強化してやるより複数に触れる方が強力で便利だ。まあそんな話、安くはないよね…えっ、1マナで統率の取れたコンバットトリックを?
《統率の取れた突撃》はたったの1マナながら戦況をがらりと変え得る1枚。クリーチャーを最大2体対象とし、それのパワーを1上昇させるとともに先制攻撃を与えるインスタントだ。これがね~一見地味ながら、めちゃくちゃいい仕事をするんですわ。ブロックされた自軍のクリーチャーに使ってブロッカーを一方的に乗り越えてよし・あるいは、赤いデッキではあまりしたくないが受けに回ってこちらのブロッカーに使って相手の裏をかいてもよし。どちらで用いても1マナと非常に軽いため、展開を阻害せずに用いられるのは素晴らしい。
スタンダードでは、“英雄的”の能力を持った赤い小型クリーチャーと合わせてこのカードを用いる「赤単スライ」がなかなか強かった。《サテュロスの重装歩兵》が強化され《アクロスの十字軍》がトークンを生みつつ、ブロッカーを一方的に打ち取る。こんなん、勝ったも同然だ。上記のクリーチャーに加えて“果敢”でこのカードの火力を底上げする《僧院の速槍》、先制攻撃で高いパワーを生かして低いタフネスを気にせずに攻める《ゴブリンの熟練先導者》など、相性の良いカードには恵まれていた印象を受ける。ずっと使われる側だったから、このカードには個人的に強い苦手意識がある。シャクられまくったな~。
混沌を司る赤にして、統率の取れたというカード名もなかなか面白い。ただフレイバーテキストは昔からの赤っぽさが感じられて、統率だといっても野蛮な色には変わりないんだなと一安心したり。
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2015/11/11
「待ち伏せ司令官」
司令官/Commanderという役職は、陸軍なら軍団・海軍なら艦隊を指揮する者を示す。ここでいう軍団というのは複数の師団や旅団の混成部隊で、数万から数十万規模の兵員を有する。艦隊というのも読んで字のごとく、軍艦2隻以上の団体を指す。漫画とか映画で当たり前のように出てくる司令官殿・コマンダーは比類なき偉~いお方なのだ。確かに、スターウォーズでもコマンダーって言われてた人はスターデストロイヤーの艦隊率いてたな。今日紹介するカードも、軍団を率いる司令官な1枚。
知識なしに、《待ち伏せ司令官》というカード名だけでどういうカードなのかわかる人はおそらくいないだろう。まず、このカード名にしてエルフだなんてわかるわきゃーない。エルフの待ち伏せ司令官、じゃないことに当時違和感を覚えたプレイヤーが…実はそんなにいたわけじゃなかった。オンスロート・ブロックは部族間のシナジーをメインテーマとしたセットである。ゴブリンはゴブリンと、エルフはエルフと組ませてなんぼだが…そうなると、デッキに入っているカードが全てゴブリンの○○・エルフの○○だと頭がこんがらがりそうだ。そういう配慮もあるのだろう、このブロックには従来のように部族名+その役職という構図のカード名と、単に役職のみを記したカード名とが混在している。これはちょっと画期的だったな。そんなノリに慣れての第3セット『スカージ』でのデビューとなったので、このカード名も特に違和感がなく受け入れられたのを覚えている。
さて、このエルフ。一体どういう司令官なのかというと…本人は5マナ2/2と貧弱ながら、これが戦場にいるだけであなたのコントロールする《森》はすべて1/1のエルフとなる。待ち伏せという名が示す通り、この司令官が戦場に出て指揮を執ると、森に潜みしエルフ達がその姿を現す、ということだろう。所見の時は森がエルフになる、ってなんかミュータント感があってヤバいなと思っていたが、最近になって「Duel Deck Elves vs Goblins」に再録された際に与えられた新規イラストの大きいものを見て、先ほど述べたようなフレイバーだったんだなと気付いた。待ち伏せということは、エルフ達は《森》がセットされたその瞬間から息を殺してそこに潜んでいたんだなと考えると、以前よりもこのカードのことが好きになってきた。《森》が全てエルフになることで打点は底上げされ、《幸運を祈る者》《森林守りのエルフ》といったエルフの頭数を要求するカードはその威力を格段に増す。そしてこの司令官の能力はそれにとどまらず、エルフを生け贄に捧げることで対象のクリーチャー1体に+3/+3修正を与えることが出来る。なんとも残酷な指令だが、これも勝利のためだ。生け贄にするタマなら山ほど、いや森ほどあるぜ。エルフ1体の攻撃が通れば、そこにオールインで一撃死を演出することも可能だろう。
良いことばかり書いたが、この能力がいつでもプラスに働くかというと、そうでもない。むしろ、派手さの代償としての脆さがかなり目立つ。《紅蓮地獄》《神の怒り》でエルフもろとも土地が一掃されるし、この頃のスタンダードには《仕組まれた疫病》があった。《ゴブリンの名手》1体に土地を根こそぎもっていかれるというのもキツい。セットしたばかりの《森》が召喚酔いで使えないというデメリットも厳しいものがある。このカードと対をなす形で作られた同じ司令官カード《包囲攻撃の司令官》は3体という数字の制限があるが、より安全に運用できるトークンを生み出す。こちらの安定感は凄まじく、スタンダード環境にある時は天下を取る名カードとして時代を問わず活躍。もし《待ち伏せ司令官》もトークンを生み出すタイプの司令官だったら…かなり使えるカードになっていた可能性はある。こればっかりは何を言ってもしゃーない。あるいは、森がエルフになることでえげつない恩恵を与えてくれるカードが現れるかもしれない。その時まで、息を殺して待ち伏せするのだ。
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2015/11/10
「レイモス教の団長」
今週は「統率する者ウィーク」。これで書くにあたって、とりあえずは「統率者」という単語でカード名検索。それでもそこまでヒットしないので、今度は統率者の英語表記「Commander」で検索。まあまあヒット。Commanderの意味は指揮者・司令官・指揮者・中佐・はたまたロンドン警察の警視庁なんかを指すようだ。要するに、率いる偉い人。で、この単語で検索されて出てきた連中も軒並み司令官だったりするわけだが…1枚、ひときわ輝く訳を見つけて目が留まる。「団長」、いや~いい訳だ。確かに団長としか言いようがないもんな。というわけで今日の1枚は《レイモス教の団長》!
《レイモス教の団長》、その名が示す通り、次元メルカディアに住まうレイモス教信者の一団をカード化したものである。彼らが崇めるレイモスとは、元々ファイレシアが造りし《ドラゴン・エンジン》の1体である。これにウルザが改良を施して人格を与えたもの。兄弟戦争も終盤に差しかかった頃、戦乱に巻き込まれたアルゴスの難民たちを乗せてドミナリアを離れ、次元を超える旅の末に辿り着いたのがメルカディア。人間やマーフォーク達はこうしてこの次元にやってきたというわけだ。その時の体験を人間達が伝説として語り継ぎ、レイモス教という宗教に発展した、ざっくり言うとこんな感じ。命を救ってくれた巨大なる機械の龍、これは神と崇めるのも頷ける。そんなレイモスに救われた民の末裔チョー=アリムは自然と調和する生き方をしており、開発・商業主義なメルカディア市からは迫害を受けている。彼らはこのメルカディア市の侵攻に反抗するもの(レベル)、というわけ。
同じ信仰と反逆の信念を胸に抱くレベルという部族は、同族同士での結びつきが強い。通称“リクルート”と呼ばれる同族をライブラリーからサーチして場に出す能力を有しているものが複数おり、クリーチャーを1体展開するだけでそれが後続を呼び、途切れない攻めを行えるという戦闘要員兼システムクリーチャーを中心に据えていた。同じくリクルート能力を有する部族、傭兵が上司が部下を呼ぶシステムなのに対して、レベルは部下が上司を呼び出すことも可能な代わりに、マナコストが割高となっている。このカードの場合、自身は4マナで呼び出すことが出来るのは5マナ、この能力起動に必要なマナは1マナ増えた6マナとなっている。目上の方をお呼びするのだから交通費をこっちが持つのは当たり前ということか。1マナ1/1から、順に大きなものを呼んでいくレベルの中で、このカードは4マナ圏を担当。2/4で戦闘に関する能力はなしと、少々物足りないスペックである。そもそも、戦闘要員のレベルは3マナ域に固まっており、これらを呼び出せればリクルートとしては十分・無理して5マナ以上のものを呼び出す必要はなく、ならば戦闘能力が低く橋渡しの役目にしかならないこの団長も、レベルデッキで採用されることはあまりなかった…団長なのに。
ただ、「反乱の呼び声」という『メルカディアン・マスクス』のテーマデッキのパッケージに採用され、雑誌などのメディアでもレベルを用いたデッキ「リベリオン」の解説記事の挿絵などに登場することが多く、レベル=このイラストと認識されている方も少なくなかったと思う。この団長の絶妙な表情は、一目見ると忘れられんな。
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2015/11/9
「統率者の宝球」
『統率者(2015年版)』が間もなく発売される。新規統率者たちに再録カード、どういったメンツが揃うのかは執筆段階では判明しきっておらず何とも言えないが…今回は過去「対抗色」と呼ばれていた2色の組み合わせのデッキが5つ登場だ。もう、対抗色とかいう概念、ないでしょ。なんだったら青赤とか緑黒とか、友好色より友好関係にあるでしょう。まあそれは良いとして、とにかく新しいカードが複数登場することで、統率者シリーズに収録されている伝説のクリーチャー(とプレインズウォーカー)のみを統率者に指定出来るルールでデッキを組んでも楽しいゲームが出来そうな感じになってきた。今週はそんな統率者とか、司令官とかリーダーとか…そういった肩書を名に冠するカードを紹介していこう。「統率する者ウィーク」だ。
今日の1枚は《統率者の宝球》。名前が示す通り、統率者と共にあることを前提とした1枚、というか統率者がいないゲームでは意味がないカードである。能力としては、《統率の塔》のアーティファクト版。自身の統率者の“固有色”と同じ色のマナを1つ生み出すことが出来る。固有色とは、統率者戦のデッキ構築における概念。例えば《先頭に立つもの、アナフェンザ》の固有色は白・黒・緑。これを統率者に据えてデッキを作る場合、この3色以外の色を持つカードはデッキに入れることが出来ない。固有色というのはカードそのものの色のみでなく、ルールテキストに含まれた色マナシンボルもカウントする。そのため、《黄金牙、タシグル》の固有色は黒に加えて緑と青となり《統率者の宝球》はこの3色を生み出せる。これはなかなかに便利だ。序盤はマナ加速・色マナサポートとして用いて、1枚でも多くの有効牌を引きたい終盤では生け贄に捧げてカードを1枚引けるという柔軟性も悪くない。
比較的地味なセットとなった『統率者2014』に収録されているこのカードもまあ地味で、でも今見返すとなかなかに素敵な1枚ではないか。実は見逃しているだけで、過去の統率者シリーズにも良いカードは眠っているのかもしれない。皆も探してみよう。
ちなみに固有色と同じ「色マナ」を生み出す能力であるため、統率者に指定しているカードがエルドラージのような無色のものだった場合、何もマナは生み出せないぞ!注意しよう。
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2015/11/7
「集団変身」
押し合い圧し合い、どんちゃん騒ぎな群衆カードを紹介してきた今週「モッシュ・ウィーク」。ヘッドライナー(トリ)に相応しいカードは…これしかない!一直線に並びはしゃぐ群衆!《集団変身》をご紹介!
その名の通り、集団に対して《変身》を打ち込む大型呪文である。元の《変身》が4マナであるのに対して、これは6マナ。単体に対する呪文が全体にランクアップするのに2マナしかかからないと考えれば、お得感に溢れている。まあ、完全に《変身》の全体版というわけではなく、姿を変えるのは自軍のクリーチャーのみ。
《変身》は対象のクリーチャーを追放し、そのオーナーのライブラリーを上から公開していって最初に捲れたクリーチャーを戦場に出すというもの。これが自軍全体に及ぶ…まさしく「集団変身」という4字熟語でしか表現できない光景。その性質上、マナクリーチャーを大量に並べて6マナを捻出し、それらのクリーチャーをより大型だったりアドバンテージが取れるものへと変身させる、そんなデッキで使用するのがベストだろう。
このカードが収録された『基本セット2011』が登場したスタンダード環境には、《引き裂かれし永劫、エムラクール》をはじめとする巨大クリーチャー・エルドラージという変身先にはおあつらえ向きな面々と、《巣の侵略者》のような頭数を増やすトークン生成カードを擁する『エルドラージ覚醒』があった。これらの組み合わせでデッキを組んだプレイヤーも少なくないだろう。どうしても決め技がランダム要素が強いものであるため《集団変身》デッキは安定した戦果が望めるデッキではなく…メタゲームを塗り替えるような活躍はしなかったが、面白いデッキであることには違いなかった。「ワープワールド」が好きな人はこれも好きだったに違いない。
イラストはChristopher Moeller氏の担当。もうこれね、最高なんすわ。ワラワラと駆け寄る兵士たちが、右から順にクリーチャーへと変身していくなんともファンタジーな光景。その何れもが、Christopherさんが過去にイラストを担当したカードに登場したものである。解説していこう。右奥・赤い巨体《赤の夜明けの運び手》その隣《ワームの突進》に描かれたワーム、ワームの手前《カヴ―の攻め手》その手前《今田家の猟犬、勇丸》ワームの後方上空《煙突のインプ》、勇丸の手前・最前《やっかい児》その羽根の下から顔が見えるのが「From the Vault:Exiled」《ゴブリンの従僕》、その横に見えるミノタウルスは《目くらましの呪文》そのミノタウルスと同じく青い霊気に包まれながら、今まさに変身の段階にある中央の兵士は《エイヴンの魚捕り》にその身を変えようとしている。先ほども述べたようにライブラリーを参照するためランダム要素が強いカードなのだが、いつかはこのカードの効果でこれらのクリーチャーを戦場に出すというミラクルを成し遂げてみたいものだ。謎の感動が、そこにあるはず。
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2015/11/6
「軍族童の突発」
1枚のカードで複数のクリーチャーを展開する、トークン生成カード。マナコストとトークンのパワー/タフネスを見ればトントンかちょっと損してるくらいなのだが、複数生み出せるというのが強みだ。単体除去を受けても他のトークンが生き延びれば、カードの枚数的には得をしている。《清浄の名誉》がある状態で2マナでパワー2のクリーチャーを出すよりも、同じマナで1/1を2体生み出せる《急報》を使った方が打点の上昇は大きい。最近ではそんなトークン呪文の性能もかつてより大幅に上昇し、スタンダードを中心に多くの環境で活躍するカードが生まれている。今日紹介する、《軍族童の突発》も近年稀に見るハイスペック・トークン呪文だ。
赤の3マナで1/1のゴブリン・トークンを3体生み出すシンプルな呪文である。ここでまず1つ考えてほしい。3マナで実質3/3。赤で3マナ3/3って、なかなかいないよねということ。調べてみると6体いて、いずれもデメリットとなり得る能力を持っている。このカードはデメリットのない実質3/3であるという点で十分に素晴らしい。そして、それらがシナジーの宝庫であるゴブリンという種族であること。これが大きい。『タルキール覇王譚』でこのカードがデビューした時、スタンダード環境には…《鋳造所通りの住人》《ゴブリンの熟練先導者》と、相性抜群のカードがしっかりと存在していた…というより待ってたなこりゃ。《鋳造所通りの住人》もそうだが、赤いトークンであることにも意味があったのだ…《かき立てる炎》の“召集”コストを払えるのはかなり重要で、3ターン目にこれ経由で4点を投げつけることが可能だった。そして前述の通り、パワーを上昇させるカードとの相性は神がかっている。クリーチャー3体だから、そういったカードの3倍の恩恵を受けられる。それらの中でも断トツの相性を誇るのが《ジェスカイの隆盛》。ご存知の通り、渡辺雄也プロが使用し一躍有名になりメタゲームの一角としてここ1年輝きを放ち続けている「ジェスカイトークン」。その主要パーツとして、欠かすことのできないカードである。ゴブリンが2/2、3/3と成長していく姿は圧倒的だ。
カード名の「軍族」というのは、タルキールの氏族・マルドゥの別名。このカードのようなゴブリン達は、マルドゥを形成する他の種族・人間やオークにはあまり相手にされておらず、なんだかかわいそうではあるが…頭でっかちな愛嬌のある見た目に反して、頑強で危険な戦士である。自身では騎乗できないものが多いが、他のマルドゥの戦士が駆る馬の上をピョンピョン飛び移り、敵を急襲する。この時、戦士の背中に掴まるのだそうだが…かわいい。こんな子たちが一生懸命しがみついてきたら…いや、重くて鬱陶しいか。臭そうだし。このイラスト、「モッシュ・ウィーク」で紹介するにはもってこいな暑苦しさと愛らしさの調和。フェス会場で目当てのアーティストのステージめがけて走る外人さんの姿を思い浮かべるな。
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2015/11/5
「クローンの軍勢」
マジックには略語が多い。StP、KotRとか。そもそも作っている会社はWotCと略されてるしね。今週は「モッシュ・ウィーク」、この業界にも略語は存在する。WoD。何の略語か。それは今日の1枚を見てからの方がわかりやすいだろう。
『タルキール龍紀伝』はその名の通りドラゴンにフィーチャーしたセットで、このセットの神話レアにも龍王サイクルをはじめとし、ドラゴンに関するカードが多数みられた。神話レアはセットの目玉でもあるので、どういったカードが飛び出すのかはプレビュー機関の一番の楽しみだったりする。《クローンの軍勢》は、確か龍紀伝のクライマックスで登場したんだったか、皆の度肝をいろんな意味で抜いたカードであった。ドラゴン関係ねぇ~。カード名も、タルキールらしくない。どちらかというとスターウォーズじゃないか。《クローン》というカード名は既にあったが、モンゴルを中心としたアジアな世界観に突然のSF頻出英単語というのは違和感がすごかったものだ。そして、カードとしてもめちゃくちゃ大味で、しかもドラゴンに全く関係ないという点もポイント。なかなかに衝撃的なデビューだったなぁ…効果も、インパクト満点。プレイヤー1人がコントロールするクリーチャーをすべてコピーしてそれらトークンの軍勢を自身の戦場に叩きつけることが出来る。
自身を対象にしてクリーチャーを純粋に2倍にしても良いし、対戦相手を対象としてその軍勢を受け止めるために用いてもよし。不利を覆し、有利をより強固なものにする。これだけの強烈な効果をもたらすのであれば…そう、勿論コストはヘビーもヘビー、大ヘビー。9マナだ。9マナの青のソーサリーというのは、このカード以前にはなんと2枚しか存在していない。いずれも必殺技的な1枚であり、《クローンの軍勢》もその系譜に名を連ねることとなった。先輩2枚が何かは各自で調べて、その効果の派手さに笑ってほしい。
すさまじい効果の呪文ではあるが、それは最大出力で使用した際である点には注意。自他ともに戦場にクリーチャーがいない状況では何ももたらさないし、対戦相手のたった1匹の《タルモゴイフ》を9マナでコピーなんかしても、うーん。相手がクリーチャーを大量展開してくる確率の方が少ないので、これはあくまで自分でクリーチャーを並べるデッキでそれらを倍増させてナンボだね。戦場に出た時にトークンをばらまく能力を持ったクリーチャーやマナクリーチャーを連打してからこれでドン!…オーバーキルやね。まあ、こういう「いつか最高のタイミングで叩きつけたい」と思わせるカードは素敵だね。
話は冒頭に戻って、WoDね。これは「Wall of Death」の略。死の壁、と訳して問題ない。観客入り乱れるモッシュピット。その観客たちが、突然左右に分かれて空間を作る。勿論、ギチギチの状態だ。そこから一気に対岸へ向かって走る!そしてぶつかり合う!その光景は、このカードのイラストのようなもの。もはや戦だ!密集した集団が正面衝突するということで、非常に危険なムーブであり、禁止されているフェスもある。迫力は抜群なんだけどね…僕もLamb of Godのライブにて望まず体験したことがあるが、マジで危ないので皆も巻き込まれないように気を付けて。…まあ、普通のライブじゃ発生しないから大丈夫か。
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2015/11/4
「幻影の軍団」
激しさを楽しむフェスではモッシュが発生する。押し合いへし合いてんやわんや、各々が思い思いの動きをし、ステージ上のアーティストと一体となる。この、人の波の中で、微動だにせず直立不動で己のポジションをキープし続ける人々もまた存在する。あんなもみくちゃの中で、しっかりと地に足…いやもう、根だ。根を下ろしている。横では半狂乱の若者たちが集団でグルグルと渦を巻いているのに、しっかりと自らの立ち位置を確保している人を見ると「ウォーリアー」という単語が脳裏に浮かぶ。それも一人や二人ではなく、ある程度の人数で並びフロントラインを形成している。今日はそんな仁王立ち集団が描かれたカードを紹介しようではないか。
《幻影の軍団》、イラストが素晴らしいね。何せあの《極楽鳥》の担当者Mark Pooleだ。夕焼け空の雲の上、極彩色の翼を生やし黄金の鎧に身を包んだ戦士たち。フレイバーの情報によると、「夢幻境」なるところから召喚されるらしい。この幻影たちは遥か昔の英雄たちがそのモデルのようで、言うなれば立体ホログラフのようなものか。夢幻境なる記憶媒体である土地がどのようなところか、とても気になるところ。
カードとしては、4マナ4/1飛行とかなり攻撃的なクリーチャーである。ここまで攻撃的なスペックのカードは、現代でもそう簡単には存在しない。クリーチャーが強くなかった黎明期ならなおのことだ。タフネス1とは言え、相手に飛行および到達持ちがいなければライフの5分の1をゴリッと持っていく打撃力は魅力的だ。
青でこの攻撃的なスペックを得るのはただでは許されず、しっかりと制約がついている。アップキープに青マナを1つ支払う。幻影である彼らを維持するには、青マナの魔力が不可欠なのだ。そのまんま、水として用いているのかも。水蒸気にして、蜃気楼的な…。たった1マナではあるが、煩わしいコストであることには違いない。最近はこういうコストを持っているクリーチャーの方が少なくなったね。うっかり支払い忘れて、相手もそれに気づかずであとから発覚してもめて…みたいなことになるのを避けているのかな。旧枠時代には特によく見られたデザインである。水の力が必要だし、タフネスも1と最低限度の攻撃でかき消えてしまう。幻影、なるものをうまく表わせているのではないだろうか。
かつてはその名の通り「幻影」というクリーチャータイプで、カードにもそれが印刷されている。幻影は結局5種類しか存在せず、強力なものもなく、それを参照するカードもなく。そのまま同ニュアンスであるイリュージョンへと統合された。その名の通り、掻き消えてしまったというわけだ。
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2015/11/2
「怒涛の突進」
1週間、休暇をいただいておりました。カリフォルニアへ某フェスに遊びに…いやぁ、楽しかった。初めて本場のモッシュを体感したが、勝手にワイルドで荒々しいものをイメージしていたが…思っていたよりも優しいものだった。日本よりも、全体で1つの盛り上がりをなしているので、デカいやつらが激しい動きをしていても意味もなく苦しい思いをせずに済んだのは良かったね。音楽に合わせて暴れた、という気持ち良さだけがキッチリ残った。いやぁ本当に楽しかった。まあ、優しい世界とは言ってもサークルピットなどの激しさは日本の比ではなく、いかついヤツらがゴリゴリ暴れまわる姿は何も知らない人から見たら恐怖の光景なのだろう。今週は、群れ・軍団・乱戦…そういったモッシュなカードを紹介してみよう。「モッシュ・ウィーク」、bring it on!
一発目は《怒涛の突進》。フレイバーによると、トロール達の「押して倒して」という遊びがもとで生まれた戦術とのこと。押して倒して、まんまモッシュじゃないか。小さなトロールやゴブリン達がボンボンとドラムを叩き、その調子に合わせて巨大なトロール達がおしくらまんじゅうを行うのだろうか。暑苦しい!イラストも押し合いへし合いを1体のトロール的存在が支配している光景である。Ian Millerの作品は迫力に満ちていて、最高だなぁ。
イラストの通り、群れるブロッカーを押しのける呪文である。4マナのインスタントでクリーチャー1体にトランプルを付与。さらにブロッカー1体につきそのクリーチャーのサイズが+1/+1上昇。多くにブロックされればされるほど、危険な存在と化す。“ランページ”っぽい能力を与えてくれるわけだ。これで相手のブロッカーが山ほどいても安心だ。相討ちも取らせず、プレイヤー本体に抜けるダメージを増すことさえあるだろう。
赤や緑によくあるサイズアップ系の呪文で、この手の呪文によくある突然死を…ん?ちょっと冷静に、今一度カードテキストを見てみよう。
「クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時までトランプルを得る。このターン、そのクリーチャーがブロックされたとき、それはターン終了時までそれをブロックしているクリーチャー1体につき+1/+1の修整を受ける。」
…「ブロックされたとき」????ブロックしているクリーチャーの数だけサイズが上がるが、それはこの呪文が撃たれたタイミングでは決まらない。この呪文の恩恵を受けたクリーチャーが、ブロックされてからようやく誘発してサイズを上げるのだ。つまり、ブロッククリーチャー指定前に唱えなければならない。通常この手の呪文は、相手がブロックを指定した後に使用することで裏をかけるのが強みであり、故に「コンバットトリック」と呼ばれるのである。トリックでもなんでもなく「俺に触れると火傷するぜー!」と正面切って突っ込んでくるクリーチャーを、誰がブロックするというのか。THE脳味噌筋肉!恩恵を受けるには、《寄せ餌》を使用したりその能力を持つクリーチャーで使用しなければならない。かつてはブロッククリーチャー指定後にしか使用できず、その時ブロックしているクリーチャーの数だけ修正を受けるというテキストであったが、これでも4マナでこれだけの効果しか得られない強くない呪文だったので、現状のテキストではもはや…。
まあ、弱くても勢いはマジック界でもトップクラス!クリーチャーでない呪文は昔の方が強力だったといわれることが多いが、コンバットトリック系に限っては今の方が遥かに強力だよという事実の、証人的カードであるということで。
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2015/10/24
「刈り取りと種まき」
今週は「プロツアー・ウィーク」と題して、プロツアーにまつわるカードを紹介してきた。一般のプレイヤーからは未だ遠い世界であるプロツアー。しかし今では、その場にいなくとも生放送で激闘を観戦できる。本当にいい時代だ。プロツアーの観戦が楽しいのは、やはり同じ国のプレイヤー達が海外で活躍する姿を観ることが出来るというのが多くの要素を占めるだろう。メジャーリーグでイチローが首位打者となった時と、日本人プレイヤーがプロツアーで悲願の優勝を果たした時は等しく興奮したものだ。そう、その優勝を果たしたのは、他でもないあの…
日本人がその栄冠を初めて手にしたのは、ミラディンブロック構築で行われたプロツアー神戸04。もう11年もの時が経ったのか…僕はまだ高校生だったな。当時、月に1、2回ちょっと遠出して遊びに行くカードショップには、雑誌でその顔を見たことがある日本のプロプレイヤー達が集っていることが多かった。…正直、怖かったのでとても声をかけられず。でも、時に楽しそうに・時にヒリつくような真剣さで彼らがマジックをプレイしているのを、チラっと見るのは良い刺激になったなぁ。なかでも、眼力はイカツイながらも、真剣にマジックをしている姿が絵になるあるプレイヤーを、かっこいいなと思ったものだ。雑誌で名前見るたびに「やっぱりあの人、すごいんだな」と小さく感動していた。
話を戻して…プロツアー神戸。戦前の予想では、「親和」一色に染まるだろうとの声が大きかった。何せ、全力の「電結親和」である。アーティファクト・土地も、《頭蓋骨締め》さえも禁止されていない。すべてをなぎ倒す最強のビートダウン…これを使うのか、対策するのか。メタられてもなお強いと信じて「親和」を使ったプレイヤーも少なくなく、結果二日目進出者数は堂々の1位。そんな環境で決勝まで駒を進めたのは…「親和」2、「赤単(ビッグレッド/バーン)」5、「12post」1というメンツ。対親和デッキが躍進し、これらがぶつかり合う決勝ラウンドとなったのだ。決勝のカードは「ビッグレッド」vs「12post」。「12post」は今日の1枚《刈り取りと種まき》と《森の占術》を追加の《雲上の座》としてカウントすることからこの名がついた、ビッグマナデッキだ。あふれ出るマナから《歯と爪》→《白金の天使》+《レオニンの高僧》で不死の状態を作り出したり、純粋に《ダークスティールの巨像》素出ししてブン殴ったり。この《刈り取りと種まき》は相手の土地を割るもよし、こちらの土地を増やすもよし、シブい仕事をするなかなか優秀な呪文だったのだ。特に、《ちらつき蛾の生息地》《隠れ石》があるこの環境では、それらに対処できることには大きな意味があった。“双呪”で唱えると、両方の効果を発揮し対戦相手とのマナの差をつけることが出来る。これは、他のビッグマナ系デッキに対する絶大なアドバンテージとなる。自身の戦場に持ってくる土地はアンタップインで種類も問わない。これで《雲上の座》を持って来れば、実質マナコスト0のフリースペルになったり、むしろマナが増えたりすることもあるだろう。緑の万能さが溢れており、素晴らしい。
決勝戦でも、クリーチャー化する土地を落とせる除去の本領発揮と《ちらつき蛾の生息地》を割って粘ろう、とするも…「ビッグレッド」側のプレイヤーはこれを《爆片破》で投げつけて、残りライフを2点に減らし、次のターンのトップデックで勝負を決めた。この決勝を戦ったのは、かの殿堂入りプレイヤー・昨日も紹介したGabriel Nassifと、上述の僕があこがれていたかっこいいプレイヤー、ご存じ・黒田正城だ。
あれから11年。憧れだったチャンピオンは、今は僕の隣に座り、モニターを眺めながら「青黒勝ってるの、こら不愉快やわ~」と雑な解説をしている。黒田さん、あの時は直接言えなかったので、この機会に改めて。おめでとうございます、最高にカッコよかったです。いつも無礼なツッコミを許容していただいて感謝しています。二人でのグランプリの実況解説はもうやっちゃったので…いつか一緒に、プロツアーの舞台で暴れちゃいましょう!
その日を夢見つつ…長くなったから、ここいらで筆を置こう。
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2015/10/23
「残酷な根本原理」
何度も言うが、プロツアーは厳しい世界だ。己のすべてを出し切っても、世界の頂点で戦う連中には簡単に跳ねのけられてしまうこともある。予選で権利を勝ち取ったプレイヤーが洗礼を浴びたということはよく耳にするが、何十大会連続で参加したプレイヤーでも事故り散らかしたり、ドラフトラウンドでボムを叩きつけられたりしてGood
Gameと言わざるを得ない。
わかっちゃいるけど理不尽と言いたくなる敗北を経験するもの。相手のトップデッキに泣くことも多々ある。デッキにX枚しか入ってないのに、ここで引くのかよ!と。マジックは残酷だ。今日紹介するのは、残酷さを極めた1枚。
《残酷な根本原理》は『アラーラの断片』にて収録された5つの断片を代表する、これまでの呪文を大きく上回る効果を持ったソーサリーのサイクルである。いずれもぶっ飛んだ効果でゲームを捲るレベルのものであるが、それもそのはずコストは7マナで3色なのだ。
今日紹介する《残酷な根本原理》も青青黒黒黒赤赤とかいうぶっ飛んだマナコストの持ち主で、まあ普通に組んだデッキではプレイすることもかなわない。マナベースがしっかりしていて、かつ7マナを安心してタップすることが出来る長期戦デッキでようやく、というところ。
マジックでは基本的に大味の超大呪文はそもそも撃てない・間に合わない・撃っても負けが覆らない、とロクなものではなかった。構築においてね。なので、7マナのソーサリーが活躍するということ自体が稀。その類稀な1枚がこのカード。
何せ、得られる恩恵がとてつもない。対戦相手はクリーチャーを1体生け贄にささげ、こちらは墓地からクリーチャーを1枚手札に戻す。対戦相手は3枚カードを捨て、こちらは3枚カードを引く。
対戦相手は5点のライフを失い、こちらは5点のライフを得る。なんやこれ?枚数だけでも、対戦相手は4枚損して、こちらは3枚得をする。このリソースの差を活かすターンを作り出せる、5点のライフを得られるのが素晴らしい。消耗戦の末にこんなん撃たれたら失神する。
根本原理シリーズは、イラストにその断片を代表する主人公キャラクター=ぷレインズウォーカーが描かれ、彼らの能力や特性・思想などが伝わる背景世界を重視した呪文となっていた。
『アラーラの断片』のタイミングでは、唯一青赤黒の断片・グリクシスに該当するプレインズウォーカーのみが未登場であった。このカードにも、打ちのめされたデーモンとそれに対面する大きな影のみが描かれており、この人物は誰なのか?と話題になったものだ。
後に、日本語版のカード名流出事件で《プレインズウォーカー、ニコル・ボーラス》の文字を見た時、世界中のプレイヤーが「なるほどなぁ」と合点がいったものだ。ラスボスの使用する呪文に相応しい強力無比な呪文である。
プロツアー京都2009では、会場で大スクリーンに決勝ラウンドの試合模様が映し出されていた。勿論参加権利もなく、サイドイベントや買い物を楽しんでいた僕は、ある試合の中継に目が行き、歩を止めた。
絶体絶命の状況下、引いて良いカードはこれしかない、と言わんばかりにドロー前に土地をタップし青青黒黒黒赤赤マナを出すジェスチャーをするプレイヤー。トップをくるりと捲ると…そこには、対戦相手にとってただただ残酷な現実が待っていたのだった。
この劇的なトップデックを果たしたGabriel
Nassifは、この《残酷な根本原理》を撃ちまくり、自身初のプロツアー個人戦優勝の栄冠を手にしたのだった。あの瞬間場内に響いた、阿鼻叫喚とも歓声ともとれる「Ohhhhhhhhhh!」を忘れることはないだろう。
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2015/10/22
「悪性スリヴァー」
プロツアーというのは、何かが起こる場所。最初のプロツアー、ニューヨーク96から20年近く続いてきた戦いの歴史。その1つ1つで、それまでの常識が覆されてきた(戦前予想そのまんまな時代もあったが、まあそれはそれ)。勝者にもドラマはあるが、敗者もまた然り。マジックは時に残酷な評決を下す。誰だって勝ちたいが、どうしようもない敗北というものも存在する。
《悪性スリヴァー》も、そんな非情な現実を叩きつけた1枚である。『未来予知』の通称“未来枠”に属するこのカード。
未来枠とは、発売当時のマジックには存在しないキーワード能力を持っていたり、異質なデザイン、初登場の固有名詞といった、近い将来マジックの世界に訪れるかもしれないカード達を「先行再録」したという、実験的なカード群である。
《タルモゴイフ》や《墓忍び》が有名で、そのクールな枠デザインで人気も高い。正式にはタイムシフトというグループに属しているが、『時のらせん』『次元の混乱』のそれと区別する意味合いで、このカードの枠をグループの呼称として用いることが多い。
《悪性スリヴァー》もそうした未来な要素を持っている。スリヴァー自体は『テンペスト』から存在する古き歴史ある種族だが、このカードはその共有する能力が未来のもの。“有毒1”。
この能力は、スリヴァーがプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたびに、ダメージとは別で毒カウンターを1個プレゼントするというもの。ダメージ、ライブラリーアウト、特殊勝利条件…らに並ぶマジックの勝ち手段の1つ、毒殺を行うのだ。
プレイヤーは毒カウンターを10個得るとゲームに敗北する。このスリヴァーの場合、パワーは1だが10回殴るだけでプレイヤーを仕留めることが出来る。…これだけ聞くと、何かを思い出すはず。
そう、『ミラディンの傷跡』で登場した“感染”だ。ダメージを毒カウンターという形で与える感染持ち達は、未だにレガシーでも有力デッキの1つとして活躍していたりする。純粋にパワーが2倍だからね。その感染と比べると、有毒1はパワーがどれだけ上がろうが1つしか毒を与えることが出来ない。この有毒をベースに、よりわかりやすくまた現実的に調整されたのが感染なのだろう。
一見感染の下位互換に見える有毒だが、これがなかなかどうして強力で…。感染と違って、この能力は複数を同時に持つことが出来る。《悪性スリヴァー》が2体並ぶと、お互いに能力を与え合ってその能力は「有毒1、有毒1」という状態になる。これを活かして、《悪性スリヴァー》を複数同時に並べて殴るデッキが作られた。
それが…かの極悪デッキ「ハルクフラッシュ」だ。コンボパーツであるスリヴァーを素引きしても、とりあえず1マナだし出してコツコツ殴ればOK。なんだったらそのままクロックパーミみたいに動いてコンボせずに勝ってしまうことも。ガッデムなデッキであったなぁ。
さて、プロツアーの話をしようじゃないか。プロツアーサンディエゴ07、双頭巨人ブースタードラフトで行われたこのトーナメントの決勝ドラフトにて、アメリカのプロツアー初出場の二人組はスリヴァー決め打ちを慣行。これが成功し、彼らの手元には溢れ返らんばかりのスリヴァーが。そして準決勝で、それらが毒牙を剥く。
1ターン目《悪性スリヴァー》→2ターン目《悪性スリヴァー》→3ターン目《紡績スリヴァー》《陰影スリヴァー》→4ターン目《悪性スリヴァー》、《陰影スリヴァー》への除去を《一瞬の瞬き》で回避してシャドー毒殺!双頭巨人戦は一本勝負なので、4キルでゲームセット!
プロツアー決勝ドラフトで、プロツアーの歴史上初の毒殺が4ターンで決まる…このマジックの歴史上語り継がれる、ある意味名誉ある敗北を経験しているのが、皆もよく知るあの人だよ。ほら、公式の…かね(このコラムはここで終わっている)
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2015/10/21
「黒檀の梟の根付」
プロツアーにデッキを持ち込む、という経験。一度はしてみたいものだ。一体、どういう気持ちでその時を迎えるのだろう。デッキリストを記入し、提出したならばもう引き返すことはできない。それは店舗で開かれる大会でも同じっちゃ同じだけど、プロツアーともなれば…。
誰だって、良い結果を残したい。大多数のプレイヤーは、次のプロツアーの権利を持っていない。ここで勝たなきゃ…絶対に勝ちたい。勝てば、人生が変わる。そんな状況で提出するデッキリストの重さを、味わってみたいと思っているプレイヤーは多いんじゃないかな。
特に、所謂メタ外のデッキを持ち込む時は…。今でこそ、プロツアーは新セット発売の2週間後と短い期間で開催されているが、かつては1ヶ月後だったり、そもそも新セットと何も関係のないタイミングで開かれていたものだ。
なので、事前にある程度環境が出来上がり、各プレイヤーがどのカードが強いのか・それをかなり深く理解した上で臨んでいた。準備期間が短いのと長いの、どちらがより勝つのが難しいのだろうか?長きにわたり参加しているプレイヤー達に聴いてみたいものだ。
話がそれたが、様々なデッキを研究する時間があるとは言え、当日会場で初めてその存在を世に明かすことになる未知のデッキというものは少なくなかった。
大体想像できたデッキがTOP8を占めるということも勿論あったが、1つ2つわけのわからんデッキが華々しいデビューを飾る姿を見るのはこの上なく楽しかったものだ。「オウリングマイン(ハウリングオウル)」もそんなデッキの1つだった。
あれは、プロツアーホノルル06か。確かに、《黒檀の梟の根付》を使うデッキがあるとのウワサは僕らも耳にしていた。しかし、そもそも強い図が思い浮かばない。そんなウワサを忘れ去った状態で眺めたプロツアーTOP8リストに、やつはいた。
《黒檀の梟の根付》は、先日レガシーにおける禁止改定を受け脱獄に成功した《黒の万力》の後継機だ。手札にカードが多ければ多いほどボーナスが受けられるカードで構成された『神河救済』で、それらに真っ向から反発する挑戦的なカードである。
対戦相手のアップキープの開始時に手札の枚数が7枚以上の場合、4点ダメージを飛ばすという…4点?まあまあのダメージじゃないか。2マナと使いやすいコストも良い。《吠えたける鉱山》と合わせて…そういう思想が、皆ないこともなかった。が、そう簡単に組めるものでもなく…。結局、洗練されたデッキの登場には根付けが出てから半年以上の期間を必要としたのだった(『ギルドパクト』で得たカードが成り立たせたといのもあるが)。
プロツアーTOP8に2名を輩出したことで一躍注目デッキとなった。使用者の一人はAntoine
Ruel。Olivier Ruelの兄であるが、その弟OlivierもTOP8に進出を果たしている。兄弟そろっての偉業、ちょっとカッコよすぎんぞ。
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2015/10/20
「波使い」
プロツアー『戦乱のゼンディカー』で日本人がTOP8に進出したのかどうか、これを執筆している時点ではわからないが…最近は安定して進出しているので、今回も素晴らしい結果を残してくれていることだろう。
振り返れば…プロツアー『テーロス』からで山本さんと三原さんが二人でTOP8に残った辺りから、日本向けの生放送も本格的に行われ、以降コンスタントに日本人が勝つ素晴らしい流れが始まってるんだよなぁ…というわけで、日本人にとって1つの契機であったプロツアー『テーロス』の決勝で猛威を振るった…というか、このカードのためのステージだったな。《波使い》を紹介しよう。
4マナ2/1と本人のスペックは高くない…と見せかけて、プロテクション(赤)を持っているので悪くはない。
この神話レアのマーフォークは、このスペックにもう1つ、爆発力に満ちた能力を有しており、これでプロツアーというマジックの頂点で結果を残し、そこから1年ほどの長期政権を築き上げたのだった。
その能力とは、『テーロス』のメインメカニズムである信心に関するもの。戦場に出た際、自身のコントロールしているパーマネントの持つマナコスト中の青マナシンボルの数だけ、1/0のトークンを戦場に出す。
このトークンは《波使い》の更なる能力・エレメンタルを+1/+1する能力で2/1となる。例えば、パーマネントが何も出ていない状況でこれを唱え能力の解決までいくと、2/1が2体。4マナでパワー4換算ならば青いクリーチャーとしては悪くない。これが、既に青いパーマネントが出ていた場合…例えば、《凍結燃焼の奇魔》だったりすると、信心は3つでトークン3体。
4マナで8点分の打点。強いわ、これ。ただプロツアーの舞台で証明されるまでは、神などの他の派手なカードの陰に隠れていて、そのカードパワーに気付いているプレイヤーが多かったわけではなかった。
これに気付き、《海の神、タッサ》などと共に《雲ヒレの猛禽》《夜帷の死霊》のような相性の良いカードと合わせて「青単信心」のデッキリストを完成させたプロプレイヤー達は勝ち組となった。何せ、決勝は共にこのデッキを調整しあった者同士でのミラーマッチだったのだ。この頃からか、プロツアーで活躍したカードがその週明けに爆発的に値を上げるようになったのは…。
そこから「青単信心」は1年近くメタゲームの上位を担っていた。除去をしっかり備えた「黒単信心」に負けることが多かったが、ブン回って4ターン目にトークンを大量にばらまく《波使い》は「青単信心」の地位を支えていた。
個人的にはあまり青いデッキは好きではないのだが、この青単のビートダウンは大好きだった。1ターン目から4ターン目まで綺麗に展開するデッキ、最高やね。ポテンシャルは高く、レガシーやモダンのマーフォークでも採用されるスペックではあるので、これからも使用する機会はあるだろう。
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2015/10/19
「象牙の仮面」
今回もプロツアー、盛り上がったなぁ…盛り上がったはず(このコラムはプロツアー『戦乱のゼンディカー』開催より前に書かれています)。プロの中のプロ達が見せるテクニック、ドラマ…プロツアーには、プロツアーにしかない何かがある。
その何かは、その場に行って体感するのが一番だけども、今ではタイムラグなく生で配信が見れるので、権利を持たず日本にいる僕らにもその一部が共有され、感動を味わえる。これが無料だというのは、本当に素晴らしいことだ。ライブカバレージ、最高。
プロツアーの熱気がまだまだ続いているであろう今週、当コラムでは「プロツアー・ウィーク」と題して、プロツアーで結果を残したデッキに入っていたカード・個人的に印象的な1枚を紹介していこう。あの日あの時、輝いていたデッキ・カードが忘れられないように…そんな手助けができれば、光栄だ。
本日の1枚は《象牙の仮面》。このカードが輝いたのは…今更語るまでもない、かもしれないがまだまだ知らない新参プレイヤーのためにあえて語ろう。このカードは、プロツアーシカゴ99優勝デッキにメインから1枚挿しされていた。そのデッキの名は「メイヤーオース」だ。
この4マナのエンチャントは、「あなたは被覆を持つ」というシンプルな能力を1つ持っている。多くのデッキにとっては「だからなんだ?」と言わんばかりだが、その一方でまた多数のデッキが「ふざけるな!」と震え声で叫ぶ、そんな1枚。
手札破壊や直接火力呪文を満載したデッキなんかは、これを設置されるだけで機能不全に陥ることがある。そういった黒及び赤のデッキは、基本的にエンチャントには触れない色だ。かつては、これが戦場に着地した瞬間にゲームオーバー、なんてこともあった。
このカードをサイドボードに取られるようになって、赤単バーンを使っていた友人が白をタッチして《解呪》をサイドに採用した時、僕らのマジックは1つレベルアップしたなぁと思ったものだ。
話をシカゴに戻そう。《ドルイドの誓い》を中心に据えたオースデッキの進化形「メイヤーオース」。これは厳密にはオースデッキというより、《悟りの教示者》のシルバーバレットを活かしたデッキと言うべきだ。《象牙の仮面》もそれでサーチする中の1枚。
上述のように勝利手段がプレイヤーを対象に取る呪文であるデッキ相手には絶大な威力を発揮する。シカゴの決勝では「ネクロディスク」と対戦。これと《無のロッド》をサーチして設置、ドレイン呪文と《ネビニラルの円盤》を封じられ、勝利手段と仮面の破壊手段を失ったネクロは敗北を受け入れるしかなかった。あれはプロツアーの歴史の中でも特別に忘れられない瞬間やね、視聴する価値はあるかと。
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2015/10/17
「残酷な詐欺師」
エルドラージという多腕多足の部族の再来に準えて、同様に複数の手足を持つクリーチャー達を紹介してきた「手足わさわさウィーク」。そのトリは…まさしく手足がわさわさっと、わきわきっと生え這いずり迫りくる恐怖のワンシーンを描いた《残酷な詐欺師》に担当して貰おう。こういう手で徘徊するクリーチャー、ホラーファンには定番でたまらないデザインやね。ホラーゲームやってると、ひたひたと手を伸ばしながら迫る悪夢のような姿に怯えるパニクって正確な操作が出来ずに死亡するのが楽しくてしょうがない。実際、「サイレント・ヒル」や「サイレン」で出現しそうなデザインでもある。宙を舞うおかめと般若の面が、何とも言えない不気味さを演出している。2000年代のホラーってこういうのが多かったね。
日本風の次元・神河を舞台にした『神河物語』のインパクトと言ったら、これに並ぶものはマジックの長い歴史でもそうそうない。収録されているカードの、何とも言えぬジャパン感よ(日本感、ではない)。クリーチャーのいずれもが独特のインパクトを放っていた。スピリットの類は、おそらく百鬼夜行をイメージしているのだろう。バラエティー豊かな、ちょっとズレたへんてこなカードの中で、「おっ、これはなかなか」と思わされたのが《残酷な詐欺師》。カード名ぶっ飛んでるなぁ、詐欺師て!と当時思ったものだ。そしてトーナメントパックを剥いていて、その詐欺師がコモンのサイクルだと知り更に驚くと。そんなサイクル中、最も使い易そうに見えたのもこれだった。2マナ2/1というスペックは悪くない。
詐欺師サイクルはいずれも、1マナでトップを確認する能力と、2マナでトップを公開しそれが土地だった場合ボーナスを受ける能力を併せ持っている。詐欺師、と言う名がどのようにこの能力とリンクしているのか。おそらくは使い手に試されているのではないか。トップを見て、あたかも土地ではないかのようなリアクションをし、ターンを返す。そこで騙された相手に土地を見せつけてやる…なんか、意地悪なカードだな。この黒の詐欺師は、所謂バジリスク能力を得る。バジリスク能力と言うのは、“接死”の下位互換…と言える旧世代の能力だ。戦闘ダメージ限定の接死で、ものによっては戦闘終了後に解決されるものもある。この《残酷な詐欺師》は戦闘ダメージさえ与えれば即座に破壊できるので、先制攻撃なんかをつけてやればそこそこやらしいブロッカーとして機能するだろう。モミール・ベーシックたまたま手に入れることが出来たなら、能力の的中率は100%。大型地上クリーチャーを牽制するナイスブロッカーとして終盤に牙を剥くことだろう。
しかしこのイラストの織りなす世界観の独特で美しいことよ。知る人ぞ知るピンボールゲーム「邪鬼破壊(JAKI
CRUSH)」のボスステージで出てきそうだ。知らない?やり得やり得。
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2015/10/16
「巨大トタテグモ」
「手足わさわさウィーク」と銘打ったならば、避けては通れないクリーチャー・タイプがある。僕らの次元にも生息し、繁栄を極めている…アイツだ。蜘蛛。クモ。スパイダー。彼らは机の引き出しに住んでいる米粒のように小さなものから、亜熱帯のジャングルを闊歩するラーメン鉢くらいのものまでサイズ・形状・その性質と豊富なラインナップを誇る、地球でも成功している生物の1つだ。4万種にも及ぶ彼らの中には、一般のクモの概念から大きく離れた連中も存在する。糸を投げ縄のように獲物へと投擲するもの、花や鳥の糞、アリに擬態するもの、踊ったり手信号で仲間とコミュニケーションをとるもの、草食のもの…クモについて読んでいるだけで日が暮れる。非常に面白い、小さな隣人達だ。彼らの一般的なイメージと言うと、やはり網目状の巣。しかしこの能力を備えているクモは全体で視れば割合は少なく、多くのものは地面をうろついたりして暮らしている。完全な地中に住まうものも…今日の1枚はそんな、巣を貼らないクモを紹介しよう。
《巨大トタテグモ》、英名はGiant Trap Door Spider。その名の通り、扉が着いた垂直の巣穴を地面に掘り、そこに潜って生活している。入り口付近で待ち構え、地上を歩く昆虫などが起こす振動を感知して襲い掛かりこれを喰らう。危険を感じると、戸をパタンと締めて巣穴の底に隠れてしまう。とても原始的なクモの仲間で、日本にも生息している(絶滅の恐れがあるので、見つけたら温かく見守ってやって欲しい)。これの文字通り巨大なものが、テリシア大陸に生息しているようだ。文字通り人をも喰らうそのサイズ。もはや、穴を掘って隠れ住む必要があるのか疑問ではあるサイズだが…ワームやらドラゴンやら、人間サイズのクモなんてかわいく見えるバケモノがひしめき合う世界ではこそこそ隠れなきゃならん小物ってことなんだろうな。
3マナ2/3、マルチカラーとは言え当時としては悪くないサイズ。起動型能力は、これと飛行を持たない攻撃クリーチャーを追放する。赤緑っぽくはない、割と受け寄りの除去能力である。攻めっ気溢れる色でえらく防衛寄りの思想なのはなんともだが、それでもサイズを参照しない確定除去であるというのは良いね。クモのくせに到達を持っていないので注意。前述の地中棲を再現しているのだろう。
このカードは、プロツアーの場で輝きを放ったことがある。プロツアーコロンバス96にて、オーレ・ラーデが使用し優勝した「バグバインド」というデッキに4積みされていたのだ。このデッキは《嵐の束縛》(バインド)と除去耐性のある昆虫や蜘蛛タイプのクリーチャー(バグ)の組み合わせで勝利するビートダウンだ。《Wooly Spider》と共に3マナ2/3が8枚体制で、これは当時の定番《紅蓮地獄》を回避するための構築だった。こういう地味ぃなカードが栄光のスポットライトを浴びた経験があるって言うのは、夢のある話だね。
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2015/10/15
「肢体の壁」
「手足わさわさウィーク」をお送りしているが、自分でも何故こんな名前にしたのだろうか。後悔はないが疑問のみが湧き上がってくる。まあ、どこもテーマにしないような強くもないけど面白いカードを紹介していければ良いんです。というわけで、今日の1枚は《肢体の壁》。昨日までの更新は虫系だったが、一転してジャパニーズホラー系のカードを紹介しよう。文字通り、手足がわさわさ…もはやうぞうぞのレベルか。
パッと見では生垣に見えたりして気付かないが、相当にホラーなイラスト。『基本セット2015』と、かなり最近のセットに入っているカードだが…知らない人も多いんじゃないだろうか。最近に限ったことではないが、構築で使われなかったカードは知られずに環境を去ってゆく。このカードの場合、リミテッドでも大して強くないのでデッキに入らないことも多く、余計に知られることはなかったのだろう。僕も改めてイラストを見て「こんなヤバい光景のカードやったんかい」と驚いたものだ。
この強烈なイラストにして、上述したようにそんなに強くない。3マナ0/3の壁。うーん使えない!持っている能力は…あなたがライフゲインするたびに、この壁に+1/+1カウンターを置いていくというもの。これでスタート時のサイズの小ささをカバーできるという訳だ。ただ…ライフを得る度に誘発し、「1個」置くというのがね。何故ゲインした値と同数ではないのか!100点であろうが一兆点であろうが、律儀に一個だ。絆魂と組み合わさると危険ということかもしれないが、殴りに行けない壁が成長することにそれほど問題があるとは思えない。とは言え、最近はライフを回復させるカードが溢れ返っている。土地でさえライフをもたらしてくれるような状況だ。アンコモンでもあるし、無難にまとめるのが吉なのかも。
もう1つの能力は、7マナと生け贄という重いコストを支払って…対戦相手のライフを失わせる大技だ。その値は、このカードのパワー分。回復をしていればいるほど、強大な一撃を喰らわせるフィニッシャーになり得るということだ。…勿論、何もなければ0点。何かで1度回復しても1点だ。これを美味しく使うには、少なくともゲーム中4・5回はライフを回復する手段が必要だ。それぞれの値は大きくなくても良い。エンチャントやクリーチャーにより継続して回復することが重要になってくる。
こういうカードを見ていると、マジックって僕らが馴染みのあるゲームから変わって来たんだなぁと思う訳ですよ。かつてなら、黒でライフ回復なんてドレイン呪文しか存在しなかった、それもスタンダード環境に2種類あれば良い方で。むしろライフをガンガン支払っていく色で、1点残ってたらそれで良い。そんな色が、自身がライフ回復するのを前提としたカードを作るなんてな…最近の黒いカード、そんなに激しくライフ支払わんしなぁ…時代は目の前で変わっていくんだね。
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2015/10/14
「巨大待ち伏せ虫」
ほとんどの方が昆虫の飼育を経験したことがあるのではないだろうか。特に、甲虫は子どもから大人まで人気のカブト・クワガタを有しており、南国の巨体や鮮やかさを売りにする種が流通しペット・インセクトの王者である(こんな単語があるかは知らない)。個人的には、植物食…というか樹液食のカブト達よりも、ちょっとマイナーな肉食の甲虫たちが好きだ。ハンミョウ、エンマハンミョウ、オサムシ…いずれも、甲虫ならではの光沢のあるボディと肉食の証である顎を持ち、美しいフォルムをしている。エンマハンミョウには憧れたなぁ。飼育が難しいらしく、なかなか手を出せない。ショップなどで眺めていると、イメージより小さくてかわいいのだが…とにかく、動かない。肉食の小さな生き物たちは動かないものだ。それこそ、生きているのか死んでいるのか怪しいレベルである。無駄なエネルギーを使わず、大きな捕食者に悟られず、そして獲物を欺くため…今日紹介するカードも、そんな動かない虫をモデルにしている…小さくはないんだが。
《巨大待ち伏せ虫》。すごい名前だ。ジャイアント・アンブッシュ・ビートル。マダガスカルにでも生息していそうだ。その名の通り、巨大で、その生物らしさを殺して巨岩に徹し、獲物を待ち伏せする虫のようだ。フレイバーを読むに、完璧に静止して彫像のような姿で獲物が射程範囲に入るまで待っているようだ。色はジャンドの3色であり、『アラーラ再誕』で5つの断片が1つとなったことでやってきたこの地を知らぬ者達を餌食にしているようである。ていうかこんなん彫像だったとしても近づくなよ!バントの人ら迂闊ものかいな!
マルチ/ハイブリッドという数少ない特性を持ったクリーチャーである。赤マナは固定で黒か緑いずれかのマナを払いキャストする、『アラーラ再誕』にのみ存在する特殊なマナコストを持っているカードの1つだ。3色のカードではあるが赤緑か黒赤で使えるので、幅の広いカードである。
性能としては5マナ4/3速攻と歴代のクリーチャーの中では悪くない方だ。そりゃレアや神話レアには並べないが…アンコモンの中では頑張っている方だ。誘発型能力もなかなかイカしている。戦場に出た際に対戦相手のクリーチャーを強制的にこれのブロックへと参加させることが出来る。タフネス4以下のクリーチャーを除去できる、所謂疑似除去だ。『レギオン』の固有の能力“挑発”を髣髴とさせる。タフネスが3なので、パワー2以下の相手ならば一方的にひき潰してアドバンテージを取ることが出来る。リミテッドではなかなか優秀でやりおる1枚だ。
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2015/10/13
「棘のショッカー」
エルドラージ、エルドラージ、エルドラージ…『戦乱のゼンディカー』のカードを整理していると、のっぺらぼーなカードばかりを相手にすることになる。どいつもこいつも多脚で…パッと見て何がどうなっているのかわからないカードも多い。多脚なのは生理的嫌悪感をもよおすために取り入れられているデザインなのだろう。元ネタがクトゥルフ神話ということもあるのだろう。タコ的触手を主たるデザインとしているウラモグの血脈は勿論、昆虫型エイリアン的なコジレックの血脈、なんかわからんがうじゃうじゃエムラクール血脈…四足を主とする地球の動物たちとかけ離れたデザインは、初見でも味方ではなく敵だとわかる。
今週は、これらエルドラージ以外でマジックの世界を這いずり回る多脚・多肢の連中を紹介していこう。「手足わさわさウィーク」。カッコ悪いが、これがいっとうわかりやすい。…やっぱりちょっと恥ずかしいかな。
マジックの世界では、無脊椎動物の分類はそれほど細かくない。特に虫と呼ばれる類いのものがそうだ。クモやサソリを除いて「昆虫」という括りに分類されている。この昆虫のクリーチャータイプを持つものの中には、理科の授業で習った昆虫の定義に当てはまらない連中も多数含まれている。これはマジック以前に、日本語と英語の問題である。「insect」は「昆虫」と訳されているが…これが実は間違いと言うか、ちょっと違うんだな。詳細は明日移行にも述べていこう。今日紹介する《棘のショッカー》も、昆虫のタイプを与えられているが脚が6本以上あるため昆虫ではない、虫の類だ。その風貌から、ヒヨケムシに近い仲間ではないだろうか。刺々しく見るからに硬質な体と、岩を砕くパワフルさ、そして白熱した状態となっている尾針の部分。禍々しいクリーチャーである。
過去のカードをリメイクしたものが多数含まれる『時のらせん』。このカードも例外ではなく『テンペスト』の《ショッカー》をリメイクしたものだ。《ショッカー》は2マナと軽いコストで出てきて、対戦相手にダメージを与える度にその手札を捨てさせ同枚数のカードを引かせるという独特な能力を持っていたため、当時の変なカードオタクに人気を博した。が、結局は2マナ1/1。何かでサポートしなければ、何もできないも同然。その弱点を克服させようという方向で進化したのが《棘のショッカー》。4マナと倍のマナコストになってはいるが、サイズも倍の2/2。そして速攻とトランプルという、ダメージを通す確率を大幅に上昇させる能力を得た。これでフルタップで身を曝け出している対戦相手にシュートッ!と叫んで投げ込むことが可能になったわけ(実際に叫ぶのは家での身内対戦のみに留めておこうね)。
奇襲性・確実性は上がったが、しかし4ターン目以降に投げるとその手札入れ替え能力の破壊力が薄まってしまう、という点がなんとも言えない調整となっている。日本人としてはショッカー・デッキを組んでみたくなるね。
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2015/10/09
「貴重な収集品」
「お宝発見ウィーク」をお届けしてきた。今週は土曜からBMOがあるため、本日更新分でオシマイとさせていただくことを先にお詫びしておきます。トリを飾るのは、マジックのお話上で本当に重要な古の宝物を手にした、そのシーンが記されているカードで行こう。《貴重な収集品》だ。
正確には宝を手にした、というよりも宝を取り戻したシーンである。《銀のゴーレム、カーン》と《航行長ハナ》の2名が、取り戻した「レガシー」と呼ばれる重要なアーティファクトを前に安堵の表情を浮かべている。このレガシーというのはファイレクシアの侵攻に備えてウルザが準備したアーティファクト群で、全て揃えて正しく起動すると《レガシーの兵器》となる。《飛翔艦ウェザーライト》はこれらレガシーを収集する旅をしていたが、次元ラースにて《旗艦プレデター》に襲撃を受け、レガシーの一部を奪われる。この奪われた宝物は、かの《スリヴァーの女王》が自身の巣穴に保管していた。これをカーンが説得し返還され、ウェザーライト号に無事合流したというわけ。超貴重な遺物の奪還に成功し、ハナもご満悦だ。
カード自体は、青いエンチャントで、設置4マナ・起動4マナと重めな1枚。効果はカードを1枚引くというシンプルなもの。青と言えば、ハンドアドバンテージを稼いでナンボだ。対戦相手のカードをカウンターではじきつつ、着実に土地を伸ばし、フィニッシャーに繋げる。その合間にカードを引くことを求められるというのがパーミッションの宿命。この無理めな難題に応えるべく、様々なドロー呪文が開発された。このエンチャントもその1つで、初期投資は重いが置いてしまえば後はゆっくりと確実に手札を潤してくれる。4マナと言うのは決して軽くはないが、相手が動けばカウンター・動かなければドローする、ただそれだけの話なので見た目よりはずっと使いやすい。
問題はやはり設置するためのコストの重さ。4マナをソーサリータイミングで寝かせるというのはなかなかに度胸を試される…というか無謀な挑戦だ。4マナ支払っても十分にカウンターが撃てる状況であるのなら、あと1マナ伸ばしてから《変異種》を出して決めに行った方が良い。
ただ、アンコモンで値段も安く、上手く着地させるとなかなか良い働きをするのも事実。マジックを始めてから少し経って、青い構えるデッキの魅力を知った僕らは、《天才のひらめき》なんかに手が届かなかったのでこういうカードで地道に頑張ったものだ。こういう時、アンコモンって本当にありがたい存在だ。今でも小・中学生はそんな風に頑張っているのだろうか。おじさんは君たちがマジックを楽しんでくれることを祈ってるよ。
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2015/10/08
「アーギヴィーアの発見」
探検・冒険・お宝発見!ファンタジーの王道ストーリーのワンシーン的なカードを紹介するのが今週「お宝発見ウィーク」のテーマだ。そんなわけで今日紹介する1枚もそんなワンシーンを切り取った1枚…なのだが、若干毛色が違うかな。お宝発見!…して、それを丁寧に、慎重に、発掘している。そんな光景だ。
化石や遺物の発掘作業って、こう乾燥した岩の上に寝そべってコツコツコツコツ、ちょいちょいと刷毛で払って、汗を拭って…そんなイメージがあるが、あれ今でも実際に行われているんだろうか?
科学の進歩で、無茶苦茶簡単になってピピーッとスキャンできそうな…映画の観過ぎか。発掘作業員の方々の忍耐・集中力はホンマにすごいなと、尊敬する限りでございます。
ドミナリアは新アルガイヴの名門大学、アーギヴィーア大学では考古学も盛んなようだ。古のアーティファクトや秘術を過去から学ぶ、という点で我々の次元よりも重要視されている学問かもしれない。カードとしても、様々なことが出来るようになった近代のものより、「Power
9」やその時代のアーティファクトの方が遥かに性能が良い…というかぶっ壊れの強さやからね。多少手間をかけてでも、掘り起こしたくなろうというもの。
《アーギヴィーアの発見》は1マナのインスタントという呪文として最も手軽に扱えるスペックでありながら、なかなか破格の1枚である。
イラストの通り、墓地からアーティファクトを掘り起し手札に加えることが出来る。…のみならず、なんとエンチャントまで回収することが出来る。これのクリーチャー版《死者再生》は、クリーチャー限定だしソーサリーだ。何でも戻せる《新たな芽吹き》は2マナソーサリーであることも考えると、このカードがインスタントで2種類のカードタイプに触れるのは異常とさえ言える優遇だ。
同ブロックでの“教示者”サイクルにおける《悟りの教示者》もアーティファクトとエンチャントをサーチ出来るため、これら2種の呪文を上手く使えば何度も同じアーティファクトorエンチャントを使い回せる。その万能さを、赤にも少し分け与えてやって欲しいと思ったのは僕だけじゃないはず(赤だけこのサイクルに属する呪文が、そもそもない)。
万能ではあるが、受け身な呪文であるのでとりあえずデッキにいれるという方法だとお荷物となることもある。相手が置物破壊や手札破壊でこちらのデッキのキーパーツに対抗しようとしてくるサイド後なら、裏をかけるかもしれない。
《クローサの掌握》でこちらの《殴打頭蓋》を割って、アタック!ときたところに、これで回収しつつ《石鍛冶の神秘家》で再出撃させて迎撃、なんて動きされたら背景がぐにゃ~っと歪むほどの精神ダメージを受けるかもしれない。
このおっちゃんが掘り起こした像はどういうアイテムなんだろう。ビリケン様っぽくて、ちょっとかわいい。ちなみに、掘り起こした後を描いたカードもあるが…それはまたの機会に。
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2015/10/07
「ゴブリンの洞窟探検家」
スペランカー、というゲームをやったことある人、手ぇあげて。まあまあいると思う。マジックプレイヤーも若い子が増えたとは言え、日本国内流通時からプレイしているとなると…うん、ベテラン。となれば、1985年にファミコンから発売されたスペランカーをプレイしている率は自ずと高くなろう。このゲーム、今でもその伝説により有名なので、若いプレイヤーでも果敢に挑んだ経験がある人、多いかもね。何がスゴイって、他のゲームではどうってことない段差を歩いて移動しただけで死亡する。この程度の高さ、リフトなんか使う必要ないだろと侮ってジャンプなんかすると即死亡。死亡の演出もちょっとわかりづらいので、なんかよくわからないうちにゲームオーバーになることだろう。とにかく死亡判定に対してはシビアなゲームで…その主人公の死にっぷりから、怪我が多いスポーツ(主に野球の)選手をスペ体質と呼ぶネットスラングまで生まれた。
まあそんなゲームの話はどうでも良いとして、幼少時の僕には気になっていることが1つあった。「スペランカー」ってどういう意味?と。その謎を解決してくれたのが、他でもないマジックだとは…。『第7版』発売日、マジックのテキストにも慣れだした僕は英語版のパックをいくつか購入(当時は輸入品が安かった)。仲間とパックを剥き、ダメージランドや《極楽鳥》が引けたか否かで一喜一憂して遊んでから帰宅。コモンを整理しようとカードを眺めたところ「Spelunkers」の文字を発見。ん?と思いカード名、マナコスト、能力から判別するに…そのカードは『ウルザズ・サーガ』から再録された《ゴブリンの洞窟探検家》だった。長年の謎がその時解けたというわけ。確かに洞窟探検してたわ、あのゲーム。
カードとしては、まさしくコモンという能力。3マナ2/2山渡りとスペックは高くはないが、めちゃくちゃ低いというわけでもなく。リミテッドでは同色に対するサイドカードとして十分に仕事をしてくれる。モミール・ベーシックではこれ1枚が勝負を決めてしまうことすらある。能力が今のように細分化される以前、土地渡り能力は十分な個性であった。ただ、この渡りに加えてサイズアップをゴブリン全体に付与する《ゴブリンの王》を使った方が断然良かったという話は置いておこう。
『ウルザズ・サーガ』『第7版』『ラヴニカ:ギルドの都』いずれのイラストもフレイバーも素敵。これらをまとめるに、同行者を先に行かせて洞窟の安全性を確認する狡猾さ・洞窟そのものが大好きな掘削バカ一代気質・煙突掃除などの仕事を請け負っている謎の勤勉さと、ゴブリンのかわいらしさ・魅力が溢れている。
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2015/10/06
「聖なる秘宝の探索」
『戦乱のゼンディカー』では“ゼンディカー探検”という特殊カードが封入されている。これらはゼンディカーという広大な次元に存在する特殊な土地を探検の末に見つけた、というものだが、旧『ゼンディカー』にはその探検行動そのものをカード化したものがあった。探索(Quest)カウンターを用いるエンチャントのサイクルで、コモン・アンコモン・レアで5色それぞれ1枚ずつ、『ワールドウェイク』では白を除く4色に1枚ずつ存在する。この大所帯サイクルの中から、本日はアンコモン組の中で最も使用された1枚を紹介しよう。
《聖なる秘宝の探索》。名前からストーリーとその結末が思い浮かぶ。英語名は《Quest for the Holy Relic》。Rhapsody of Fireのアルバムタイトルでありそうだ。効果もその名の通りで、聖なる秘宝=装備品をライブラリーからサーチしてくることが出来るエンチャントだ。これを設置してから、クリーチャー呪文を唱える度にこれに探索カウンターを1つ置いていく。そしてこれの上にカウンターが5個貯まったら…秘宝の発見だ。これを生け贄に捧げ、ライブラリーから装備品を探して…戦場に出し!さらに、それを自身のクリーチャーに装備させる!ここが大きい。ただ探してくるのみだと、装備コストが重すぎて結局役に立たないという超重量装備品も、オート装備で即時使用可能。皆、幸せ。
『ゼンディカー』当時は本当に何でもないカードだったが、『ミラディンの傷痕』の登場によりこのアクションに大きな意味が出来た。金属の次元ミラディンには《肉体と精神の剣》のような強力なカードと《メムナイト》という0マナのクリーチャーが収録されており、それらと組み合わせれば最速、2ターン目に強力装備品を携えたクリーチャーで殴りにいけるのだ。《戦隊の鷹》や《コーの決闘者》などと併せればデッキの完成だ。サーチするのに、おあつらえ向きの超大装備品《アージェンタムの鎧》もある。2ターン目に7/7で殴りつつ土地破壊だ、勝利と同義語である。このデッキは「白単アーマー」「アージェンタム」などと呼ばれ、「ベルチャー」のような初動オールインデッキが好きなプレイヤーにウケたものだ。僕も大好きで、愛用しておりました。
イラストでは人間・ゴブリン・あとよくわからない肌が紫のヒューマノイドの戦士らが墓を暴き、黄金の戦斧を発見したワンシーンが描かれている。この、多種族による同盟がゼンディカーの魅力の1つ。背後には巨人のものと思しき頭蓋骨も転がっている。見た目が全く違うメンツが恐ろしい遺跡を冒険し、素晴らしい宝物を手にする。古典的ファンタジー、イイネ。
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2015/10/05
「分かち合う発見」
ゼンディカー!ゼンディカー!大ゼンディカー祭り!先週末は『戦乱のゼンディカー』発売で皆大いにマジックを堪能したことかと思う。新環境スタンダードでのPPTQ、ドラフト合宿、全く新しい世界に旅立つ時、この時がマジックの一番楽しい時期と言っても過言ではあるまい。“ゼンディカー探検”なる、『ゼンディカー』の初回出荷分に封入されていた“トレジャー”を髣髴とさせる特別封入カードがあるのも嬉しい。次元ゼンディカーと言えば、探検と秘宝。ストーリーもパック開封もワクワクさせてくれるなんて、素晴らしいね。というわけで今週は「お宝発見ウィーク」!早速いってみよう。
エルドラージが公開される前のゼンディカーのイメージと言えば、上記の通り秘境を冒険し、秘宝を手に入れる。同盟者も危険な罠が潜む荒々しき世界を旅する仲間のことだった。『エルドラージ覚醒』にてエルドラージの全貌が公開され、怪物が全てを蹂躙する世紀末世界なイメージに塗り替えられてしまったが…よくよく『エルドラージ覚醒』のカードを見れば、『ゼンディカー』『ワールドウェイク』のノリを継承しているカードはしっかり存在する。希望はある、宝はまだあるのだ。その発見を分かち合う仲間も…《分かち合う発見》は、クリーチャー達が手を取り合ってまだ見ぬ何かをその手に掴むカードである。
青1マナの呪文で3ドロー!と聞けば、かのぶっ壊れカード《Ancestral Recall》を思い出すが、勿論そんなカードが再び刷られる訳もなく。ソーサリーになり、ヘビーな追加コストを添えられた。クリーチャーを4体タップする、というのは生半可なコストではない。4体ってねぇ…それだけタップしたら、攻撃にもブロックにも人員を割けない。こちらが4体も展開しているという事は、対戦相手にもそれだけの展開をする時間が与えられているということ。4体展開しつつ相手の展開は食いとめている、なんて理想的すぎるゲーム展開は送れないと思うので、これを撃つということはフルパンを喰らうのと同義だ。そのコストは1マナとクリーチャー4体タップと8点以上のダメージ、と考えるとリスキーにも程がある。
上手く使うには、トークンやマナクリーチャーなど軽くて早いターンに多数展開できるクリーチャーを並べて、《種子生まれの詩神》《クルフィックスの預言者》《覚醒》なんかを出せば…隙なく運用出来るんじゃないかな。こういうデッキは盤面作ってから決めるカードに辿り着くまでに時間喰って負けたりするしね。クリーチャーをガシャガシャするのは楽しそうだ。
イラストが実に良い。洞窟の奥深く、《組み合い鉤》を握る手が指す先にはまばゆい光が…この、探検家のおっちゃんが本当に良い表情。肩を抱き寄り添うマーフォークのお姉ちゃんも、こんな近寄られたらおっちゃんドキドキ止まらんがな!
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2015/10/03
「キノコザウルス」
ツイッターでのちょっとしたやり取りから実際に「キノコ・ウィーク」を書いてみたが、「似たようなファンガス祭りちゃうの…」という執筆開始時にあった考えは覆された。限りなく同じ方向を向くデザインの中にも、改めて見ればそれぞれに個性の幅があり、実に面白い。マジックという万を超えるカード群の中で、茸たちは独特の存在感を放っているのだ。というわけで、「キノコ・ウィーク」のトリを飾るのは、もうこのカードしかない。個性の塊、《キノコザウルス》!
僕が最初に触れた基本セットは『第5版』で、まあ『第4版』の残りも同時に売っててよくわからずに適当に買ってたんだけど、当時はレアリティがカードを見ただけでは1つもわからなくて。『第5版』のパックから出てきた《キノコザウルス》の醸し出す雑魚オーラにてっきりコモンだと思っていて、カードショップでシングルカードのファイルでレアのページに挿入されているのを見て驚いたものだ。4マナ2/2でどっからどう見ても弱そうなイグアナだ。能力も、ピンとこない。ロクにテキストも読まず、使わなかった。
前述した『第4版』の生き残りを時折友人らが『第5版』と勘違いして購入してくることがあった。馴染みのあるカードとほんのり毛色の違うカードを見るのはそれはそれで面白いものだったが、そこにも《キノコザウルス》の姿が…しかも、こっちはなんかパステルでかわいい感じだ。なんとなく、適当なカードとトレードして貰った。そして一度も使うことなく、時を越えて『第8版』…記念すべき、新枠の(今から見りゃこれも旧枠だが)初陣。馴染めんな~と複雑な思いでパックを剥いていたら、なんかかわいいやつが…《キノコザウルス》やんけ!もうテキストもしっかり読んでわかる、弱い。構築で使うことがないこんなカードに、何故新絵が。このイラストがまた初代の特徴を引き継ぎつつ、2代目の絶妙な雑魚イグアナ感を継承する素晴らしいもので。すっかり僕は、《キノコザウルス》に魅了されてしまった。
カードとしては、前述のように大したことはない。4マナ2/2で、ダメージを受けると+1/+1カウンターを1個得るという能力で、しかしまずはそもそもそのダメージに耐えなければならない。タフネス2の生物を危険に晒して育てるのは難しく、普通はダメージ軽減やプロテクションを与えたりするのだが、このカードの場合それらの守護がこのカードの能力を誘発させなくしてしまうので非常に厳しい。
そこで、むしろ自身のカードで1点のダメージを与え続けるシステムを組んで用いることになる。代表的なコンボは《放蕩魔術師》《黒死病》らとの組み合わせ。特に《黒死病》は、その道を阻むクリーチャーをなぎ倒しつつサイズを上げていけるので、なかなかの組み合わせである。まあ、あくまで当時のカードパワーでね。ただ、このコンボが強すぎると判断されてしまい、『リバイズド』に収録される際に「カウンターが乗るのはターン終了時」「何回ダメージを受けようが、1ターンに乗るのは1個」という超絶弱体化を受ける。これは後に、僕らの大好きなマローが『第8版』再録時に元の能力に戻してくれて、解決。良かったなぁ。
もう既にまあまあ語ったが、これだけ言わせてくれ。『アイスエイジ』が初出の《ジョータル・ワーム》の見た目。これ、《キノコザウルス》じゃないの?茸は見当たらないけど、めちゃくちゃ似てるんだよなぁ…生物学的にこの謎を解明してくれるストーリー、僕はもう十数年待ってるで。一方はファンガス・トカゲでもう一方はワーム、見た目は全く同じ…まあ、イラスト担当アーティストが同一人物なので、むちゃくちゃ気に入ってたクリーチャーデザインだったんだろうな。僕も大好きです。
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2015/10/02
「胞子の教祖、ゲイヴ」
茸狩りとか行ったこと、ある?僕はないので、ちょっと憧れがあったりする。主にシイタケを取りに行くのだと思うが、原木がいっぱい置いてある光景は楽しそうだ。原木から生えている茸を収穫する手応え、採れたての香りなど、想像するに幸せで。ただ、食べられる茸サイドからすれば、たまったもんじゃない可能性があるのでは…。
マジックでもそんなサイドストーリーがある。ドラッカスという地域はモンスーンの被害に定期的に合っているようだ。それにより獣は溺れ時に作物は流され、人々は棲み家や自身の命もそうだが、食料という面で打撃を受けるようだ。そこで深い森林に足を踏み入れ、食料となる存在・茸を採集する…のだが、この森には人の形をした茸・自らの意志で動く菌獣達が住んでいる。彼らを装備と魔法により狩り、飢えをしのぐとのことなのだが…これがなかなかにジェノサイド。魔法の力に為す術無く狩られる茸人間達であったが、ある英雄の誕生により戦況は一転する。《胞子の教祖、ゲイヴ》は、か弱き胞子の化身達を指揮・強化し、姿を変え続ける強力な軍団へと造り替えた。火の魔法程度では崩れぬ軍勢の力を持って、彼はこの森を護り抜くと誓った…。
最初の統率者セット、『統率者』はタルキールの氏族カラーとして現在は親しみがあるが、当時はまだまだ珍しい扱いだった楔3色のデッキ5つからなるものだった。それぞれのデッキに、メインの統率者用伝説のクリーチャーが用意されており、今で言うアブザンカラーのデッキのそれが《胞子の教祖、ゲイヴ》だ。3色5マナで実質5/5、そして実にこのカラーらしい能力を有している。
初の伝説のファンガスは、0/0だが+1/+1カウンターが5個置かれている状態で戦場に出る。この5/5を活かしてそのまま決着…ということはほぼないだろう。能力を使ってナンボのカードである。クリーチャーの上から+1/+1カウンターを取り除き1/1苗木トークンを生み出す能力と、クリーチャーを1体生け贄に捧げて任意のクリーチャーに+1/+1カウンターを置く能力。ストーリー通り、変幻自在の胞子軍団を展開できるというわけだ。《ペンタバス》がかなり似た能力を持っている。無限にチャンプブロックし続けるブロッカーを生み出せる能力は、戦闘を思いのままにすることだろう。
このカードのすごいところは、自身に関係ないところで能力を起動することが出来る点。トークンを生む時も自身以外のクリーチャーからカウンターを取り除いて良いし、カウンターも自身でなく好きなところに置いて良い。タルキール・ブロックで登場するアブザン家およびドロモカ氏族のカードとの相性は抜群だ。カウンターとトークンを自在に回して、対戦相手に読めない陣容を築き勝利を目指せ。《倍増の季節》《野生の活力》と組み合わせれば、菌類の力で人間もエルフもマーフォークもドラゴンさえも打倒してしまえることだろう。今週この2種類のカード名をとにかく言っている様な気もしなくもないが、茸とはカウンター/トークンということなのだよ、マジックにおいてはね。
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2015/10/01
「茸の番人」
茸は動物や野菜にはない旨味と栄養素に恵まれた食材である。主成分は野菜とは似てはいるが、食物繊維がより多く含まれる。シイタケなんかは実に40%が食物繊維で、摂取することで便秘の解消に繋がるようだ。ビタミンB、ビタミンD2、ミネラルも多く含有しており、野菜と肉・魚と組み合わせて摂取することで栄養バランスは完璧なものとなるだろう。三大旨味成分の1つであるグアニル酸を多分に含んでおり、これ単体でも良い出汁が出るが、昆布のグルタミン酸と併せると数倍・数十倍の旨味を生み出す。炊き込みご飯とか、鍋とか…お腹減って来たね。身体に良いので、食べ過ぎない程度に食べよう。
マジックの世界でも、茸の栄養の恩恵を受けることは出来る。《茸の番人》がそれを与えてくれる、プレイヤーにとってはありがたい存在だ。『アラーラ再誕』にて5つの断片は1つの次元に統合され1つの世界になったことで、それまで共存しなかったもの達が並び立つようになった。このカードのフレイバーテキストにも、ナヤからジャンドへ移ったクリーチャーであることが書かれてある。その能力自体も…どちらの断片のカードとも噛み合うものとなっている。
4マナ5/4、一昔前ならこれだけでも強力極まる1枚だったが、今ではこれに追加で除去耐性や戦場に出た時にする仕事などが求められるという、インフレの波を感じずにはいられないが…このカードは、その点は追加の能力でカバーできている。自分or他のパワー5以上のクリーチャーが死亡した際に誘発する能力でライフを5点回復できる。クリーチャーでライフを回復する能力は多種あるが、5点もの回復量となると頭が抜けて高いレベルだ。5/4のクリーチャーが除去されるのは悲しいが、5点回復出来るのならば、2枚目を出すまでの時間は稼げそうだ。他のクリーチャーが除去された場合でも回復出来るというのがセールスポイント。イメージで言うと、死亡したクリーチャーの巨体を茸で媒介してプレイヤーが摂取できる栄養へと変換・自身もその茸なのでそのまま糧となってくれるというところだろう。パワー5以上という条件が巨大生物ガルガンチュアンを崇拝するナヤの、そして死亡により誘発するというのがクリーチャーを生け贄に捧げる能力で食物連鎖を表現するジャンドを、それぞれ表していると言えるだろう。色としてはナヤのものだけだが、ジャンドの食物連鎖に適応した、ということなのだろう。
戦場に出た時に4点回復させる《ロクソドンの教主》《強情なベイロス》、自分から能動的に生け贄に捧げて回復出来る《貪欲なベイロス》、この辺りの連中の方が使いやすく、これらを経験したプレイヤーにとってはそれほど強く思われず…そして後の時代に《スラーグ牙》という更にお手軽なやつが登場し、いろんな場面での活躍が叶わずじまいで現在に至る。うーん、回復量が抑え目で1ドローがつく、とかなら使われたかもしれないなぁ。
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2015/9/30
「菌獣の共生」
今週は「キノコ・ウィーク」と称して各種カードを紹介している…のだが、完全にキノコオンリーという訳でもない。茸、というよりは菌類全般と思って欲しい…ネタが切れてしまうから…。《淡色のマイコダーム》《マイコロス》と紹介して、マジックの多元宇宙に住む菌類は我々の世界では考えられないほど複雑な構成で巨体を運動させ、捕食や繁殖を行う動物的性質の非常に強い存在として描かれている。僕らの住むこの地球に生息する菌類も、何も茸のような静の存在だけというわけではない。「粘菌」という言葉を聞いたことがあるだろうか。正しくは変形菌と呼ばれるが…これに属する菌類は移動し、微生物などの餌を捕食するのだ。それでいて、茸のような本体から胞子を散布して繁殖する、植物・菌類的な性質と動物的なそれを併せ持つ、不思議な生き物なのである。この特性に、マジックの世界の菌類も当てはまる…と思う。その性質を表現しきった1枚が《菌獣の群落》だ。樹上の胞子袋から、エイリアンのような生物が降り注いでくる光景…植物的存在が動物的存在を生み出し、それらが捕食活動を行う…ファンタジー変形菌ここに極まれり。
2マナのエンチャントにして、1マナと手札を1枚消費するだけで1/1を生み出すことが出来る。同じく2マナでリソースをトークンに変換する《苦花》と比べると、かなり格が落ちるが…それでも当時としては、かなりの大盤振る舞い。青がめちゃくちゃ強かった時代、余った手札を消費して隙なくクロックを展開していけるのは素晴らしい。色を足す理由足り得る…と、言うのは言い過ぎで。そりゃ呪文が強かった頃とは言え、それでもオーバースペックだ。なので、しっかりとデメリットが付随している。
そのデメリットが…このカードの能力は、誰でも使える、と言うもの。所謂“オールプレイ能力”だ。『メルカディアン・マスクス』のモンガー達に続いて、このブロック共通のギミックとして『ネメシス』のこのカードにもそれが取り入れられている。というわけで、相手の方が手札が多いような状況・マッチアップでは出した方が不利になる、なんてこともある。
それでも、比較的安いコストでトークンを生産できるのは魅力だ。1ターンに複数回起動できるのも良い。上記のように青との相性はよく、トークンを展開しつつ《対立》で相手を封じていく動きは強烈。「苗木対立」「ターボタクシー」などで活躍を見せた。また、このカードが最も輝いたデッキと言えば「キメラ」だ。《繁殖力》《アシュノッドの供犠台》でループを形成し、《セラのアバター》を積むことでこれを無限のものとし、無限の無色マナでフィニッシュ手段を起動して勝利するムチャクチャカッコイイデッキだ。世界選手権00でTOP8に残ったこのリストは、世界中の少年たちをデッキビルダーとして目覚めさせた素晴らしいものだった。
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2015/9/29
「マイコロス」
今週は「キノコ・ウィーク」をお届け。キノコ、何故あんなに美味しいのかね。焼いてよし煮てよし揚げてよし、お出汁もよく出て歯ごたえ・舌触り・香りに優れ、栄養も豊富だ。ビバ菌類!えのきを豚バラで巻いてにんにく醤油で炒め煮?か~っ。キノコはカロリーも低いからと、ついつい食べ過ぎてしまうので要注意。どんなに食用で安全なキノコでも、摂取しすぎると中毒を起こす可能性があるらしい。言うても菌類ですからね。
僕らの居る次元ではキノコを食べる習慣があるが、次元によってはキノコに食べられてしまう、そんな生態系が形成されているところもあるらしい。アラーラのジャンドがそうだ。思えば、ジャンド程その次元の生態系ピラミッドがしっかりと描かれた地はないな。最下層のトカゲなんかから頂点のドラゴンまで、この熱帯のジャングルに暮らすもの達の食う食われるの関係をカードで表現したのは、動物オタクとしては嬉しい限りだ。話は戻って、ジャンドでは本来、植物らと共に最下層に位置するであろう菌類が他者を喰らうようだ。確かに、粘菌という動く菌類が餌を喰らうということは僕らの次元でも起きていることだが、そんな生易しいものではない。ビル程の質量の、菌の大怪獣《マイコロス》はドラゴンにも匹敵する危険な生物だ。
5マナ4/4とまあ標準的なサイズ。これが戦場に出る際、クリーチャーを好きなだけ生け贄に捧げてOK、その数×2の+1/+1カウンターが乗って戦場に出る、“貪食2”という能力を持っている。1体貧弱なクリーチャーを食べるだけで5マナ6/6、2体なら一気に8/8と超巨大クリーチャーとして運用出来る。是非とも、トークンなどを用意して大量のクリーチャーを餌にしてエルドラージさえも見下ろすサイズにしてみたい。
これだけだと除去耐性がなく回避能力もないファッティで終わってしまうが、《マイコロス》にはちょっとヤバい能力がもう1つあるのでご安心を。むしろ、この能力があるから耐性も回避も与えられんわ!というレベルのものだ。自身のアップキープが訪れる度に、このカードに乗っている+1/+1カウンターの数だけ1/1の苗木トークンを戦場に出す、というもの。単体で強く、また数でも勝負できるのだ。適当なクリーチャーを2体生け贄にして毎ターン1/1を4体生産していれば、まあゲームに勝ててしまう。数で損するという貪食持ちのデメリットをチャラにするどころかお釣りまでついてくるすごいヤツ。この生産能力によって、この手のカードにありがちな2枚目が腐るということがない。4体生産モードに入ったなら、次はその4体を餌に8体生産体制に入ろう。《倍増の季節》《野生の活力》を設置すれば、もうどうなってしまうかわからんぞ!オーバーキル界の横綱を目指そう。
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2015/9/28
「淡色のマイコダーム」
秋、やねぇ。もう窓開けて寝てたら風邪を引く季節。袖と丈は長くなってくる。そして、茸が美味しい。何、急すぎる?たまには強引に入らせてほしい。秋と言えば、日本では茸の季節じゃないですか。皆は何が好き?僕は、王道やけどやっぱり舞茸を天ぷらで…「キノコ・ウィーク」いってみよう!
ファンタジーとキノコは密接な関係にある。森に生えているキノコは不思議・神秘的な存在で、しかも食べると毒があったりする。最も擬人化されている食材とも言えるだろう。マジックの世界でもご多分に漏れず、しっかりと擬人化されたキノコが登場する。とは言っても、そこはマジック。キノコから手足が生えた可愛らしいもの、からは程遠い、菌類のヒューマノイドといった趣のヤツになってしまう。
《淡色のマイコダーム》もそんなヤバ気なクリーチャーの1つだ。マイコダームとは何だろう。英語表記ではMycoderm。Mycoは真菌、菌類のことだ。そしてdermは真皮、皮膚の事である。菌類皮膚…皮膚が菌糸なヤツら、キノコ人間といったところか。確かに、淡い色合いのヒラタケのような肌をしている。
『次元の混乱』で登場した白のクリーチャーで、タイプはファンガス。ファンガスと言うのは菌類の総称である。人の形をしているが、やはりキノコなんだな。このファンガスは『フォールン・エンパイア』にて登場、しばらくはマイナーな部族ではあったが、『時のらせん』にて大量の新種が登場。同ブロックでの主要部族の1つとなる。
彼らの多くは、“胞子カウンター”というファンガス独自のカウンターを用いる能力を有している。それらはアップキープに1つずつ増えて行き、これを3つ消費すると1/1の苗木トークンを生み出すことが出来る。苗木…この際だから触れておくと、日本語版の苗木という単語は間違いである可能性が高い。
英語版のSaprolingというのはマジックオリジナルの造語で、腐食性などを意味するSaprophagyの頭のSaproに生物を意味する言葉の語尾に付けられるlingをつけたものである。植物の苗、という意味では決してないのだ。ただ、植物質の幼体といったイラストで表現されることがあるため、結果としてそこまで違和感のある訳ではない。
マイコダームもこの苗木を生産する緩慢な能力を持っている。イラストを見るに、キノコの世話をしているようなので、じっくりじっくり献身的に、自らの仲間を育てているのだろう。カードイラストをパッと見ただけでは気付かないが、彼の背後にはヒョロッとした体型のキノコ人間が複数体佇んでいる。彼らもマイコダームに育てられたものなのだろう。是非一度、大きなイラストで視てほしい。
ゆっくり慈しみながら育てたキノコを、無慈悲にも生け贄に捧げていくのがもう1つの能力。一体の苗木を糧に、残りのファンガスと苗木が+1/+1修正を受ける。苗木を大量に生み出すカードと併せると決定打になる。
いや~しかし、背後のキノコ人間に気付いた時はビックラこいたものだ。皆も是非、このちょっぴりホラーな体験をしてほしい。
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2015/9/26
「銀のワイヴァーン」
なんとなく銀しばりで週末まで。だって、シルバー・ウィークだったからね。人によってはもう土曜日でお休みなわけで、なんだ大したことないじゃないか。…と思ってたら週明けから苦しいんだろうなぁ。まあ考えてもしゃーないし、出かけよう。
「銀」なカードのトリを務められるもの…パッと思いつくものだと《銀のゴーレム、カーン》。でもそれだと、芸がないとは言わないが当コラムらしくもない。やっぱり、能力が十分語られ議論されるようなカードよりも、陽の目をあまり浴びなかったり今の若い世代が全く知らないであろうカードを紹介して語ってナンボであろう。というわけで、《銀のワイヴァ―ン》。Rhapsody
of Fireのアルバムジャケットっぽいな、と思う方も少なくないのでは。古典的なファンタジーイラストのタッチで描かれた、オールドスクールな魅力を放つワイヴァーンが眩しい。そもそもワイヴァーンとは。イギリスでは古くから紋章・印章・旗章に見られる「二本足のドラゴン」である。蛇のような長い身体に、角や耳を有するドラゴンの頭部、コウモリの翼に2本の猛禽類の脚を持つ怪物であり、これが火を吹く様をデザインに取り入れている紋章なんかはきっと見たことがあるはずだ。ワイバーンとドラゴンを厳密に別のもとしているのはイギリスおよびその旧植民地くらいのもので、他の地域では基本的にドラゴンの一形態として同一視している。そもそも、そのイギリスにおいても2足のドラゴンや4足のワイヴァ―ンなんかが存在して…要するに差異はない。
マジックでも、その形態は概ね2足のドラゴン的生物に描かれているが、クリーチャータイプはいずれもドレイク。ドラゴンというファンタジー世界での至高の存在に、亜種などは容易に作らないというこだわりだろうか。いずれのワイヴァ―ンもサイズは中型であり、この《銀のワイヴァ―ン》はそれらの中でも最大のパワー4を誇る。
5マナ4/3飛行ならば、リミテッドでは合格点。というか勝負を決められるクラスのクリーチャーである。初手で取ってしまうのが吉、さすがはレアの貫録である。一方、構築では…これだけでは、押しが弱い。《大気の精霊》の方がタフネスが高く、当時存在した《火葬》で落ちない点で勝っている。では、このワイヴァ―ンのもう1つの能力を見てみよう。
青マナ1つで、このワイヴァ―ンのみを対象にとる呪文や能力の対象を捻じ曲げるというもの。これはなかなか、いやらしい能力だ。ワイヴァ―ンに《火葬》を撃ったと思ったら捻じ曲げられて自身の《ジャッカルの仔》が焼かれていた、なんて展開を演出できるわけだ。この手の能力は基本的には起動させることがなく、動物でいうところの威嚇みたいなもの。「こういうことが出来るからいらんことしてくるなよ!」と睨みを利かせるのだ。
ただ、例えば先に挙げた《火葬》なんかでも、受け流してプレイヤーへ!とはいかず、必ずクリーチャーに向けて反射させねばならないのが弱点と言えば弱点。これ以外のクリーチャーがいなければ、所謂フレンチバニラである。
このカードの良い所はやっぱりイラスト!この古臭さがむしろカッコイイ。イラストを担当しているColin
MacNeilさんは『ウェザーライト』から『ストロングホールド』までの短い期間しかマジックに関わっていないが、記憶に残るイラストが多い。アメコミ「ジャッジドレッド」の作画担当として活躍しているようだ。
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2015/9/25
「水銀の短剣」
何度も言うが、シルバー・ウィークは終わったのだ。とは言え、数日を乗り切ればまた休みはやってくるではないか。この終わりは絶望であると同時に希望でもある。社会人も学生も、皆で戦おう。
前回はシルバーにちなんで《銀のマイア》を紹介した。マジックで他に、銀と名のつくカードと言えば…「水銀」にちなんだものが多い。水銀って、結局何なのか。常温・常圧で凝固しない唯一の金属、と平たく言えばそんなところか。液状の金属であり、マジックで登場する際も流動性の銀色の金属の何かがイラストに描かれている。水銀はその特性として恐ろしい毒性も持っている。生物にとっては猛毒なのだが、かつて始皇帝なんかは長生きの薬として水銀を摂取していたという。結果、水銀中毒で寿命を大きく減らしているのだから、皮肉な話だ。マジックにおいて、その生物への毒性をフィーチャーした水銀にまつわるカードというのはほぼない。ないが…この《水銀の短剣》が、それだと言えるか。
他色・それも対抗色の組み合わせをメカニズムの中心としたセット『アポカリプス』にて登場した《水銀の剣》。これまでにはなかった青赤のエンチャント(オーラ)がクリーチャーにもたらすのは、追加の起動型能力。タップしてプレイヤー1人に1点のダメージを与える、これだけだとちょっと格が落ちる…《錬金術の研究》《霊力》は青単色でプレイヤーだけでなくクリーチャーにもダメージを与えることが出来る。それと比べると、プレイヤー限定で1点というのは少々…まあ、悪くはないよ。クリーチャーがにらみ合っている状況でターンエンドに起動して1点と、確実に削って行けるのは悪くはないんだが。2色なんですから、もう一声!
しゃーねーな、じゃあ1ドローあげよう。ありがとうございます!え、1ドロー?ダメージを与えると同時にカードを1枚引ける。これは熱い。2回起動すれば、その時点でアドバンテージ獲得。この手のオーラの弱点はアドバンテージを失っている点だが、それを克服しているのは素晴らしい。リミテッドではディフェンシブなクリーチャーでにらみ合っている状況を作り、その状況を維持するのに必要なリソースをここから確保していきながらゲームを進めていくのが理想の運用ではあるが、アグレッシブな5色ビートなどで息切れ防止として採用するのもアリだったなぁ。
個人的に気になるのはイラスト。変幻自在の水銀を短剣に変形させ投げつけている構図もさることながら、この投げている人物。青紫っぽい肌も気になるが、その装飾品・兜が…ハチかトンボの頭部のようだ。この肌の色とフレイバーテキストから察するに、彼女はドワーフの様だ(『アポカリプス』に登場するドワーフは肌が青い)。ドワーフと言えど掌サイズという訳ではないから、この昆虫も十分巨大なものである。こういった考察が出来るマジックのイラスト、ほんと最高。
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2015/9/24
「銀のマイア」
シルバー・ウィーク。秋の行楽にはもってこいの連休が終了した。もう一度書こう、終了した。終わってしまったのだ。今日からは現実が…ってすぐ土日が来るから!大丈夫!皆で乗り切って行こう。しかしゴールデン・ウィークと対になるシルバー・ウィークとは洒落た呼び名をつけたものだ。
シルバー…銀と言えば、ファンタジー世界では作品にも寄るが金以上に頼りになる金属であることが多い。シルバーバレット、銀の弾丸は吸血鬼や狼男などの悪しき怪物に効果覿面。
銀の短剣、銀の装飾品…スプーンなんかも銀のものならば毒入りかそうでないかがわかったとか(ホンマかいな)。魔を払う、高貴な金属である銀。それで作られたアーティファクトはさぞや強力なアンチ魔物カードで…って、意外に庶民的なものが出てきたな。《銀のマイア》を紹介しよう。
2マナ1/1、タップすることで青マナを1つ生み出すマナ能力を持っている。シンプルに、それだけのアーティファクト・クリーチャーだ。これは勿論青だけでなく、5色全てに同じ能力を持ったマイアが存在するサイクルだ。
それぞれに色のイメージに近い金属で作られたものであり、青に割り当てられたのは銀。銀で出来たロボットなんてものすごく贅沢なイメージだが、マジックの世界ではそうでもない。銀といってもピッカピカに光輝くそれではなく、くすんだものというか、ブルーがかったものに見える。そもそも、このマイアってなんなのだろうか。
豆のような、鳥のような頭部が特徴的な小さな人型アーティファクト・クリーチャー。彼らは次元ミラディンの(当時の)管理人・メムナークが生み出した、彼の手足となり働くものだ。ギリシア神話で登場するミュルミドーン人が名前の元ネタ。ゼウスが息子の世話をさせるために、蟻を変身させた民族。そのスペルの頭文字3つをとり「Myr」という名前にしたのだそうだ。ちなみに、ネイティヴな発音は「ミア」らしい。
彼らの主な任務は、監視。特にこの《銀のマイア》のイラストからはその行動がよく伝わってくる。様々な地形に適応し、それぞれの地に住む者達をメムナークの代わりに見張っていたのだ。小さく、害をなさない彼らならではの任務と言える。現にフレイバーテキストを読む限りでは、ヴィダルケン達はマイアをかわいい玩具ぐらいにしか考えていなく、完全に油断しきっていることがわかる。このどこか愛嬌がある顔にも、そういう理由があるのだろう。
リミテッドではデッキの色があっていれば100%投入される・場合によっては合っていなくても。無色の2マナのマナ加速というのは非常に優秀で、使いやすいクリーチャーだ。それが“親和”や“金属術”の達成も助けるのだから、本当にえらいヤツだ。
『ミラディンの傷痕』にサイクル揃って再録。その中で、最も見た目の印象を変えたのがこの《銀のマイア》ではないだろうか。元は典型的なマイアのルックスだったのに対して、装飾品や角などを生やしてちょっと強そうになっている。主メムナークを失い、野生化した結果だろうか。あと、正面からの構図というのイメージの差異を生じさせている大きな要因だろう。愛くるしい横顔のマイアも、正面から見るとウルトラセブンの星人かなにかに見える。
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2015/9/19
「霧虚ろのグリフィン」
「追放ウィーク」、追放という二文字に関係のあるカードについてだらだら書いてきたが、最後はこのカードでバシっと締めよう。追放関係のカードを、まるで否定するかのような能力ではあるが…追放がなければ存在しないカードであることも確か。早速語って行こう、《霧虚ろのグリフィン》だ。
4マナ3/3飛行と、素のスペック自体がまず悪くない。「え、フレンチ・バニラ(基本的なキーワード能力のみを持つカード)でしょ?」とか言わない。4マナ3/3飛行というスペックに該当するクリーチャーは、皆が思っているよりもずっと少ないぞ。まあもっと軽かったり重かったりするカードの方が構築では使われるんだけどね…。
さて、神話レアなのでこれだけのカードでは勿論ない。それはもう、レアリティの最上級であるのだから…「あなたは霧虚ろのグリフィンを追放領域から唱えてもよい。」…上げたハードルに応えてみせる、実に面白い能力を持っているじゃないか。
あの手この手でカードが移動する先である、追放領域。本来はゲーム外として作られたこの領域から、戦場に舞い戻ることが出来るという非常に面白い能力を持っている。それも起動型能力などでなく、唱えるという形でというのがこのカードのユニークなところだ。通常、カードは手札からのみしか唱えられない。フラッシュバックなどの例外もあるが、墓地から唱えるというのはまだ体感的にわかる。追放領域は、かつては“ゲームから取り除く”と表記されていたように、ゲーム外みたいなものだと感じてしまう。しかし、そんな領域も手札や盤面と同様にマジックというゲームの中なのである、ということをこのカードは再確認させてくれる。
さて、ただ追放領域から唱えられるだけではデッキに採用、ということにはなりにくい。環境に追放除去しか存在しないとか、偏ったことがない限りは…。能動的に追放して、ナンボである。最も目にする、自分からカードを追放するカードといえば…やっぱり《Force
of Will》じゃないかな。本来なら手札1枚というアドバンテージを犠牲にテンポを稼ぐこのカード、追放したカードを唱えられるのであればその弱点を埋めることが出来る。あるいは、戦場に出してから除去された後に、《ムーアランドの憑依地》や《死儀礼のシャーマン》で追放すればおかわりをいただける。…あんまり強くなさそう?知ってるよ!
最もその能力が活きるのは、《食物連鎖》と合わさった時。クリーチャーを追放するため、1枚のカードをいろいろと使い回してマナブーストという悪さが出来なかった《食物連鎖》が、永らく待った最高の相方だ。これ1枚を唱えることさえできれば、あとはもうグールグル回して無限マナ。クリーチャーであれば何でも唱えられるので、後はお好きに。《食物連鎖》は文字通りクリーチャーが少しずつ、自分より大きなものに食われていくという様をカード化したものだが、このグリフィンと組み合わさった場合は自分で自分を喰らい、この世とこの世ではないどこかを往復しまくる…かなりシュールな光景になる。
それにしても青いグリフィンって珍しいよなと思い、調べたところこのカード含めわずか3種類がそれに該当した。何かわかるかな?1枚は答えを明かそう、《ボールシャンのグリフィン》だ。なっつかしーなーオイ。
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2015/9/18
「炭化」
最近のクリーチャーは、以前よりも死亡時に誘発する能力を持ったカードが増えた。墓地にある時に起動する能力を持ったものなんかも、今でこそ1セットに1,2枚あったりするが旧枠時代ではそこまで数が多くなかった。かつて、除去呪文の追放か破壊かという差異は、色やフレイバーの要素が強いものだった。黒は容赦なく殺して墓に埋め、白は命まではとらないが流刑にする、といった具合に。クリーチャー達の進化は時代と共に目覚ましく、冒頭で述べたような死亡すること・墓地にいることに意味を見出すものが増えた。となれば、除去呪文もこれらを死亡させずに処理できるか否か、ゲームに大いに関わってくるものとなった。基本的には、破壊除去よりも追放除去の方が強いのだ。
除去について語るならば、破壊でも追放でもない除去があることを忘れてはいけない。いや、基本的には破壊になるか。クリーチャーにダメージを与え、それがそのクリーチャーのタフネス以上に達することで状況起因効果により破壊する。難しく言ったが、マジック用語一言で済ますなら「火力」だ。直接ダメージを与える、赤の得意とする呪文達。これも最終的には破壊するということで追放除去よりも落ちる部分があるが、ダメージの値が定まっている=破壊できる対象が限られるという点で破壊除去よりもワンランク下の扱いとなる。《恐怖》と《火葬》、一概には言えないが多くの場合前者の方が除去としては有用だろう(あくまで、除去として)。
最近では火力の質も向上されてきて、白や黒にも負けない除去の色として赤は認知されている。しかし、一昔前は本当にひどかったのだよ…《稲妻》が強すぎるという理由で『第5版』で剥奪されたのはしょうがないにしても、続く『第6版』では《稲妻》の代打で出ていた《火葬》も収録されず。ちょっと待ってくれ!再生に関するややこしいカードを排除するってなら、《恐怖》が野放しなのはどうなんだ!と叫んだ赤単第一主義者達がいたとかいないとか。
そこから数年間は、不遇の時代が続いた火力呪文。そんな中『スカージ』にて登場した《炭化》は、現実的なインスタント3点火力にして2つのオマケがついており、当時ちょっと「おっ、使える」と思ったりしたものだ。3マナ3点のインスタントでクリーチャーにもプレイヤーにも撃てる。今でこそ3マナなら4点だろというところだが、本当に不遇な時代だったのだからこれでもマシに見えたのだ。付随しているオマケは、再生封じ。《火葬》
!還ってきたのか!まあ、そんなに再生するクリーチャーっていなかったし、この後に出て来る《トロールの苦行者》にはそもそも効かないで割と空気ではあった。しかし、大事なのはもう1つのオマケ。焼かれたクリーチャーがもし死亡するなら、代わりにそれを追放するというもの。これは…良いじゃないか。
当時、死亡させてもあまり意味の無いクリーチャー達が活躍していた。《永遠のドラゴン》《腐れ肺の再生術士》《アンデッドの剣闘士》。これらを赤いカードにして追放出来るとは、悪くない。《総帥の召集》なんかでも戻ってこない。優秀だ。ということで、ブロック構築ではそこそこ使われた。
まあ…言うてもブロック構築。スタンダードではこれが頑張ったところで、バーンやスライが組めるわけではなかった。まあこの頃の赤は、完全にゴブリンの色だったから。二兎を追わなかった結果、最近は強い火力増えたから良いじゃない。
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2015/9/17
「Oubliette」
「(国名)の刑務所の暮らし」などの話題で盛り上がることがネット上ではちょくちょく、不定期にある。自分達よりいい暮らししてるじゃねーかーと。お国柄、土地柄で刑務所の雰囲気は大きく変わるようだ。確かに、僕も自分の部屋よりこの牢獄の方が快適そうだな、と思ったことも何度かある。
しかしこれが、時代をちょっと遡ると…犯罪者の人権などが考えられていなかった時代の牢獄なんて、文字通り地獄ではないだろうか。特に、地下に掘られたタイプの投げ込み式の牢獄なんて、光は天井の格子から僅かに漏れてくるのみだったりする。発狂してしまう!こういうタイプの牢獄を、ウーブリエットっと呼ぶそうだ。スペルは…《Oubliette》。
今日の1枚はそんな牢獄、それも古い時代のダンジョンのような地下牢をカード化した《Oubliette》だ。放り込まれた囚人は骨と化している。そのイラスト通り、除去呪文だ。この一言でこと足りるっちゃ足りるが、これがなかなか、面白いものなのだ。
3マナのエンチャントで、戦場に出た時にクリーチャー1体を対象としてそれを追放する。
このカードが戦場を離れると、投獄されていたクリーチャーも解放され戦場に戻る。なんかどこかで聞いたことがあるような除去エンチャントだ。この能力が何とも、黒くない。どっちかと言うと白いカードの除去の仕方だが、当時はまだ色の役割がはっきりと別れていなかった。とりあえずクリーチャー除去するカードは黒だな、という感じで。『アラビアンナイト』当時、万能除去《恐怖》は既に存在したが、逆にそれぐらいしか軽い除去もない訳で。こういった今では見ないであろうデザインで、除去のあるべき形を模索していたのが伝わってくる。
このカードの面白い所は、クリーチャーを追放する際にちょっとしたオプションもついてくるところ。普通、オーラがつけられているクリーチャーが戦場を離れると、オーラは墓地に落ちる。このカードの場合は、そういった処理を行わずにオーラも一緒に追放するのだ。まさに、今目の前にあるものを投獄するというニュアンスだろう。
この際に、クリーチャーの上に乗っていたカウンターの種類とその個数も記録される。そして《Oubliette》が戦場を離れた時…クリーチャーはオーラがつき記録されたカウンターが乗った状態で戦場に戻るのだ。記録する、というルール文は非常にユニーク。なんとなく覚えているだけじゃ駄目で、きちんと記録すること!忘れたりしてもめてジャッジ呼ぶなよ!ということだろうか。皆も使うときにはライフメモの隅にでも書いておくこと。
MO限定のフォーマット、Pauperでは人気の1枚。コモンの追放除去にして、《アスフォデルの灰色商人》のための黒い信心を2つも稼ぐことが出来、非常に有用。アラビアンな世界観で作られたカードが20年以上後にギリシア神話風のセットのカードとシナジーを形成するとか、マジックは本当に面白い。
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2015/9/16
「パララクスの潮流」
戦場と墓地以外の領域を用意した。カードゲームの元祖にして、スタート地点から革新的なことをやってのけていたマジックはすごい。それまでのゲームにおいて、必要な札・牌をゲームから取り除くものってあったのだろうか。
麻雀の王牌みたいなものか?でもあれも自分の意志でどうこうしてるわけじゃないしな…というわけで、特殊なカードを除けばもうゲームに戻ってくることのない追放領域にカードを移動させるカード達は、カードゲームの始祖にして頂点であるマジックのゲーム性を拡げるのになくてはならない存在だったと言い切っても良いだろう。
さて、この追放というアクションだが、明らかに得意とする色と苦手な色が分かれるのが面白い。それぞれの色で触れるものと触れないものがはっきりしており、その色の特徴を体感的にわかりやすくしている。ただ、これは追放に限った話ではないが、時折例外のようなカードも登場するのもマジック。この色でそれを追放するか…という意外性を持ったカードの1つが《パララクスの潮流》だ。
『ネメシス』に主要メカニズムの1つであるパララクス・カード。“消散”という能力は、コストパフォーマンスに優れたパーマネントを提供する代わりに、それらに使用できるターン数という制限を与えた。消散カウンターが乗って場に出るそれらは、アップキープが来るたびにそれを1つ失っていく。
ゼロになったら生け贄だ。また、このカウンターを自ら能動的に消費するタイプの起動型能力を持っていたりする。一気に消費して瞬間最大風速を記録するもあっという間に過ぎ去るか、小雨をパラパラと長期間降らせ続けるか。同じカードでも使い方次第で効果を大きく変えるカード群は、当時とても斬新で面白いデザインに見えたものだ。
そういった消散カードの中で、ひときわ輝いていたのがレアのもの。青のレア《パララクスの潮流》は、青のエンチャントにして土地を追放できるという特異性が注目を集めた。4マナで、一瞬とは言え5枚もの土地を追放できるというのはなかなかすごい。勿論、3枚を2ターンだけ…とかでも十分にえげつない。
当時は、相性の良いカードにも恵まれた。《補充》はこれを初めとする使い捨てエンチャントを使い回すことが出来る。このカードは《補充》を撃つために相手の打消し用のマナを奪うなどのお膳立てもしてくれ、「パララクス補充」というデッキを成立させる。
当時メタゲームの覇者として君臨し、多くのプレイヤーがこれを貼られて足踏みしつつエンチャントに蹂躙されることとなった。また《ミシュラのアンク》と併せて一気に10点のダメージを与えるコンボデッキ「アンクタイド」も青単で組めるお手軽コンボとして人気を博したものだ。
マジックのカードの枠デザインを変更するために作られたテストカードは複数存在し、採用されずボツになった枠デザインの《島》のイラストが何故かこのカードのイラストだったりする。ストーリーではパララクスに飲まれた土地はどこかへと消え去るらしいが、この《島》もまさにその通りになってしまったのは何かの偶然だろうか。
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2015/9/15
「ミミックの大桶」
今週「追放ウィーク」は文字通り追放に関するカードを紹介していく。追放するカード、追放により何かを得るカード、追放されてこそ意味のあるカード…そういった面々が登場する予定だ。今日の1枚は、追放する&追放したものを参照する、追放領域ありきのカード《ミミックの大桶》だ。
まず、この大桶を設置してからクリーチャーが死亡する。それは自身のものでも、対戦相手のものでも構わない。トークンでない何かが死亡する度、能力が誘発してその死体をこの大桶に封じ込める、即ち追放することを選ぶことが出来る。亡骸を封じ込めたなら、そこから得られる遺伝情報を解析してクローンを生み出そう。
起動型能力は、追放されたクリーチャーのコピーであるトークンを戦場に出すというもの。このコピーには速攻がついているが、ターン終了時までしか生きられない短い命。3マナで毎ターン、クリーチャーをミサイルのように射出するカードであり、対戦相手に除去を使用されてもクロックを継続させることが出来る、対策カードの一種である。
ただこのカードの場合、ただの除去対策というよりは上手く使えばアドバンテージを稼ぐことの出来るデッキのエンジンとして使用できる。戦場に出た時に誘発する、通称CiP能力を持っているクリーチャーを毎ターン使い回せるのである(Comes
into Playの略。今ではルール用語が変わってEnter
the Battlefieldとなっている)。
同じセットに含まれているカードなら《皮裂き》との相性は抜群of抜群。毎ターン3/3で殴られながら-3/-3をばら撒かれるとか、負け負け。この2種のカードが戦場に揃った際には、対戦相手は《皮裂き》に触れるのを躊躇してしまうことだろう。こういう、対戦相手に厳しい状況を突き付ける戦略というのは一方的にプレイミスを迫ることが出来るので初心者にもお勧めだ。
《皮裂き》連打で対戦相手のクリーチャーを除去して、例えばそれが《原始のタイタン》だったりしたら…乗り換えよう。この大桶は、クリーチャーが死亡する度に能力を誘発させる。桶の中に収納する遺骸を交換することが許されているのだ。より強力で、アドバンテージを稼げるものを封じ込めてゲームを有利に進めていこう。
当時、最も強烈な組み合わせだったのは《スラーグ牙》とのタッグ。パワー5で殴られる、5点回復される、3/3のビースト・トークンを置き土産にしていく…こんなことを毎ターンされて辛くないデッキなんて、そうそうないぞ。
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2015/9/14
「彼方の管理人」
たまにやってくるヤツがいる。ヤツはふいに現れる、一見物事すべてがうまくいっているような、そんな時に。上機嫌の時、その真逆も然り。ヤツは僕を悩ませる。とことん悩ませる。時間を、日を奪い去る。ヤツの名は、「ネタ切れ」。
そんなわけで久しぶりにネタが切れて思いつかなくなった当コラム。○○ウィークという適当なお題を決めて、それにそったカードを1日1枚紹介しているのだが、何かしっくりくるお題が去来してこない。そこで、ツイッターで適当につぶやいたところ、友人から1つ意見が…「追放領域でなんかするカード」…なるほど、やってそうでやっていなかった、追放に関するカードのウィーク、そういうの良いじゃないか。やってやるってぇ!「追放ウィーク」うん、なんか過激派の運動みたい。
《彼方の管理人》は最近(とは言っても1年前だが)登場した、追放に関する能力を持った1枚である。そもそも、マジックにおける追放とは。かつては「ゲームから取り除く」と記されていたのも懐かしい(もうそれも知らないプレイヤーの方が多かったりするのだろうか)。戦場・墓地・手札・ライブラリー、そのいずれでもない場所…基本的には、もうゲーム内に戻ってこれない領域へカードを移動させる。かつてはそこはゲーム外領域と呼ばれる場所であったが…これが、ややこしい。僕らみたいな古い時代から10数年そのテキストに慣れ親しんだ人間からすればなんでもないことも、今日初めてカードに触れるという初心者にとっては「ゲームから取り除いて、で、どこにどうなるの?」となってしまう。極力、シンプルに。追放という単語一つで表し、追放領域という場所に飛ばされるようになってスッキリ。《彼方の管理人》はそんな追放領域を参照するタイプのカードだ。
対戦相手のカードが追放領域に置かれている限り、ただの3マナ2/2警戒から4/4警戒にサイズアップする。パワー2とパワー4では単純に打撃力が2倍に上昇しており、本来は4・5マナ域のクリーチャーのサイズとなる。自分のカードを追放するとなると、それなりのお膳立てが必要だ。マジックにおいて、相手のカードを追放するのは自分のものをそうするよりも随分簡単なことだ。特に、白という色は。
最近のマジックでは全ての色が何かしらパーマネントに触れる手段を持っている。その中でも白は、土地以外のパーマネントを追放する手段に溢れている。《忘却の輪》《払拭の光》《存在の破棄》《剣を鍬に》《流刑への道》《悪鬼の狩人》《レオニンの遺物囲い》…数え上げればきりがない。ありとあらゆる時代に、様々な形でパーマネントを追放する手段を擁する白にはもってこいのクリーチャーと言える。
…ただ、活躍することはなくスタンダードから去っていくことになりそうだ。何もなければ本当にただの3マナ2/2警戒。追放除去に恵まれ、相手が自ら“探査”で追放してくる追い風の中生まれたが…追放する側に回って《黄金牙、タシグル》出した方が遥かに強いもんな。
マジック以外のゲームのデザイナーによってその原案が作られたカードの1つ。『マジック2015』にはこれのように外部デザイナーによるカードが多数収録されている。このカードは元々「1マナ1/1、カードが1枚戦場から追放される度に+1/+1カウンターを1個置く」こっちの方が面白そうだってぇ!
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2015/9/12
「世界喰らいのドラゴン」
何かを食うカードばかりを紹介してきた「食らうものウィーク」。生きて何かを食らうクリーチャー達が勢ぞろいした一週間だったが、今日の1枚に言わせればどれもこれも甘い。量も質も、これに勝るものはない。そういうグルメな物を食するのが…《世界喰らいのドラゴン》。そう、世界を喰らうのだ。
世界を喰らう…世界とは。我々を取り巻く環境、土地に建造物に構築物に他者に生物に…そういった一切合財、己以外の全て。全力で喰らう。このカードは、今週紹介した《土を喰うもの》と同じくナイトメア。具現化された悪夢は、それが覚めるまで何かを奪う。『トーメント』にて登場した《土を喰うもの》は土地を、《顔なしの解体者》はクリーチャーを。これらは対戦相手のものを奪う妨害タイプだ。一方で、『ジャッジメント』にて登場したナイトメアはと言うと…これを呼び出した自身のものを奪い去るのだ。それらを代償に、コスト比で見た強力なクリーチャーを提供するというカード群である。で、それら後期型ナイトメアの親玉が《世界喰らいのドラゴン》。ナイトメア単独から、様々なクリーチャータイプを併せ持つようになった後期型ナイトメアの中でも、ドラゴンは別格。ファンタジー世界でも大食漢のイメージがあるドラゴンが悪夢の力を受けてそれを増幅させたなら、世界を喰らう事すら容易い、ということなのだろう。
6マナ7/7飛行トランプル。ぶっ壊れだ。歴代ドラゴンの中でもずば抜けたマナレシオを誇る。こんな最終生物兵器を手に入れる代償は…全てのパーマネントを担保とすること。全て追放して、このドラゴン単騎を戦力に後は頑張れと。まあ、確かにあとは殴ってりゃOKではある。もし除去されたとしても、担保にしたカードは返ってくるので安心。
…でも、ないんだな、これが。実体験から述べさせて貰おう。『ジャッジメント』のBOXを買い、《藪跳ねアヌーリッド》や《起源》、《生ける願い》を手に入れて喜ぶ当時のマジック仲間。僕もそうだったが、彼らがいらないという《世界喰らいのドラゴン》をトレードして貰って、さらにホクホク。デッキを作っていざゲームに臨んでみると…戦場に出た時の追放する能力にスタックで除去が撃たれる→戦場を離れた時の能力が誘発、勿論なにも還って来ない→その後、パーマネント全追放→…帰宅。また、身内にはカジュアル寄りのプレイヤーも多くいたので《平和な心》はとりあえず4積みみたいなデッキも多く、地獄を見たものだ。
《動く死体》でこれを釣り上げると、自身の能力で《動く死体》を追放し死亡→《動く死体》が戦場に→釣る→死ぬ…の無限ループが発生。この際、これらのカードと共に戦場を出入りする土地をタップしてマナを生み出せば無限マナ。最終的には《動く死体》で《大使ラクァタス》など無限マナを用いてゲームを終わらせることが出来るクリーチャーを釣り上げてゲームEND。ヴィンテージのデッキの1つであったが、最近はめっきり見なくなったようだ。2015年レガシーで禁止が解除されたので、このカードの可能性はまだまだこれから。
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2015/9/11
「むさぼり喰うストロサス」
「食らうものウィーク」では食らうということに関するカードを紹介している。マジックのゲームで用いるクリーチャーも、大半は生き物である。生命活動を行うのに食うのも当然。サイズが巨大であればそれだけ食欲も増すもの。クリーチャーに限らず、人間も大きい人はよく食べる。あるプロレスラーの自伝に印象的な記述があった。そのレスラーがアメリカ在住時に、遠征してきた若手(将来有望なプロレスラーは海外武者修行を経験するものだ)を自宅に招いた時の事。貧乏な若手は高級な日本食のレストランなどいけるはずもなく、日本食に飢えているだろうとお米を炊き各種おかずを用意したところ、もそもそと静かに2時間ほど食っていたとのこと。豪快に一気に食らう大食いも凄いが、延々食べ続けるということも常人からすると十分に怪物。マジックにも、そういうもくもくと食べ続けるクリーチャーが存在する。
《むさぼり喰うストロサス》。か、かっこえええええ。イラスト見て?漆黒の巨体に、ガスマスク。ガスマスク!まあ実際にはガスマスクというよりは呼吸器官が付属した外骨格で覆われた頭部といったところなのだろう。でも見た目は管付きタイプのガスマスクだ。赤くランと光る眼も素晴らしい。某サバイバルゲームのキャラクターを思い来させる風貌。しかしながらその体型は人のそれとは大きく異なり…異常なまでにせり上がった方の装甲からは、歪な翼が生えている。上半身からそのまま足が生えたような昆虫的な要素も、ファイレクシアの機械の兵感をよく表している。このイラスト、よく視るとこのストロサスという機械兵の足もとに、ぼんやりと人の影が多数見える。これがストロサスより手前に描かれている、ということは…むちゃくちゃデカい。そう、9/9のクリーチャーともあれば、それはもう大怪獣。手前に描かれているファイレクシア人とエルフらしき人物、巻き上がる砂埃、ぱらぱらと落ちる石くれ…これらの様子から見るに、上空からこのストロサスが戦場のど真ん中に着地してきたところだろうか。絶望、である。デカすぎる。
こんなデカいやつが、むさぼり喰うのは言うまでもなくクリーチャー。毎ターンボリンボリンと容赦なく、しかし静かに食う。この手の連中は生け贄を用意出来なかった場合、プレイヤーに噛みついて来たりする。しかしこのストロサスはそんなことはしない、静かに己を喰らい、死んでいく。黒くて巨大な生け贄要求飛行クリーチャーは、大抵はデーモン。やつらはコントロールの効かない、自我の強いバケモノだが、このストロサスのタイプはホラー。機械の兵であり、その飢えを満たす燃料を要求するだけで、それが貰えなければ静かに朽ちゆくのみ。なんだか、せつない存在に思えてきた。
毎ターン1体の生け贄が必要とはいえ、8マナで9/9飛行トランプルというスペックはクリーチャー界でも随一。オマケの再生も、ないよりは良い。黒いデッキならば何度も墓地から蘇るクリーチャー、トークン、死亡した時にアドバンテージを稼ぐクリーチャーなど豊富な人材が揃っているため維持するのは割と容易い。
8マナという重さと維持費を無視して、《大釜のダンス》から複数体、あるいは《ドラコ》と共に射出する「ダンシング・ストロサス」というデッキのがかつて存在した。今では《グリセルブランド》を《御霊の復讐》でもっと簡単にゲームに勝てる。恐ろしい時代になり、そしてロマンは失われつつある。
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2015/9/10
「種喰らい」
何かが何かを食う。それをまた何かが食う。それが巡り続ける。食物連鎖だ。地球の生命の途方もない歴史で繰り返されてきた不文律。生きている限り食われる可能性があるのだ。僕たち人間も、かつてはそうだった。強大な野生の獣たちと、命を賭けた食う食われるの闘争を…今では文明というもの築き上げ、自然界から離れた空間で暮らしている人類。一見、食物連鎖から脱しているように見えるが…いつ、天敵が現れるのか・生態系のループに引きずり戻されるのか、わかったことじゃない。例えば、こんなクリーチャーが…
《種喰らい》はシミックの生物化学が生み出した、全く新しい生物種の1つである。シミック団の目的は、ラヴニカで失われつつある自然の保護。保護と言っても、ただ匿うだけではない。確保した自然の力を伸ばす、即ち進化を促してやり、ラヴニカの生態系を造り替えることを目的としていた。細胞質という便利アイテムを使えば、生物の進化を操作するなんてちょちょいのちょい。というわけで、《シュラバザメ》《両生鰐》のような、複数の生物種の特徴を併せ持つ歪な進化を遂げた生物を生み出しては、これらを用いて様々な実験を行っている。ちょっと考えればアウトな集団だ。その合成生物シリーズの1つがこの《種喰らい》。それが作られた経緯は、フレイバーテキストから推察できる。
イカバエを作ったぞー→増えすぎた…悪さしとる…→ウナギタカ作ったぞ、イカバエ食わそう→ウナギタカに天敵がいなくてまずいぞ→ハチガニ!作って解決!→強すぎた…どうしたものか…→今度は○○+カエルだ!
こういうことだろう。生態系の頂点に据えるためか、このカエル・ビーストはサイズは6/6。このサイズを5マナで手に入れられるのはさすが緑のギルドといったところだ。それに加えて、デメリットにもメリットにもなるテクニカルな能力を備えているのが実に青らしく。アップキープに自身のクリーチャー1体を手札に戻す。この能力について解説していこう。
緑や青には、時折こういう能力を持ったカードが出て来る。古くは《暴走するヌー》、続いて《暴走する氈鹿》は《花の壁》や《永遠の証人》を使い回してアドバンテージを稼ぎまくった。青の場合は《エスパーゾア》《生きている津波》といったカードがその系譜で、こちらはクリーチャーと比べるとアドバンテージに繋げにくいものだったりするがコストから見て格安の戦力を得られるという点が売りだった。
さて《種喰らい》だが…5マナ6/6は悪くないものの、かといって3マナ4/3飛行や4マナ5/4トランプルに比べると、非力というか…デッキの軸にし辛い、中途半端なサイズなのがマイナス。使うならば構築よりリミテッド、リミテッドで強いかどうかは相棒次第だが…《門を這う蔦》《虚無使い》《オパール湖の門番》《サルーリの門番》色の合うコモンでこの辺りが使い回して嬉しいクリーチャーだ。また《賢者街の住人》《キヅタ小径の住人》らの能力をついでに誘発させられれば楽しさは倍増。ついでに進化持ちがゴリゴリ育てば…うん、やっぱりサイズ小さくて良いからもっと軽いクリーチャーだったらなと思わざるを得ない。
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2015/9/9
「土喰い巨獣」
食うということは栄養を得るために行う。活動するために不可欠な栄養は、多種多様。特定の植物や動物のみを食べることで事足りるものもいるが、哺乳類のような複雑な生き物となると様々な栄養素を必要とし、それらが得られなかった場合は命に関わることもある。時に、動物は思いもかけないものを食することがある。土だ。土には鉄分、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムなど…いずれも不足しないようにと注意された栄養素が含まれている。それをそっくりそのまま食することは、ゾウやウシ、サルの仲間、またオウムやインコなどの鳥類が習性として備えている。そして、我々人間も。現代の日本には馴染みのない風習だが、ネイティブ・アメリカンやベトナム、アフリカの国々では土を直接食べたり料理に加えるという風習がある。アイヌの人々も食べる習慣があったようだ。土は食べ得、なのかもしれない。
マジックの世界にはそれこそゾウなんて比較にならないサイズの巨大な獣が住んでいるのは皆さまもご存知の通り。それらの動物も、生きていくのに各種栄養が必要なことには違いはない。土を喰うものだっているのである。《土喰い巨獣》はそのまんま、土を喰う怪物である。ナイトメアと呼ばれる、戦場に出た時に特定のカード(それ以外のものもあるけどね)をゲーム外に追放し、これが戦場を離れるとそれを元に戻すという2つの誘発型能力を持っている種族を代表する1枚である。これは『トーメント』で登場したメカニズムで、黒を中心にその友好色である青と赤に与えられた能力である。一時的に対戦相手から何かを奪ったり、自身の何かを担保として預けておくといったことが出来るクリーチャー群であり、その能力を上手く使ってコンボのような動きが出来たりするのだが…まあ、そんなに強くなかった。はっきりと言っておこう。
その中で赤のレアを担当するのがこのナイトメア・ビースト。土を喰うの名の通り、土地を2枚追放する能力を持っている。土地破壊だ。しかも、2枚。8マナ5/6パンプ能力と、単純な戦闘能力を見るとマナコストに見合わないが、出すだけで2枚分のアドバンテージを確保出来る。しかも、大抵の相手が奪われて辛いパーマネントである土地だ。これはなかなかに強力なクリーチャーだ。
というか、真面目に8マナなんて払わなくて良い。《納墓》なんかで埋めて、《再活性》はじめとするリアニメイト呪文でサクっと釣り上げてしまえば良いのだ。対戦相手に土地が2枚しかない早いターンに釣り上げて、行動を妨害してしまえばあとは5/6で殴り続けていけば相手は地獄を見るだろう。
英名はPetradon。ペトラドン。かわいい。ラテン語で「石」と「歯」という意味の単語の組み合わせだ。恐竜のイグアノドンなんかのドンも同じ意味。石に歯を立て食らいつくもの、って感じだろうか。その割にイラストでは触手でエネルギーを吸い上げているように見える。○○ドン=怪獣ってことで。
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2015/9/8
「焼身の魂喰い」
食らうことは、別離(わかれ)ること。他者を攻撃し、食らうことは生命が億を超える年数をかけて積み上げてきた歴史そのものである。野生の世界では、食うことは殺す事。1つの生命と出会い、そして別れる。まあ、僕らも自身では直接そうしないだけでやってることは変わらない。剥き出しの食欲は、そのまま攻撃性となる。「食らうものウィーク」2枚目、本日紹介するのは《焼身の魂喰い》は、そんな食欲に起因する攻撃性・凶暴さを体現したかのような1枚だ。
「魂喰い」という名を冠するカードは、『新たなるファイレクシア』の目玉能力である“ファイレクシア・マナ”を起動型能力のコストとして持つコモンのクリーチャーによるサイクルを形成している。全て無色のアーティファクト・クリーチャーであり、どんな色のデッキでも運用できるのが特徴だ。1つの有色マナを支払うか、代わりに2点のライフを支払うのか選べるという新しい形のマナであるファイレクシア・マナ。5色それぞれの能力を持った魂喰いの中で、《焼身の魂食い》はその名前からも想像できる通り、赤を担当している。赤に割り振られたその能力は、赤いファイレクシア・マナ1つでパワーを1上昇させるという、「パンプ」「ブレス」などと呼ばれる能力だ。2マナ1/1と軽量・小型クリーチャーながら、この能力を複数回起動出来れば他の2マナ圏のクリーチャーよりも大きなダメージを与えることが可能だ。この手のクリーチャーは過去にも存在したが、マナを払うということは除去をしたり展開をするためのマナを消費しているため、テンポが悪い。それらと比べると、赤マナでなくライフで支払うことも可能というのはなかなかに魅力的で、はっきりと秀でた部分だ。《ピグミー・パイロザウルス》の上位互換と言いきれるレベルだ。
ファイレクシア・マナはマナを払う代わりに2点のライフを払っても良いと言うデザインだが、魂喰いサイクルは使っていると逆に思えてくる。2点のライフを支払って能力を起動するカードだが、デッキの色が合えば痛い2点ではなく1マナでも払えるという選択肢をもたらすよ、というところ。特にリミテッドではとりあえずデッキに入れられて、色が合えばなお便利みたいなカードだった。《焼身の魂食い》はその攻撃性をむしろ相討ち用のブロッカーとして使われていたのも面白い。
一方で、構築ではその剥き出しの魂喰いっぷりを評価され、往年の名デッキ「ヘイトレッド」のようなスーサイド・デッキが作られた。3ターン目に18点のライフを支払いこれのパワーを10にした上で“二段攻撃”か“感染”を付与して一撃必殺、あるいは《投げ飛ばし》て二撃必殺を狙う、「ソウルイーター」というデッキは全世界の「そういうの」が好きな仲間達のハートを鷲掴みにしたものだ。
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2015/9/7
「歌を食うもの」
食は快楽である。食に興味がない人は勿体ない、我々は食うために生きている!声高に湧き上がる食欲を自己弁護。食ってナンボだ、これから秋に突入するのだ。食わなくてどうする!サンマが、安くて、ただただ美味い時期が、やってくる!焼きナスも添えれば、ゴキゲンな秋の味覚尽くし。そんなわけで、今週はマジックにおける食欲旺盛な面々を紹介しよう。「食らうものウィーク」、開幕だ。…ちょっと、なんか、ホラーテイストだな…。
《歌を食うもの》。なんとも美しい、詩の一節かのようなカード名である。この「○○を食うもの」という名は『オデッセイ』にて登場したルアゴイフ・サイクルにつけられた共通の名前だ。英名は~vore、《歌を食うもの》はCantivoreとなる。Voreというのは、生き物が他のものを丸呑みにすること・その光景を楽しむジャンルを示す単語だ。日本語にすると、なんと「丸呑みフェティシズム」。Cantiの方はこれといった単語は見つけられなかったが、イタリア語で聖歌に関する単語の多くがCanti~というものであったため、聖なる歌を意味すると考えて良いだろう。聖歌を丸呑みにすることを愛する者、すなわち《歌を食うもの》。
マジックの世界で、歌と言うとエンチャントが自然と連想される。『ウルザズ・サーガ』の歌サイクルやその他の城の呪文など、祝福の歌は即ち呪文の詠唱となったりするのだ。それらを丸呑みにするということで、このルアゴイフ科の一種は墓地のエンチャントの枚数分のパワー/タフネスを有する。このサイクルはそれぞれ単一のカードタイプを参照してそのサイズが変動する連中で、白のそれがエンチャントとなったのはごく自然な流れ。エンチャントは対策もされやすく、特にオーラなんかはクリーチャーが破壊されると共倒れのため墓地に落ちやすい。なので、エンチャントをたくさん積んだデッキで後半に出すならば、そこそこのサイズを誇ることだろう。3マナでキャストして4/4程度になれば十分だ。オマケ能力の“警戒”も実に白らしい。上手く育てれば攻守において働いてくれる。テーロス・ブロックでエンチャント・クリーチャーも数多く登場したため、かつてより特別なアクションをしなくても墓地にエンチャントは落ちやすくなった。
問題は…除去耐性と回避能力のなさ。こればっかりはどうしようもなく…オーラでそれらを付与するという手段もあるが、それならばいっそ初めから《ぬめるボーグル》でも育てればよろしい。
イラストは白らしくない、でもどこか白っぽい怪獣が描かれている。酋長怪獣ジェロニモンのような頭の羽、骸骨状の顔から長く伸びた角に、人間のような上半身と甲殻類のような下半身、エネルギーを放出しているのかはたまた吸い上げているのか、いずれにせよパリパリとなっている腕…ちょっと原画が欲しくなってしまう、味わい深いイラストだ。
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2015/9/5
「意識混濁の胞子」
見た者、使用した者にヤバいと感じさせるカードを集めた「ヤバすぎウィーク」。マジックの歴史が生み出した、ある意味傑作選のトリを飾るのは…緑の、カルト的人気を誇るこのカード。《意識混濁の胞子》とかいうマジックマッシュルーム的なヤバい響きを放つカード名、そしてイラスト…これは何だ?What’s the hell? いや胞子なんだろうけど…何これ?タコみたいな生物が、横スクロールシューティングゲームの弾幕かのように一定の方向に向かって飛んで…これ、左上から右下に飛来してきているのか、はたまたその真逆で上昇していってるのか、どっちだろう。このまま留まっているとかが一番怖い。ジャングル探検中にこんな光景に出くわしたら、発狂しつつもiPhoneカメラ即起動で動画爆伸びに期待しちまう。
このカード、その能力もヤバ気だ。3マナ0/1飛行・防衛という緑にあるまじきそのスペックからもその片鱗が見て取れる。クリーチャータイプはファンガス・壁。いちいちツッこんでるとキリがないので、省エネで。この空飛ぶのれんほどの手応えの壁は、それがブロックしたものの意識をそのカード名の通り、清明から混濁した状態へと引きずり込むのだ。ブロックすることで誘発する能力は、ブロックされているクリーチャーにファンガスカウンターを4つ乗せる。これはアップキープに1つずつ取り除かれていくが、これが乗っている限りそのクリーチャーはアンタップしないというもの。4ターンて長いなぁ尋常じゃない意識の持ってかれ方だ。
全く戦闘能力はないが、その能力によりクリーチャーを縛り上げる疑似除去だ。寝続けるのを恐れて殴って来れなくなれば御の字だ。緑が基本的に苦手とする飛行連中に対する牽制として機能するのは良い。再生を付与したりタフネスを増大させたりそもそも破壊不能にしたり、長く使えるように工夫するのは割と簡単だが、そこまでしなくても使い捨ての4ターン拘束で十分にカード1枚分の仕事は果たしている。
と、真面目に良い点を褒めてきたが、やはりタフネス1は気になるもの。ダメージの最低値で沈んでしまうので、割と簡単に突破されてしまう。トランプルに対しても無力であり、一発入れればそれでOKみたいな状況だと最も頼りないブロッカーに成り下がってしまう。趣味の1枚であることには間違いない。とにもかくにもイラストが凄い。Ian Millerはこの『ミラージュ』を代表するアーティストで、その独特な民族絵画的タッチは最高だ。その昔GP会場でこれをファイル一杯にコレクションしている人をたまたま見かけた時は、リアルで意識をもってかれそうになった思い出が。
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2015/9/4
「生きざる人格崩壊者」
また人格崩壊者か!またです。このヤバすぎる単語が好きなんです。人格崩壊者、英語版ではPsychopath、即ちサイコパス。いい感じに訳したなぁと。サイコパスという言葉は最近よく耳にするようになって、皆さんもご存知の事かと。改めて説明すると、一種の反社会的人格者を意味する心理学用語だ。その主な特徴は極端な冷酷さ・無慈悲・エゴイズム・感情の欠如・結果至上主義、などと言われている。常人には思いつかないような強烈な内容の事件が起きた時、犯人はこれにあたるのではないかと話題になる。最近では自分がこれにあたるのかを見るサイコパステストなんかがネットで流行ったりしているが…サイコパスはそもそも自身がサイコパスじゃないか?なんて疑問をそもそも抱かないんじゃないだろうか。そもそもサイコパスだから必ず犯罪を起こすという訳では全くない。その強い欲求と冷酷さを活かして、ビジネスの世界で大いに成功している人物も少なくないとのことだ。
マジックの世界のサイコパスは、もうその欲求の赴くままに他者を傷つける、文字通りの精神異常者だ。その殺人衝動は尽きることなく、死後もその肉体を突き動かす。《生きざる人格崩壊者》を紹介しよう。名前がイカつすぎる。その割に、4マナ0/4と控えめな戦闘力ゼロサイズ。このゾンビは、自らを傷つけて攻撃性を増す。黒1マナでタフネスを1つ下げ、パワーを1つ上昇させる。素の状態であればパワーは3まで上昇させることが出来る。だからどうした、めちゃくちゃ弱いじゃないか。
実はこのゾンビは攻撃に用いる類のカードではない。やや防御的とも言える、繰り返し使える除去マシーンなのだ。黒1マナとタップで起動する2つ目の能力は、自身のパワー未満のクリーチャーを破壊するというもの。なるほど、パワーを上げにくいのも納得である。ナチュラルな状態ではパワー2のクリーチャーを破壊するのがやっとだが、リミテッドにおける繰り返し使える除去は貴重で、それだけでゲームを支配してしまえるものなのだ。
より有用に使うのであれば、パワーを中心にサイズを上昇させるオーラや装備品を持たせてやるのがベストだろう。
フレイバーテキストがホラー映画っぽくて良い。何年も前に処刑されたはずの殺人鬼が蘇り、人の命を次々と奪ってゆく…なんとなく「リーカー/ザ・ライジング」という映画を思い出す設定だ。気になった人は1作目から観て、何とも言えない無駄な時間を過ごしてほしい。友人らとマジックしながら観ると良いかもね!
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2015/9/3
「脊髄移植」
意味は分かるが、聞き慣れなさ過ぎてちょっと待ってくれ、となるカード名がマジックには多数存在する。《脊髄移植》、漢字の意味は分かる。ただ、そんな移植手術って聞いたことないぞ…骨髄移植は耳にするが。それは白血病なんかの治療で、骨髄液を患者に注射する手術である。それだけの手術ではあるが、同じ父母を持つ兄弟姉妹間でも拒絶反応が出ずに無事に移植が可能な確率は25%と低く、難しいものであることがわかる。これが液どころか、脊髄そのものの移植となれば…まず元の脊髄ぶっこ抜いた時点で普通は死ぬ。そこは医療の進歩と、魔法の世界を信じよう。その上で、他人の脊髄…つまりは背骨を移植されるわけだ。やっぱり拒絶反応で一発アウトだろ。そこはご安心を、ここで言う脊髄とは、他人のものでは御座いません。
移植されるのはファイレクシアの科学を用いて作られた、どんな肉体も従わせることの出来る機械のそれ。ファイレクシア人でないものを奴隷として隷従させる場合、脊髄をコントロールしてしまうのが最も手っ取り早いようだ。機械の脳を作り移植するのは難しいしコストもかかるのだろう。イラストを見るに、背中を開いたものに脊髄の方が蟲のように自ら侵入しようとしている。生産も手術も簡単、植え付ければこの脊髄がもたらす苦痛により従わせることが出来る。実際にこれを移植されているクリーチャーと言えば《司令官グレヴェン・イル=ヴェク》。彼はこれにより強靭な肉体を手に入れたようだが、同時にヴォルラスに刃向えない立場となってしまった。
カードの能力もそれがもたらす恩恵と苦痛を再現している。2マナのオーラで+3/+3修正と破格のサイズアップ。この費用対効果を上回るカードと言うのは今日でもなかなか存在せず、同色の黒で後年登場した《悪意ある力》でも+3/+1と劣る。《悪意ある力》はデメリットなしだが、一方こちらはデメリットあり。当然な話である。それが…呪文や能力の対象となった場合このクリーチャーを破壊する、というもの。これは…かなり厳しい。一度脊髄を植え付けられたが最後、今後何の呪文も、装備品も、そのクリーチャーには恩恵をもたらさない。もたらすのは、死のみだ。
対戦相手のデッキにクリーチャーを対象にとってくるカードがないのであれば、3つもサイズが上がるのはゲームを決する力がある。ただ、ほとんどのデッキが当たり前の様に触ってくるのが現代のマジック。このカードはいっそ、対戦相手のクリーチャーに貼り付けるのに使用した方が有用かもしれない。各種タッパーのようにリソースを失わない能力でサクっと除去してやろう。人の家臣に強制移植手術を施し傷口に触るたぁ何たる鬼畜。勿論、破壊不能を持つクリーチャーにつければ恩恵のみをただただ得る事が可能だ。
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2015/9/2
「分かち合う運命」
マジックも万を超えるカードがデザインされている。22年という年月、数千万のプレイヤー、携わる者と時が増えれば、自ずと浮かび上がってくるのが狂気。優等生なカード、問題児なカード、数多ある顔ぶれの中に時折「異常」としか表現の出来ない、イカレちまった1枚が登場することがある。これらのカードは、マジックがカードで表現できることの限界に迫った、挑戦の結果である。その結果、毒でも薬でもない何かが生まれ、時にそれに魂まで魅入られてしまったプレイヤーが憑りつかれたように専用デッキを延々構築し各地のイベントに出没したりする。
《分かち合う運命》は、そんな発禁手前のヤバすぎカード群を代表する1枚である。僕は、このカードを使用されておかしくなってしまった人物を知っている。それも止む無し、こんなカード使われて、万が一ハメられてしまった場合、心がまともでいられるはずがないのだ。ジョーカーの台詞で「俺の信念はこうだ“死ぬような経験をした奴は イカれる”」というものがあるが、まさしくそうだ。その人物はしばらく、このカードの幻影にまとわりつかれ、遂には自身でもデッキを制作するに至った。それほどまでに恐ろしい、このカードの能力とは。
ややこしく書いてあるが、平たく言えばお互いのドローを入れ替えるというもの。これが戦場に出たら、そこから先のリソース獲得は相手のデッキから行うことになる。例えば、これが入っている青単のデッキで黒単のデッキと当たったとしよう。5ターン目にこれを貼ったら、そこから先黒単側は青単デッキを用いて対戦を行うことになる。逆も然り、青単側のこっちは《沼》と黒いカードを引いてそれらを用いてゲームを行っていくことになる。読んでいてわけわからんと思うが、こっちも書いていてわけがわからん。相手から有効なドローを奪うというのはよくわかる。特に相手がコンボデッキだった場合、そのパーツが揃うことは未来永劫ないだろう。このカードの特性が活きるってなもんである。ただ、それに自分も合わせる必要は…あったのか?何故わざわざ、自身のデッキで使えるともわからない相手のデッキのカードを、自ら引きに行く必要が?
先にあげたある人物がイカれちまった事件ってのは、《地ならし屋》とこれを組み合わせた凄まじいデッキによってもたらされた。そいつはちょっと土地を多めに引いて攻めるのにモタついている時にこの2枚をバンバンと並べられ、リソースを断たれた状態で10/10と自分のデッキのクリーチャーに殴られ続けて敗北するという地獄。経験したのは誰かって?お気づきの通り、僕だ。あの日を経験しなければ、マジック人生もまた変わったものになっていたのかもしれない。
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2015/9/1
「精神ねじ切り」
マジックというゲームはフレイバーを重視している。戦場にも墓地にも出ていないカード、即ち手札やライブラリー。これらは、フレイバー的にはあなたというプレインズウォーカーの精神・記憶・知識…そういったものに基づく、脳内に秘められし呪文達を表していたりする。記憶を失うことでライブラリー破壊されたり、精神を腐敗させられることで手札を失ったりするのだ。体感的にわかりやすく、好きな設定である。知識を得たり先祖の記憶が蘇って手札が増えるとか、めちゃくちゃわかりやすい。
今日の「ヤバい」1枚は、そんな精神に関するカードの1つだ。その名も《精神ねじ切り》。響きがヤバい、既に破壊力がある。精神と言う眼に見えず実体のない物を、ねじ切るという呪文。フレイバーにもあるが、どんな音が鳴るのか…格闘技なんか見てると、劣性の選手が明らかに今のキックで心折れたな…みたいな瞬間は確かにある。ただ、「ねじ切る」とは。魚肉ソーセージの包装みたいに、しっかりと掴んでグリングリンと捻りそして引っ張ってプツンと精神の一部を…マジック的には戦意に関する部分とかだったりするのかな。
黒の2マナの手札破壊であり、その効果は目立たないながらも強力。これを撃ちこまれたプレイヤーは、アーティファクトを1枚捨てるか、その他の手札を2枚捨てるかの2択を迫られる。つまりは、相手の手札にアーティファクトがなければ無条件で2ディスカード、1マナ安い《精神腐敗》となるのである。2マナで1:2交換とはなかなか強力ではないか。同じコスト、同じ1:2交換と言えば《Hymn to Tourach》という先輩がいる。先輩はどんな条件下でも2枚を無作為に捨てさせる鬼のカードなので強さはちょっと比べようもないが…。
偉大な先輩がいるならば、違う階級で勝負すればよいだけの話だ。モダンなら、このカードが2マナハンデスとしてはナンバー1。「親和」相手には弱いが、それ以外の相手には2ターン目に頭を抱えさせることが出来るかもしれない。緑黒のミッドレンジ系のデッキや、《小悪疫》などと併せた「メガハンデス」なんかで採用されることもある。再度に追加のハンデスでとるか、メタゲームを読み切ってメインから投入するか…プレイヤーの能力が試される、イージー呪文に見えて奥が深い1枚と言えよう。
登場したのはアーティファクトに溢れた世界『ミラディン』。セットの半分がアーティファクトという狂った世界だったからこそ、このような呪文がコモンに設定されていたのであろう。コモンであるが故にコモン限定構築・Pauperの「黒単信心」なんかでも使われていて、これを回避するためにアーティファクト・土地をとりあえず数枚デッキに入れておく、と言う構築術があるそうだ。精神、切らせへん!という意志が見えるこういうテクニック、大好き。
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2015/8/31
「ゴブリンの人格崩壊者」
マジックをプレイしていて…「ヤバいやろこれ」と感じたことは皆もあると思う。「ヤバい」の意味するところがなんなのかにもよる、概ねはカードパワー、デッキパワーにそれを感じるんだろうけど…時折、ヤバいという事実そのものをカードにしたものが登場することがある。イラスト、カード名、フレイバー、その能力…マジックはカードゲーム、ゲームは面白くてナンボだ。勝つための身を追求して競技レベルのカードにしか触れないのも良いが、たまにはヤバいカードを使って心底それを楽しむ、ということも大事なことだと思う。今週はそんな面々を紹介して行こう、「ヤバすぎウィーク」の開幕だ。
第1回は《ゴブリンの人格崩壊者》をご紹介。このカード、もう名前でヤバい。「人格崩壊者」なんて、普段口語では絶対使わないレベルの単語が当たり前の様に並べられている。このカード名で自己紹介は完璧。ゴブリンなんて他のカードのフレイバーを見てもどいつもこいつも人格なんて崩壊しているように思えるが、そんなメンツの中でわざわざ人格崩壊者のレッテルが貼られているこいつは一体どれだけヤバいのかと。イラストを見ると、他のゴブリンが乳幼児に見えるようなサイズ。遠近法を差し引いてもデカすぎる。足の指なんて恐竜のそれだ。ゴブリンはミュータントが生まれたりすることがちょいちょいあるみたいで、これも変種ということがわかる。「脳筋」という言葉はすっかり日本語として定着しているが、こいつはまさしくそれなのだろう。その戦闘能力に合わせて思考までもが攻撃性そのものと化しているようだ。周りの小さなゴブリン達はそのこん棒を振りかざす雄姿を見届けているが、すっかり怯えきっている。その理由は能力を見ればわかる。
4マナ5/5。ゴブリン界はおろか、近代のクリーチャーインフレマジックでも他と引けを取らない優秀なスペックだ。しかし恐ろしいのは、戦闘に関するその能力。攻撃かブロックに参加したとして、その際に与える戦闘ダメージは50%の確率であなたに与えられるのだ。
…何を言ってるかわからないって?とりあえずコインを投げてほしい。表か裏か、裏だね?…残念、表だ。じゃあ、5点。わかってるよ、こっちの2/2を5/5でブロックしたら、何故か5点受けていた。そんな経験、脳が処理できるわけがない。じゃあそっちのターンだ。攻撃?いいとも。また裏?表だね。じゃあ、5点喰らってくれたまえ。ゲームにならない?知ってて使ってるんだろ?今さら正気ぶるのか?スマートぶらずに、せっかくだから楽しんでいこうぜ。狂気を。
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2015/8/29
「樹上生活の猿」
小型の猿は本当に愛嬌があって、動物園などで目にすると思わずうちにも一頭欲しいなぁ…なんて思ってしまう。実際に導入には至らないのだが、10年以上前か、エキゾチックアニマルブームの際には実際にこの衝動を行動に移した人が多くいたようだ。ペットショップでもリスザルを初めとした小型のサルの仲間がキーキーと鳴いていたものである。自分達にちょっとだけ似ているところがあったりするから可愛く感じるのだろうか。樹上生活を送る小型種は本当にかわいい。
サル愛を語ってきた「サル・ウィーク」も遂にラストの1枚を紹介する時が来た、その名も、《樹上生活の猿》。これまで紹介してきた中でも限りなくサル、純度100%と言っても良い。初出『ポータル・セカンドエイジ』のイラストはすごいぞ、イラストだけ表示したら誰もマジックのカードのそれとは思うまい。『第9版』の方はテナガザルっぽさを出しつつも、謎の眉毛(触覚?)が生えていて、ファンタジー要素が感じられる。それでもただただサルであることには違いないけどね。
カードとしても、なんだかかわいいもの。1マナ1/1で到達持ち、それだけ。1ターン目に出して適当に1~2回殴って、後はしばらく突っ立った状態で飛行持ちを1回チャンプブロックお役御免、といったところか。アタッカーとしても対空牽制にしても最弱の部類である。同じ1マナで到達持ちを調べたところ、3種類…《ドラゴンを狩る者》を限定的到達と加算すれば4種類。うち2種類がパワー0の防衛持ち、所謂壁で猿より高いタフネスで小型飛行クリーチャーなら受け止め続けることが可能。パワー持ちは先にあげた《ドラゴンを狩る者》と《エズーリの射手》。ドラゴンを止め続けることが出来るハンター、エズーリは飛行持ちをブロックすればパワーが4となり大抵の飛行持ちと相討ちが取れる上にタフネスは2。おサルに勝てる要素はないね。ただ、これらのクリーチャーもおサルというカードが既にデザインされていたからこそ、それらの形を持って生まれることが出来たのだと思う。サルに感謝。
フレイバーには結構激しいことが書かれていたりする。タラスのおっさんらはサルを食うのか…ちゃんと野菜を付け合せている所にこのおっさんのユーモアを感じる。このフレイバーはこのサルたちは役に立たないよって言いたいんだろうけど、そんなことはない。イラストから察するに、このサルの種類はフサオマキザル、あるいはその近縁種だ。ヤンキーのようなヘアスタイルで一躍有名になったこの小型のサルは、なんと介護ザル(介助ザル)として活躍しているのだ。頭の良さと、そして他者に対する優しさがこのサルの特徴。本や新聞のページを捲ったり、ご飯を食べさせてあげたり、電話を受けて耳元で支えてあげたり…種を越えて尽くす優しさにはグッとくるものがある。最近でもツイッターで、子猫に毛づくろいして自分のご飯を与える姿が話題になりましたね。おそらくはチャンプブロックも、主人のために自らの命を投げ出して…うぅ、ますます使いにくいカードとなってしまった。
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2015/8/28
「猿の檻」
サルって、檻が似合うと思う。こう書くと動物愛護の人らに怒られそうだが、掴まってるのがお似合いとかそういうことを言いたいわけではない。動物園の見せ方も近年は大きく変わってきて、すべての動物が鉄格子の向こうにいるという訳ではなくなってきた。より自然に近い、ストレスを少しでも少なく出来る空間で野生の寿命以上に生きることが出来れば彼らも報われるのではないだろうか。まあそんなことは置いといて、減ったとはいえ今でも頑丈な檻というスタイルは存在する。そしてサルの仲間…どっちかと言うと小さなサルたちは、この檻が似合うと個人的に思う。立体活動を行う面々は、檻の側面や天井に手や尾でしがみつきぶらさがりスイスイと動き回る。また、檻の手前まで来て隙間から手を伸ばしたりするのもサルならでは。こういった行動が面白く、小型のサルは見ていて飽きないものだ。
そんなサルを飼育する檻とはちょっとかけ離れた、それこそ鳥籠のような、市場で売るために閉じ込めておくための道具としての檻…そんなアイテムがマジックのカードにはある。読んで字の如く《猿の檻》。檻の中には猿がいる、そんなわかりやすく面白いアーティファクトだ。
5マナで設置して、それだけでは仕事はしない。後続にクリーチャーが必要だ。それは、自他どちらのものでも構わない。戦場にクリーチャーが出た際に誘発し、これを生け贄に捧げそのクリーチャーのマナコストと同じ数の2/2類人猿トークンを檻から解き放つ。クリーチャーが着地した際の衝撃とかで檻が壊れちゃうのだろうか。重量級であればあるほど、大きい檻を壊したってことでものすごい数のサルが出て来る、と考えれば合点がいく。対戦相手が次のターン5マナ6マナで大物を叩きつけようとしている状況ならば、良い牽制になるだろう。逆にそういったファッティではなく軽量クリーチャー満載デッキを相手取った場合、1マナクリーチャーを出されて5マナ2/2とか情けないことになってしまう。3体出れば5マナで6/6を出したようなものなので悪くなく、それ以上の値になるとゲームを決める1枚となる。
やはり、自分が大型クリーチャーを叩きつけてナンボなカードである。《修繕》《ゴブリンの溶接工》で《ファイレクシアの巨像》なんかをマナを払わずに戦場に出すデッキなんかもあったようだ。僕は、もっぱら《デルレイッチ》と…4ターン目《センギアの従臣》5ターン目檻&農奴サクってデルレ、これで6/6トランプルと2/2を7体確保、これだけで20点分打点がある。もうこんなコンボを決める環境はマジックには残されていないが、自家製キューブドラフトやっている人なんかはこの3枚をプールに仕込んでドリームコンボを楽しんでみてはいかがだろう。今なら《死の門の悪魔》《アロサウルス乗り》なんかもあるな。
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2015/8/27
「シディシのペット」
前回存分に語った《凶暴なゴリラ》というカードは、アジアな世界観を破壊するために『タルキール覇王譚』に入ることはなかった。これはデザイナー達も泣く泣くのことだったのだろう、とゴリラー(ゴリラを愛する人の意)である僕は妄想している。せっかく緑青黒という色が合うスゥルタイがフィーチャーされるのだから…と残念に思っていたら、全く別のサルたちがスゥルタイのカードとして登場。久々の類人猿カードに歓喜したのももう1年近く前の話で、年月はあっという間に流れゆくものだなと。今日はそんな類人猿カードの最新のものから1枚、《シディシのペット》をご紹介。
久方ぶりに“変異”という能力が還ってくるとのことで、『タルキール覇王譚』発売前には期待半分/不安半分な分割カード的心情だった。何せ、かつての変異にあまり良い思い出が無くて…『オンスロート』を体験した世代なら、わかるんじゃないだろうか。どいつもこいつも、弱い。《賛美されし天使》という当時の最強クリーチャーを輩出していたりするものの、他はどれもこれも変異で出すメリットがなく、かつ素出ししようとするとマナコストに見合わない性能と、割とどうしようもなかった。めちゃくちゃ重いクリーチャーをとりあえず3マナ2/2の正体不明なカードとして運用できる、というコンセプト自体は面白いんだが…というね。それから時を越えて、途中『時のらせん』で数枚リバイバルを挟んでのタルキール。これが…良くなっていたんですよ。特に、リミテッドにおける変異がめちゃくちゃ面白い。それこそ旧変異勢のような7マナのクリーチャーから、変異コストの方が高くつく2マナのカードなんかもあったりして…それらを変異で出すということの意味がとても大きく、このドラフトにはのめり込んで珍しくMOでも100回ほど遊んだものだ。
《シディシのペット》も変異クリーチャーにしてマナコストは4と、一見変異があまり意味を持たないスペックなのだが…3マナ2/2として・4マナ1/4絆魂として、どちらで戦場に出すか、その意味が大きく違うカードね。基本的には変異で出すんだけども、3ターン目に出した変異クリーチャーは概ね5ターン目に5マナで表向きにして殴るカード。その3と5の間を埋める4マナのアクションっていうのには意味があった。相手の変異や2マナ2/2の連中が殴ってくるが変異は5ターン目に活かしたいのでブロッカーに回したくない、なんて時には4ターン目素出ししたり。あるいは3ターン目これを変異で出して、4ターン目2マナアクションしつつ相手の変異アタックを受けとめ表に…といった具合に。決して強いカードではなく、良いピックが出来た時はデッキに入らないこともしばしば。が、強くなくてもプレイアブルなカードではあり、穴を埋めることが出来る。全てのカードに出番がある、ということがドラフト好きには嬉しいんだよなぁ。
しかしヒヒのゾンビを飼うとは、シディシ様も良い趣味をしている。爬虫類に飼われる類人猿…なんかワクワクしないかい?
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2015/8/26
「凶暴なゴリラ」
1つだけツッコミたいことがあって、しばらくその時が来るのを待っていた。今日、ようやく公の場でそれをすることが叶ったわけだ。満を持して、さあ言わせてもらおう。《凶暴なゴリラ》というこのカード…どう見てもオランウータンやん!顔の側面、両頬にあたる部分が平たく大きく発達しており、これはオランウータンの雄に見られる特徴である。このでっぱりをフランジと呼ぶ。これは不思議なもので、他の雄との喧嘩などで勝利し、強さを証明することによって発達する。個体によっては生涯発達しないものもいるし、20年間何もなかったのにある日の喧嘩で勝利してからみるみるうちに膨らみはじめたという例もある。脳内麻薬的なものが作用しているのだろうか、不思議なものである。
話は戻って、こいつはどう見てもオランウータンだろう。フランジといい、オレンジ・茶色のフサフサした長い毛といい…ゴリラっぽさを探す方が難しい。と、長い間思ってきた。このカードが活躍することももうないだろうし、実況なんかしていて「そう言えば今盤面にいる《凶暴なゴリラ》、あれオランウータンですよねどう見ても」なんて言うこともないだろうからこのコラムしかないなと思っていた。「サル・ウィーク」は半分はこれを言いたくてやった。マジックの世界にはゴリラとオランウータンの両方が生息しており、それらの前例を見てもこのカードがオランウータンにより近い特徴を持っていることは明らかだ。これは「ファイレクシア人を喰らうサルを描いてくれ!」とオーダーしたのか、アーティストがオランウータン的特徴をゴリラに加えたのか、その経緯が気になるところである。多分、地球でこれについてあれこれ考えていた人間は非常に少ないと思うので、今ここでそれが共有出来て本当にスッキリした気持ちだ。
延々見た目の話をしてきたが、カードとしての能力はなかなか面白い。5マナ3/3、緑の単色のクリーチャー、それもゴリラを冠するカードとしてはサイズ不足な点は否めない。このカードが真価を発揮するのは、青と黒のマナを用いることが出来る3色以上のデッキにて。その能力は、2色のマナとこれを捧げることで-3/-3修正を飛ばしつつ1ドローが出来ると言うもの。アドバンテージを失わない、優良除去能力だ。
かつては現在の何バイも強力なカードだった。このカードが出た『アポカリプス』当時は、“当て逃げ”というテクニックが存在した。クリーチャーが攻撃しブロックされ、そしてダメージが…今とは違って、スタックに積まれる。いわば、発生保証だ。このゴリラの場合、相手のクリーチャーをブロック後、ブロックされているクリーチャーに3点のダメージを与えることがまず保障される。その後、これの能力を起動させて生け贄に捧げる。対象とするのは、ゴリラにブロックされているクリーチャー、これが5/5だったら、修正を受けて2/2に。その後、3点のダメージが解決される。タフネスに3点ダメージで見事撃退、というわけだ。ゴリラはもう戦場にいないのにダメージが与えられる、かつてのマジックの不思議ルールだ。これを上手く使えば、ゴリラ1体で2体以上のクリーチャーを迎え撃った上に1ドローまで。さすがに重さと色拘束で構築では活躍しなかったが、リミテッドでは極めて強力なクリーチャーとして良い仕事をしていたものだ。個人的に、『タルキール覇王譚』『運命再編』に再録されることを願っていた1枚だった。…よく考えたらアジアにゴリラはいないのか、やっぱりオランウータンだったなら…。
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2015/8/25
「貪欲なるヒヒ」
ヒヒ、と聞くとあまり良いイメージは浮かばないかもしれない。ヒヒとは、アフリカ大陸を中心に生息している中型のサルの仲間(オナガザル科ヒヒ属)の総称。マントヒヒで知られる、目から鼻が離れた犬のような独特な頭部を持つサルたちの事だ。犬歯を剥き出しにして威嚇している姿を見たこともあるだろう。ヒヒというのは日本語で、狒々という妖怪からつけられている。「人によく似たざんばら髪の山に住む物の怪」とのことで、江戸の頃などに描かれたイラストも割とヒヒそのもので、大陸を越えて動物の情報が伝聞して行った結果妖怪になったというよくあるパターンだろう。この妖怪、女性を攫うとのことで…ここから好色な中年男性を「ヒヒジジイ」と呼ぶようになった。それと、上述の攻撃的な姿が合わさりヒヒ=ネガティブなイメージを抱いてしまう人は少なくないだろう。
さて、マジックの世界にヒヒは…しっかり生息している。次元ラースに生息するのは、その荒れ果てた世界を体現するかのような狂暴種、《貪欲なるヒヒ》だ。フレイバーテキストからも伺えるその破壊衝動に満ちた習性は、基本でない土地を破壊するという能力で表現されている。その土地を徹底的に荒らし尽くして、マナも生み出さないすっからかんの状態にしてしまうのだろう。土地破壊能力を持つクリーチャーは『エクソダス』時点では珍しいもので、4マナ2/2と戦闘力は薄くてもアドバンテージがとれるなら上等。当時は《真鍮の都》《反射池》《知られざる楽園》と強力な5色土地に支えられたデッキが多かった。そいつらに地獄を見せろってこったな?ウキキーッ!
…犬歯剥き出しの彼らには悪いが、使われなかった。特殊土地対策としては既に最強の1枚《不毛の大地》が存在した。それと《冬の抱擁》《忍び寄るカビ》など、土地を攻める戦略はどちらかと言えば緑を中心としたものであった。それらの軽さや対象に困らないカードと比べると、どうしてもカードパワーに劣ったのだ。
さらにこのカードの登場から1年を待たずして《なだれ乗り》というアッパーバージョンが登場。このカードは使われまくった、そして誰もがヒヒのことを思い出さなくもなった。
ちなみに『エクソダス』の土地破壊をテーマとした構築済みデッキ「大地壊滅」のパッケージを飾るも、同デッキには収録されていない。こんなことってあるのか!?次元ラースには他にも《ラースの猿人》が生息しており、割とモンキーパラダイスのようだ。ラースサファリとか行ってみたい。そして車ごと《根切りワーム》にガボーッ。
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2015/8/24
「うなる類人猿」
夏、と言えば…海、山、プール、フェス、スイカ、花火、素麺…それらがイメージされると思う。
ここで1つ確認したい。夏から連想されるものに「猿」が含まれるのは僕だけだろうか?
いや、どっちかと言うとカタカナで「サル」だな。夏場になると、樹上で暮らしたり木陰に佇んだりしているサル達の姿が思い浮かぶ。サル…何故なのか。おそらくは、僕が動物園ジャンキーな幼少時を過ごしたことが一因なのかもしれない。
夏休みは毎週のように動物園へ連れていけと懇願し、それが叶っていたのを憶えている。僕は動物全般を愛してやまないが、最寄りの動物園では夜行性動物館があったりネコ科のマイナー種が飼育されていてそのあたりがお気に入りだった。
そしてもう1つ、サルに強い園だった(今でも強い)。サル舎みたいなシンプルな名前で、集合住宅宜しく多種多様なサルが並ぶ光景はこの上なく面白い。それらのサル達を灼熱の日差しの中、一心不乱に観察していたため、夏=サルなのだろうか。あとサルって南国に住んでるしね。というわけでまだまだ蒸し暑い今週は「サル・ウィーク」だ。
マジックの世界にもサルは溢れているよ…と思って調べたら、イメージよりもずっと少なかった。類人猿のクリーチャータイプを持つカード、たったの28種類。これにサル感のあるイラストのカードなんかを合わせても、50もいかない程度だろうか。
意外や意外。基本セットを除けば、最新のサルは『タルキール覇王譚』にて登場、その1つ前はなんと『ワールドウェイク』まで遡る。サル、いねーもんだな。確かにミラディンやイニストラードの次元イメージにチンパンジーなんかの類人猿は似合わないね。古くは『アルファ』から存在する由緒正しい伝統的な部族なんだがな…。
僕に最初にインパクトを与えたマジックのサルと言えば、今日の1枚《うなる類人猿》。見た目がパンチ効いてる。道具を持った白とオレンジの毛のゴリラなんて、マジックでしか見れないイメージだぞと。
構築済みデッキ「壊し屋」のパッケージも飾ってその存在感は尋常ではなかった。カードとしても3マナ3/4瞬速と、悪くないスペックを持っている。エコーだけはどうしても気になるが、対戦相手の小粒のアタックをサッと出てきてブロック、こん棒でド突きまくる姿は使っていて「悪くないのでは」と感じさせたものだ。
というか資産の無い中学生プレイヤーの僕らにはとっては緑の主力みたいなところもあった。皆で《怨恨》つけて殴ったよなぁ。
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2015/8/22
「Champion Lancer」
「Champion Week」の最期に持ってきたのは、おそらくチャンピオンカードの中でもどマイナー、知っている人の方が少ないこのカード。好きなんよね、このシンプルな中世の騎士のイラスト及びカードデザインが。「Rock
You!」っていう映画を知っているかね?「ダークナイト」ジョーカー役で世界中から評価された今は亡きヒース・レジャーのハリウッドデビュー映画だったりする。中世ヨーロッパにてヒース演じる平民の青年が、貴族/騎士のスポーツである馬上槍の世界で上り詰めていく…まあ王道ストーリーなんだけど、BGMにロックの名曲が採用されていてそれまでの歴史ものとちょっと毛色が違った作品だったんですわ。そこで「QUEEN」の「We
are the Champion」が流れて…この馬上槍のチャンピオンを表したカードを見ている、それを思い出すのだ。
カードの性能も割と独自のもので面白い。6マナ3/3と物足りないサイズながら、クリーチャーからこのチャンプに与えられるダメージは全て軽減されるという、驚異的な鉄壁能力を有しているのだ。『スターター』というポータル系の流れを汲む初心者用セットに収録されたこのレア、おそらく“プロテクション”というマジックをゼロから学ぶ際に難しい要素となる能力を持ったカードを収録できないが、その断片的な強さだけでも体感してもらおうという意図のもとに作られたのではないだろうか。緑のクリーチャーは5/5や6/6などナチュラルに巨大だが、白のクリーチャーはサイズで勝るそれらに能力で抗えるという面を学ぶには良いカードではないだろうか。プロテクション(クリーチャー)のようだがプロテクションの持つブロックされないという部分もなく前述のようにサイズもあくまで中型なので、攻撃には向いていない。完全なる不死身の壁として運用されることになるだろう。
フレイバーテキストがかっこいい。日本語に訳するなら「彼の槍のきらめきは、彼の純粋で輝ける名誉の投影だ。」こんな感じだろうか。誇り高き騎士というのが伝わって来て良いね。背景のパステルな色合いも美しく…この淡い夕焼けのその先には、彼と相対する対極の存在が同じ槍を構えていたりするのだが、それはまた次の機会にお話ししよう。
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2015/8/21
「勇者のドレイク」
最初に馬に乗った人、って誰なんだろう。凄すぎやしないかい。野生動物に跨り、意のままに操る。確かに、馬という動物の背中は「乗れる」雰囲気を醸し出している。まあそれはあくまで乗られるために交配を重ねた現在の馬の背であるからこそそう見えるとは思うが、野生のシマウマなんか見ててもいけそうな感はある。大昔の人々も同様の感想を抱き、トライしたのだろう。元は食肉家畜だったようだが、次第に騎乗するものへとシフト。大体紀元前4000年には馬に跨り野を駆けていたようだ。およそ6000年前、最初に馬に乗った人物はまさしく「勇者」だったことだろう。
馬という大人しい草食動物でも、いざ乗るとなるとまあまあ怖い。これが、もっと大きくて牙や爪で武装された肉食の爬虫類だったら?それが、宙を舞うとなればどうか?怖いなんてもんじゃないだろ!《勇者のドレイク》、まさしく勇ましい者のための乗り物だ。こんなの一般人にゃ無理無理。
2マナ1/1というサイズは、飛行を持っていてもあんまり使いたくならない…もう一声欲しいスペックだ。デメリットを持っていていいのでパワー2あれば…《天空のアジサシ》のように。あるいは2/1でメリット能力を持っているか、2/2だったりすると嬉しい。じゃあ、一足飛びに4/4を提供しよう、なんて言われたら…もちろん条件があるんだよなぁ。
「(Level)・カウンターが3個以上置かれているクリーチャーをコントロールしているかぎり」なんていう、『エルドラージ覚醒』限定の能力で攻めてくる。ただしその条件さえ満たせれば2マナで4/4飛行でデメリットなしだ。挑んでみたくなるというもの。(Level)・カウンターが3個以上、という条件は果たしてどれほど厳しいか。“Lvアップ”というキーワード能力は、ソーサリータイミングでのみ行える。自分のターンの展開を犠牲にして、2マナ3マナを払うのだ。1マナなんて連中も居るが、概ね2マナかかると割り切った方が良い。2マナを3回払うのであれば計6マナ。うーん、まあまあの投資が必要だ。何よりこのマナさえ支払えば良いというわけではなくそもそものクリーチャーを展開して置く必要があるし、彼らが多くのマナを受けて育ちLv3以上の状態のまま無事である必要がある。こんだけ聞くと割と多難ではある。この苦難の道のりをサポートしてくれたのが《敬慕される教師》だ。これで一気にカウンターが2つ増えるので、ドレイクも共に成長するのが容易だった。
日本語版のフレイバーテキストはちょっとよくわからない。見逃しが怖い、ってどういうことだろう、何を見逃すのか。この英文の「missing out」は失敗と訳した方が意味としては正しいのかもしれない。「失敗(落馬的な)が怖い?」だとまだわかる。ドレイクを抑える=手綱を用いて従わせる、ということで。いずれにせよ凡人には難しく、高さに恐怖を覚えずドレイクを従わせられる勇者にこそ、というところだろう。
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2015/8/20
「冷静なチャンピオン」
激情型か…あるいは劇場型なんてのもあるが。皆が思い描くチャンピオン像ってどういうものだろうか。感情剥き出し闘志満々、王者の貫録盛り上げ重視、あるいは…クール・冷静・勝負に冷徹…そういうチャンピオンもカッコイイ。格闘技やスポーツの世界で勝つには情熱が必要だが、頭に血が昇ってもうまくいかないことがある。そこを冷静沈着にプレイして勝利するチャンプの姿は、どんな競技でも輝いて見える。そう、マジックもね。グランプリやプロツアーで勝利する人は皆、とても落ち着き払ってゲームしているように見える。
カードにおいても、そんなチャンピオン像=戦士・英雄の姿を表した1枚が存在する。《冷静なチャンピオン》、読んで字の如くだ。『レギオン』にて登場したこのカードは、当時の兵士のステレオタイプな外観をしている。その見た目には大きく2種類あって、スキンヘッドで肉塊的な顔に白目のみ…アメコミの雑魚敵っぽい顔のマッチョマン・グループと、甲冑で身を覆い、その兜の下の素顔は発せられる光によって見えないアーマード・グループに分かれる(この分類名は今付けたので、知人にドヤ顔披露とかはやめてね。と言ってもそんな機会がないか)。
《冷静なチャンピオン》は後者であり、首が埋まっているかのように見える重装甲は某マーク44を思い起こさせたり。ガッシリボディに携えるは、これまたこの頃の兵士のメインイメージである斧。2マナ2/2と軽量クリーチャーではあるが、そのイラストは5/5くらいあってもおかしくないように見える。
その見え方も間違いではない。実際にこのチャンピオンは、巨大なビーストをぶち抜くより強大な存在へと成長する可能性を秘めている。白のダブルシンボルでパワー2となると《白騎士》や《サルタリーの僧侶》といった面々を思い浮かべることだろう。彼らと違ってプロテクションこそ持たないが、個人的にはそれらにも負けないポテンシャルを持った1枚だと信じている。プレイヤーがカードをサイクリングするたびに、+2/+2の修正を受ける。2回サイクリングすれば6/6だ。《忘れられた洞窟》に代表されるサイクリング土地や《アクローマの祝福》といったカードは、1マナでサイクリングが可能。これを2ターン目に出して、3ターン目に全力サイクリングすればMAX8点ダメージ。このアクション、手札の消費がないというのが驚きだ。同じくサイクリングに2点ダメージを付与する《稲妻の裂け目》よりも、ダメージ効率自体は良い。
このカードの面白いところは、これ自身の能力を起動してサイズを上げているわけではなくあくまでサイクリングによる誘発である点。即ち、複数体並べてサイクリングを行えば、4点以上のダメージをそれこそ1マナ以下で・手札消費もなしに行えてしまうのだ。これに《霊体の地滑り》なんかが絡むと…考えただけで恐ろしい。
かつてオンスロート・ブロック構築にて《総帥の召集》をキーとするデッキが流行った。前述の《稲妻の裂け目》や《めった切り》を有しクリーチャー除去を得意とするサイクリングデッキは、どれだけ除去してもワラワラ湧いてくるこの《総帥の召集》デッキを苦手としていた。これに対して、かのズヴィ・モーショヴィッツ氏は《冷静なるチャンピオン》を初めとするクリーチャーをサイドイン。速度で優位に立ち、向こうが召集を打つ頃にはライフは数点、という状況を作り火力で勝利するスタイルでプロツアーに臨んでいた。彼がそのプロツアーの王者となることは叶わなかったが、絶望的と言われる相性差を前に投げ出さずに、冷静な対処法で挑んだ姿勢はこのカード名と被っていてカッコ良かったものだ。
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2015/8/19
「勇者の兜」
今週は当コラムにて「Champion Week」をお届けしている。最近はChampion=勇者と翻訳されているカード名が多々あることは既に述べた通り。勇者、勇者か…。意外と日本人にとって、勇者ってのは身近な存在だ。それは勿論…某RPGの功績なのだが。
我々にとって勇者=主人公であるというのは常識のようなものだが、ではマジックにおいてはどうか。勇者で主人公…どのセットの誰という訳でなく、おあつらえ向きのフォーマットがあるではないか。そう、統率者戦だ。
同名カード1枚制限の99枚のデッキ、そして1体の統率者を用いるフォーマットだ。統率者とは?それは、あなたが自由に決めてよい。伝説のクリーチャーカード1枚を選び使用する。デッキの色はこのクリーチャーの色に準じたものになる。
《兜砕きのズルゴ》なら赤白黒のデッキ、《鐘突きのズルゴ》なら赤単のデッキを使用することになる。このクリーチャーはデッキには入らず、統率領域というところに置かれてゲーム開始。ここにあるうちはこれを手札にあるかのように唱えてOK。先のズルゴのように殴っても良し、《始祖ドラゴンの末裔》のようにコンボパーツとして扱っても良い。
ここを何にするかでデッキは大きく様変わりする。まさしくデッキの主人公であり、あなたの勇者的存在なのだ。
そんなデッキの勇者を補助するための武具を今日はご紹介しよう。《勇者の兜》、割とそのまんまだ。見た目が相当面白いが、とりあえず一旦置いておこう。
3マナで装備しているクリーチャーに+2/+2修正を与える。装備コストは1マナと安く、装備品が貧弱にデザインされている昨今では悪くない値に見えるが…装備品全盛期である『ダークスティール』のコモン、《ヴァルショクの鉄球》と唱えてから装備するまでに必要なマナ・4点は同じである。
これだけでレアとは言えまい。というわけで勿論追加効果あり。装備しているクリーチャーが伝説であれば呪禁付与のオマケがついてくる。勇者が装備してこそその真価を発揮するものなのだ。
どんなゲームでもこういった勇者限定装備ってあるもんだね。自軍の最も大事なクリーチャーである(ケースが多い)統率者のサイズを二回りあげつつ呪禁がつくとなれば割と鉄壁。こっちの呪文や能力の恩恵は受けるので、統率者を育てて強化してワンパンチKO狙いのデッキでも扱いやすい。
対戦相手の除去から統率者を護る定番装備と言えば《稲妻のすね当て》。これは2マナと軽く装備コストも0マナ。事前設置しておくには軽くて便利だ。
サイズアップは見込めないが、速攻と被覆を与える。さらに似ているカードで言えばこのすね当てのリメイク《速足のブーツ》もある。こちらは装備コストが1マナになった代わりに呪禁がつく。
兜がこれらの軽い装備品に勝っている点は、被覆ではなく呪禁であること・またサイズが上がること。往々にして軽さと速攻には負けてしまうが、選択肢としてあることに大きな意味がある。龍王達や美しきエルフ達、後にプレインズウォーカーとなる面々がこのルチャドール風のマスクをしている様を想像すれば、笑えるではないか。
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2015/8/18
「ラクァタスのチャンピオン」
「チャンピオン」とは即ち優勝者と考えてしまうが、その語源を遡ればこの言葉が他の意味も内包していることがよくわかる。ラテン語にて平地・平野などを「campus」と呼ぶ。
この平野にて、部族紛争を解決するための闘争や領地を巡る戦争が行われていた。そこで戦う戦士達を指す言葉、それが転じてChampionが現在持つ勝者という意味になったとされている。部族を代表し、戦う者。マジックでも、最近ではこの単語を「勇者」と訳していたりもする。
ならばこのカード、《ラクァタスのチャンピオン》はどうか。ラクァタスというのはオデッセイ・ブロックの背景世界に登場する人物《大使ラクァタス》のことだ。このマーフォークは知略・奸計・精神魔法に優れており、ミラーリを手にしてこの世の全てを手に入れんと悪巧み。自身の警護及び武力行使の担い手としてアヌーリッド(カエル)族の戦士、ターグというピットファイターと精神結合し、彼を使役させていた。
ラクァタスが恐るべき魔力と魅力に溢れたアーティファクト・ミラーリを強奪しようと同じ海の敵対勢力に攻撃を仕掛けた所、同勢力の護衛役の大王イカによりこれを阻まれる。激闘の末、ターグは戦死した。
この時、ターグと精神結合していたラクァタスは、ターグの感じた死と大王イカの恐怖の悪夢に苛まれる。これをチェイナーという男が結晶化し、ナイトメアという悪夢を元に生まれたクリーチャーを生み出した。ラクァタスの悪夢から彼の新たなる「戦士」が誕生したのだ。
こんなストーリーにもがっつり絡むクリーチャー、その見た目は最高に邪悪でカッコイイ。炎を背景に立つ筋肉質の…そして触手を携えた怪物。「アメイジング・スパイダーマン」のヴェノムやカーネイジを思わせるそのルックスは、『トーメント』という漆黒のエキスパンションの看板となるに相応しいものだ。
そのカードとしての性能も素晴らしく、まさしく看板レア。6マナ6/3、各種タイタンを見た後だと物足りないかもしれないが当時は黒でここまで高打点を誇るカードも珍しかったのだ。
その上低めのタフネスを補うように黒1マナによる再生もついている。これでガンガン殴りに行けるし、ブロッカーとして用いることも出来る。パワー6もあれば大抵のクリーチャーをぶち抜ける、低タフネスのために黒1マナ毎ターン払うのは必要経費みたいなものと割り切ろう。
これだけだとアンコモンくらいの性能だが、さらにオマケがついていてそれが強力となれば…評価は変わるもの。戦場に出た時に、プレイヤー1人のライフを6点失わせる直接火力的能力。これが強烈。
黒には旧来ライフを失わせる呪文は多くあるが、マナ効率は赤のそれと比べて悪い。しかしこのチャンピオンは6マナ6点、効率は良く、かつ6点という数字は無視できない致命的なパンチ。これ自身が戦場を離れるとそのライフは返還されてしまうが…そこは再生能力で粘ろう。
このライフルーズ能力とそのパンチ力で黒単コントロールなどのフィニッシャーで使われたりもしたが、これを複数同時に戦場に出して一撃で決めるコンボデッキにトライする者の姿も多く見た。というか僕らのグループがそうだった。《生き埋め》《納墓》《黄昏の呼び声》…最終的に「素直に使おう」という結論に辿り着いた時、僕らは1つ大人になった。
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2015/8/17
「ケルドのチャンピオン」
王者、って良いなぁ…って。戦い抜き、最後に一番高い所に残った者。その人物から放たれる光と言うか何というか…勝利は蚊トンボを獅子に変化るという言葉もあるが、実際に元々魅力ある人物が勝利を経験することでここまで眩さを増したものになるのかと。プロツアーを生で観てきて思った次第だ。そんな訳で、今週は「Champion Week」。マジックはゲームにおけるチャンプだけでなく、様々なチャンプにまつわるカードも存在している。それらを紹介して行こうじゃないか。
先陣を切るチャンプは《ケルドのチャンピオン》。これぞ先陣の誉れ、一番槍といったカードで週の頭に紹介するのに相応しい。4マナ3/2速攻、これだけだと《タールルーム・ミノタウルス》に劣るスペックだが…実は4マナ3/3速攻というのは悪くないスペックだったりするのであまり気にしなくて良い。それよりもこれに追加の能力がついてくると考えると評価は上がるのみだ。
戦場に出た時にプレイヤー1人に3点のダメージを与える。評価、上がるね。クリーチャーというものはダメージを与えるのに最も用いられるカードでありながら、効率が良くないカードだ。唱えただけでは駄目で攻撃してそれがブロッカーや除去に阻まれずに本体に届かなければならない、そしてその攻撃を行うには“召喚酔い”が解けてから・即ち次のターンを迎えてからやっと動き出すのだ。ところがこのチャンプはどうだ。戦場に出た時点で3点のダメージを与え、速攻も持っているので攻撃が通れば計6点だ。4マナで6点与えられれば御の字、素晴らしい。よく似たクリーチャーとして《ボール・ライトニング》が真っ先に思い浮かぶ。どちらも与えられるダメージは6点で、ボーライの方はナチュラルなパワーが高いためにタフネスが高いクリーチャーが立ちふさがっても突破することが可能だ。一方で我らがチャンプは《罠の橋》なんかで攻撃を封じられている状況でもダメージを与えることが出来る。チャンプはボーライのマイルド版として作られているのは見てわかるが、両社それぞれに良い所があるっていいね。
さらにチャンプは、歩く火力元祖のボーライにも出来ないことを成し遂げたりする。戦場に残り続けるのだ。3/2でアタックして生き残れば次のターンを迎えることが出来る。もう一度アタックをすればカード1枚で9点と高打点を弾き出す。素晴らしい。あるいは、シビアなダメージレースを行っているなら能力で3点だけ与えてブロッカーとして立たせておくという選択肢もある。実際に行うかどうかは不明として、そういう選択肢も取れるカードと言うのはそれだけで価値があるものだ。
ベタ褒めしているが、勿論欠点もある。やっぱり赤単のバーンやスライといったデッキで使うには4マナは重く、しかもエコー持ちなので維持しようと思ったら合計で8マナを支払うことになる。このエコーはほぼ払われず、使い捨ての飛び道具として使用されていた。総評、そこまで強いカードではない。ただ世代としては、いつまでも忘れられないものだな。
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2015/8/12
「尊い祖霊」
お盆とは、先祖の霊が現世に還ってくる期間である。茄子なんかのお野菜で馬を作ったりするのは先祖が使う乗り物で、こういうものを子ども達とこしらえるところに日本人の先祖への思いが見て取れて好きだったりする。僕は生まれる前にじいちゃん二人共が亡くなっているので、先祖と言われてもピンとこなかったのが小さな頃の正直な感想だ。じいちゃんのじいちゃんとか言われてもわからんしなぁと。ただ歳を経るにつれて、こうやって故人を・会ったこともない人々を偲ぶのも素敵なことだなぁとしみじみ思うようになった。会ったことがないからこそ会いたくなるんだなぁと…。
さて、当コラムも明日からしばらくお盆休みをいただくことになるが…その間に、ここを護ってくれる祖先の霊を召喚しておこうと思う。《尊い祖霊》を紹介しよう。
「扉は薄っぺらで鍵も情けないほどの小ささだが、ジョスリの一家は夜など全然怖くない。」
ラヴニカなんて見るからに治安が悪そうな場所で、ジョスリさん家の人々は夜中に出歩いたり安心してグッスリ眠れるようだ。それは祖先の霊が彼の一族を護ってくれるから。3マナ0/4防衛、タップ能力でクリーチャーかプレイヤーに与えられるダメージを1点軽減。優しさに満ちた能力で、自身の家族を護りつづける守護霊的カードだ。実はほぼ同じ能力の《石膏の壁》が既に『メルカディアン・マスクス』にて作られていた。差異は壁かスピリットか。この違いは、『ラヴニカ:ギルドの都』登場前年に『神河物語』にて“防衛”がキーワード能力となり、攻撃できないクリーチャー=壁の方式が取っ払われたことが大きく影響しているだろう。壁役を壁でないクリーチャーが担えるようになり、非生物すぎる壁は積極的に作られなくなっていった。また、同神河にてスピリットがプッシュされた余韻とも言えるだろう。ラヴニカでは生けるものは死後、幽霊となってこの都市に埋め尽くされた次元に住み続ける。これらの条件が重なって、《石膏の壁》はより部族シナジーの強いスピリット《尊い祖霊》へと生まれ変わった…って考え過ぎか。
あまり強いカードとは言えないが、所謂“ヒーラー”“プリベント”であるためリミテッドではそこそこ有用。こういったカードで地上を固めて、飛行クリーチャーで殴っていくのはリミテッドの基本中の基本だ。言うまでもなく、構築では使われるレベルのカードではなかった。それから長い時を経て、今では《ニクス毛の雄羊》というある意味このカードの調整版とも呼べる1枚がバリバリ使われていたり。マジックの進化を感じずにはいられない。皆が今触っているカードも、こういうご先祖カードがあってこそ。たまには思い出してあげるというのが、我々が出番のないカード達にしてやるべきことだったりするのではないかな。
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2015/8/11
「"Ach! Hans, Run!"」
前回の《黄泉からの帰還者》と出会ったハンス。「えっ、またか」と少々落ち着いているというか達観している様子が窺える。かの《ルアゴイフ》から果たして逃げ切れたのか、彼の行く末は気になるところだ。マジックのメインストーリーの本筋に一切絡んでこないのに、これらのフレイバーで人気キャラであるハンス。かつてのマジック愛好家たちは、めちゃくちゃ大きいクリーチャーを戦場に出す際に「しまった!逃げろ、ハンス!○○だ!」と言いながらカードを出していたとか(今ではこのフレイバーも女性の喋り方に修正されてしまった)。そんなハンスの愛され方・プレイヤー達の風習をそのまんまカード化したものがこれ、《"Ach! Hans, Run!"》だ。
赤と緑の重量級エンチャント、この時点で嫌な予感がするタイプのカードで、それが『アンヒンジド』とくればなおさらだ。アップキープの開始時に「Ach! Hans, Run!」と叫んだ後に続けざまにクリーチャー名を宣言する。するとライブラリーからその名のクリーチャーが戦場に出てきて、速攻を持って殴ってくる。この怪物はターン終了時に去っていく。《ルアゴイフ》《黄泉からの帰還者》と魔物を呼び寄せてしまう男、ハンスの運命をそのままカード化したものだが…これ、普通にめちゃくちゃ強いカードではないか。「あぁ!ハンス、逃げて!《引き裂かれし永劫、エムラクール》よ!」で決着。似たような効果の《騙し討ち》や《裂け目の突破》のマナコストを考えると、このエンチャントの効果はマナに見合わぬ破格なものである。まあ、銀枠カードについて強い強いと真剣に語ることにあまり意味はないが…。
むしろ、大喜利専用機であるのかもしれない。このカードでわざわざハンスに逃げるように警告して、どれだけしょぼいクリーチャーを持ってくるのかということを試されている可能性はある。フレーズのヤバさとか。「あぁ!ハンス、逃げて!《ありがたい老修道士》よ!」とか。「《ユートピアの木》よ!」「逃げれるやろ!」とか、つっこませたら勝ち。ビシバシぶつかり合う競技マジックに疲れたら、たまにはこういう意味の無い世界で癒されるのもオススメだ。
ハンスは身長180cmにして体重70キロと長身痩せ形。狩りに行くにはまだまだ若く貧弱であるとされ村に見張りとして置いていかれた結果、ルアゴイフの襲撃を受け姉の死に直面している。ただイラストに描かれているハンスは逞しいマッスルボディの所有者であり髭も蓄えており、もしかしたら今ならゴイフに勝てるかもしれないと思わせるナイスミドルの姿だ。おそらくは何処へ逃げても追手の怪物ばかり、逃げ続けているうちに自然と逞しく成長していったのだろう。彼を追う面々は謎のクリーチャーばかりだが、いつかここに描かれていたバケモノが登場してスタンダードで大暴れ、なんてことになったりしたら面白いな。
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2015/8/10
「黄泉からの帰還者」
個人的に日本に帰ってきて一発目に書く記事というのと、丁度お盆のシーズンなので今日はこの1枚を。《黄泉からの帰還者》黄泉というのは日本神話における死者の世界・国のこと。何故、黄色い泉が死者の世界なのだろう。これはもともと大和言葉に存在した「ヨミ」に漢語の黄泉をあてがって出来た言葉で、漢語の黄泉とは地下にある泉を意味する。当時は死者の国が地下にあると考えられていたので、この漢字と結びついて1つの言葉となったのであろう。ヨミという言葉は地名:夜見から来ていたり夢のことを指していたり闇から派生した言葉だったり四方を意味したり…いろいろな説がある。調べるだけで小一時間潰せるだろう(実際に潰れた)。
そんな死者の国から還ってきたクリーチャー、一度死んで亡霊として蘇っているらしくクリーチャータイプはスピリット。しっかりと飛行も持っている。初出は『ストロングホールド』で、なんだか汚らしい・そして不気味なおっさんの姿をしている。その足元には死体に満ちた沼が…。このカードの能力を的確に表しているイラストで、このクリーチャーは自身の墓地に落ちているクリーチャーと同じ値のパワー/タフネスを持つ。イラストを見る限り3体分ほど死骸が見える。5マナ3/3飛行、4/4飛行なら上出来だ。5/5、6/6、7/7とサイズアップしていけば申し分のないフィニッシャー。
問題は、そう簡単にサイズが上がって行くものではないこと。例えば同じ色で同様のサイズに関する能力を持つ《死を食うもの》はすべての墓地を参照する。そのため、適当に相手のクリーチャーを除去してから叩きつければとりあえず戦場に出ることは出来た。これに対して帰還者は、自身の墓地のみを参照する。この差は非常に大きい。相手のクリーチャーを除去する=ゲーム中における防御アクションをしていれば大きくなる連中と違って、墓地にクリーチャーカードを集めるという専用アクションを求められる。即ちデッキ構築の段階からそれ専用に組む必要がある。使い辛いのだ。しかも専用のデッキを組んだところで、5マナと重くトランプルや除去耐性を有していないため絶対的なエースとして信頼できるわけでもない。クリーチャーが相討ちしまくるリミテッドならば…押している展開になると無駄牌にはなるが。『マジック・オリジン』で再録されており、青黒墓地肥やし・赤黒ハスクのようなアーキタイプで使ってみたくなる魅力自体はある。
初出『ストロングホールド』でのフレイバーテキストはこのカードの墓地参照能力の元祖《ルアゴイフ》のフレイバーで有名・人気なハンスがゲスト出演。離れた次元・年代の話なので同一人物ではないだろうが…こういうファンをニヤリとさせてくれる演出は素敵なものだ。これが住まう次元ラースは勿論日本神話の黄泉とは関係がない。英名Revenantは「帰ってくるもの・幽霊」を意味する。あの世から蘇りし者を表現するのに、的確な訳だと思う。一度聴くと忘れられない良い日本語名だ。
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2015/8/7
「Assquatch」
同族を強化し導く存在、ロードと呼ばれるクリーチャー達。彼らを紹介する「ロード・ウィーク」のトリを務めるのは、現存する唯一のタイプ“ロード”の持ち主。そう、黒枠のそれはもう廃止され、銀枠世界『アンヒンジド』のこの1枚のみとなってしまったのだ。よりによって、こんな…《Assquatch》がそれだなんて…。
イラストを見てこれが一体何を意味するか分かった方は、歳がばれるかもしれない。最近では誰もが高性能なビデオ機能を持ったスマホを携帯しているためめっきり見なくなった、動物学者やスキーヤーなんかがビデオカメラで撮影したボヤケた映像の何とも怪しい未確認生物動画。僕が子どもの頃は年に何度もこれらの使い回し映像をローテで流す楽しいUFO・UMA・オカルト番組があったもんだ。その火付け役・殿堂入りとも言える映像が、明らかにオッサンがゴリラ風の着ぐるみを着ているとしか見えないが、雪男と言われればそうも見えなくもない生物が二足歩行して去っていく姿を収めたもの。この映像はリアルとヤラセが絶妙なバランスで同居した、幻想値が極めて高いものであり(この謎の尺度についてはまたいつか語ろう)かの「ビッグフット」ブームを生み出した。北米・主にカナダにはSasquatchという類人猿系雪男が生息しているという伝承が元々あって、それがこの映像とシナジーを形成した形になる。この映像は後にヤラセと判明し、以降この映像も全く使われることが無くなった。説明が長くなったが、この雪男/Sasquatchとケツ/Assが合わさり《Assquatch》という造語となっている。
この際だからマジックに…否、『アンヒンジド』における「Ass」という言葉にも触れておこう。アメリカでは、使い方にもよるのだろうが放送禁止用語になっていたりもする単語だ。一番ストレートな意味はケツ。お尻の事である。「お前のケツを蹴り上げるぞ!」とか「ケツ野郎!」みたいに相手をなじる言葉として使われることが多い。ケツ以外にも「バカ」というストレートな意味も。アメリカンなノリだとケツ野郎=馬鹿野郎なのだ。そしてさらに、何故か…「ロバ」も意味する。何故突然にロバが出て来るのか。我々日本人の感覚だと、ロバとお尻が同じ単語というのは不思議でしょうがない。そんなわけで、『アンヒンジド』ではロバのクリーチャー達が皆「Ass」という単語を名前に含んでいる。バカなカードだぜヘッヘッヘというノリなんだろうな。
そんなおバカなロバクリーチャー達のロードがこのカード。何がロード要素なのか?そう考えることに意味はない、時間の無駄だ。ロバは皆+(1+1/2)/+(1+1/2)の修正を受けてパワーアップ。まあ、あんま考えなくて良いよ。ただもう1つの能力はまあまあすごい。ロバが戦場に出る度に《脅しつけ》が誘発だ。めちゃくちゃ攻めっ気溢れる、何故か銀枠なのに妙に実用的な能力。《鏡割りのキキジキ》+《侵入警報》+クリーチャー=無限トークンコンボが赤単で組める!と、しばらくの間は謎の地位を確保していた。後に《士気溢れる徴収兵》が登場してコイツの地位なんてものはなくなったし、誰もかれもコイツの存在なんて忘れてしまった。「まるで、本物のビッグフットの後を追ったみたいやね…」なんて飲みながら友人らに語ったら、「そんなカードそもそも誰も知らないから世間が忘れたもクソもない、そんな感傷に浸ってるのは地球でお前だけ」と言われてしまった。Ass。
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2015/8/6
「最高審問官」
…わかっている。「ロードじゃないやん!」って言いたいんだろう?その通り、ロードじゃない。自軍のクリーチャーを強化する指導者的クリーチャーを紹介する「ロード・ウィーク」において、所謂“ロード”能力を持っていなければウィザード全員に飛行や接死を与えたりするわけでもない《最高審問官》を紹介することに、確かに違和感はあるかもね。
ただタイプを見て欲しい。そこにはしっかりと、「ロード」の文字が…って、これはもう2009年の時点で失っている。だったらもっと優先すべきロードがいるだろ!と思われるかもしれないが…毎日同じように生物強化するやつを紹介しても、面白みに欠けるというか。ここは柔軟に行きたいなと、自軍のひ弱なウィザードを勝利手段に変換するという点で、このカードも十分にロードと呼べるんじゃないかなと。いや無理があるか。まあ、読んでってや。
部族シナジーがメインテーマである『オンスロート』には、レアで5色に跨るサイクルが存在する。それらの共通点は、同一部族のクリーチャーを5体タップする起動型能力を有するということ。あとロード(だった)。
《最高審問官》はその中で青のレアであり、担当する部族はウィザード。ウィザードと言うと、この『オンスロート』まではあまり意味がないタイプの1つだった。ゴブリンやエルフは様々な恩恵を受けられるが、ウィザードと書かれているのは実質「部族支援なし」と同義だった。
それがこのセットで今までゴメンネと言わんばかりの扱いを受け一躍主要部族へ…となったわけではない。このカードを見れば、プッシュされてるんだけど成功しなかったということがよくわかるはずだ。
何せ、サイズが弱すぎる。5マナ1/3。限界である。同マナ域の生物はおろか3マナ圏の連中すらブロック出来ない。パワーは諦めるとして、タフネスはせめて5,6は欲しいところだ。
このひ弱なスペック、他のウィザードもそうで、3/3以上のものはなかなか存在しない。それらのか細い面々を守りながら、接触戦闘も出来ないから本体も同じく自力で護りながら、なんとか5体展開!それらをタップ!そうして得られる恩恵は、相手のライブラリーからカードを5枚抜き去ること。《摘出》を5発つるべ撃ちということだ。
キーカードを5枚も抜かれれば、コンボデッキなんかは機能不全に陥るだろう。…わかってる、それ以外のデッキがね。ビートダウンとかバーンとか、5枚抜かれたからだからどうしたという話。これが例えば10枚ぶっこ抜きとかだったら、あるいは…。ライブラリーアウトを狙おうにも、5枚はちょっと悠長だ。《摘出》スタイルでなく一般的なライブラリー破壊能力で15枚削る、とかだったらかなり可能性は広がったのかもしれない。
とは言え、ハマって機能しだすとバケモノであることは確か。連打を決められると手前のオッサンのような顔になる。このイラスト、いろいろ面白い。こんなサイレントヒルや平成ライダーの怪人みたいなナリしてて人間だったり、背景からどうやらピットファイトっぽいのでオッサンは大勢の前でこの顔させられたんだろうなと考えたり。
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2015/8/5
「Thrull Champion」
スラル。人によっては聞き慣れない部族だとは思う。最後に登場したのが『ドラゴンの迷路』だ。そんなに遠くはないけどさりとて近くはない。『テーロス』以降プレイヤーが増えたことを考えると、スラルを唯の1枚も経験せずに今この時を迎えているプレイヤーだって少なくはない。というか、永らく遊んでいるプレイヤーでも「こいつがスラルなの知らなかった。でもそれで何か変わるかっていうと…」という感想が圧倒的に多いんじゃないかな。「こいつが戦士なの知らなかった。白黒戦士デッキの3マナ圏に丁度いい」とか、そういう構築に繋がる感想の出しようがない。スラルは部族デッキがないからなぁ。
ただ、デッキがない=部族支援がない、というわけではない。決してない。今日紹介するのは、そんな恵まれない部族・スラル達のロードだ。その名も《Thrull
Champion》。5マナ2/2と頼りないサイズをしているが、「スラル・クリーチャーは+1/+1の修整を受ける。」という能力で自分もサイズアップされるため、実際のサイズは3/3。自身の能力で自身のサイズが上がるという、所謂“ロード”能力持ちの中でも稀有な存在である。カードに書かれている数字と実際のサイズに差が出来るのを極力避けるためか、こうしたカードはなるべく作られないようになっている。旧時代の《ゴブリンの王》なんかはすべてのゴブリンを強化するが自身はロードという別タイプだった。時代が変わってロードからゴブリンに生まれ変わるも、能力は「他のゴブリン」というものに置き換わった。ロードとは概ねそういうものだが、その中にあってこのスラルの王者は自身も強化するし、ロード能力持ちにして元ロードというわけではない。他に類を見ない、異色のロードなのだ。
さて、能力はそのスラル全体の強化と、タップすることでスラル1体のコントロールを半永久的に得られるというものの組み合わせとなっている。旧世代の全体強化能力のため対戦相手のスラルも大きくなってしまうが、それはブン取れば良いだろうということである。黒という色でこういったコントロール奪取呪文は珍しい。ここは1つ、クリーチャータイプを書きかえたり多相を与えたりするカードと合わせて使いたいところだ。対戦相手がスラルを出してくることなんてないからな…。
このコラムを日頃から読んでくださっている方ならお気づきかもしれないが、僕の大好きなカードである。シブい、激シブ。デザインもさることながら、イラストも素晴らしい。脚もなく多頭の異形の怪物が、武器と旗をその手にしている。背景では煙が上がっている…。これは『フォールン・エンパイア』のストーリー上で起きた「スラル反乱」という事件のワンシーンを描いた1枚。漆黒の手教団が培養し奴隷などに使用していたスラル達が、自由を求めて立ち上がるお話だ。熱いんだよなぁこれが。
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2015/8/4
「キンズベイルの騎兵」
今週は「ロード・ウィーク2」と題して特定部族を支援するクリーチャーを紹介して行く企画を行っている。“ロード”というのは、かつて存在したクリーチャータイプ。最初期のロード達は、特定の部族を強化するが自身はそのタイプではなくロードというタイプであることで、自分で自分を強化しないように作られていた。まあこれは無理があるということで、ロードのタイプは廃止に。それでも慣れ親しんだプレイヤーが多くいたため、特定部族や色のクリーチャーにサイズアップ修正を施すカードをロードと呼ぶ習慣がある。ここから派生して、+x/+x修正のようなサイズアップでなくても戦闘で有利になる能力を付与するものもロードと呼ぶことがある。今日紹介する《キンズベイルの騎兵》も、味方のサイズを上げるわけではないが、ほぼそれと同等の効果をもたらすため、実質ロードなカードだ。
全ての騎士に二段攻撃を与える。シンプルにして強力な能力を持っている4マナ2/2だ。サイズだけ聞くと物足りないが、自身も騎士であるため打点は4点。そう考えると悪くない。並び立つ騎士が多ければ多いほどこの能力の必殺性は増す。騎士と言えば《白騎士》《銀騎士》のような比較的低コストで優秀なクリーチャーが多いため、デッキを作るのも比較的容易だろう。白単色で必要なコマが全て揃うんじゃないかな。
フレイバーにもある通り、キスキンは両利きがデフォルトらしい。ローウィンに生息する彼らは「思考の糸」というもので繋がり意識を共有している。このカードのように右利きの精神と左利きの精神を併せ持ち、両の手で難なく刃を扱うことが出来るのだろう。彼の場合はキスキン以外にもこの二刀流を共有することが出来る。騎士道精神とは、一種の意識共有なのかもしれない。
余談だが、二段攻撃と聞くと相性が良いトランプルを思い浮かべるのはごく自然なことではないだろうか。そこで、トランプルを持つ騎士がどんな面々か調べてみた。
《猪牙のしもべ》
《Lim-Dul's Paladin》
どんなメンバーやねん!そして唯一の白いトランプル騎士が…
《ムーア人の騎兵》
シブいなぁオイ!
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2015/8/3
「傲慢な完全者」
『マジック・オリジン』が発売された。今回はニッサの過去にもスポットライトが当たる=彼女がプレインズウォークした次元ローウィンがフィーチャーされることは予想出来ていた。実際にそうだったわけだが、エルフという部族が熱烈にサポートされるとはちょっと思わなかった。テーロスにもタルキールにもエルフはいなかったしね。そんなエルフの巻き返しが始まるのかもしれない。今回はしっかりと自軍のエルフを強化する“ロード”もいるしね…ロード、そうだ。今週のお題は「ロード・ウィーク2」にしよう。1は随分とアーカイブの底に埋もれているので、未読の方は掘り上げて読んでくれると嬉しい。
一発目なので、話題にもあげた『ローウィン』のエルフのロードについて紹介するとしよう。《傲慢な完全者》。カード名だけ聞くとなんのことかわからない。エルフという情報すらないのだ。そもそも、ローウィンには人間が生息していない。故に、他の次元では人間を指すかのようなカード名でエルフが呼ばれていてもさしたる問題はない…し、何よりこのカード名は十分に種族がエルフであることを伝えるに足るものなのだ。ローウィンに生息するエルフ達は、他の次元の彼らと比べて一段と排他的であり、自分達が最も美しい部族であると認識している。確かに、このカードに描かれているエルフは実に美しい。他のエルフカードと比べても格段に。美しい=完全なる存在=エルフ。この次元のエルフは自分達の価値観が最も正しいと思っており、他の意見には耳を貸さない。傲慢=エルフ。「エルフらしいエルフ」という意味の言い回し、と言ってもあながちウソではない。
さて、カードの能力はというと…これがまた実に「完全者」。3マナ2/2で自分以外のエルフに+1/+1修正を与えるというロード能力を有する。アンコモンにしてレアの《エルフのチャンピオン》と同じ能力を有しているのだ。まあ、それぐらいならまだあるかもしれない。彼女の凄い所はここから。通常、ロードというのは仲間がいなければ役に立たない。しかし彼女は、ロードにしてこの弱点を完全に超越してしまっている。自身で強化される仲間を生み出すのだ。1マナタップで1/1のエルフ・戦士トークンを1体呼びだす…それはそのままロード能力の恩恵を受け2/2に。毎ターン、2/2をリソースの消費なしに生み出すのだから脅威としか言いようがない。除去することが出来なければ、あっという間にエルフ軍団に蹂躙されてしまう事だろう。
この尋常ならざる能力で、「緑黒エルフ」が当時のスタンダードのトップメタの1つとして君臨するのを支えた。《神の怒り》《滅び》を撃たれようとも、これが手札に1枚あれば一瞬で戦場がエルフで埋め尽くされるのだからたまったもんじゃない。トークンも本人も戦士であるのも《茨森の模範》などと合わせて使う上では大きな意味を持っていた。もうこんなアンコモンを今後見ることはないんだろうなぁ。
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2015/7/31
「亡霊の出現」
三国志が面白いのは、曹操がいたからだ。時に冷酷な判断をこともなげに行う完璧超人。完璧すぎるが故に、人間味あふれる劉備に対する悪役として描かれることが多いが…彼が居なければ、漢王朝を取り囲む諸勢力がやりたい放題の大暴れで、三国どころかカオスな中華になっていたであろう。劉備も無茶苦茶悪いヤツになってたりしてね。
そんな悪役として描かれることの多い曹操。その最期として一般的なものは、かの関羽の首を孫権から送られ、その怨念により病死したというエピソード。曹操自身は関羽の首を国をあげて手厚く葬り、その功績を讃えているんだが…無念の戦死を迎えた関羽の恨みは底知れずといったところか。個人的には、このエピソードは曹操が可哀そうに思えてしょうがない。曹操と関羽は主従の関係であった期間もあり、敵同士でありながら不思議な関係にある、というのが魅力だ。有名な「げぇっ、関羽」のシーンなんかも最高じゃないか。
さて、マジックにおける曹操の最期は、この一般的な関羽の恨みENDではなく、自らが殺した皇后や臣下の霊にとり殺されて死亡というエピソードをチョイスしている。「幽霊ウィーク」ラストを飾るのは《亡霊の出現》。最後に相応しい、恐怖のシーンをカード化したものだ。
亡霊が現れる=恐怖。恐怖=《恐怖》=クリーチャーが死亡する、ということで『ポータル三国志』における確定除去呪文として作られたのがこのカードだ。ポータルシリーズはクリーチャーでない呪文はソーサリーしか存在しないため、自ずとこのカードもソーサリーに。結果、インスタントにて同様の効果である《闇への追放》《破滅の刃》の下位互換となっている。しかし面白いことに、アーティファクトが存在しない世界だからこそそれに関するテキストがないため、《恐怖》より効果範囲が広いものに仕上がっている。まあこれぐらいしかまともな除去はないため、『ポータル三国志』環境では貴重な1枚。
曹操は亡霊に呪われ死んだとのことだが、《魏公 曹操》は黒いカードなので、これを以て死亡させることは出来ない。デザイン上仕方ないとは言え、やや矛盾を抱えてしまっているのは惜しい。むしろメンタルが強そうな関羽や趙雲がやられてしまうというのも面白いところ。曹操は65歳で亡くなり、遺言に葬儀は小規模で、金をかけるんじゃないと遺していた。それこそ桁違いの殺戮を行い怨念を背負ったが、彼も新たな時代を切り開いた英雄であり、一人の人間であると思う。
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2015/7/30
「幽霊の特使、テイサ」
前回に引き続き、幽霊に関係のあるレジェンド紹介。ファンも多い1枚、《幽霊の特使、テイサ》の登場だ。このカードのイラストをPCやタブレットのデスクトップ壁紙にしたり、各種SNSのアイコンにしている人は少なくないだろう、実際にぼくの友人でも何人かそうしていた/いる。《オルゾフの御曹司、テイサ》の頃は黒い衣装にちょっと悪そうな雰囲気だったが、成長したのか大人の余裕と美しさ・デザインは同一で白基調に変化した衣装がマジックファンのハートを鷲掴み。再登場した彼女は幽霊の特使、この幽霊と言うのはかの《幽霊議員オブゼダート》のこと。大特使と言うオルゾフ組の歴史でも前例のない地位に就いた彼女。ギルドの統率者であるオブゼダート達の意志を公の場で代弁する、ギルドの実質的代表となったわけで、彼女自身が幽霊になってしまった、というわけではない。
旧テイサはスピリットトークンに関するカードであったが、今回もその一面は継承しつつも、ガラリその姿を変えている。3マナと唱えやすかったマナコストは7マナに。さらに4/4とサイズもマナコストには見合っていない。その分、旧時代には持っていなかった戦闘に関する能力を2つ持っている。警戒と、そしてプロテクション(クリーチャー)だ。これは強烈な組み合わせだ。ブロック不可能な着実に4ダメージを刻むアタッカーと、どんなクリーチャーの攻撃も受け止める強固な盾が同居している。そりゃ7マナ4/4にもなるというもの。リミテッドでは出すだけで相手の動きがピタリと止まり、みるみる顔色が悪くなっていくことだろう。
さらに、忘れちゃいけないスピリット能力。かつてのテイサは自分から能動的にトークンを生み出すカードだったが、このカードでは一種の防御システムとしてのそれを備えている。クリーチャーがあなたに戦闘ダメージを与えればそれを破壊、そしてあなたの戦場には、そのクリーチャーの霊魂がテイサにたしなめられて配下として登場する。《無慈悲》というエンチャントのアッパーバージョン、殴ればダメージは与えられるが1つ失い、1つ得られると言う「しんどい」防御壁だ。4/4プロテクション(クリーチャー)に止められるのを覚悟で、その脇を抜けた数体がダメージを与える。これを繰り返せば…という対戦相手の淡い思いは、そもそも生まれずに終わる。殴れない、殴られる、無理しちゃ大損。これが敗北、というやつだ。
構築ではちょっと重すぎるために活躍することはなかった。しかしそのイラストの美しさがシングルカードの相場にまで影響し、Foilはそんじょそこらのカードよりも高値で取引されている。
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2015/7/29
「幽霊の酋長、カラドール」
幽霊キャラというものは扱いが難しい、のだと思う。まず、死んでいる。故に死亡するということがない。これは…強すぎるキャラクターとなってしまう恐れがある。「幽霊だからなんでもありかよ」と思われるとちょっと勿体ない。死を超越した、しかし肉体は持たない概念的生命体…魅力のある要素は山ほどあるだけに、幽霊キャラというものには期待が高まってしまうのだ。
マジックの世界にも、多くの幽霊が存在するのは今さら言うまでもない。今週は「幽霊ウィーク」。多元宇宙には様々な幽霊の形がある。今日はそんな幽霊の中でも王たる幽霊、《幽霊の酋長、カラドール》を紹介しよう。
人気のアブザンカラー_彼が登場した頃はまだ、ジャンクやロックと言われていた白黒緑の3色の組み合わせ。昔から「柔軟なパワー」とでも形容しようか、とにかく万遍なく何でも出来て攻撃力の高い色の組み合わせの伝説のクリーチャーである。
このカラーの伝説のクリーチャーは少なく、5枚のみ。カラドールもその貴重な1枚にして、もしこの色で統率者戦デッキを組むならば有力な候補である1枚だ。
8マナ3/4と数字で見たスペックは問題外。ここから、彼自身の能力・墓地にあるクリーチャー1枚につき1マナ軽くなる能力でどこまで軽くできるかが1つのポイントとなる。3マナ3/4ならば、ものすごく強いというわけではないが良スペックと言って良いだろう。そしてそうして戦場に姿を現わせば、彼が着地する支えとなった墓地に眠れる者達を今度は彼が導く番となる。毎ターン1枚限定で、墓地からクリーチャーカードを唱えても良い。
この1枚と言うのが絶妙だ。回数制限がなければ、ありとあらゆるカードで簡単に無限コンボを達成してしまう。確実にアドバンテージは与えるが、壊れではない。良いカードだ。唱えるクリーチャーはなるべくアドバンテージに直結するものが良い。《叫び大口》なんて最高の相方になることだろう。
他にもこの3色には戦場に出ることで誘発したり、生け贄に捧げることで起動する能力を有するカードが多数存在する。適当に強いと言われているクリーチャーと墓地を肥やすカードを集めただけのデッキでも十分に戦えることだろう。1ターンに墓地から1枚と言うことで、《ヨーグモスの行動計画》の調整版とも言えるかも。
冒頭で述べた幽霊キャラの設定の話だが、このカードも設定にまつわるエピソードを持っている。『統率者』発表時に公開された15体の新たなる伝説のクリーチャー達の簡単なバックボーンを綴った記事およびセット付属冊子で、彼は「ネシア(ネシアン)」の森に住むケンタウルスだったと書かれていた。
ネシアンと言えば、次元テーロスの森ではないか。彼はそこで命を落とし、幽霊の酋長となったそうだが…後にテーロスの世界観が発表された時にその設定が崩れ去る。テーロスに、幽霊は存在しないのだ。というわけで、公式の記事からはネシアンのケンタウルスであるという設定はそっと消されることに。彼が今後どこの次元で再登場するのか、ちょっと楽しみである。ちなみに日本語版の記事では設定がまだ変わっていなかったりする。
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2015/7/28
「亡霊の牢獄」
亡霊の牢獄。こう聞いて、あなたならどんなものを思い浮かべるだろうか「亡霊」の「牢獄」。亡霊を捕らえて閉じ込めておく部屋。あるいは獄中で死んだ囚人の霊が棲みついている危険な牢屋か。
さあ、答え合わせ…「牢獄」自体が霊的な物質である、と。幽霊屋敷と屋敷幽霊の違いをある漫画で読んだが、まあそんなところだ。イラストを見ると、破壊されたはずの建物の霊体に捕らえられている者の姿が。ものに魂は宿るか・ものにも霊と言うものがあるのか。ちょっとわからないが、室町時代ごろの人々はものも作られてから100年が経過すると精霊を得て「付喪神」になると考えていたようだ。
この城の一部らしき牢獄も、おそらくは古くから存在したものなのだろう。それだけ長きに渡り存在したということは長くマナと共にあったということだ_マジックの世界の話では。結果、これは神の乱という出来事で破壊されてしまったが、今でも霊体として牢獄の役目を果たしているのである。
さて、カードとしてはまんま白い《プロパガンダ》。3マナのエンチャントで、対戦相手のクリーチャーがあなたを攻撃するには1体あたり2マナを支払わなければならないというもの。完全に封じ込めるというものではないが、1枚のカードで1度設置すれば複数体に影響を及ぼすことが可能という点で優れたカードだ。
1体で殴り4マナを自由に使うか、2体で殴り2マナを構えるか、3体で殴って展開は諦めるか、はたまた殴らずに6マナの呪文を唱えるか。多くのデッキには使えるマナに限りがあり、このように対戦相手の選択肢を奪うことが可能。ビートダウンの最高の動きである、フルパンチをかましながら後続展開というターンの使い方をさせない、良い足止めカードである。
真の力を発揮するのは、対戦相手のマナが少なくなる状況下。《ハルマゲドン》で全て吹き飛ばしてしまえば完封、《冬の宝珠》でジワジワ締め上げるのも良い。この防衛システムを搭載したレガシーの「白スタックス」は対戦相手の心をげんなりさせる、最もしんどいデッキの1つである。最近ならば、モダンで使われたりも。《欠片の双子》×《詐欺師の総督》コンボで1億体ワラワラ湧いてこようが、2億マナは払えまい。
便利なカードであるが、あくまで「あなた」に攻撃できるか否かというカードなので、プレインズウォーカーの身を守ることは出来ないので注意。また同様に、あなたのクリーチャー達もこの影響を受けることはない。スタックスにプレインズウォーカーを入れたりビートダウンの防御手段として用いる、なんてことは相当にレアな状況ではある…が、知っていることは大切なことだ。
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2015/7/22
「Ghost Hounds」
夏になって来たな~じっとりと蒸し暑い夜が続くな~。こういう時、どうするか。ついつい、横になりながらスマホいじっちゃうな~。
夏だし、怖い話読もうかな~。いろいろとネットには、怖い体験談が投下されてるからな~。そうやって、思わず読みふけって気が付けば丑三つ時。なんだか急に、人の気配を感じる。おかしいな~、怖いな~と。ブワァッと鳥肌が…
そんなわけで、今週は「幽霊ウィーク」。夏は怪談、怪談の王道は幽霊もの。マジックにも怖いカード・幽霊なカードはいっぱいあるわけで、それらを紹介し皆様の納涼のお手伝いを…いやまあ別に怖い話するわけじゃないけどね。あくまでカードレビューです。
《Ghost Hounds》は名前とイラストが一目でリンクするそのまんま猟犬の幽霊をカード化したもの。クリーチャータイプも猟犬・スピリット。幽霊の類はマジックでは概ねスピリットに分類される。かつてはゴーストというタイプが存在したのだが、全てスピリットに統合される形となり廃止。
この《Ghost Hounds》は名前にGhostを冠するが、クリーチャータイプはしばらく猟犬一本であり、気が付けばゴースト廃止でと「ゴースト未経験ゴースト」なのだ。ビックリするくらい誰にも自慢できない知識だ。
カードのスペックは…2マナ1/1警戒。黒単色で警戒持ちのカード、なんとこの1枚のみ。めちゃくちゃレアな能力持ちなのだ。ただ1/1が警戒を持ったところで、対戦相手に1/2以上のクリーチャーがいればもう殴りに行けないし、1/1が立ってるからアタックに行けないと相手が苦戦することもまずないだろう。
猟犬という立場らしく警戒を持っているのは称賛に値するが、とりあえず遠慮せずいっぱい食って大きくなってほしい。あ、幽霊だったか。
もう1つの能力がこれまた謎で、白のクリーチャーと接触戦闘を行った場合、ターンエンドまで先制攻撃を得るというもの。一応は色対策の能力なのだが、如何せん1/1では…これをどう生かすのが良いだろうか。
同じく『ホームランド』に収録されている《一角獣の饗宴》でも貼り付けるか?とりあえず、そこまでやってやっと使いものになるかというところ。とりあえず大人しく《黒騎士》でも使った方が良い。
この猟犬たちはかのセンギア男爵が治める「暗き男爵領」に生息する。死にゆく者の恐怖を味わうとのことで、とりあえず遭遇すると酷い目にあわされそうだ。「暗き男爵領」なんていうどう考えてもアウトな地名には近づかない方が良いってことだね。
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2015/7/17
「ギデオンの報復者」
ギデオン。がっしりした体型に着込んだアーマー、オールバックにヒゲ。カードは何れもクリーチャー化し自ら他のクリーチャーと肉弾戦を行う…男らしいお方だ。ぶっ飛んでいる連中ばかりのプレインズウォーカーだが、彼とアジャニは常識人というか正統派なイメージが強い。《ジェラード・キャパシェン》の後継と見ることも出来る。現在進行形の背景世界で「ヒーロー」という単語が一番似合うのは、この元不良少年の青年だ。
そんなギデオン、自身の名を冠する呪文…というかクリーチャーは、皆彼の正義・正しさ・高潔さ…そういったものに引っ張られたフォロワー達の様だ。今日紹介するのはギデオンフォロワーの中でもレアということで、飛び切り心酔しているであろう《ギデオンの報復者》をご紹介。
3マナ2/2、その能力は対戦相手のクリーチャーがタップ状態になる度に自身に+1/+1カウンターを置くというもの。出して、返しで対戦相手のクリーチャーが1体殴ってきたら3/3。つまり、対戦相手のパワー3以下のクリーチャーは殴って来れなくなってしまう。数で突破しようとしても、4/4、5/5とそのサイズを増すばかり。クリーチャーにして、対戦相手の攻撃を躊躇させる抑止力として機能するのだ。ただし、自身が強くなることを嫌がってもらう、というタイプの牽制にすぎず何かを具体的に封じるというわけではないので、開き直った大群やサイズの大きいファッティ、接死持ちなどのアタックを防げるわけではない点には注意。
例によってその名を冠するプレインズウォーカーと相性抜群シリーズ。このカードの場合、《ギデオン・ジュラ》の1番上の能力との相性が抜群だ。所謂「俺を殴れ」能力で対戦相手のクリーチャーに強制アタックさせ、一気に6/6くらいにサイズアップした報復者でキャッチ!同志である《ギデオンの法の番人》のタップ能力とも噛み合っていて、大正義ギデオン軍が結成するとクリーチャーデッキはもう勝負にならない。
髪型、武装とギデオンを模倣しているのがポイント高い。特に鎧。皮を手縫いで作った感溢れるその鎧は、彼の邪悪なるものを罰する覚悟・勇気の証明なのだ。
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2015/7/16
「リリアナの愛撫」
「プレインズウォーカーの○○ウィーク」、トリを飾るのは5名の内で最も信者が多いであろう、黒のプレインズウォーカー・リリアナの邪悪な呪法だ。全身の肌に紋様を浮き上がらせた、リリアナ様の本気モードのお姿をドアップで拝むことが出来るイラストが目を惹く。担当したのはかの《ヴェールのリリアナ》を描いたSteve
Argyle。氏の描く妖艶なリリアナは世界中のプレイヤーから愛される1枚となったが、時系列的にはこちらの方が1年早く披露されている。
カードとしては、かの《偏頭痛》のリメイクである。黒のエンチャントで、対戦相手が手札を捨てる度にそのプレイヤーに2点の「ダメージを与える」のが《偏頭痛》であった。《リリアナの愛撫》は、同じ2点でもダメージではなくライフを失わせるものである。これはちょっとした違いに過ぎない…ことがほとんどだろうが、状況によっては良かったり悪かったり。各種ダメージ軽減手段で打ち消されないというのは素晴らしいが、例えば《荒廃稲妻》と絡めて忠誠値の高いプレインズウォーカーを撃ち落とすなんて荒業は出来ない。
まあそういった要素がどうであれ、このカードはほとんどの場合《偏頭痛》より優先して使われることになるだろう。何故かって?1マナ軽い、これに尽きる。
かつて3マナでリリースされ、コンボデッキでも用いられた呪文が2マナで還ってくる。このことのインパクトと言ったら…よく、現代はクリーチャーが強くなってきたが呪文は過去の方が強い、という話を聞くが…こういうカードを見ると、僕はそうは思わない。過去には絶大な効果を持つ呪文は確かに存在した。だが、全体的な呪文のレベルは近代マジックの方が底上げされている。これが僕の持論であり、それはこういったカードで実感することが出来るのだ。
《偏頭痛》はかつて「メグリムジャー」という、マジックの歴史に爪痕を残したコンボデッキのキーパーツであった。3マナのカードが1or2枚必要でありながら、驚異的な2キル率を誇ったデッキだったわけだが…もし今これを組むなら、《偏頭痛》を《リリアナの愛撫》に置き換えることでデッキ全体の軽量化が狙え、更なる安定性が…今度《記憶の壺》がレガシーで解禁されたらどうなるか、検証してみる企画でもしてみよう。
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2015/7/15
「ニッサに選ばれし者」
初登場時と大きくイメージが変わったプレインズウォーカーと言えば、多くの人の答えは「ニッサ」ではないだろうか。《ニッサ・レヴェイン》として登場した時、彼女はエルフをサポートするプレインズウォーカーで、そのキャラクターもエルフ以外に対して排他的な要素が強かったが、『基本セット2015』で再登場を果たした際には土地に関する能力を持ち、ゼンディカーのために戦う一面が強調された。
『マジック・オリジン』のニッサも土地絡みのカードであり、これからそっちのキャラクターで売っていくのだろう。今回紹介するのはそんな様子が微塵も見えなかったエルフ至上主義時代の彼女の仲間、《ニッサに選ばれし者》だ。
2マナ2/3、ダブルシンボルであるとは言えマナレシオ(マナコストに対するパワー/タフネスの合計値÷2。1以上になればそのマナに見合う戦力である)は良い。特に同マナ域に圧倒的に多い2/2のクリーチャー、所謂“熊”を一方的に討ち取れるのは評価できる点。
元々このカードのご先祖《エルフの戦士》が『オンスロート』で登場した時も、熊に慣れ切っていた僕らは驚き興奮したものだ。そこから時代は流れて『ゼンディカー』。
『ローウィン』から始まったクリーチャーのカードパワーインフレーションを経験した僕らは、今一度このスペックと向き合って…「悪くない」という感想を口にしたのだった。様々なカードがデザインされ様々な能力が誕生したが、ほかでもないマナ効率の良さというのが大事なんだと再確認させてくれるカードである。
さて、このカードが《エルフの戦士》であればこれにてレビュー終了だが、今日紹介する戦士はその中でもニッサが直々に選んだ選りすぐりの戦士である。彼らは、死亡する場合に墓に眠らず代わりにライブラリーという密林に再び身を隠す。
例えば《ダークスティールの巨像》なんかが持つこれに似た能力は、重いマナコストを踏み倒す手段=墓地からのリアニメイトを防ぐために付けられているもの。それに対して《ニッサに選ばれし者》はただの2/3、いくらでも再利用されて構わない。
というわけで、このカードのそれは足枷ではなく、実はメリット能力として設定されている。そのメリットはただライブラリーアウトを防ぐというというものではなく…他のカードと組み合わせた時に真価を発揮する。《ニッサ・レヴェイン》の能力、ライブラリーからこのカードをサーチして戦場に出すという能力を、可能な限り使えるようにしようというものだ。
せっかくのプレインズウォーカーの能力を起動しても、もう全ての《ニッサに選ばれし者》が死亡していて何もできない…なんて、泣いちゃうからね。選ばれし者にして、忠義ある者というか律義者というか…ニッサが自分達のために何かしてくれる大事な存在だと信じていることが伝わるデザインは素敵なものだ。
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2015/7/14
「ジェイスの創意」
「ジェイスは主人公」と明言され、『基本セット2010』から『マジック・オリジン』まで基本セットの青の看板を背負い続けた。純粋な青のプレインズウォーカーが少ないということもあるだろうが、彼の人気の絶対性がよくわかる。そんな基本セットの最後の青のプレインズウォーカーも勿論、ジェイス。彼のオリジナルである呪文は多数存在するが、今日はその中から最も唱えられたであろう呪文《ジェイスの創意》を紹介しよう。
効果は非常にシンプルで、5マナで3ドローのインスタント。実際のテキストも句読点込で9文字というダントツの短さを誇るカードだ。これはプレイヤーを対象にとらないが故。なので《誤った指図》で捻じ曲げられドローを奪われるなんてことがないのは利点である。青と言えば、ドロー呪文。カードを引けない/引かない青なんてとお嘆きのプレイヤーも、このカードにはニッコリなはず。
5マナという重いコストが設定されているとは言え、2枚のカードが獲得できるアクションをインスタントで行えるのならば文句はない。これがソーサリーになるとドローが1枚増える《連絡》になり、1マナ軽くなるとソーサリーの《集中》になる。それが最も優れているのか決めるのは難しいが、この中で唯一のインスタントであるため使いやすさでは群を抜いている。青はカウンターを構えたい。構えながら、相手が何もしてこなかったターンエンドにこれで手札を補充する。古い時代のマジックの血を色濃く受け継いでいる1枚とも言える。
古いと言えば、最古のドロー呪文にして桁違いのカードパワーを誇る《Ancestral
Recall》。これが調整に調整され5マナになったかぁという印象を持ったものだ。実際に使ってみると「これが適正だな」と気付かされたもので…いやほんとね、アンリコはただただぶっ壊れ。「強烈な呪文も5マナであれば許される」という結論に開発部は達したのだろうか。『基本セット2011』には《Ancestral
Recall》と肩を並べる“パワー9”の一角《Timetwister》が5マナになって《時の逆転》という名前で登場。過去には《Time
Walk》が《時間のねじれ》に同じく5マナでリメイク。更には《Black
Lotus》も《金粉の水蓮》として5マナで…一つの世界的な実験に気付いた瞬間である。大袈裟か。
使いやすいカードではあるのだが、その名前のためにジェイスが居ないセットには収録できず。ラヴニカにジェイスが固定されているので、今後の再録は難しい…のか?
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2015/7/13
「チャンドラの憤慨」
『マジック・オリジン』発売週。いよいよ来たな~というのが第一の感想。マジックの歴史と共にあった基本セット、その最期を飾るセットがリリースされる。さようなら、基本セット。思えば2009年に基本セットの方針が変更となって、実に7つ目のセット。いやーそんなにか、時が経つのが本当にはやい。このオリジンでは、5人のプレインズウォーカーの過去と現在に至るまでの経緯が語られる。まさしく、起源(オリジン)のセットだ。このセットは勿論彼らの過去にまつわるカードがぎっしりで、それらを眺めるだけでストーリーが見えてくるというのは素晴らしい。今週は、このセットにも含まれているプレインズウォーカーの名前+○○というカード名の連中を紹介して行こう。題して…「In the Name ofウィーク」苦しいけど、なんとかそれっぽい響きになったぞ!
第1弾はオリジンでかわいい幼少期の姿とヘビーなエピソードを披露したチャンドラの名を冠する1枚、《チャンドラの憤慨》を紹介しよう。憤慨とは「ひどく腹を立てること」、ブチギレと言っても差支えない。こういったカードの存在が、彼女を常にキレている短気ちゃんイメージの浸透に繋がっているような気もするが、実際落ち着き払っているタイプでは全くないのでまあ良いんじゃないかな。赤は感情をぶっ放してナンボの色だ。このカードもまんま、チャンドラがキレて本能のままに炎を解き放った結果…という火力呪文である。
4マナで対象のクリーチャーに4点、さらにそれのコントローラーにも2点。対戦相手のクリーチャーを除去しながら本体にもダメージを与える攻撃一辺倒…いや、防御に使っても攻撃性を忘れない、強力な呪文である。基本セットの赤のプレインズウォーカーの枠を『基本セット2010』から担当し続けたチャンドラ、故にこのカードも『基本セット2011』で登場してから2度基本セットに再録されている。ちょっとしたお約束カードであり、構築で使う分には重いけどリミテッドなら抜群、という評価を得ていた人気カードの1つと言って良い。5マナまでのクリーチャーはほぼ確殺出来る信頼出来る除去で、軽量の前のめりクリーチャー複数とこれが2枚なんてデッキをドラフト出来たらそれだけで気分が良かったものだ。プレインズウォーカーの名前を冠するコモン呪文サイクルに属しており、同アンコモン呪文とシナジーを形成する様に作られていた。このカードの場合は《チャンドラの吐火》と合わせて使用するとそれだけで6点ゴリッともっていけるのが爽快だったものである。
チャンドラの怒りに触れ焼かれているのは《噛みつきドレイク》。『基本セット2010』から継続参戦しようとしたところを彼女に焼き殺され、再録されずとのこと。忠誠値を削られたりでもしたのだろうか。
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2015/7/11
「アトガトグ」
「カラフル・ウィーク」、そのトリを飾るのがカードも5色、イラストも色彩に満ち溢れたザ・カラフルなこのカード。5色のカードも昔に比べたら増えたものだが、それでも改めてみると異彩を放つ存在である。《アトガトグ》。ご覧の通り、エイトグの王である。《スリヴァーの女王》もそうだが、部族の頂点に君臨するものは自ずと5色のクリーチャーとなるようだ。
ただこのカードが出た時、誰もが首をかしげたことだろう。「エイトグの王?」『オデッセイ』まで、5種類のエイトグが5色にそれぞれ登場し、いずれも一定数のファンを獲得。「オーランカー」なるデッキまで登場し活躍したものまでいたりしたが、『テンペスト』以降はぱったりと登場せず。これらは皆共通のクリーチャータイプとカードを食べてサイズを上げる起動型能力、大きな口のカエル頭の爬虫類的外見と共通点は持ってはいたが、カードとしてお互いにシナジーを発揮するものでは全くないため、誰も彼らを部族として意識したことはなかった。
そこにきて『オデッセイ』で友好色2色のマルチエイトグ達を引き連れてこの《アトガトグ》が登場した時の驚きと言ったら…そんなに無かったかな。いずれにせよ、マジックの歴史で唯一のエイトグという部族を参照するカードだ。その能力もサポートなどではなく、ただただエイトグ。エイトグを食べ、そのエイトグのパワー分の修正を受ける。
日本語名ではわかりにくいが、英語名《Atogatog》。「エイトグエイトグ」なのだ。というわけで、能力を使うならばエイトグを複数入れて…そしてそのエイトグを育てられるリソースもしっかり用意したデッキ作りが要求される。…まあ、そこについては真剣に語るようなカードではないだろう。愛嬌とネタっぽさを備えた能力、それがこのカードの価値だ。
これで話が終わるのも味気ないので、エイトグファミリーを紹介して行こう。左上、王冠と笏を手にした《アトガトグ》本人。左下《時エイトグ》、色は青で次のターンを食べる。その右隣《エイトグ》初代エイトグ、赤でアーティファクトを食べる。その隣で笑顔のピンクの子が《オーラトグ》、白で主食はエンチャント。その右上でこちらをドヤ顔凝視しているのが《森エイトグ》、その名の通り森を食う緑のエイトグ。
さあ残る黒は…うーん……《ネクロエイトグ》に似てる子が、いない…。まあ後ろにいっぱい控えているので、その中にいるか、あるいはもう《アトガトグ》の腹の中に…。《アトガトグ》の左腕の下からこちらに目線を投げかけている子を、個人的には「モグラエイトグ」と呼んでいる。どうでもよすぎる話がこのままわんさか出てきそうなので、そろそろ新作エイトグが見たいな~という話で幕を下ろそう。
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2015/7/10
「オパールの宮殿」
「オパール」と言えば、かつてのマジックでは=白という扱いだった。オパールの基本となるのが乳白色であるためだろう。オパールの石像が動き出す、所謂“休眠”カード達の固有名詞みたいなものだったが…以前紹介した《オパールのモックス》登場によりイメージは完全に5色生み出せるものへと変わってしまった。
というか、今のプレイヤーは《オパールの立身象》とか知らないだろうしなぁ。オパール自体がいくつもの色の輝きを持つ石であることは《オパールのモックス》の項で述べた通りで、これ自体に違和感はないというか、当然というところ。
そして『統率者2013』にて登場したこの《オパールの宮殿》が、そのイメージを完全に固定させたことだろう。…え、そんなカード知らない?まあ地味やからね…
《オパールの宮殿》は《統率の塔》に続く、統率者戦限定土地である。別にエターナルで使えなくもないが、どんなデッキでも使用する意味がないので、統率者戦限定の目線で話そう。《統率の塔》と同じく、自身の統率者/コマンダー/ジェネラル/リーダーの色を参照してマナを生み出す。
無色マナか、1マナ注いで統率者の持つ色のうち1つのマナを生産する。これだけ聞くとタップするだけで同様に色マナを生み出せる《統率の塔》の下位互換に思えるが…この宮殿が生み出すマナには付加価値がある。これを用いて統率者であるクリーチャー呪文を唱えると…それがこのゲーム中に唱えられた回数に等しい+1/+1カウンターが乗って戦場に出る。
感覚で言うと、統率者を唱えるのに1マナ追加でサイズを一回り大きくしてあげるよ、というもの。戦闘で用いるタイプのジェネラルであればこのプラス1の恩恵を大きく受けることだろう。特にパワー6のものは、7にしてやることでゲームに勝利するのに必要な攻撃回数が1回減るので、それをカードを失わずに行えるのは魅力的だ。
更にこれ、2回目以降のキャストだとそれだけ乗るカウンターが増えるというのも嬉しい。お互いに妨害手段を用いるとグダることがあるのが多人数戦である統率者戦の常。消耗戦の末に、膨れ上がった統率者を叩きつけてやろう。統率者は唱える度にコストが重くなっていくのが辛い所だが、この土地を用いればその払ったマナにある程度相応しいカードへと成長してくれるはずだ。
《野生の意志、マラス》《精霊の魂、アニマー》などは、1回目からカウンターが1つ多く乗っていることの意味合いが非常に大きいレジェンドと組み合わせるのが良いだろう。《鐘突きのズルゴ》の疾駆も大きな意味を持つし、個人的にはなかなか良いカードだと思っている。知名度は低いが、シブい仕事をするカードというのはあるものだ。
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2015/7/9
「荒れ野の本質」
今週は「カラフル・ウィーク」をお届けしている当コラム。皆さんがカラフルと聞いてまず思い浮かべるマジックのアーティストって誰だろうか?おそらくもっとも票を集めるのはTerese
Nielsenじゃなかろうか。彼女の描くファンタジー世界は、キラキラした何かに満たされているのが特徴だ。
全てが色とりどりの光で輝いている、独自のファンタジー世界に心を奪われたファンは数知れず。今回は赤と緑が目にも鮮やかな《荒れ野の本質》をご紹介。このイラストはカードからだけでなく、WotC公式にも壁紙サイズのものが上がっているので是非大きなイラストでも確認して欲しい。
おでこにカエデの紅葉をつけているのがなんとも素敵な、クリスマスカラーな森の神様的ルックスであるが…父親のように優しげで、同時に得も言われぬ威圧感を放っている。その性能を見てみよう。
《荒れ野の本質》は、暗黒に満ちた中世ヨーロッパ風の世界が舞台の『イニストラード』の神話レア。6マナ6/6と、かのタイタン達と同等のサイズを誇るが、彼らのように戦闘に関する能力は持っていない。
その能力は、後続のバックアップ…と言って良いのだろうか、なんとも独自の能力過ぎて従来のジャンルに分別できないというのが正直なところだが…自身が戦場に出てから、後に続くクリーチャーを全て己のコピーにしてしまう、という能力だ。一言、「強烈」。強いとか弱いとかのレベルで論じる前に、めちゃくちゃ強烈。皆自分にしてしまうって、あんたエゴ強すぎるよ荒れ野様。
「荒れ野の奥に行き過ぎると、荒れ野がお前をさらっていく。」
このフレイバーテキストからわかる通り、さらって自身の分身に造り替えてしまうのだ。自然の化身的存在あるあるだが、なんと恐ろしい能力か。
リミテッドではなかなか強力な1枚。後続のクリーチャーが何であれ全て6/6になるというのは悪くない、むしろ強かったりする。《深夜の出没》みたいなトークンを生み出すカードとの相性は特筆すべきもの。
僕は一度《蜘蛛の発生》から6/6を6体並べられてミンチにされた経験があるので、このカードには必要以上の恐怖心を抱いている、ということを除いても、どんなカードでも6/6になるという状況は素晴らしい。
構築では…タイミングが悪かった、そんな気がしないでもない。緑のトリプルシンボルということで、信心デッキとの相性は良さそうである。後半不要なマナクリーチャーや《炎樹族の使者》のような軽くて信心を稼ぐカードが6/6という戦力になるのは悪くなさそうで…コピーになった連中もトリプルシンボルを受け継ぐので、《ニクスの神殿、ニクソス》でガツンとマナを増やして、そのマナで《狩猟の神、ナイレア》でパンプしまくって…トランプルもナイレア様から貰えるし、面白い!惜しむらくは『テーロス』の登場と共にスタンダードを去ったこと。
さすがにモダン環境でわざわざやるような動きでもないしなぁと。デッキビルダー達が荒れ野の奥に踏み入るのを、今か今かと待ち続けているのかもしれない。
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2015/7/8
「彩色の灯篭」
一色で我慢しなさい。マジックプレイヤーにこう説き伏せようとしても、なかなかに難しい。勿論、単色至上主義な方々もいらっしゃるが、それと同数の5色ラバーズがいて、そして大多数のプレイヤーは2,3色デッキが好き、そんな風に見える。
新旧ラヴニカ・ブロックやアラーラ・ブロック、『タルキール覇王譚』、もっと遡ってインベイジョン・ブロック…皆、多色が好きなのだ。
こんな僕らに対して「簡単には使わせないよ?」「ほら、待望のマナサポートさ」と飴と鞭を取り混ぜた環境を創り上げる開発陣はやり手だ。多色化が厳し過ぎてもデッキの多様性がなくつまらないし、かと言ってなんでもありになってしまうとそれはそれでマジックには何のために色が5色あるのかという話になる。
一色で我慢出来ないプレイヤーを優しく照らす光が射したのは『ラヴニカへの回帰』でのこと。《彩色の灯篭》は、これまで登場した5色マナを生み出すカードの中でも最も効果範囲が広くその恩恵が大きいカードである、と言っても良いだろう。
3マナで好きな色マナ1つを生み出すアーティファクト、《マナリス》相当の能力を持ち、これに加えて全ての土地にも自身と同じ能力を付与する。全ての土地が、5色土地となるのだ。
しかもデメリットなし。ここが凄い。全ての土地が実質5色土地になる《虹色の前兆》というカードが既に登場していたが、それが無色になり1マナ追加するだけで自身もマナを生み出すようになる…ちょっとした革命ではないかこれは。
《極楽鳥》を初めとするマナクリーチャーと土地サーチカードを擁する緑が、これまでの5色デッキの中核を担っていたが…このカードが登場したことで、特に緑じゃなくても割と簡単に5色デッキを運用できる!
特にリミテッドで、マナサポートを苦手とする色…というか緑以外の色を中心でデッキを組む際に、このカードは非常に重宝する。青白のデッキで、でも赤の除去と黒のボム使いたい…みたいなおねだりを1枚で叶えてくれるのだからもはや崇拝の対象と見ても良いレベルだ。
実際に僕も、『ドラゴンの迷路』参入後のリミテッドのGPでこれを引いて、プールにあったレアを全部ぶち込んだ(どれも強力無比なものだった)デッキを作ったものだ(気持ちよく3-0して、そこからコロコロっと負けた)。
英語名ではLantern、即ち「ランタン」であり、日本語名の「灯籠」が今一つピンとこない…かもしれない。
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2015/7/7
「ウーナの寵愛」
本日は七夕。さあ、空は晴れているか。晴れていてほしいね。「カラフル・ウィーク」で七夕、ということで本日はそれっぽい1枚《ウーナの寵愛》。なんとなく七夕っぽいでしょ、夜に美しき女性に色鮮やかな葉っぱ(笹の葉サラサラ的な)…幻想的で、大変美しいイラストであるがそれもそのはず、皆大好きRebecca
Guay作品。
彼女の熱烈なファンでなくても、『イーブンタイド』のパックを剥いていて「お、綺麗なコモンがあるな」と思った方は少なくないはずだ。
カードとしては『イーブンタイド』にて登場した“回顧”というギミックを搭載した1枚。3マナインスタントで1ドローと、これだけでは《熟慮》のフラッシュバック部分と同じという非常に効率の悪いドローで、しかも1枚使って1枚引くだけなので一般的な“サイクリング”能力よりも劣ると、相当弱い呪文だ。
同じコモンの《目録》も手札は増えないが2枚引いて1枚捨てるという面で、まだ掘り進むことが出来ている。
ここまでこき下ろしたが、これは前述した“回顧”を褒めるための前フリだと思って欲しい。そのカードが墓地にある時に、マナコストやその他コストに追加して手札から土地を捨てることで、墓地から唱えることが出来るインスタントとソーサリー群。これが回顧持ちだ。
その名の通り、何度も何度も思い出しちゃって唱えちゃってOK!その代わり1度きりの呪文として見た場合、まあまあ弱い。そういった呪文群の青のコモンが、この割高サイクリングなのだ。
この能力、マスクス・ブロックのリミテッドで輝いていたスペルシェイパーの系譜だと個人的には思っている。手札の不要牌=余剰の土地を呪文に交換していける、土地を引きすぎるお友達もこれで安心。
元々回顧は、土地でなく色が合うカードを回顧持ち呪文のコピーとして唱えられる能力として作っていたようだが、恐らくそれはとてつもなくややこしいものだったのだろう。
後半引いた土地を3マナで別のカードに変換できるインスタント、と聞くと、先ほどより印象は大きく変わる。デッキに複数搭載することはしんどいが、1,2枚程度長期戦を見据えて搭載するのは悪くないだろう。
上手く機能すれば軽い《ミューズの囁き》のような…いやそれは言い過ぎか。まあPauper(コモン限定構築)の青単パーミッションなんかで使えばいい仕事をしてくれるんじゃないかな。ウーナ様への忠誠を示せば、彼女の夢を分け与えていただけるかもしれないね。
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2015/7/6
「極楽のマントル」
雨の季節が終わった…かな、もうボチボチ終わっていただきたい。とりあえず7月ということで、ここでは終わったことにしよう。毎年七夕の夜は雨が降っているような気もしなくもないが…。七夕で思い出したが、今でも幼稚園・保育園の子ども達がかわいい七夕飾りを作るという行事、行われているのだろうか。かつては僕も笹に自分が作ったカラフルな飾りをつけるのが毎年の楽しみだった_そして、皆で作ったそれらが園の入り口付近に飾られると、それはもう様々な色の洪水とでも言おうか、とにかくそういうのを見るのが好きだった。また、この時期は虹や夕焼けも綺麗なものだ。よし、今週は「カラフル・ウィーク」これで決まりだ。
何をするかというと別に特別な物でもなく、カラフルなイラストのカードを紹介して行くだけの話。先頭バッターは《極楽のマントル》、ご覧の通り極彩色の葉や羽毛のようなもので作られた装備品だ。マジックで言う「極楽」というのはあるものを指すキーワード…そう、《極楽鳥》だ。5色のマナを生み出すこの鳥を想起させる単語、そして色とりどりの羽毛らしきもの…ここから安易にイメージできる、クリーチャーを「極楽鳥化」させる装備品だろう、という読みは全くもってその通り。
これ自身は0マナ、1マナ支払ってクリーチャーに装備させ、これを装備したクリーチャーは好きな色のマナを生み出すタップ能力を得る。戦闘に関する能力は何一つ得られず、ただそれだけである。つまりは装備品としてはカウントしない方が良い。これはクリーチャーを必要とするマナ加速アーティファクトなのだ。そう考えると《バネ葉の太鼓》によく似ている。バネ葉との大きな違いは、クリーチャーが召喚酔い状態だと使用できないこと。このため、1ターン目に《メムナイト》などの0マナクリーチャーからマナを生み出して更なる展開、ということが出来ない。故に能力自体は似ているのに「親和」に採用されることはない。
しかしだからと言って、このカードが劣るという訳では全くない。装備品でありクリーチャーの能力でマナを出すという点が生きることケースもあるのだ。例えば、“警戒”を持つクリーチャーはこれを装備して攻撃しながらマナを出すことが出来る。アーティファクトの起動型能力を封じられても、これはクリーチャーに能力を与えているのでマナを生み出すことが出来る(勿論、先に装備させておく必要はあるので後出しの場合は泣こう)。中でも、クリーチャーをアンタップすれば再度マナを生み出すことが出来る点は特筆すべきものだ。《膨れコイルの奇魔》との組み合わせは、ひたすら軽いキャントリップ(1ドロー付き)呪文を連打することを可能にする。これを利用したデッキも登場しており、後になってから評価されたカードの典型例である。
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